モモです! 外伝集 作:疑似ほにょぺにょこ
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今日──いえ、昨夜?夏祭りでしたので遅れました──
「いっただーきまーす!──んぐんぐ──うんまぁー!!」
食事──
それは、生きとし生けるものに与えられた祝福である。
「それは良うございました。アウラ様のご要望通り、一般ランクのビーフパテを利用したのがよろしかったようですね。あ、わん」
「うんー。この大味で大雑把な感じが、ジャンクフード!って感じで良いよね」
ここ、ナザリック地下大墳墓 第六階層『森林』の一角。アウラやマーレが食事をとるためだけに作られたエリアで、アウラはペストーニャ・S・ワンコが作ったハンバーガーセットに舌鼓を打っていた。
俺は決して隠れているわけではない。アウラたちを含む配下の者たちがどのように食事を摂っているかを観察するためである。いやはや、それにしても──
「このポテトやコーラとの相性は抜群だね!んー──うまー!!」
(本当に美味しそうに食べるなぁ──)
アンデッドに成ってから久しく、食事を摂りたいという欲求そのものを感じることは無くなっている。しかしそれは、イコール食事を摂りたくないという事ではない。
食事を摂る必要がないだけで、食事をしたくないわけではない。
確かに『したいか』と聞かれても『どうでもいい』と思う程度に落ち込んでいる。しかし『食べたくないのか』と聞かれたら『そうではない』と思わず口にしそうになる程度には食に対する欲求は残っている。
空腹そのものがないためこの中途半端な状態がずっと続いているのだが──
「ペストーニャ、おかわり!」
「はい、既に用意してあります──わん」
ああやって、アウラに限らず美味しそうに食べているのを横で見て居るとふつふつと湧いてくるのだ。
『食べたい』という欲求が。
(でも食べたとしてもそのまま床にぶちまけるだけなんだよなぁ──)
身体が骨であるため食物を消化どころか口の中に留めて置くことすら出来ない。いっそ《星に願いを/ウィッシュ・アボン・ア・スター》で受肉でもしようかと考えたこともあるが、高々食事のために──本来必要すら感じないような物に超位魔法を使っていい物かと二の足を踏んでしまう。大量の経験を消失するか、超貴重品であるこの指輪──
(食事なんていう俗な願いのために貴重な回数を消費するのはなぁ)
己が指に嵌る流れ星の指輪<シューティングスター>の貴重な3回のうちの1回を利用するかのどちらしかない。
友のため、仲間のため、配下のためならば経験だろうが貴重な1回だろうが使うことに躊躇はない。しかし己が為、しかもこんな仕様もない事に使うのにはあまりにも躊躇が激しいのだ。
(他に方法はないものか──)
「──それで作られたのが、この魔法ですか。アインズ様」
早速執務室に戻って魔法を作ること数時間。割とあっさり出来てしまった趣味全開の魔法を試してみたくなり、我が創造物であるパンドラズ・アクターの居る宝物庫へやって来ていた。
「あぁ。日々食事を摂るものたちがどのような感情を持って行っているのかが気になってな」
「態々下々の者のために崇高なる御心を御砕きになるとは──流石です、ン──アインズ様!」
相変わらず仰々しいというより騒がしいポーズを取りながら俺に敬服してくる。しかしそのポーズそのものを教えたのが自分であるため、黒歴史をまざまざと見せつけられている気分になり非常に居た堪れない。
(あぁ、ユグドラシルのように設定書き換えられたらなぁ)
早速感情の平坦化が発動する。感情そのものは戻ってくれるが、発動すること自体が悲しくて仕方がない。なんで自分で作ったものでここまで感情が揺さぶられているのだろう、と。
「んん!そこで、お前にこの魔法を使ってみて、効果のほどを確かめたいのだが。構わんな?」
「もちろん問題ありません!と、普段なら言うのですが──」
普段なら二つ返事で承諾するパンドラズ・アクターが珍しく口を濁す。好き嫌いでもあるのだろうか、とも思ったがそんなレベルの話ではなかった。
「アインズ様、お忘れかもしれませんが──私も味覚、ありませんよ?」
(そうだったー!?)
