防衛省は来年度防衛費の概算要求に弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の導入費を盛り込む方針を固めた。
今月下旬の省議で正式決定となるが、モスクワで7月31日に開かれた日ロの外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)で、ロシア側は懸念を表明。9月に予定される日ロ首脳会談を前に両国の専門家が協議する異例の事態になった。このまま導入を進めれば、日ロ間に刺さるトゲとなる可能性がある。
イージス・アショアは、イージス護衛艦の迎撃システムをそっくり地上に置くタイプの防空システムで、イージス艦と比べて乗員の疲労がなく、潜水艦からの攻撃などを回避できる利点がある。
全国をカバーするには2基が必要とされ、秋田市の陸上自衛隊新屋演習場と山口県萩市・阿武町のむつみ演習場が配備候補地となっている。
防衛省はイージス・アショア導入の理由を「北朝鮮のミサイル対処」と明言している。なぜロシアが懸念を表明するのだろうか。その疑問に答えるには、東欧におけるイージス・アショア配備の検証から始めなければならない。
米国はブッシュ米政権当時の2000年、東欧へのミサイル防衛システム配備を表明した。2009年には、これを具体化した「EPAA」(欧州段階的適応アプローチ)を発表、その中で「北大西洋条約機構(NATO)に加盟する東欧諸国で導入を進める」とした。
このEPAAに沿って2016年5月、ルーマニアでイージス・アショアの運用が開始。続いて本年10月にはポーランドでの運用を始める予定となっている。
米国の狙いのひとつは、イージス・アショアの配備を通じて、東欧諸国に米軍を送り込むことにある。NATOの一員として2017年以降、ポーランドとバルト3国(リトアニア、ラトビア、エストニア)に多国籍軍部隊を展開することも表明している。
一方のロシアは、イージス・アショアの配備を大義名分にした、米軍のロシア包囲網を受け入れるわけにはいかない。米政府はイージス・アショアの配備目的を「イランの弾道ミサイルに対応するため」と説明しているが、ロシア側はまったく信用していない。
ルーマニアに配備されたイージス・アショアについて、プーチン大統領は「(米ロの)戦略的バランスを保持するため、あらゆる手段を取る」と述べるなど、強く反発。イージス・アショアの東欧配備の本当の狙いは、ロシアの弾道ミサイルを無力化し、米ロ間の核抑止力のバランスを一方的に崩すことにあると考えているのだ。
ロシアは、対抗措置として16年10月、核を搭載可能な新型ミサイル「イスカンデル」を、リトアニアとポーランドに挟まれた飛び地のカリーニングラード州に配備した。この機に乗じてロシアはバルト海沿岸で軍事力を強化し、支配力を強める狙いがあるとみられ、NATOは強く反発している。
このように、欧州ではイージス・アショアの配備をきっかけに、ウクライナ危機以降続く米国とロシア、およびNATOとロシアとの対立がさらに深刻化している現実がある。