PvP+N   作:皇帝ペンギン
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第6話

「……」

 

 曇天とした天候が闇夜の不気味さに拍車をかけていた。鬱蒼と生い茂るトブの大森林、その遥か上空にひとつの影が佇んでいた。

 竜の意匠が施された白金の全身鎧(フルプレート)――ツァインドルクス=ヴァイシオンの表情は――尤も中身は伽藍堂の鎧であるが――すぐれない。完全に言葉を失っていた。彼はスレイン法国の特殊部隊のひとつ――漆黒聖典を監視していた。人類至上主義を掲げ亜人を根絶せしめんとする彼らはツアーにとって危険な存在だった。厄介なことに彼らは六大神の遺産を身に纏っており迂闊に手出しは出来ない。そんな危険な存在たちがあろうことか一蹴されてしまった。

 数百年の時を経た白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)にしてアーグランド評議国の永久評議員。そして十三英雄の一人でもある彼をして、眼下に広がる光景は到底信じられるものではなかった。

 この数百年間、様々な〝ぷれいやー〟がこの世界を訪れた。十三英雄のリーダーやミノタウロスの賢者のような善人、八欲王のような世界を穢す悪。それから最後にはリーダーを裏切ってしまった元チームメンバー。彼を悪と断じるのは些か難しいものがあるが。

 思考が逸れてしまった。ツアーは再び地上に視線を送る。繰り広げられているのはまさに神代の戦い、神話の一ページ。六大神や八欲王に匹敵するだろう高位階魔法に特殊技術(スキル)、そしておそらく武技の数々。

 縛りさえかけてなければこの世界最強を自負する自分すら勝敗は知れないところにある。あのアンデッドと純白の全身鎧(フルプレート)の戦いはツアーに大いに危機感を抱かせた。あの二人はまず間違いなく〝ぷれいやー〟だろう。

 

(何か言い争っている? 周りの異形種が跪いて……あれらは従属神だろうか? それとも〝ぷれいやー〟か。八欲王のように仲間割れ? いや、決め付けるのはよくない。それにしても……あの全身鎧(フルプレート)……どこかでみた覚えが……確か八欲王と供にいた――)

 

「――Guten Abend(こんばんは)

「っ――!?」

 

 完璧に虚をつかれた。背後から発せられた謎の言語。ツアーが振り返った先にはひとりのバードマンがいた。一目で強大な力を秘めているとわかる弓を引き絞り、こちらに狙い済ましている。

 

「流石は私の創造主であらせられる御方ですね。貴方様の見立て通り、やはり監視役がいましたか」

「……」

 

 ツアーは何も答えず背負った鞘の柄にゆっくりと手を伸ばす。

 

「おっと、動かないでくださいよ。この距離なら間違っても外しませんからね」

 

 太陽の輝きを彷彿とさせる光が(やじり)に集中する。間違いなくユグドラシル産のアイテムだろう。ツアーは細心の注意を払いながら慎重に言葉を選ぶ。

 

「……君は〝ぷれいやー〟かい?」

「その辺りのことは、どうぞ私の創造主様にお話くださいませ。大人しくして頂けますでしょうか?」

 

 冗談じゃない。ついて行ったら最後、何をされるか。生きて帰れるかわかったもんじゃない。

 

「……断る、と言ったら?」

「では仕方ありませんね。申し訳ありませんが、貴方を拘束させていただきます」

 

 些かオーバーリアクションのバードマンに対し、苛立ちを覚え始めたツアーが口火を切った。

 

「それは、御免だね!」

 

 遠隔操作により剣が勢いよく舞い踊る瞬間、収束した光が放たれる。人知れず世界最強(ツアー)と謎のバードマンとの戦いが始まった。

 

 

 ・

 

 

 

 

 場の全ての視線がセバスに集中していた。セバスは額を零れ落ちる珠のような汗を拭いもせずその身を震わせた。

 たっち・みーは言った。お前の正義を示せと。つまりはここで創造主(たっち・みー)を選ぶかナザリック(アインズ)を選ぶか、自分の意志で決めろということだ。主人の言葉を至上の喜びとして従うシモベにとって、死刑宣告にも等しい残酷な問い掛けだった。否、自害を命じられた方が遥かにマシだった。

 押し黙り、答えを出せないでいるセバスを一瞥し、やがてたっち・みーは視線を外す。その瞳には若干の失望の色が宿っていた。

 

