俺は超越者(オーバーロード)だった件 作:コヘヘ
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故に確認する。『想定内』かを。
私の、『学長様』の帝国魔法学院征服がほぼ完了し、作戦は佳境に入った。
もうすぐ、私の愛娘の『キーア』ちゃんが編入してくるという、
発想が斜め上な『アホ』な作戦。だが、有効なのは確かだ。
…私を、『教授』を守る作戦としては。
何て馬鹿らしい。何故、私は、リーダーとの最後の会話で気が付かなかったのか。
『孤独』の中で、いつも遊んでくれたから、だから揶揄ったとか。
小学生男子か、私は。
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キーアちゃんの学院への編入準備中、
法国の『死神』から二人きりで直接会いたいとメッセージが届いた。
…『魔王』と内密に。
最初の会合で、『死神』のポリシーはわかったが、
肝心かなめの『内心』がさっぱりわからなかった。
あいつ、突然『キーア』ちゃんに園児服を着させろとか戯言ほざいて、
私を完全に煙に巻きやがった。
『死神』の『洞察力』で、私の、『教授』の情報のみ抜かれた。
…正直、初めての経験だ。だから、興味があった。
かなり危険だが、『死神』に会いに行くことにした。
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法国の『神官長会議室』に案内された。
彼らにとって、『大罪人』の私が、堂々と。
私を案内した法国の連中は怒りを隠しきれていないが、『想定外』だ。
…『八欲王』をほぼ単身で『破滅』に追い込んだだけある。
この私を、『教授』を、混乱という状況に追い込み『素』を無理やり引き出す気だ。
歓迎しているようで、していない。
破格の好待遇。
…まさか、リアルの『企業』関係者か?
一方的に『私』を知っている可能性がある。
『死神』は、少なくとも、
『変態』というバイアスそのもので、私を完全に嵌めた。
ヤバい。…こいつが一番ヤバい。
…完全に『私』を読み切っている。
『教授』に取って、『魔王』や『白銀』より相性最悪。
『王女様』が『魔王』に勝てないような相性最悪。
…『死神』には私への敵対的感情は間違いなくある。
最悪、『死』も覚悟しよう。
『想定外』過ぎる。もはや、前提が崩された。
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『死神』は簡単な挨拶を早々に、私を座らせじっと『観察』している。
『死神』と『教授』二人きりで対面だ。
…沈黙だ。
既に30分は経過している。
…怖い。完全にモルモットだ。この『教授』が。
実験生物を観察するように、『洞察』している。
それをどうやっても防げない。
…破格の『好待遇』で迎えられたから、私の『言葉』が使えない。
『死』より恐怖した『沈黙』の後に、『死神』は喋り始めた。
「私の、リアルの職業は『投資家』だ」
いつものようなおちゃらけた、中二のような『ノリ』がない。
これは『素』だ。おそらく、リアルの『死神』ではない『人間』の。
沈黙で返す。
私の『想定外』過ぎる。黙るしかない。
「私の友、『風花聖典』の基礎を作った男から君の研究を知っていた
…君のリアルの姿はアバターそのままだ。
ツアーとの『記憶共有』で容易に君の素性はわかった」
…やはり、『企業』関係者だったか。
だが、何故、今更現れる。あの時、無碍にした連中が!!
ダメだ。落ち着け。
…『魔王』に迷惑がかかる。それだけは避けなければ。
「君の研究は数百年先のパラダイムシフト。私は、『企業』から投資を辞めさせられた。
…本当に、実に惜しい『研究』だった」
…『本音』だ。この男は、本気で私の『研究』を惜しんでいる。
恐らく、『死』を仄めかされたのだろう。
…自分だけでなく友人や家族を人質に取られたレベルで。
「私が君の蘇生を拒絶した最大の理由は、皮肉にも『それ』だ」
『死神』の本質が見えてきた。この男は『常人』だ。
変態でも、狂人でもない。素直に『未来』を見る目の持ち主だ。
「…察したか。数百年先のパラダイムシフトが容易な君は、『魔王』様より危険だ。
世界秩序の崩壊を『素』で起こせると確信した。
私の友の子らを殺した恨みはあるが、『世界崩壊シナリオ』を起こせるのが不味かった」
その通りだ。私も『貧乏魔王』がいなければ、『素』でそれをやっていただろう。
突如、『死神』の雰囲気が変わる。
『人間』から『死神』に戻った。
何だ、この男。
…どちらも『素』だ。『死神』も『人間』も。狂人も変態も…常人も。
多重人格障害ではない。だが、同一の思考が出来ている。
アンデッドの精神汚染が微塵も効いていない。
…ありえない。どんな経験をすればこうなるのか。
…恐らく、『友』達と転移した。
ただ、それだけだ『思考』が汚染されていないのは。
それだけでここまで出来るのか!?
