PvP+N   作:皇帝ペンギン
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第7話

 アインズには眼前の光景が信じられなかった。しかしよくよく考えてみれば思い当たる節はいくつもある。シャルティアや九十レベルのアンデッドの副官を一蹴したり、セバスたち百レベル複数相手に大立ち回りを演じてみせたり。第十位階魔法でほぼノーダメージだったりと。

 確かにたっち・みーには数百年のアドバンテージがあり、ユグドラシル引退時よりその技量は飛躍的に向上していた。だがそれだけでは説明できない何かを感じとっていた。

 

「ムスペルヘイム祭りを、その大元となった騒動を覚えていらっしゃいますか?」

 

 真紅のマントをはためかせ、たっち・みーは悠然と舞い降りる。その問い掛けの意味がわかるのはこの場でアインズとたっち・みーの二人のみであった。

 ユグドラシルにおいて無双は可能か? 答えはNOだ。如何に神話級(ゴッズ)アイテムを全身に纏おうとも全属性に完全耐性を持たせることはできないし、どんな種族にも弱点やペナルティが存在する。

 例えばアインズはアンデッドとしての基本能力としてクリティカルヒット無効、精神作用無効、飲食不要など利点があるが、神聖属性や殴打武器脆弱、炎ダメージ倍加だど弱点も存在する。

 しかしながらかつて例外があった。ユグドラシルに九つ存在する世界、そのうちの一つ〝ムスペルヘイム〟のワールドチャンピオン。彼はワールドアイテムを保有した上で、呪いによるボス化を行い七大罪の一人に成り果てた。結果彼は大多数のプレイヤー相手に無双した。

 最終的には敗北し、運営にキャラを抹消されてしまったが。余談ではあるがその後ムスペルヘイム祭りが開催され、女性で初めてのワールドチャンピオンが誕生した。

 

「八欲王と呼ばれる彼らが……私にこの呪いを掛けたのですよ」

 

 たっち・みーは漆黒の胸当て(チェスト・プレート)に手を置き、厭わしげな声を上げた。

 

「そして私は彼らの尖兵に成り果て世界を――いえ、既に過ぎさったこと。今は関係ありませんね」

 

 真紅に輝く瞳がアインズたちを真っ直ぐに見据える。

 

「――お待たせしました。では、始めましょうか」

 

 それが合図だった。たっち・みーは遥か間合いの外から無造作に腕を振るう。

 

「っ!? 〈ウォールズオブジェリコ〉〈イージス〉!!」

 

 咄嗟にアルベドが特殊技術(スキル)を発動する。瞬間、風が吹き荒れた。

 

「うおっ……!?」

「がっ……」

「くっ――」

 

 避ける暇などない。扇状に吹き荒れた暴風がアインズや守護者たち、地形すら関係なく全てを吹き飛ばす。アルベドが守ってくれ、かつ姿勢制御によりアインズは迅速に体勢を立て直すことができた。すぐさま追撃に備えるが何も起こらない。

 たっち・みーはアインズたちを歯牙にも掛けず、感触を確かめるように手を握っては開いていた。

 

「……この姿になると加減が難しいですね」

 

(巫山戯るな!! 巫山戯るなよ、何だよこれ!?)

 

 アインズは精神が何度も沈静化されながら必死に打開策を講じていた。たっち・みーは特殊技術(スキル)を発動した訳でも、ましてや位階魔法を詠唱した訳でもない。ただ単に腕を振るっただけ、それなのにこの破壊力だ。公式チートにも程がある。いや、ワールド・エネミー化した時点でworstだ。討伐には六人からなるパーティが少なく見積もっても二、いや三つは必要であろう。

 

「あ、待って! 行っちゃダメだよ!?」

 

 ワールド・エネミーとしてのヘイト増幅効果なのか、たっち・みーの瞳に魅入られたアウラ配下の魔獣たちが恐慌状態でたっちへ襲い掛かる。迫り来る顎が頭蓋を噛み砕こうと影を落とした。