「わ、私は……わた、しは……」

「……貴方がどちらを選択しようと、私のやるべきことは変わりませんがね」

 

 独り言ちるたっち・みーは虚空へと手を伸ばす。半ばまでガントレットが沈み込み、取り出したるは魔封じの結晶。アインズや守護者たちの表情が驚愕に染まる。封じられてる魔法によってはアインズに特攻効果を持つかもしれない。たっちは周囲の動揺を一切気にすることなく、水晶を思い切り足元に叩きつけた。

 

「――皆、逃げろ!!」

「アインズ様!?」

 

 アインズの絶叫を圧倒的な閃光が飲み込んだ。第九位階魔法〈核爆発(ニュークリアブラスト)〉が全てを熱と光とで吹き飛ばす。強烈なノックバックがアインズたちを襲う。万が一のたっち・みー戦を想定し、皆の装備を主に神聖属性対策にしていたのが裏目に出た。

 

「グッ……!!」

 

 普段は対策を取り、無効化していた炎によるダメージが、アインズやコキュートスなど一部炎属性が弱点の種族に突き刺さる。

 魔法詠唱者(マジック・キャスター)による詠唱ではないため、魔法最強化(マキシマイズマジック)二重化(ツイン)三重化(トリプレット)などのバフ(強化)もかかっておらず、さらに〈核爆発(ニュークリアブラスト)〉が第九位階魔法にしては然程強くなく、ダメージ量自体は大したことないのがせめてもの救いか。

 

「アインズ様!!」

 

 特殊技術(スキル)によりアルベドが咄嗟にアインズを庇う。

 使用者すら巻き込む最高峰の範囲攻撃が荒れ狂う中、たっち・みーはただ一点に狙いを定めていた。

 

「〈魔法最強化(マキシマイズマジック)重力渦(グラビティメイルシュトローム)〉!!」

 

 事前に〈光輝緑の身体(ボディ・オブ・イファルジェントベリル)〉を唱えていたアインズは炎属性のダメージやノックバックを無効化し、たっちの背に追いすがるように魔法を放つ。降りかかる超重力の螺旋球を意に返さず、たっち・みーはノックバックの反動を利用し加速した。その先には――

 

「狙いは私ですか! 悪魔の諸相:触腕の翼」

 

 死が前提なヴィクティムや群による強さが本領なアウラを除き、デミウルゴスの個としての強さは守護者最弱である。弱者から切り崩すというのは正しい選択だ。

 自身がこの場において最も戦力として劣っている自覚があったデミウルゴスは、迫り来るたっち・みーに半ば予感めいたものを感じていた。

 反射的に後方へ飛び退く。同時に背が盛り上がり翼が勢い良く飛び出した。一対の翼から無数の羽根が矢の如く射出され、五月雨を降らす。

 だが聖騎士は動じなかった。数え切れない羽根の雨を浴びながら、そのほぼ全てを切り伏せ悪魔へ肉迫する。

 

「くっ……悪魔の諸相:豪魔の巨腕」

 

 デミウルゴスは苦し紛れに右腕を振るう。通常の数倍に膨れ上がった拳はあっさり躱され、ついには懐に潜り込まれてしまった。大振りの攻撃は自殺行為だった。その代償は大きい。

 ――一閃、二閃。デミウルゴスの技量では決して避けきれない閃光が翻り、血飛沫が舞う。神速の斬撃からの斬り上げ、瞬く間に悪魔の両の羽根が根元から奪われ、豪腕が斬り刻まれた。デミウルゴスはなすすべもなく地に落とされる。

 

「がはっ……」

 

 土埃を巻き上げ大地を転がった。口内に土の味が広がる。すぐに起き上がろうと試みるが体が自由に動かない。なんとか上体を起こし見上げた視線の先には、

 

「まずは――一人」

 

 悪魔を滅ぼすのは自分の役目とばかりに聖騎士がこちらを見下ろしていた。たっち・みーのグレートソードが輝き神聖属性を纏う。

 

「やめろぉおおお!!」

 

 アインズの叫びが空しく木霊する。伸ばした骨の手は何も掴めず、大切なものを守るには短すぎた。

 〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉よりもたっち・みーが剣を振り下ろす方が速い。魔法を放とうにもこの位置関係ではデミウルゴスに当たってしまう危険性がある。フレンドリィ・ファイヤーが無効なこの世界でのPvP(Player vs Player)は、ユグドラシルとまるで勝手が違っていた。

 

「――悪を討つ一撃(スマイト・エビル)

