かつて私が通っていた高校は男子校だったのですが、毎週月曜日の昼休みに校内放送で校長先生の訓話を聞くことになっておりました。
いつも最後のほうは同じ言葉なので今でも覚えています。
「……君子の交わりは水の如し、小人の交わりは甘き事醴(れい)の如し。男子たるもの付和雷同するなかれ」で終わるのです。醴(れい)というのは甘酒のことです。
明治生まれのお爺ちゃんですから、やたら漢文調なのであります。
高校生の時は、平凡パンチ片手に「爺ちゃん、なかなかいいこと言うじゃん」と思ったのです。
社会人になって気が付きます。
私も含めて世の中小人だらけで付和雷同ばかりです。
群衆の一人になると周りに影響されっぱなしです。
場合によっては付和雷同していたほうが楽かもしれないと思ってしまうのです。
私は弱い人間なので校長先生の言うようには生きてこられなかったわけですが、弱い人間は利用されてしまうかもしれません。
いや、もしかするとすでに利用されているかもしれません。
そんな恐ろしいことを分析した本――それが「群衆心理」です。
群衆心理という言葉はもう一般語になってしまって何気なく使っています。
誰が言い出したかのか普通は知りません。
フランスの社会心理学者ル・ボンという人です。
現在では高校の倫理の教科書でもあまり扱われておりません。
しかし『ヒトラー演説 - 熱狂の真実 (中公新書)』によりますと、ヒトラーの愛読書だったと言われています。
1895年に発行された本ですからかなり古いのですが、その約20年後に、まさに群衆心理を利用した人物が出現したことになります。
悪用しては困りますが、重要な本であることには間違いない。
若い頃の話ですが、日本人は何でこんなにゴルフやる人が多いのだろうとふと思いました。
学生時代に運動部に全員が入っているわけはない。
スポーツが嫌いな人も大勢いたはずなのに、何故か社会人になった途端にゴルフをやる人がどっと増えることに疑問を持ったのです。