 たっち・みーは注意を払うことなく、虚空に腕を沈ませ何処か遊びのあるランスを取り出した。シャルティアが悲鳴を上げる。アインズ、コキュートスもすぐにそれが何か思い当たった。それはシャルティアの創造主、ペロロンチーノが彼女に持たせた神器級(ゴッズ)アイテム――スポイトランスだった。

 

「それはわたしの――!!」

「誰も所持したがらなかったものでね」

 

 魔獣の下顎から脳天までスポイトランスが一直線に貫いた。たっち・みーは舞う血飛沫を浴びながら次から次へと魔獣たちを串刺し、貫き屠っていく。ゴポゴポと水音が奏でられ、憐れなる犠牲者たちの命を啜った。

 

「――これで全快」

「か、返してくんなまし! それはペロロンチーノ様がわたしにくださったアイテムでありんす!!」

「シャルティア、待て!! 不用意に近づくな!!」

 

 アインズの忠告は聞こえていない様子だった。迂闊にもシャルティアはスポイトランスを取り戻そうと手を伸ばし、飛翔する。セバス、コキュートスが援護しようと後に続いた。

 

「どうぞ、私にはもう必要ありませんから」

 

 涼しげに言い放つとたっち・みーはスポイトランスをその膂力でもって投擲した。鮮血が飛び散る。

 

「がはっ……」

 

 腹部の半分以上を失ったシャルティアが遥か離れた木の幹に打ち付けられた。臓物が飛び散る。その様は銀の杭で十字架に貼り付けられた吸血鬼そのものであった。

 

「シャルティア!?」

 

 直接騎乗していたため恐慌状態を免れたフェンを操り、アウラはシャルティアを救援に向かう。同時にセバスとコキュートスが拳と剣をたっち・みーへ繰り出した。デミウルゴスが後方から炎を放ち追従する。

 

「目には目を――剣には剣を」

「ハァアアア!!」

 

 コキュートスの斬撃に対し、たっち・みーはベルトのバックル付近から何かを居合い抜き相殺。次の瞬間、彼の右手には刀身自体が蒼白く発光する(つば)のない剣が握られていた。

 

「ぐっ……」

 

 そしてセバスの正拳突きは一の腕から大きく棘の生えた左のガントレットに阻まれ完全に沈黙した。

 

「これなら……どうです!」

 

 両腕が塞がっているたっち・みーの背後へ廻り、デミウルゴスが至近距離から高位階魔法を浴びせた。火柱が高らかに上がる。

 

「……今、何かしましたか?」

 

 無傷。焦げ跡一つ残すことなく、炎に照らし出された全身鎧(フルプレート)の光沢は少しも翳ることなく。はたして、たっち・みーは健在だった。

 

 

「そんな……馬鹿な……あれは……あの装備は!?」

 

 アインズの眼窩の灯が動揺に激しく揺らぐ。守護者たちには単に強大な力を秘めた装備にしか思えなかったが、ユグドラシルをプレイしていた彼には思い当たる節があった。

 あれらはいずれもユグドラシル公式が主催する武術大会の優勝者が所有していたものだ。兜、鎧、ガントレット、剣、マントに至るまで、その全てがたっち・みーのコンプライアンス・ウィズ・ローに匹敵する力を内包していた。それが意味するところはつまり、

 

「この装備ですか? 他のワールドチャンピオンたち(八欲王)の遺産ですよ」

 

 たっち・みーは死した八欲王の装備を全身に纏っていたのだ。よくよく観察すると全身鎧(フルプレート)は左右非対称で形状は歪。色合いも無理矢理変えた様子だった。

 つまり今のたっち・みーはワールド・エネミーでありながら、全身をワールドチャンピオンの武具で――ギルド武器に匹敵する――武装しているというユグドラシル時代ですらありえない超越者(オーバーロード)だった。遅れて事態の深刻さを解した守護者たちの表情が絶望に染まる。

 