 

 無情にも白銀が袈裟懸けに振り下ろされる。眩いばかりの光が煌めき土煙が舞い上がった。

 

「あ……あ、あ……」

 

 アインズは膝から崩れ落ちその場に項垂れる。守れなかった。たっち・みー(友人)デミウルゴス(愛し子)を殺してしまった。考えうる中で最悪の状況に陥ってしまった。出口のない迷宮の袋小路に迷い込んでしまったような感覚。視界が歪む。アインズは深い絶望感に苛まれた。

 

「っ!? アインズ様、あれを!!」

 

 アルベドの喜色ばんだ声がアインズを現実へ引き戻す。力なく視線を上げるとそこには――

 

「……それが貴方の選択ですか」

 

 たっち・みーが静かに問いかける。その声色は一見抑揚のない淡々としたものだったが、不思議と優しげな響きを含んでいた。

 はたして、セバスはデミウルゴスを守るようにたっち・みーの前に立ちはだかっていた。グレートソードを白刃取り、真っ直ぐに創造主を見つめ返す。白い手袋は真紅に染まり、僅かに割れた額からは赤が滴り落ちる。必殺の一撃の殺しきれぬ威力が垣間見られた。

 悪を討つ一撃(スマイト・エビル)は相手のカルマ値が低ければ低い程大ダメージを与える特殊技術(スキル)だ。ナザリックにおいてトップクラスにカルマ値の高いセバスが致命傷を負わなかったのも道理。

 

「――はっ、これこそ貴方様からいただき、今なおこの胸に宿り続ける思いにございます」

 

 セバスの双眸を透明な液体が濡らし、赤と混じりて頬を伝う。

 

「あ――」

 

 アインズの眼窩の消え入りそうな灯火が光輝いた。

 

「どうして見ず知らずの俺を助けてくれたんですか?」

「誰かが困っていたら、助けるのは当たり前!」

 

 アインズの脳裏にあの日、異形種狩りからたっち・みーに助けてもらった記憶が去来する。身体を張ってデミウルゴスを庇うセバスにあの日のたっち・みーが重なって見えたのだ。

 自分の行いは無駄ではなかったのだ。ナザリックを維持するために過ごした孤独な日々は。アインズ・ウール・ゴウンの輝かしい軌跡はこうして今なお皆の中に息づいている。

 たとえ何かしらの理由があって現在のたっち・みーが敵対し、どんなに否定しようとも。それだけは揺るぎない事実だった。

 

「セバス、君にひとつ言っておくべきことがある」

 

 立ち上がり、割れてしまった眼鏡を掛け直すデミウルゴスがいつもの皮肉げな笑みを浮かべた。

 

「何でしょうか?」

「私は君が嫌いだよ」

 

 助けられたにも関わらず、デミウルゴスの第一声はそれだった。眉根一つ動かさずセバスが応える。

 

「奇遇ですな、私もです」

「ですが……」

 

 アインズへの忠義のため、そしてナザリックのために。自らの創造主を裏切ってまでセバスがとった行動は賞賛に値した。

 もしデミウルゴスがウルベルト・アレイン・オードルと敵対したとしても、このような勇敢な選択を取れるかわからなかった。だから、

 

「――感謝します。今だけは」

「ふふ、貴方らしくもない」

 

 執事と悪魔が初めて肩を並べ、拳と魔爪とを構えた。その様はまるであの日の、ナザリック地下墳墓を攻略したときのたっち・みーとウルベルトのようであった。

 

「私……でに……失っ……光……こんな……しか……見せ……もら……」

 

 たっち・みーの小さな呟きは誰の耳にも届くことはなく爆風に掻き消された。次の瞬間にはグレートソードを油断なく構えている。

 

「ならば貫き通して下さい。貴方の正義を――」

 

 たっち・みーがセバスとデミウルゴスをまとめて斬り伏せようとして、

 

不動明王撃(アチャラナータ)――倶利伽羅剣(くりからけん)!!」

「――次元断層」

 

 横合いからライトブルーの巨軀が四つの武器を振り下ろす。一つ一つが強大な力を纏った必殺の連撃に迂闊な技では迎撃不能と判断し、たっち・みーは迷うことなく絶対防御を選択した。次元を斬り裂き生じた断層に四の斬撃が全て飲み込まれた。轟音すら消え去り一瞬の静寂が訪れる。

 

「私ヲ忘レナイデイタダキタイ」

 