そうだ、忘れていた。いや、完全に忘れていたわけではない。ドッペルゲンガーはそもそも食事を必要としない種族である。そのため味覚がないだろうことは、まぁ分かっていた。しかし。しかしだ。
「お前は他の者に成り代われるではないか。その時はどうしているのだ」
「──なるほど、確かにそれはドッペルゲンガーではないアインズ様には分からないことかもしれませんね」
案ずるより産むが易し、と先ほどとは打って変わって即席魔法《感覚共有/センス・オブ・シェア》を簡単に受け入れたようだ。そしてそのままテーブルに置いてあったチョコレートを徐に口に運ぶ。
「んー──なんだこれは」
パンドラズ・アクターはチョコレートを食べた。しかしこちらに味が伝わってこない。これではどんな味かわからないではないか。そう思った瞬間だった。
(糖質50%、脂質35%、蛋白質5%──ってこれは)
「ご理解いただけましたか、アインズ様。我々ドッペルゲンガーは食事を必要としないため味覚はありません。そのため摂食した物の成分を解析して、どのような味であるかを推測しているのですよ」
合点が入った。通りで俺ことモモンと一緒に行動し、食事のとれない俺に代わって食事をしてもらっているナーベがあまり食事を美味しそうに食べていないと思って居たのだ。
単純に美味しくないのかと思って居たが、そもそも味がしないのでは──ただただ話を合わせるためだけに成分を解析して記憶しているだけならば楽しいと感じることはないだろう。
「すまない、ドッペルゲンガーの対する認識が低かったようだ」
「いえいえ!知る必要のないことですら、無知を既知とされるその姿勢!見習いたいと思います、アインズ様!」
(失敗したなぁ──まさかドッペルゲンガーがああやって味を感じていたとは思わなかったよ)
ナザリックの主であるが故に、アインズ・ウール・ゴウンであるが故にパンドラズ・アクターは不快に感じなかっただろうけれど、あまり気分のいいことでは無かった筈だ。
宝物庫を後にし、第九階層をゆっくりと歩きながら反省する。ただデータとしてだけではなく、もっと種族の事を理解するべきだと。
「おやアインズ様、このような所で奇遇でございますな」
「セバスか」
『このようなところ』とは何だろうか、と周囲を見回せばあったのはピッキーの愛称で親しまれている副料理長が管理しているショットバーの目の前だった。どうやらセバスはここで一杯ひっかけていたのだろう。
「新しい魔法の被験者を探していたのだ」
「ほう、新しい魔法でございますか──では、私めなど如何でしょうか?」
それは嬉しい誤算だった。何しろセバスは今ショットバーから出てきたのだ。つまり、少なからず酔っている。そう、酩酊状態を感じることが出来るわけである。
「すまぬな、セバス。《感覚共有/センス・オブ・シェア》」
パンドラズ・アクターの時と同じくふわりと青い光がセバスの身体を包む。すると、すぐさま効果が表れたようだ。
「ほう、これはなかなか──」
「なるほど、感覚共有の魔法でございますか。中々面白いものですな」
セバスのは俺の感覚を感じているのだろう。興味深そうに何度も頷いている。そして俺の方にも。
(おぉ、酔ってる!口に残る甘い味と香り!それに少し辛い。つまみの味かな)
久方ぶりに感じる酩酊感のためだろうか。身体が熱く、強く興奮している。しかしそう思った瞬間、感情が平坦化されてしまった。いや、これは興奮や酔いのための平坦化ではない。抵抗<レジスト>したのだ。そう、その後に襲ってきた強烈な眠気を。しかし酩酊状態は残っているのにこの眠気だけは抵抗<レジスト>するとは、一体何なのだろうか。
「セバス、かなり眠いようだな」
「はは、お恥ずかしい。今は立っているのもやっとという状態です」
そういうセバス。しかしその眼光は相変わらずだ。一体どのような設定を組めばこのような執事になるのだろうか。いつかたっちさんに会えたら詳しく聞いてみたいものだ。
「あまり無理をするな。今日は早めに──ん?」
セバスと話していて気付かなかったが、こっそりとショットバーの隙間から二つの視線がこちらを向いていた。誰だったか。ホムンクルスではないようだ。しかしナザリック謹製のメイド服を着用しているのだからナザリックのメイドなのだろう。そう思っているとふと思い出した。
(あぁ、デミウルゴス──じゃなくてヤルダバオトが王都を襲った時のゴタゴタで家や家族を失った少女も数人匿ったとか言ってたっけ)
メイドの管理はトップであるセバスの役目だ。人間である娘をこのナザリックのメイドとして使っていくのは中々に難しいのだろう。恐らくは今日、セバスはこのメイドたちの悩み相談を聞いていたわけだ。
(いい上司やってるじゃないか、セバス)
「そこの二人」
「は、はい!」
「はひっ!!」
骸骨の姿が怖いのか、ナザリックのトップ──雲の上の存在だから怖いと感じるのかは分からないが二人とも顔を真っ青にしながら出てくる。今にも泣きそうを通り越して死にそうである。
そこまで怖がられるいわれはないのだが、レベル1な人間であれば仕方がないのかもしれない。
(こんな可愛い子二人に慕われるなんて、羨ましくなんてないぞ。セバス!)