「……アインズ様、如何致しましょうか」

「あ、アインズ様……」

 

 近くに控えるアルベドが暗に撤退を示唆し、マーレも不安げな眼差しを向けてくる。アインズに迷いが生じていた。

 これが他のワールドチャンピオン相手なら間違いなく撤退していたことだろう。敵戦力を分析し然るべき後にナザリックへ誘い出す。そして第八階層のあれらに世界級(ワールド)アイテムを使用し、確実に始末する。否、その前に捕らえてプレイヤーの復活、あるいは記憶操作の実験材料にすべきだろうか。

 如何にワールドチャンピオンが強いと言ってもそれはあくまでも個としての強さ。仲間たちの協力あってこその成果だが、千五百人を退けた実績を誇るあの階層を単騎で切り抜けるのは世界意思(ワールドセイヴァー)でも使用しない限り不可能だ。

 しかしギルドの指輪持ち(たっち・みー)相手では話が全く変わってくる。彼はナザリック地下大墳墓において難攻不落である第八階層を丸ごとスルーできるのだ。それどころかいきなり宝物殿への転移すら可能。

 放置はさらに悪手だ。既にこの場に痕跡を残し過ぎた。探査系の巻物(スクロール)でナザリックの位置がバレる恐れがあるし、その上アインズの知らない何らかの方法で追跡される可能性まであった。

 

「……撤退はしない、此処で迎え撃つ。〈伝言(メッセージ)〉」

 

 アインズはナザリックに控える戦闘メイド(プレアデス)の副リーダー、ユリ・アルファに伝言(メッセージ)を送る。か細い勝ち筋を得るために。吹けば消えそうな蝋燭、或いは薄氷の上を渡るような心地だった。

 アインズの瞳はまだ死んでいなかった。何かしらの脅威を感じ取ったたっち・みーは、虚空から身の丈程もある漆黒の大剣を取り出した。柄には赤き宝玉が、刀身にはルーンが。そして(きっさき)は黄金の輝きを放ちバチバチと帯電している。先の光剣にも劣らぬ力を秘めたそれもまた、かつてのワールドチャンピオンの武器。

 右手に光剣を、左手に大剣を。それぞれを逆手に構え、アインズ目掛け一直線に疾走する。セバスたちが必死に追い縋るが、完全武装のたっち・みーに敵う筈がなかった。翻るマントの縁すら掴めずあっという間に置いていかれてしまう。

 

「〈骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)〉!!」

 

 無数の骸骨(スケルトン)が連なってできた壁がアインズたちとたっち・みーを隔てる。

 

「無駄です」

 

 たっち・みーは両の剣を交差させ、バツの字を書くように振り下ろす。神聖属性と闇属性とを携えた斬撃が骸骨(スケルトン)たちを容易く葬り去った。崩れ去った壁の向こうにアインズたちの姿は既になく。骨がカラカラと小気味良い音を立てるのみだった。

 

「〈魔法最強化(マキシマイズマジック)千本骨槍(サウザンドボーンランス)〉!!」

 

 千の肋骨の形状の槍がたっち・みー目掛け放射上に降り注ぐ。たっちは避ける動作すらせず宙に目を凝らしていた。無数の骨槍が全身鎧(フルプレート)に当たっては弾き返される。極まれにダメージが通っても無視できるレベルだった。

 

「……そこにいましたか」

 

 遥か上空、点のようなサイズのアインズが魔法を詠唱しているのが見えた。マーレはアインズの首に腕を回し右側に、アルベドはアインズに腰を支えられ左側にいた。〈集団飛行(マス・フライ)〉を使わないのはたっち・みーが遠距離攻撃、または近距離に接近した際、円滑に〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉するためだろう。

 

「――〈飛行(フライ)〉」

 

 短く言い放ち、土煙と音を残したっち・みーの姿が掻き消える。ようやく追いついたコキュートスの斬撃が虚しく空を切った。

 

「よし、誘いに乗ってきたな。――〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉」

 