…どんな『友情』があればそれを可能とする?
私には理解不能。
…恐らく、『魔王』なら理解できる。
だが、『私』とは致命的にズレている。
本当に相性最悪の相手だ。
…私以外ならこの『男』を理解できるのだ。恐らく。
「だが、貴様を観察してわかった。貴様、数百年は表に出る気がないな?」
『死神』に戻った以上、沈黙は不味い。だから答える。
「ああ、出る気がない。…私の『研究』はするが」
知っているのなら、隠す必要がない。
…恐らく、『死神』は私の『協力者』だ。
何らかの手段で私が『寿命』を延ばすと確信している。
それを黙っていてやるから、『教授』に別のことをしろという『取引』だ。
「だから、貴様を信用する。…決して許したわけではない」
『死神』のことが、私に読めるようになった。
わざとだが、ここからはお互い『本音』で話したいらしい。
「何をすればよいのかな?」
素直に聞こう。
提案はおそらく『魔王』関係だ。それも有益な。
「貴様を我が信用した以上、『法国』と『十三英雄』の和平の布石になった。
『邪眼』以前の『最悪』がなくなった。
故に、この作戦はほぼ無意味になった。なってしまった」
『魔王』の作戦の『前提』がなくなった。
ということはつまり、『評議国』と『魔王国』の関係構築を手伝え、か。
「『手紙』なしで『場』を整えろと?」
目の前の『死神』は随分、無茶苦茶を言う。だが、やるしかない。
「法国も納得した。評議国も納得した。『魔王』様の懸念はもはや不要。
故に貴様に命じる。『世界』を欺け。…『作戦』をわざと失敗しろ」
…失敗しろと言っても、ズーラーノーンの『盟主』を捕まえるのは変えないだろう。
つまり、そういうことか?
…私の『最適解』にもなる。
引き受けるべきだが、確認が必要だ。
この『死神』と『教授』は相性最悪だから。
「何をすれば良いかな?『魔王』様を欺くのも大変なんだ。
…私の身分は愛玩動物(ペット)だ。かなりキツイ」
範囲にもよる。無理な物は私にだって無理だ。
「『魔王』様は貴様を愛している。…確実に悟られない。
故に依頼は簡単だ。…報酬は我が断罪の印。それの放棄だ」
顔が赤くなるのを自覚する。
この『死神』何をほざくか!
…だが、取引は有益だ。
もう私を殺さないという保証だ。このスイッチの放棄は。
理解した。『死神』と『教授』は秩序さえ乱さなければ、共栄できる。
「わかった。全力で悟られずに失敗しよう。
…ただし、庇ってくれよ。あの『魔王』は私にだけドSだ。
スイッチを、本気で死ぬ寸前までやりかねない」
私のために『魔王』が用意したものを壊すのだ。
それくらいは保証してくれないと困る。
…私は『貧乏魔王』に嫌われたくない。そうはならないだろうが。
「約束しよう。
…先ずは、『邪眼』に悟られずに失敗を想定させろ」
その思考に誘導するのは、容易だ。
キーノはかつての『仲間』だから。
思考も嗜好も全て把握している。
しかしまた、やるのかこれ。
「わかったよ。また『教授』か。はぁ…」
心の底からため息をついた。
…もういやだ、この『死神』。
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友の子の怨敵である『教授』は去った。
我の依頼を完遂するだろう。あのチートは。
我が友、『自由の翼』の情報は正しかった。
元々、もう一人の友『エレア』と組んで『魔王』様を騙して、
『流れ星の指輪(シューティングスター)』を強奪した時点で、
友達の偉大さはわかっていたが。
…『教授』と二人きりの環境で、観察できてようやくわかった。
やはりあの女と我は、相性が悪い。
『死神』に『生』を、『リアル』を思い出させるとは。
…我が復活してから、何度となく『魔王』様には驚かされる。
ここまで、心を動かされたのは、
『友』達と一緒に『世界』を相手に喧嘩を売った日々以来か。
…ああ、『魔王』様。本当に惜しい。
あなた様の『目』がリアルに向いて下されば、
あの地獄のような『世界』をきっと変えられただろう。
…本当に口惜しい。