 ほんの少しばかり外皮鎧が焼け焦げたコキュートスが男たちに居並ぶ。斬神刀皇、断頭牙、ブロードソードとメイスとをそれぞれの手に独自の構えを取っていた。口にこそ出さぬがガチガチと打ち鳴らす下顎が彼の心情を示す。即ち歓喜。己の創造主(武人建御雷)を超える最強の戦士(たっち・みー)を前にした武士の本能だった。

 

「聞け、守護者たちよ!!」

 

 守護者たちに、特にセバスの行動に勇気付けられたアインズは声を張り上げる。もう迷いはない。覚悟を決めろ。為すべきことをやり遂げるのだ。お前はただのモモンガではなく、皆の思いを継いだアインズ・ウール・ゴウンなのだから。

 

「協力してたっちさんを無力化せよ!! ただし決して殺すな!! 拘束した後、私が直々に彼を問いただす!!」

『はっ!!』

 

 何故たっち・みーがここまで苛烈に変わってしまったのか。何故ナザリックを滅ぼそうとするのか。以前の彼を知るアインズだが、この様変わりは明らかに異様だった。数百年の時が彼をここまで変えたのか。ならば彼の身に一体何が起こったというのだ。話したいこと、聞きたいことが山ほどあった。このまま訳もわからず、滅ぼすのも滅ぼされるのも御免だった。

 

「たっち・みー様……参ります!!」

「たっち・みー様、一手御指南オ願イ致シマス」

「行きますよ! 悪魔の諸相:八肢の迅速」

 

 三人の男たちは三者三様に咆哮を上げた。風を切る豪拳が、氷の斬撃が、炎を纏う魔爪が白亜の聖騎士を強襲する。神話がまた一ページ記されていく。あまりの力のぶつかり合いに耐えきれず大気が絶叫した。

 

「……甘いことを」

 

(そんな様では全てを失いますよ。私みたいに――)

 

 たっち・みーは黙したまま何も語らず、ただ剣を振るいNPCたちを迎撃する。自身の創造したNPC(セバス)すらその手にかけて。返り血に全身鎧(フルプレート)を染めながら。

 

「っ――」

 

 突如、無視できないレベルの殺気がたっち・みーの死角から降りかかる。迫り来るコキュートスの斬撃を左腕ごと斬り飛ばし、流れるような動作で回旋。

 一瞬の隙をつき、剛の拳と柔の掌を使い分け、蛇のような挙動を見せるセバスの一撃が全身鎧(フルプレート)の右の肩当てを奪う。繰り出された掌底が戻り切る寸前、即座にそれを斬り落とす。続け様にグレートソードの柄で腹部を叩打し右膝蹴りを叩き込んだ。

 

「がはっ……」

 

 血反吐をぶち撒けながら吹き飛ぶセバスだが、その表情は苦悶ではなく。してやったりと口元を釣り上げていた。違和感の正体はすぐに判明する。血に塗れたデミウルゴスがたっち・みーの獲物の刀身を溶かしていたのだ。黒煙が上がり爪がグレートソードにめり込んでいく。ただでさえ性能で劣るたっちの武器がただのナマクラと成り果てた。

 

「く――」

 

 融解し、斬れ味が落ちに落ちたグレートソードを鈍器のように振るいデミウルゴスを振り飛ばす。

 

「スマイト――フロストバァアアン!!」

 

 追撃をかけようとするがコキュートスがそれを赦すはずがない。氷属性を乗せた斬撃が行く手を阻む。たっち・みーの視界を三の剣戟が塞いだ刹那、

 

「――皆、今だよ!!」

 

 場違いな明るい少女の声が響く。主の声に呼応し、十数体の魔獣が宙から躍り出る。アウラの特殊技術(スキル)により強化され、それぞれのレベルは九十にも届く精鋭部隊だ。流石のたっち・みーも無視できない。迫り来る魔獣たちを屠らんと空に視線をやり、

 

「今だマーレ! やれっ!!」

「は、はぃいい!!」

 

 突如として足元が崩れ落ちた。たっち・みーを中心に蟻地獄のように陥没し、広範囲に渡り土砂と木々とを巻き込みながら彼をあっという間に飲み込んだ。

 〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉によりセバスたちを間一髪回収したシャルティアが、アインズの側に転移する。フェンに騎乗したアウラが魔獣たちと共に主人を守るように取り囲んだ。

 

「まだだ、油断するな! この程度では――」

 