 アインズはたっち・みーを上空へ誘き寄せ、地上へ転移。守護者たちと地上から集中砲火を浴びせる算段だった。しかし、

 

「なっ……!?」

 

 たっち・みーは急停止からの急旋回。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「転移の際、わずかに空間に揺らぎができるんですよ」

「はぁ……ふざけ――!?」

「死ねやこの裏切り者がぁああああ!!」

 

 翼のように広げた二振りの剣が最上段から同時に振り下ろされる。3F(バルディッシュ)を操るアルベドが自ら躍り出、ありったけの特殊技術(スキル)を駆使し鍔迫り合った。

 

「はっ、何が正義か!! 私たちを捨て、アインズ様を裏切り!! それのどこに正義があるというの!!」

「…………」

 

 アルベドが絶叫する。紛れもなく彼女の本心だった。感極まってしまったのだろう、面付き兜(クローズド・ヘルム)越しだがアルベドが泣いているのがはっきりとわかった。

 今まで溜め込んでいた〝りある〟に去ってしまった至高の存在たちに対する、嘘偽りない本音。溜まりに溜まった鬱屈とした思いが、ぶつけることができる相手(たっち・みー)を前についに決壊したのだ。思いつく限りの罵声を浴びせる彼女を誰が責められようか。

 他の守護者たちも多かれ少なかれ同じ思いを抱いていた。マーレが辛そうな表情で目を瞑る。その瞳には涙が浮かんでいた。

 

「何とか言ったらどうなの!?」

「……そう、ですね。貴方の言う通りだと思います」

 

 甘んじて罵声を受けとめていたたっち・みーが重い口を開く。此方も表情は伺えないがばつが悪そうだった。

 

「彼を殺めた時点で……いや、或いはこの世界に来るずっと前から私は正義とは程遠い存在なのでしょう。ですが――」

 

 たっち・みーの気配が変わる。それは既に覚悟が決めた男のものであった。

 

「だからこそ私は――此処で立ち止まる訳にはいかないのです!」

 

 蒼白の光剣と漆黒の大剣が煌く。瞬きさえ許さぬ刹那に一体幾度繰り出されたのだろうか。魔法による援護射撃の(いとま)すら与えず、超高速の連撃がアルベドの鎧を破壊した。兜が砕け散り血飛沫と共に破片が舞う。

 

「この程度で……!!」

 

 片方の角を折られ、端整な顔を血に染めながらもアルベドは決して屈しなかった。暴風雨のように吹き荒れるたっちの猛攻を歯を食いしばり耐え抜く。そしてついに3F(バルディッシュ)の刃がたっち・みーを捉えた。腹部へしたたかに一撃喰らわせた。与えたダメージはわずかであるが、ついに一矢報いたのだ。この機を逃す手はない。

 

「マーレ! 私ごとやりなさい!」

「で、でもアルベドさん……」

「いいからやりなさい!!」

 

 アルベドの(げき)に躊躇ったのは一瞬、意を決したマーレがシャドウ・オブ・ユグドラシルを大地に突き立てた。足元が陥没する。全方向から盛り上がった土砂が二人をまとめて飲み込もうとして、

 

「二度も同じ手には掛かりませんよ」

 

 光と闇の閃光が走る。幾重にも切り裂かれた大地が土塊となって吹き飛び、その中にアルベドもいた。ズタボロになった彼女は力なく宙を舞う。

 

「アルベドっ!!」

「お見事でした。もう少し経験を積めば茶釜さんクラスになれそうですね」

 

 たっち・みーの心からの賛辞がアインズの逆鱗にふれた。

 

「〈魔法三重最強化(トリプレットマキシマイズマジック)現断(リアリティ・スラッシュ)〉!!」

「次元断層」

 

 三重の次元を切り裂く刃が走るが、同じく次元に生じた断層に全て呑み込まれてしまう。歪みの向こうの漆黒が迫り来る。マーレが黒杖を振り上げたっち・みーの前に立ちはだかった。

 

