徳之島のTNR団体が「TNRが有効」と示した論文はTNRの猫減少効果を否定するものだった~「ノネコ殺処分・安楽死計画の根拠は科学的ではない」の非科学性を検証する
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(Summary)
Better trap-neuter-return for free-roaming cats: Using models and monitoring to improve population management.
At the present time manyTNR programs do not produce substantial and persistent reductions in cat populations.
記事、
・「ノネコ殺処分・安楽死計画の根拠は科学的ではない」の非科学性を検証する 、
・「ノネコ・野良猫は在来生物と共存関係にある」という妄言~「ノネコ殺処分・安楽死計画の根拠は科学的ではない」の非科学性を検証する、
・「アマミノクロウサギの死因は交通事故が多い」はトリック~「ノネコ殺処分・安楽死計画の根拠は科学的ではない」の非科学性を検証する、
・「アマミノクロウサギの生息域が拡大し、生息数が増えた」という嘘のからくり~「ノネコ殺処分・安楽死計画の根拠は科学的ではない」の非科学性を検証する、
・猫に捕食されている希少生物を保護するためにTNRを行う狂った日本~「ノネコ殺処分・安楽死計画の根拠は科学的ではない」の非科学性を検証する、
・「奄美大島のノネコの殺処分は世界遺産登録機関であるユネスコの理念に反する」という支離滅裂な主張~「ノネコ殺処分・安楽死計画の根拠は科学的ではない」の非科学性を検証する、
の続きです。
アマミノクロウサギなどの希少生物が猫の捕食被害を受けている徳之島で、TNRを行っている愛護(誤)団体などは、「奄美群島全域で猫のTNRをすべきで捕獲殺処分をするべきではない」と主張しています。彼らが「奄美群島でTNRをすべき」という根拠にあげた論文は、実は完全に「TNRによる猫の減少効果」を否定するものでした。この論文は、机上のコンピューター・シュミレーションによるもので、実証を伴っておらず、学術論文としては問題があります。さらにその論文の引用を都合良く「抜き書き」をして引用しています。
私は、徳之島でノネコ・野良猫のTNRを実施し、奄美群島でのノネコの殺処分・安楽死に反対しているTNR団体、その協力獣医師などの主張の「非科学性」を連載してきました。件の、TNR団体が自らの徳之島のTNR活動を報告サイト(徳之島ごとさくらねこTNRプロジェクト総括 2017年09月19日)に、「参考資料」として、アメリカのTNRに関する論文を紹介した、日本人ブロガーの記事をリンクしています。
このブログ記事では、「この論文は、より成功に近いTNRの実施条件を紹介したものである(ブログ管理人による記述の原文)」とあります。一見、TNRを肯定する記述ですが、論文の原文を確認したところ、「TNRによる猫の個体数削減効果を否定する」内容でした。つまり、この論文からはむしろ、早急に猫を島外排除しなければならない奄美群島においては、「TNRを採用してはならない」という結論が導かれます。さらに本論文は、実際にTNRを行った実証実験ではありません。コンピューター・シュミレーションのみでの、机上での計算に過ぎません。その点からも、本論文はあまり意味がないでしょう。
この論文が発表された背景には、2016年にハワイ州議会で、「州全域でTNRを禁止する法案」が提出されたことがあります。もしその法案が可決されれば、アメリカ合衆国では周全域でTNRを禁止する初めての州となりました。本法案は否決されました。しかしアメリカ合衆国では、TNRを禁止する自治体は多数有り、大変厳しい処罰規定があります(*1)。
この論文が出された背景には先に述べた通り、ハワイ州議会に、「州全域でTNRを禁止する法案」が提出された背景があります。本法案に反対する勢力が急遽用意したかなり偏向した内容です。TNRを限定的ながら、その効果を「お手盛りした」という、学術論文としては問題があります。
この論文を紹介している日本人のブログから引用します。奄美野良猫、野猫問題 TNRは、スマートTNRへ (論文など、調査報告) 2016年08月07日
「奄美野良猫、野猫問題 TNRは、スマートTNRへ」
この論文は、学術的報告として認められうる報告を参照し、これにコンピューターシュミレーションによる野良猫個体数の推移を検討した論文を考慮して、より成功に近いTNRの実施条件を紹介したものである(註 「成功(猫の減少)ではない」ということが述べられています)。
まず、元となる論文の概要を引用します。Better trap-neuter-return for free-roaming cats: Using models and monitoring to improve population management. 2015年9月17日(全文pdf
Better trap–neuter–return for free-roaming cats Using models and monitoring to improve population management 「自由に徘徊する猫のためのより良いトラップ - 不妊去勢-リターン:猫の個体数管理改善のためのモデルとモニタリングの使用」 John D Boone August 25, 2015)
At the present time many TNR programs do not produce substantial and persistent reductions in cat populations.