「二人とも、セバスはかなり眠いようだ。一人では辛いだろう。寝室へと連れて行きなさい」
「「よ、喜んで!」」
二人は本当にうれしそうにセバスの両腕を絡め取り、足早に去っていく。セバスの腕が彼女たちのふくよかで柔らかそうな部分に埋まっている事が羨ましくてたまらなかったわけでは決してないのだが──
「「お、お休みなさいませ!」」
「ふわ──失礼いたします、アインズ様」
(慕われる程度なら構わんが──複数人と不順異性交遊などしてみろ──)
セバスを連れて行くときにこちらに一礼してから一切視線を向けないというのに、幸せそうな笑顔をセバスに向け続ける二人。脳裏に思わず浮かんでしまっても仕方ないだろう。
(そう、ハーレムでも作った日には──超アインズ・ウール・ゴウンが誕生する日となるだろう!!)
沢山のメイドを侍らせ不敵に笑うセバスを幻視してしまったのである。たっちさんの子であり、真面目一辺倒であるセバスがそんな不埒なことを率先してするはずもないというのに。
しかし──
(どちらかというとセバスの方が捕らわれているように見えたのはなんでなんだろう──)
「おや、アインズ様ではありんせんかえ」
時刻が深夜を回ってなお動き続けるナザリック。セバスと別れてから少し歩いただけでシャルティアから声をかけられた。出てきたのはスパリゾートナザリックだ。恐らく風呂に入っていたのだろう。普段白すぎるほどに白いシャルティアの肌がすこし艶めかしく感じる。
「シャルティアは風呂に入っていたのだな」
「はい、我が領域にもお風呂はありんすが、たまには広い浴槽でゆるりと入りたくなりんす」
ゆっくりと風呂を楽しんだのだろう。俺の前でくるりとまわるシャルティアからは普段と違う少し甘い匂いがふわりと香ってくる。
「そうだ、シャルティア。一つ実験に付き合ってくれ」
「まあ!もちろん喜んでお付き合いいたしんす」
彼女に《感覚共有/センス・オブ・シェア》をかけて牛乳を渡す。風呂上がり後の牛乳は格別である。その感覚を感じられるというのは貴重だ。
「あぁ、アインズ様より手ずから頂けた牛乳──飲んでしまうのはもったいなく感じてしまうでありんすえ」
「実験だからな、遠慮なく飲むのだ」
魔法がかかってすぐに来る、暖かい感覚。俺も時々風呂に入ってはいるものの、どちらかというと洗うことが優先である。ここまで温もれるものではない。
(うわぁ久しぶりだなぁ──このお風呂上がりのぬくぬくとした感覚──でも男女の差なのかな、妙にお腹の下が熱いや)
女性はお中の下にある器官が男性とは全く違う。そのため身体の温まり方も違うのだろう。
「では、いただきんす」
コップが彼女の口に触れる。瞬く間に広がる冷たい感覚。続けて襲ってくるほのかな甘さ。ゆっくりと舌で味わっているのだろう。口の中に流れを感じる。そして『こくり』と彼女の喉が鳴ると同時に俺の喉を通っている感じが、胃へと流れていく感覚が伝わってくる。
(あぁ、こんなにも愛おしいものだったんだ──)
口に含み、飲む。ただそれだけだというのにとても身体が震えるほどに気持ちがいい。そういえば誰だったか、昔の人が言っていた『食事とは快楽である』と。だから欲の一つなのだと。なるほどと思った。食事ができない身体になって初めて気づいたのだ。
(食事って、気持ちいい──)
シャルティアも風呂上りの牛乳は余程美味しかったのだろう。ゆっくりだったが息つく間もなく飲み干し、『はぁ』とため息を付く彼女の顔は先ほどよりも赤く感じるほどだ。
「アインズ様の──とっても、美味しゅうございんした──」
デミウルゴスから貰った、特殊な交配で生まれた種から採ったらしい美味しい牛乳。余程気に入ったのだろうか。普段ならはしたないとハンカチを使うだろうに、気にもせずに口の周りについた牛乳すらも下でペロリと舐めとっている。
風呂上りという感覚を除いても、あの甘さ、すっきりとした後味は確かに美味しい。デミウルゴスに増産するように打診しておくとしよう。