「よせ、マーレ! 早く逃げろ!!」

「嫌です! ぼ、僕がアインズ様を守ります! 〈パワー・オブ・ガイア〉」

 

 珍しく自己主張の激しいマーレが魔法と特殊技術(スキル)とで自身の身体能力を強化する。

 

「やあああ!!」

 

 果敢にも黒杖を勢い良く振り上げたっち・みー目掛け鈍器のように振り下ろす。

 

「……」

 

 されど現実は残酷だった。どれだけ身体能力を強化しようとも、戦士と魔法詠唱者(マジック・キャスター)の歴然たる差はそう易々と埋まらない。

 黄金の輝きが煌めき、シャドウ・オブ・ユグドラシルを真っ二つに両断した。驚愕に目を見開くマーレの首筋に漆黒の刀身が突きつけられた。たっち・みーとて年端もいかぬ()()を斬り伏せるのは流石に躊躇われた。剣先がわずかに揺らぐ。

 

「許しは請いません。どうぞ私を恨んでください」

あたしの弟(マーレ)に何すんだコラァアアアア!!」

「お、お姉ちゃん!」

 

 弟の窮地を頼れる姉が救った。光の矢の雨が降り注ぐ。アウラの特殊技術(スキル)レインアロー〈天河の一射〉だ。両の剣で斬り払いながらたっちは大した脅威ではないと判断する。矢に構うのを止め目の前の少女を再度狙おうとして、

 

「〈影縫いの矢〉!!」

 

 先刻とは違う灰色の雨が降る。状態異常をもたらすであろう矢をわずらわしく思いながら剣を振るい、

 

「っ――」

 

 矢の雨に紛れて一際大きい光の槍が眼前に迫る。必中の効果を持つそれはただ避けたり斬り払うだけでは危険だ。たっち・みーはぎりぎりで西洋帆型の盾を取り出し構えた。直撃。以前のようにはいかない。今度は完璧に防ぎきった。

 

「大丈夫? マーレ!」

「お、お姉ちゃん……ありがとう」

 

 マーレの腕に輪のついた縄が巻かれ思い切り引き寄せられる。その先にはフェンに跨ったアウラがいた。優しくマーレを抱きとめる。

 

『――アインズ様、準備が整いました』

『よし、聞こえたなシャルティア? 頼んだぞ!』

「はい、お任せを! 〈転移門(ゲート)〉」

 

 上空から清浄投擲槍を放ったシャルティアは、直ちに主人の命を遂行する。〈転移門(ゲート)〉を開き、すぐさま〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉。

 

「先ほどは世話になったでありんす!!」

 

 たっち・みーと双方の武器が届く距離へ転移したシャルティアは、はらわたをぶちまけられたお礼とばかりにスポイトランスを穿った。互いの身長差を利用して繰り出されたスポイトランスは、しかし左のカイトシールドに阻まれてしまう。カウンターで横薙ぎに振り下ろされた光剣がシャルティアの腹を抉る。真紅の鎧を容易く突破し肉と臓物とを焼いた。

 

「んぐぐ……ひひ……たっち・みー様、御機嫌ようであ、り、ん、す」

「? 何を――」

 

 目の前の相手は痛みで気が触れたのだろうか。たっち・みーが訝しんだ瞬間、超巨大質量が二人を押し潰した。

 爆音が轟き大地が揺れた。土煙が巻き上がる。もうもうと立ち込める煙の向こうに赤き光の鼓動を持つ巨像がいた。第四階層守護者――ガルガンチュア。全長三十メートルを超す岩の巨体は悠然と大地に降り立った。

 

「アインズ様、我ら六連星(プレアデス)改め七姉妹(プレイアデス)、御身の前に」

「おお、よくぞ来てくれた」

 

 ガルガンチュアから遅れてユリ・アルファを筆頭に戦闘メイドたちが各々ゆっくりと舞い降りる。最後尾には巫女装束をきた末妹――オーレーオール・オメガが二人の少年少女――源氏物語に出てきそうな衣装を着てる――を引き連れて現れた。そして彼女たちだけではない。

