クルマは移動手段から趣味・レジャーまで便利に使える乗り物。しかし一方では、正しい知識を持ち、十分安全に気をつけて行動しなければ、時に危険が及ぶ恐れがあることも確かです。
クルマを運転するうえで怖いものは交通事故だけではありません。走行中の故障といったトラブルや、地震などの自然災害などに遭遇した場合、ハンドルを握る私たちはどのように対応すればよいのでしょうか。
発炎筒の使い方、トンネル内火災の対処法、クルマが水没したときの脱出方法……。可能性は極めて低くとも、絶対に必要ないとは言い切れない「もしも」の時の対処法をまとめました。
非常時・緊急時の対処法を知っているかどうか、しっかり備えをしているかどうかによって、身の安全が確保できる可能性があります。万が一のことを考えて、この機会に正しい知識を学んでおきましょう。
正しい行動で安全を確保。高速道路でのトラブル
およそ100km/hものスピードで多数のクルマが走行している高速道路。トラブル時の対処法を間違ってしまうと、自分が危険にさらされるだけでなく、周囲のクルマも巻き込んで重大な事故となる可能性があります。
■高速道路で事故・故障が発生したら?
警察庁交通局などで呼びかけている“高速道路における緊急時の3原則”(*)は、
1. 路上に立たない
2. 車内に残らない
3. 安全な場所に避難する
というもの。高速道路で、パンク・ガス欠・事故・クルマの故障などのトラブルが発生した場合、まずはこの3つの点に注意して行動しましょう。
クルマの状態などにもよりますが、基本的にはハザードランプを点灯させ、できるだけ路肩に寄せて停止するようにします。急ブレーキや急ハンドルを避けることや、パンクの場合などはハンドルをしっかり握ることも重要。
もしもクルマの速度が落ちない場合は、ブレーキを両足で踏み込んだり、シフトダウンしてエンジンブレーキを使ったりして速度を徐々に落とすようにしましょう。慌ててエンジンのスイッチを切ると電気系統がストップしてしまい、むしろ危険です。
クルマを停止させたら、同乗者をガードレールの外などに避難させ、発炎筒や停止表示器材を設置して後続車に対する安全措置をとります。
その後はドライバーもガードレールの外などに退避し、非常電話や携帯電話を使用して通報や救援依頼を行いましょう。
(*)出典:警察庁「高速道路(https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/highway/)」
■発炎筒・三角停止表示板は常備!
後続車に対して、停止車両の存在を知らせるために必要になるのが「発炎筒」や「三角停止表示板(停止表示器材)」です。
あくまで無理のない範囲ではありますが、発炎筒・三角停止板はクルマから50m以上後方に置く、ということを覚えておきましょう。
発炎筒は、一般的には助手席の足元に設置してあり、キャップと本体をこすり合わせると着火します。実際に練習するのは難しいので、動画などで使い方を確認するのがおすすめです。
▼発炎筒の使い方を動画で確認!
出典:神奈川トヨタ自動車株式会社(YouTube)
発炎筒の携帯は法律で義務付けられていること。最近は再利用可能なLEDタイプなどもありますが、通常の使い切りタイプは日本工業規格(JIS)によって有効期限が4年と定められており、車検でも有無がチェックされます。
一方、三角停止表示板は携帯こそ義務ではないものの、高速道路での故障などでクルマを駐停車させる場合には、停止表示器材を設置しなければ交通違反となります。
このように、発炎筒や停止表示器材は必ずクルマに備えておかなければならないものです。万が一に備えて、置き場所や状態、使い方などを確認しておくようにしてください。
■非常電話の使い方
高速道路の本線では1kmおき、トンネル内は200mおきに設置されているほか、インターチェンジやSA・PAなどにも非常電話があります。
非常電話は受話器を取るだけで道路管制センターに直接つながり、その発信地がわかる仕組みになっています。事故や故障、負傷者などについてしっかり伝えるようにしましょう。
最近ではほとんどの人が携帯電話を持っているはずですので、24時間対応・通話料無料の道路緊急ダイヤル(♯9910)を利用するのもありです。また、逆走車や人の立ち入り、落下物、道路の破損などを発見した場合も、道路緊急ダイヤルに連絡してください。
■トンネル内で火災が発生した場合
パンクやガス欠といったクルマのトラブルと比べれば発生する可能性は低いかもしれませんが、トンネル内での火災は大事故につながる恐れのあるもの。
火災を発見した場合、まずは非常電話や50mおきに設置された通報装置を使用して通報を行います。消火器や消火栓が50mおきに設置されているので、可能な範囲で初期消火に努めましょう。
しかし、トンネル内では煙があっという間に充満し、煙に巻かれると視界不良や窒息で脱出が困難になります。消火が無理そうであれば安全を第一に考え、煙の流れや非常口の案内を見ながらすみやかに避難してください。
クルマを離れる際は、左に寄せてパーキングブレーキをかけ、エンジンを止めます。緊急車両が通行できるようクルマを移動する場合もあるので、キーはつけたままでドアもロックしないようにします。もし余裕があれば、車検証を持ち出すようにしましょう。
走行中、自然災害などに巻き込まれたら…?
