東京医大の入学試験における女子差別問題が話題となっている。
たしかに、ここ最近、文部科学省関連の汚職・不正事件が相次いでおり、東京医大自体もその舞台となっていることから、一連の汚職・不正事件の一つだと捉える向きもある。
しかし、これはジェンダー問題としてとらえられるべきであり、不祥事の一つとして埋没させてはならない。
私は世界銀行に勤務していたときに、援助資金の国別配分を決める国別制度・政策評価のジェンダー部門に従事していた。
この評価の仮定は、その経済発展の度合いと比べて制度や政策が優れている途上国に援助資金を貸し出せば、より良い結果につながりやすいので、そのような国により多くの援助資金を貸し出そうというものである。
では、ジェンダー部門でこの評価をどのように実施していたかというと、人的資本投資・労働参加・制度慣習の3項目から特定の国へのジェンダー関連の支援がしやすいのかしづらいのか判断していた。
果たして日本は、部外者の目から見たときにジェンダー関連の支援がしやすい国なのであろうか? 今回はこの枠組みを用いて、東京医大の入試問題を考察したい。
そもそも私が勤務してきた世界銀行やユニセフはなぜ女子教育を支援しているのだろうか? これには二つの理由がある。
詳細は「日本には「教育無償化」が本当に必要なのか? 徹底図解で考える」の中で解説しているのでそちらに譲るが、女子教育は教育を受けた本人が受けとる収益である私的収益率も、教育を受けた本人以外、すなわち社会全体が受け取る収益である社会的収益率も高い、優良な投資先だからである。
それにもかかわらず、前述の記事で解説したように、日本の女性の高等教育の就学率は低く、男性との比率で見るとOECD諸国で最悪レベルの国の一つである。
なお悪いことに、大学→修士→博士課程と教育段階が上がるごとに、男女の就学率格差は拡大している。
また、数ある教育分野の中でもScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の4分野(頭文字を取ってSTEM教育と呼ばれる)の教育収益率が高いことは、「世界のエリートが重視する『STEM教育』日本が抱える2つの難題」の中でも解説した。
ただでさえ女子の大学進学率が低いのに、OECD諸国と比べて非STEM系への進学割合が高いことも前述の記事の中で解説している。
このように、日本の女子の大学進学率も、大学院への進学率も、STEM系への進学率も低いという状況下で、STEM系大学への女子進学に対して差別が行われていたことは、確かに一大学の事例に過ぎないとは言え、看過されてはならない。