 シャルティアが開けた〈転移門(ゲート)〉から続々と高レベルのシモベたちが降り立った。デミウルゴス配下の憤怒、強欲、嫉妬の三魔将やコキュートス配下の雪女郎たちや蟲人、アウラの魔獣たちやシャルティアの吸血鬼(ヴァンパイア)。盾役の低レベルアンデットたちや大図書館(アッシュールバニパル)死の支配者(オーバーロード)など。すぐに動かせるナザリックの高レベルなシモベをありったけ集めたのだ。なかなかに壮観な光景であった。セバスたち守護者もその一団に合流する。

 

「アルベド様、怪我の治療を致します……わん」

「ありがとうペストーニャ、助かるわ」

 

 一番手酷くやられたアルベドの元にメイド長でありナザリック最高の治癒魔法の使い手のペストーニャがやってくる。

 

「お姉ちゃん、さっきはありがとう……」

「全く、アンタはあたしがいないと本当駄目なんだから!」

 

 胸を張って得意げなアウラにマーレはシャルティアの存在を思い出した。

 

「あ、しゃ、シャルティアさんは大丈夫かな?」

「シャルティア〜? 心配するだけ無駄だって。だって最初から死んでるじゃん」

「少しは心配してくれても罰は当たらないんじゃありんせん?」

 

 姉弟の会話にミストフォームを解いたシャルティアが現れる。あの瞬間、間一髪物理干渉無効の星幽界(アストラル)体へ変貌し難を逃れたのだ。

 

「シャルティア、よくやったな。この策はお前の働きが大きい。それにアルベドも……よくぞ時を稼いでくれた」

 

 此度の作戦の功労者二人を労う。出来るだけ時間を稼ぎユリたちにナザリック内の戦力を集めさせ、たっち・みーに気づかれないように〈転移門(ゲート)〉を開く。その後ガルガンチュアをぶつけてひるんでる隙にシモベたちを送らせる。即興で立てた割には完璧な作戦だった。

 

「アインズ様〜! 愛する殿方のために頑張るのは当然でありんすぅ」

「はっ、アインズ様は私を褒めて下さったのよ!」

「はあ? 耳がついてないのかこの大口ゴリラ!」

「何だってこのヤツメウナギ!!」

 

 両者とも血まみれのまま掴み掛からん勢いだ。アインズはいつものように一喝したい衝動に駆られる。

 

(でも二人とも頑張ったからなあ……)

 

 アインズがどうしたものかと考えあぐねていると、

 

「――次元断切(ワールド・ブレイク)

 

 場の空気を一変させる声が静かに響いた。手、足を次元ごと切断されたガルガンチュアが駆動音を響き渡らせながらバランスを崩す。

 

「たとえどれだけ戦力を集めようとも――」

 

 多少、土埃に塗れただけで大した傷を負ってないたっち・みーが姿を現した。宙に浮き、左右の剣は異なる色の光を纏っている。

 

「私には届かない!! 次元断切(ワールド・ブレイク)

 

 再度次元が切断される。集めた戦力の半数が空間ごと両断された。

 

「……さて、それはどうかな?」

 

 アインズは不適に――骸骨ゆえ読み取り辛いが――笑ってみせた。

 

「たっちさんは忘れていませんか? ナザリックには貴方に匹敵……いや、それ以上の存在がいることを」

「何を世迷言を――」

 

 シャルティアの魔力(MP)が尽きたのだろう、〈転移門(ゲート)〉がゆっくりと閉じられる。刹那、一つの赤い影が凄まじい勢いと共に〈転移門(ゲート)〉から飛び出した。

 

「行きなさい、私の可愛い妹(ルベド)。私たちの敵を完膚なきまでに叩きのめして」

 

 血塗れの(アルベド)が命ずる。(ルベド)はその勢いでもってたっち・みーの横っ面を兜越しに殴り飛ばした。








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