クルマに関するトラブル以外に、走行中に自然災害などに見舞われる場合などもあります。できる限り落ち着いて、正しい行動ができるようにしておきましょう。
■走行中に地震が起きたら
近年もしばしば大きな地震によるさまざまな被害が報告されているように、日本ではいつどこで地震が起こるかわかりません。
走行中に大きな揺れを感じたり、緊急地震速報で地震の発生を知ったりしたときは、慌てずにハザードランプを点滅させ、周囲にも注意を喚起します。急な操作を避けてゆっくりと減速し、安全に注意しながら左側に寄せて停車しましょう。
揺れがおさまるまでは車内で待機し、ラジオなどで地震や交通状況などの情報を収集。その場の状況を冷静に判断し、適切な行動をとるようにしてください。
クルマを置いて避難する場合は、クルマを道路外に移動したり、できるだけ左側に寄せたりして、エンジンを止め、パーキングブレーキをかけます。キーはつけたまにし、ドアもロックしない状態にしておきましょう。
地震も恐ろしいものですが、それにともなって津波が発生する場合もあります。東日本大震災もまだまだ記憶に新しいもの。ケースバイケースではありますが、渋滞などによって避難が遅れたという事実もあるため、徒歩での避難が原則とされることが多いようです。
いかなる場面で災害が発生するか誰にもわかりませんので、クルマに乗る場合はもちろん、日頃から防災の意識を高めておくようにしましょう。
■ゲリラ豪雨・雷のときは?
近年では、「ゲリラ豪雨」などの異常気象に遭遇する可能性もあります。クルマに乗っているときは、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。
バケツをひっくり返したような激しい雨の場合は、視界が悪くなるだけでなく、スリップやハイドロプレーニング現象の危険性も増します。無理に運転を続けず、安全な場所に避難して雨の通過を待ったほうがよいでしょう。
河川の近くはもちろん、高架下や立体交差のアンダーパスなどは冠水する可能性もあるので要注意。大丈夫そうだと甘く見て通行すると、身動きが取れなくなってしまう恐れがあります。
また、夏場などは激しい雨と同時に雷が鳴ることもありますが、こちらに関しては、クルマは比較的安全と言えそうです。
クルマに雷が落ちた場合、電気はボディを通ってタイヤから地面に流れていきます。強い衝撃はあるものの、金属が露出している部分などに触れないようにしておけば、車内の人に対して落雷の影響はないと言われます。
逆に、クルマの外に立つのはむしろ危険。雷が鳴っている間は車内にいたほうが安全ですが、激しい雷雨のなかを運転するのも危険が伴うものです。できれば雷が遠ざかるまで、安全な場所にクルマを止めて待機するとよいでしょう。
■クルマが水没したときの対処法
冠水した場所で身動きがとれなくなってしまったり、運転ミスなどでクルマが川・海などに転落したりして、車内に閉じ込められてしまう可能性もゼロではありません。
そういった場合、とにかく慌てないことが重要。万が一のために脱出方法を学んでおきましょう。
▼水没した車内を擬似体験
出典:JAFチャンネル(YouTube)
クルマが水に浸かってしまうと、水位は低くとも大きな水圧がかかるためドアを開けることは困難。水に浸かった直後は電気系統が機能している場合も多いので、あまり浸水していない場合は窓を開けて仰向けの形で背中側から脱出します。
窓が開かない場合は、窓を割って脱出。クルマのガラスはそう簡単には割れないため、運転席から手の届く位置に、専用の緊急脱出用ハンマー(シートベルトカッターとセットになったものもある)などを事前に設置しておくと安心でしょう。水位が高い場合、窓を割ると勢いよく水が流れ込んでくることにも注意しておきます。
また、浸水が進んで窓からの脱出ができない場合は、車外と車内の水位が同じくらいになると比較的ドアが開けやすくなります。慌てず、そのタイミングでドアロックを解除しつつ足でドアを蹴り開けて車外に脱出してください。
正しい知識を知ることが自分の身を守ることにつながる
普段運転するクルマの足元に設置してある発炎筒の使い方から、クルマが水没したときの対処法まで、いくつかの非常時・緊急時の対処法について解説してきましたが、あなたはすべてご存知でしたか?
もし初めて知ったことがあれば、ぜひ万が一の事態に備えて覚えておいてください。必要がないに越したことはありませんが、いつかその知識があなたの身を守ってくれるかもしれません。
交通安全の意識とともに、いざという場面でも冷静に対処できる正しい知識を持つことで、クルマはより便利で楽しい素敵な乗り物になりますよ。
*記載している内容は取材時のものです。
*解説している対処法はあくまでも原則的な内容です。万が一の場合は、状況に応じて落ち着いて行動してください。