 アインズは弛緩しそうな空気を叱咤した。その言葉通り、墳墓のように盛り上がった大地にいくつもの剣閃が走る。最早純白と程遠い全身鎧(フルプレート)が視界に入ってくる。向こうも此方を視認してるだろう。

 二つ目の切り札の切り時だ。アインズを中心に蒼白のドーム状の立体魔方陣を形成された。

 

「おお……」

「この輝きはもしや……」

「……我々には許されない位階を超越せし魔法」

 

 守護者たちが感嘆の音を洩らす。発動準備時間を待つ意味などない。アインズは左手の砂時計を握り潰した。

 

「超位魔法――〈失墜する天空(フォールンダウン)〉」

 

 天空が墜つる。太陽と錯覚せし超高熱源体が大地に顕現し、効果範囲内全てをたっち・みーごと灼き尽くす。視界を白に染め上げた。

 

 ・

 

 どれほどの時間が経過しただろうか。〈失墜する天空(フォールンダウン)〉は凄まじい破壊の爪痕だけを残し、嘘のように消え失せた。それは範囲外にいた守護者たちにさえ恐怖を抱かせる威力だった。

 

「アウラ、たっちさんのステータスはどうだ?」

「はい、ちょっとお待ちください。ええっと――」

 

 超位魔法〈失墜する天空(フォールンダウン)〉。たっち・みーの種族に特攻効果こそないが、アインズの持てる最強最大の一撃だ。たとえワールドチャンピオンとはいえ唯ではすまないだろう。

 

「あ、出ました。五つ色違いでレベルは百。ステータスは……え? 何これ……」

「どうしたのお姉ちゃん」

「チビ助?」

 

 アウラの顔がみるみる青ざめていく。他の守護者たちが声をかけるも茫然とした表情で固まったまま動かない。

 

「どうしたのだアウラよ。早く続きを」

「は、はい。あのですね……その」

 

 言葉を濁すアウラが主人にまで促され、意を決したように口を開く。その声は震えていた。

 

「た、体力(HP)が一割程減っていますが……攻撃力……防御力……素早さ……ま、魔法力(MP)と魔法攻撃力以外、全てが測定範囲外、です」

『なっ……!?』

 

 守護者たちはおろかアインズすら言葉を失った。精神が強制的に沈静化される。

 

(莫迦な、なんだその巫山戯たステータスは。いくら数百年のアドバンテージがあるとはいえ、そんな出鱈目ありえるのか? 俺の知らない生まれながらの異能(タレント)を〈星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)〉で奪った? それとも……)

 

 そんなバランスブレイカーがあり得るとすれば、それは――

 

「アハハハハハハハハ!!」

 

 狂気に満ちた嗤い声と共にたっち・みーが姿を現す。全身鎧(フルプレート)はほぼ全壊し、腰当て部分が辛うじて残るのみだった。異形種としての蟲の外観が露わになる。

 

「流石モモンガさんですね。指揮官もいけるじゃないですか」

 

 〈飛行(フライ)〉を使っているのだろうか。ゆっくりと宙に浮き、アインズたちを見下ろしている。

 

「……ですが私を生け捕ろうとしたのは失策でしたね。私が拘束具で縛られてる間に、全力で滅ぼすべきでした」

 

 たっち・みーは唯一残った腰当てのベルト、そのバックル部分に手を伸ばす。

 

「っ!? 〈魔法最強化(マキシマイズマジック)――〉」

 

 嫌な予感に突き動かされるまま、アインズは魔法をたっち・みー目掛け放つ。しかし既に遅かった。

 たっち・みーのバックルにはナーベラルのローブなどと同様の速攻早着替えのクリスタルが埋め込まれていた。アインズは知る由もないが、それはたっち・みーが愛してやまない百年以上前に流行った仮面のヒーローを模したものだった。

 

「変――身」

 

 お決まりの台詞と独特のポーズ。たっち・みーを課金エフェクトが眩く照らす。

 

「あ、あ……」

「これ、は……」

 

 大きく突き出た金色の角、真紅の瞳。漆黒を基調にした全身鎧(フルプレート)に所々血管の如くあしらわれた黄金の装飾。真紅のマントをはためかせ、降臨エフェクトと共に世界の敵(ワールド・エネミー)と化したワールドチャンピオンが降臨した。

 

「――さてモモンガさん、第二ラウンドを始めましょうか?」

 

 正義降臨の文字を背後に浮かせ、たっち・みーは微笑みを浮かべた。








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