「お陰様で少々下着が──大変なことになりんした──着替えてきんすので、これにて失礼しんすえ」
「うむ、風邪をひかぬ様にな」
恐らく暑すぎて汗を掻いたのだろう。再びスパリゾートに戻るシャルティアを見送ってからその場を後にした。さて、次はどこへと向かうか。
「あー、アインズ様」
「む、エントマではないか」
第十層へと戻る階段へと来た時、丁度エントマが階段下から上ってきているところだったようだ。俺を見つけたからだろう、嬉しそうに階段を駆け上がってくる。
「どうしたのですか、こんなところで」
「あぁ、新しい魔法の実験をしていたのだ」
そう言いながら《感覚共有/センス・オブ・シェア》をエントマにかける。すると、歩きながら食事をしていたのだろうか。口の中にぱりぱりと香ばしくも美味しい感触が生まれた。
「エントマ、女の子があまり食べながら歩き回るものではないぞ?」
「えへへ、見回りをしていたらお腹空いちゃって」
恐らく食堂に常備してある煎餅あたりだろう。ぱりぱりぽりぽり。香ばしくて美味しい。流石既製品とは一線を画す味である。
「感覚共有の魔法の感覚はどうだ、エントマ」
「ふえー、これがアインズ様の感覚なのですね。一気に世界が広がった感じがします」
なるほど、どうやら俺の感覚は蟲のエントマよりも強いのだろう。俺は変わった感じがしないので、エントマの感覚のそのまま上位互換という感じになっているのかもしれない。
「エイトエッジアサシンちゃんたちも普通に見えて面白いです」
「あぁ、確かに私には不可視化は効かないからな」
そういいながら周囲を見回すエントマの口から絶えず感じる感触。ぱりぱりぽりぽり。ずっと食べてるな、この子。俺の前だからだろう。見えないように食べているのだろうか。
しかしこの触感。癖になりそうだ。止められない止まらない!っていうお菓子のコマーシャルがあったが、まさにそんな感じだ。こんなに美味しいならいつか受肉した際にはこの煎餅にドハマりしてしまうかもしれない。
「エントマ、食べるなとは言わん。だが、食べ過ぎには注意しろ。よいな?」
「はぁい。食べ過ぎて太っちゃったら嫌ですからね」
体重を気にするとはやっぱり女の子なのだな、と思わず思ってしまった。しかしその間も絶えず口の中に香ばしい煎餅が入り続けている。時々煎餅の方から入っているのではないかと思ってしまう程に。
「それでは、見回りの続きに戻りますね」
「あぁ、無理をせず頑張るのだぞ」
『はーい』と、ぶんぶん手を振る姿は本当に可愛い。本当に源次郎さんの愛を感じる仕草である。しかし終始食べ続けていたようだ。
(まさかエントマがここまで腹ペコキャラだったなんて)
お陰で直接食べても居ないのにナザリック煎餅にドハマりしてしまいそうになってしまった。
「はふぅ──」
自室へと戻り、ベッドへとダイブする。満足。そう、満足。大満足な結果だった。ここまで食事というものが素晴らしいものだったとは。人として生きてきたときよりも強く感じることができたのだ。
(これは、いずれ受肉したときが楽しみなってきたなぁ)
食事は楽しいもの。なんて人であった時には思ったことがなかった。ただの栄養補給でしかなかった。だから食事を摂る必要の無いこの身体になったときも一切違和感がなかった。むしろ面倒なことをしなくて済んで良かった程度にしか思って居なかった。
それがどうだ。今では食事そのものが楽しくて仕方のないものになっているのだ。
(これは確かに嵌るよなぁ)
眠る必要のないこの身体。でも、今夜は──今夜だけはゆっくりと眠れそうだ。そんな気がしていた。
「おはようございます、セバス」
「おはようございます、デミウルゴス様」
仕事が込み入ってしまい、ナザリックへと戻るのが朝になってしまっていた。日の入らぬ墳墓ではあるものの、朝は来る。元気よく最初に会ったセバスに挨拶をしたのだが、珍しくセバスは疲れているようだ。
