スクウェア・エニックスが2018年7月13日に発売したNintendo Switch用ソフト「OCTOPATH TRAVELER」について、アートチームへのインタビューをお届けする。
昔ながらの“ドット絵”に“3DCG”が融合し、これまでになかった幻想的な世界を表現した「OCTOPATH TRAVELER(オクトパストラベラー)」。本作の世界を作る上で中心人物となったのが、「ブレイブリー」シリーズなどでも活躍した生島直樹氏だ。
本稿は、そんな生島氏と企画・プロデュースの浅野智也氏、プロデューサーの高橋真志氏へのインタビューとなる。それぞれの生き方を目指す8人の主人公と、その舞台となる広大な世界はどのようにして生まれたのかを紐解いてみた。
――生島さんが「オクトパストラベラー」の企画を聞いたときの第一印象はいかがでしたか?
生島氏:大人に向けた、大人も楽しめるファンタジーだという印象は受けました。ただ、画面中ではドットという媒体になり、頭身も低いので、かわいいとも捉えられる可能性も感じました。そこでイラストでは、人柄や生活が感じられるリアリティを意識し、各キャラクターを描く際も、小説の挿絵のように「ワンシーンを描く」ことで、説得力を持たせたい!を目指してスタートしました。
浅野氏:「ブレイブリー」シリーズのときから一緒に仕事をしていましたが、当時よりも大人が楽しめるように、という意識があったのは間違いありません。初期のころには「ゲーム・オブ・スローンズ」をみんなで見たりして、ハードな世界観から入りましたね。ただ、ドット絵ということを考えると、「ゲーム・オブ・スローンズ」の色味よりもある程度華やかにしてもらいたい考えもありました。
――ということは、現在僕たちが見ているデザインも、渋すぎないことがテーマの一つになっていると。
生島氏:キャラクターデザインの段階からテーマカラーを設定してから描いています。プリムロゼは踊子としての衣装なので鮮烈な赤、オルベリクのサーコートはグレーに近いものの青。このようにキャラごとの人物として、ジョブ衣装としてのテーマカラーは浅野と話し合って決めていきました。ただ、ゲーム画面中のドットに落とし込む際は、視認性と主人公としての色の強さを意識して、彩度をしっかり上げてもらうようドッターの方と擦り合わせていきました。逆にイラストの段階では大人向け作品である事を肝に銘じ、キーカラーを伝えつつ、落ち着いた雰囲気を重視しての彩度に抑えてあります。
高橋氏:チームの中に森本さん(森本志津佳氏)というメインの2Dドットアーティストがおりまして、見栄えが良くなるよう味付けをしてもらった形です。
浅野氏:ドットにするにあたり、デザインが細かすぎるケースもあるんですよ。スカートのプリーツだったり、コートの刺繍だったりですね。そこは上手く料理してもらえたと思います。あと色味に関しても、例えばトレサはイラストだと白いシャツを着ているんですけど、ドットだと黄色くなっています。このあたりは、ゲームの中でどう映るかを考えてもらった結果ですね。
――生島さん自身から、ドット絵に関する要望を送ったケースはありましたか?
生島氏:もちろんあります。印象に残っているところだと実はゲーム内には収録されていなくて、2017年の1月、任天堂さんの発表会で初めて公開した映像まで遡ります。あの映像の中にいる将軍系のモンスターは、色味だけでなくディテールでの迫力が出るよう協力してもらいました。
浅野氏:1ドットのせめぎ合いを結構するんですよ。オルベリクだと生島のほうから「なんとか襟を立ててくれ」とお願いをしたりして。
生島氏:そう、それも大事なところでした。首の襟元がないと雄々しさが出なくて、子供っぽい印象になってしまうんですよ。オルベリクが剣を構えるポーズについても議論しました。オルベリクの無骨な剣をドットで再現しようとすると、「大砲みたいに見えるのを鋭くして」という意見もありましたが、オルベリクらしさを活かしたいので森本さんと相談してなんとかいい塩梅に尖っていない切っ先をこだわって再現してもらいました。
――メインキャラクターと違い、ボスクラスの敵はリアリティのある頭身じゃないですか。ここにはどんな意図があったのでしょうか。
生島氏:僕自身2DのRPGで育った世代なのですが、当時のボスの表現として、デカいやつは強いという分かりやすさがあったと思うんです。それこそが敵と味方が向かい合うRPGにとっての見栄えであって、敵を迫力あるビジュアルにしたのは必然だったと思います。
浅野氏:モンスターのドットはアクワイアさんに作っていただきました。私たちからは絵にならないように注意して欲しい、という要望は伝えましたね。緻密なドット絵を意識すると、それはやがてイラストになってしまいます。いい塩梅というか、リアルな頭身のモンスターであってもドット感を残してもらうことが重要でした。
――みなさんは「ブレイブリー」シリーズのころからチームで開発を行っていますが、過去の作品と比較して「オクトパストラベラー」ならではの意識の違いはありましたか?