In contrast, improving the effectiveness of TNR as a population management tool can benefit both cats and wildlife, potentially on a broad scale.
現時点では、多くのTNRプログラムは、猫の個体数管理においては、実質的かつ持続的な減少をもたらさない。
一方では、猫の個体数管理の道具としてのTNRの有効性を改善することは、猫と野生動物の両方に、潜在的では広範囲に利益をもたらす可能性がある。
つまり「現時点では、TNRでは猫の個体数の減少効果はない」と明確に記述されているのです。ただし、限定的に「猫の個体数を管理する(つまり、「減少させることではない。ましてやゼロ化ではない」)、一定限度に個体数を制御すること)ことができる可能性が潜在的にある(=つまり現時点では、猫の個体数増加を制御することすら明らかにされていない)」ということが述べられています。
奄美群島においては、繰り返しますが、アマミノクロウサギなどの希少な在来種は、極めて個体数を減らしており、特に徳之島では個体数が200匹と推定されています。このような状況下では、「早急に捕食者であるノネコ・野良猫を完全に島外排除~ゼロ化すること」が必須です。この論文による、「TNRによるノネコ・野良猫の個体数制御」の実験を採用できるケースは、ノネコ・野良猫の被捕食者である野生動物の数が十分に多く、また固有種ではない(つまり「仮にその地域で絶滅したとしても再移入できるなど)などの、限られた条件下に限られます。しかも、「潜在的に猫の個体数を管理できる可能性がある(せいぜい「増殖を制御できるかもしれない」いう程度の確実性)なのですから、この論文に記載されている内容においては、「TNRは奄美群島では採用すべきではない」という結論となります。
本論文を紹介した日本人ブロガーの記事、では、奄美野良猫、野猫問題 TNRは、スマートTNRへ (論文など、調査報告)、では、本論文のリンクが示されていません。私ならば、学術論文を引用し、紹介するのならば、インターネット上で公開されているのであれば、必ずそのリンクをつけます。読者の方に、原文を確認していただくためです。随分とおかしな方です。
さらに、このブログ記事における本論文(原文を示さない日本語訳だけですが。私ならば必ず対訳にします)の引用においては、かなりの偏向引用をしています。
この論文は、ハワイにおける野良猫対策として、捕獲安楽死trap-euthanasia(TE)と捕獲中性化戻しtrap-neuter-release (TNR)の費用対効果をコンピューターシュミレーションによって比較したものである(註 本論文は、TNRの実証実験ではありません。あくまでもコンピューター・シュミレーションのみによる机上の計算です。現に、ハワイ州では、TNRを禁じる条例を制定した自治体が増えています)(*2)。
本論文の結論では、TEの方が割安であるという結論を導き出している。
新たな遺棄が全く無い場合。
もちろんTE(Trap‐Euthanasia 捕獲・殺処分)は、初年度の対応だけで即効性を示す。
TNRの場合は、個体数が半減するまでに約4年半を要し、10年で、初期頭数の10%となる。
結論は、本論文は、「ハワイ州議会で州内全域のTNRを禁止する法案が提出され、それに反対する勢力が急遽作成した、TNR肯定に偏向した学術的に問題がある論文」、しかもその論文は、「実証実験を行わず、コンピューター・シュミレーションのみで作成したという点でも学術的に信ぴょう性が低い」。「TNRの猫減少効果を現時点では完全に否定している」のです。
それにもかかわらず、日本人ブロガーが、「都合よく事実の抜き書きをした」のです。ハワイ州では、ハワイ州全体でTNRを禁止すべきという機運が盛り上がったからこそ、2016年にハワイ州議会で、TNR禁止法案が提出されたのです。
このような内容の日本人ブロガーの記事を根拠に、「奄美群島でのノネコ・野良猫対策はTNRをすべき」と主張している、TNR団体は、「情けない」、「お気の毒」といったレベルです。最大限、偏向しても本論文は、現時点でのTNRの野良猫削減効果、ましてや根絶は否定されているのです。定説では、TNRの猫の削減効果は既に否定されています。
(画像)