生島氏:意識という意味ではプロジェクトごとに常に一新されていて、「オクトパストラベラー」も同じく、地続きではなく新しい気持ちで臨みました。逆に言えば、スタートの仕方は今までと変わらなかったとも言えます。
浅野氏:僕が覚えているのは、「ブレイブリー」のときと比べてリアリティを重視してもらったことですね。「ブレイブリー」は華やかさや格好良さに重点を置いていたんですけど。
生島氏:「ブレイブリー」は華やかなジョブ衣装など、より見栄えが重視されていたと思います。「オクトパストラベラー」では地に足の着いたキャラクターを意識していて、服装に関しても見た目のカッコよさ以上に、どういう人柄であるか、どのような土地でどのような生活をしている人物なのかを重視してデザインしています。あ!いままでとの違いといえば、僕はこのゲームで初めてメインのキャラクターデザインを担当させていただいて、なんだか一緒に旅をして、彼らのおかげで少し強くなれたような気持ちで、とても感謝しています。
――以前高橋さんへのインタビューで、8人の主人公の中で最初に生まれたのはオルベリクというお話を伺いましたが、生島さんとしては最初の主人公を生み出す際の苦労はありましたか?
生島氏:実は苦労はほとんどなくて、意外なほどスッと生まれたのがオルベリクでした。
高橋氏:だからこそ、製品版として形になるまでずっと生き残ったのかもしれません。企画から発売までの約3年間で、シナリオも設定も名前も変わってきたのにオルベリクのデザインだけは変わらなかったのは、このイラストがオクトパストラベラーというゲームのベースになったからだと思います。
生島氏:浅野にイラストを見せたときにすごく気に入ってもらったのも覚えています。一般的に剣士と言われる人って、プレートアーマーなどでハードさのある存在感を表現する中、こうしたサーコートの剣士は珍しく、そこに目をつけてもらったみたいです。
浅野氏:剣士の主人公キャラクターと考えると、オルベリクは地に足が着いていて、大人っぽくて、「オクトパストラベラー」の方向性を決定付けた1枚とも言えます。
――では、逆に苦労したキャラクターはいますか?
生島氏:デザイン面だとオフィーリアが特に苦労しました。それとプリムロゼは初期が女騎士という設定で、紆余曲折がありましたね。オフィーリアは優しさもありつつ芯が通った女性と受け取っていて、それをイラストにも反映させていました。目付きが今の優しい感じではなく、力強かった時期もありました。着ている衣類に関しても、スタート地点が寒い地方ということで防寒用のコートを踏襲して最初はデザインしていました。個人的にはその姿も好きだったのですが、最終的には神官であることを第一に考えたデザインに落ち着きました。
浅野氏:住んでいる場所と立場、どちらを優先して考えるかですよね。
生島氏:ええ。神官の高潔さ、彼女の清らかさをイメージしてシンプルな白い服に、黒い長手袋を身に着けて、コントラストを効かせました。これによってドットでもキュっと締まる雰囲気を出せました。二転三転しただけに、愛着のあるキャラクターです。
――8人の主人公は男性4人、女性4人とバランスよく分かれていますけど、生島さんは性別によって描き方に違いは生まれるのでしょうか。
生島氏:性別ではそこまで変わらないと思いますけど、あえて挙げるならプリムロゼやオフィーリアは大人の女性で、なんとなく気を使いました。
高橋氏:なるほど、男性よりも女性の方が気を遣って描いてたんですね。
生島氏:それはそうですよ、現実と同じです(笑)。でもトレサとハンイットはそんなこともなくて、活力や躍動を外に発しているタイプは描きやすかったです。トレサはゲーム内のマスコットになるよう、大きな帽子やリュックといった分かりやすい記号で構成していて、SNSでも多くの方がファンアートを描いて親しまれていて、とてもありがたいです。
――裏を返すと、男性キャラは気を使わずにどんどん描ける感覚なのですか?
生島氏:やっぱりキャラクターごとに対する思いがあって、アーフェンは中学校時代の友達に接するような気持ちがあり、親しみやすかったです。初期から青春を感じていて、彼のまっすぐさ、やんちゃさをベースに、この世界で薬師に支給されるベストと鞄を設定して身に着けました。
――キャラクターデザインだけでなく、コンセプトアートも発売前から度々公開されていました。
生島氏:まずは酒場で話し合うイラストが最初に公開されましたけど、暗いですよね(笑)。これは大人っぽさを意図したもので、あえて暗めにしたんです。その中で旅人が一堂に会して、地図を見ながら次にどこへ行くか、話し合っている一場面を描きました。この時代に旅人が集まる場所ということで酒場を舞台にして、キャラクターの配置や表情は人柄を意識しました。この絵を描いたことによって、それぞれの性格がより鮮明になった部分もあります。
――ここからイメージが膨らんでいったところもあると。
生島氏:そうです。この人はこんな仕草をするだろうな、こんな風に座ってるだろう、そんな風に整理されて、これ以前はデザインだったキャラたちと、一歩友達になれたような、記念の1枚です。
高橋氏:このイラストを描くにあたって僕からのお願いで難しいお題だったと思うのは、できるだけ8人に優劣をつけない、ということでした。8人の顔がしっかり見えて、全員がテーブルを囲んで、その上でどう個性を出していくかはよく相談していました。
生島氏:確かに、せっかく1つの部屋に集まっているのだから、もっとみんなをテーブルに寄せようとか、そんな話はしましたね。
――もうひとつ、8人が旅をしているようなコンセプトアートもありますけど、こちらはどういった意図で生まれたのでしょう。
生島氏:1枚目を意図的に暗くしたので、今度は対象的に明るく、広がりのある状況を描こうとテーマをいただき、生まれたものです。旅をしている彼らの先に道が広がっていて、トレサは突っ走って先に行き過ぎて小さくなってるんですよね(笑)。
――こういったコンセプトアートが、実際のゲーム内に反映されたケースはあるんですか?
生島氏:これらとは別に建物や街の雰囲気を表現したアートも描いていて、それぞれの街にはどんな様式の建造物があって、どんな生活が営まれているかはこのアートがベースになっています。ドット絵にする際にも、アートのどこを残すのかはかなり意識しました。壁のタイルだけを見ても、下のほうのトーンを落としてもらう事で締めてもらっていたり、雪の降る地方ではアクワイアさんが作った光の演出が作用する事を予想して雪のドットチップ床の白さ加減をどうするかなどよく話し合いました。
――この流れで、パッケージに使用されたイラストについてもいいですか? こちらもキャラクターの表情が見える仕上がりですが、並び方などはどのように決めていったのでしょうか。
生島氏:最初に与えられていたテーマは、地図をバックに8人を描くということだけで、あとは基本的に任せてもらいました。8人をどう組ませるか、またポージングにはたくさんの案があって、最終的に決まったのがこれだったのです。
僕が考えたのは旅人を記号化すること、つまり人が歩く姿は絶対に入れたいということでした。その中で並び順も、キャラクターの性格がダイレクトに反映されるように意識しました。オフィーリアだったら気配りができる人なので、他の人の話を聞いたり、みんなのほうに目を向けたりしているだろうと。逆に一番後ろのテリオンは境遇が境遇ですので、背後を警戒しつつ、それでも前に進んでいっているのです。例外的な考えが含まれているのが、体験版でも操作できて、多くの方に認知してもらっていたオルベリクとプリムロゼです。できるだけ全員を均等にとは考えていましたが、ここだけは中央で強調するように描きました。
――すでに発売されて多くの方がプレイされていますが、キャラクターの人気や反響という点ではいかがですか?
生島氏:僕もこれを機にSNSをチェックするようになって、ありがたい言葉を見ては感謝しています。特に人気が高いのはテリオンとトレサですかね。彼らを描いてくれる方もとても多くて嬉しいです。発売前と後でお気に入りのキャラクターが変わっている人もいるみたいで、彼ら8人との旅を楽しんでくださっているんだなと、感慨深く感じております。これもまた開発者冥利に尽きますよね。
高橋氏:日本と海外で反響に違いがあるのも印象的ですね。日本だとテリオンやサイラス、トレサの人気が高いのに対して、フランスのJAPAN EXPOでメディアの方に話を聞いたら、プリムロゼが断トツで人気だったんです。逆にトレサとかはあまり票が集まらなくて意外と思ったと同時に、すごくバランスが取れた8人なんだと実感しましたね。
――反響という意味では、発売1週間で約11万本と好調な推移を見せています。浅野さんとしても手応えを掴んでいるのではないでしょうか。
浅野氏:売れた売れないということよりも、プレイしていただいたユーザーさんの声を聞いて、スクエニのRPGファンからの期待にある程度答えることができたと安心しているところです。評価されたことで次回作へのハードルも上がると思いますけど(笑)、より気合を入れて次に向かっていかなければいけませんね。