署名サイト、Please TNR the cats at Kings'Land - Waikoloa, Kona. 「ハワイ州のキングスランド - ワイコロア、コナで猫のTNRを許可してください」。2017年から。
ハワイの動物愛護団体が、「リゾート施設内の私有地内だけでもTNR活動を許可して欲しい。リゾート施設が野良猫を捕獲して殺処分場に引き渡しているので(却下のようです)」という、インターネット請願署名です。ハワイは、島嶼からなる州であり、在来の固有種が多く生息しています。そのために、アメリカ合衆国内でも、TNRを禁じる自治体が多い州です。2016年に、ハワイ州全土でのTNRを禁止する法案が出された背景もそのような事情です。
奄美野良猫、野猫問題 TNRは、スマートTNRへ (論文など、調査報告)を記事にしたブロガーさんですが、本論文が作成された背景をご存知でないようです。また、ハワイ州では既にTNRの否定~TNR禁止条例が施行された自治体が多く、そもそも本論文にあるような、大規模TNRは実施不可能なのです(もとより実証を伴わないコンピューター・シュミレーションですが)。この論文を、TNRの正当化の根拠に引用する、TNR実施団体代表者も、ハワイのTNRに対する実情も、本論文が作成された背景も無知なのでしょう。
Mr. Rob Gunthner - General Manager of Hilton Grand Vacations - prefers to have feral cats on the property of Kings'Land removed by a pest control company and euthanized, by a kill shelter in Kona, rather than TNR'd (Trap, Neuter, Release).
Advo Cats - a non-profit group based on the island of Kona - has offered their TNR services for the Kings'Land property.
ヒルトン・グランド・ヴァケーションズ(ヒルトン・ホテル)の総支配人である、ロブ・グンナー氏は、TNR(トラップ・ニューター・リリース)ではなく、キングズ・ランド(リゾート施設)の私有地内の野良猫を害獣駆除会社によって捕獲し、コナの殺処分場で安楽死させることを好みます。
Advc Cats(アドヴォ・キャッツ)は、コナ島に拠点を置く非営利団体ですが、キングズ・ランドの私有地でTNRを行うことを提案します。
(参考資料)
・Hawaii Senate Bill 2450 (Prior Session Legislation) 「ハワイ州法案SB2450」
~
Summary
Prohibits individuals from releasing, feeding, watering, or otherwise caring for unrestrained predators on state lands.
Establishes administrative fines for individuals that violate this prohibition.
Exempts hunters that deploy, feed, or water unrestrained dogs in the course of hunting.
概要
州の土地に飼育されていない肉食(捕食)動物をリリース、給餌、給水、またはそうでなければ世話をすることを禁止する。
この禁止事項に違反する個人に対する過料(行政罰)を設定する。
狩猟中に拘束されていない犬を放し、餌を与えたり、水を与えるハンターは免除する。
この「猫のTNRを狙い撃ちにした禁止州法」の法案が作成され、審議されるに至った経緯について、機会があれば改めて記事にしたいと思います。
(*1)
・アメリカの、明らかにTNR撲滅を目的とした野良猫給餌禁止条例
・「大学猫」は是か非か~ペンシルベニア州の自治体TNR禁止条例
(*2)
・ハワイ、カウアイ島ではTNRを禁止し、殺処分を行い野良猫を根絶させる方針である
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