「珍しく疲れているようだね。夜通し仕事だったのかな。アインズ様は、休めるときに休むように。とおっしゃっていたはずだよ」
「はは、休んではおりましたが──」
そう少し気恥しくする彼の身体からふわりと匂いが伝わってくる。なるほどと頷いた。どうやら交配実験をしていたのだろう。それも二体同時に。最近よく手伝ってくれているので助かるばかりである。
気合を入れなおし、足早に立ち去るセバスを見送り──
「そこの二人、ちょっとこちらに来なさい」
「「は、はい!」」
相手だったであろう、同じ匂いをさせている二人のメイドに今夜も必要になるだろうアイテムを渡しておく。こういうことは回数が必要なのだから。
「おはようございます!今日も良い朝──なのですが、どうしましたか?」
まずはアインズ様への報告にと執務室に来たのだが、珍しく肝心のアインズ様が居ない。代わりに居たのがアルベドと、普段は居ないシャルティアだ。しかも朝から喧嘩しているのか、二人から──いや、主にアルベドから強い怒気を感じる。
「聞いてよ、デミウルゴス!シャルティアがアインズ様からお情けを頂いたっていうのよ!」
「ほう、それは目出度い事ではありますが──本当ですか、シャルティア」
「勿論でありんす。アインズ様の白くて、濃くて、どろりと濃厚で、それでいて後味すらすっきりとしたものを頂いたでありんす」
得意そうにシャルティアが話しているが、私は『なるほど』と頷いた。今の一言で分かったのだ。シャルティアが何をもらったのかを。
「あ、アインズ様のし───しし白くて、濃厚なものですってぇ!!」
「まぁ大口ゴリラには縁のないものでありんすぇ」
「ふむ、それは美味しかったですか、シャルティア」
「勿論でありんす。とおっても美味しかったでありんす」
『それは良かった』と思わず笑顔が濃くなってしまった。アインズ様に渡した特製牛乳は中々に好評のようである。後々アインズ様より直接ご報告していただけることだろう。
さて、アインズ様はナザリック内にまだいらっしゃるようだが、まだこちらには来られないようだ。恐らくまだ寝室にいらっしゃるのだろう。
眠る必要の無いアインズ様が寝室から出ていらっしゃらないというのも不思議な感じはするが、恐らくあまりに早く執務室に来ても周りが急かされているように感じるだろう。そう思われてわざと遅くされているのだろう。
ならば直接寝室に行った方が良いのかもしれない。
「では、私はこれで失礼するけれど。二人とも、喧嘩するのは構わないがあまり汚さない様にね」
睨み合い、もはや言葉らしきものを発していない二人に私の言葉が理解できているか怪しいが、とりあえず一言言っておけば大丈夫だろう。
「あー、デミウルゴス様ー。おはようございますー」
「うん?エントマか。相変わらずゴ──いえ、恐怖候の配下を食べているのだね」
執務室を出てすぐにプレアデスのエントマと会うというのも不思議な感じではあるが、恐らく今日はエントマが見回りの当番なのだろう。相変わらずというか、彼女は延々と恐怖候の配下を食べ続けているようだ。とはいえ、消えず延々と増え続ける配下に恐怖候も辟易していたようだから大丈夫と言えば大丈夫なのか。
「えへへー。アインズ様もこのおやつ気に入ってたみたいなのー」
「うん、アインズ様が?」
どうやら昨夜アインズ様が新しい魔法を作られて、それによる感覚共有の実験をなさっていたらしい。その時に恐怖候の配下を食べる触感を非常に気に入っていらっしゃったとのことだった。確かに今もぱりぱりぽりぽりと子気味良い音が鳴り続いている。食事そのものが必要ないアインズ様にとってこの感覚は初体験でいらっしゃったのだろう。しかし恐怖候の配下は美味しいのだろうか。私も食事を必要としないので食べようという気は起きない。しかしアインズ様はそれでもなお、配下のためを思い感じ取られる努力をなされたのか。素晴らしきはアインズ様の崇高なるお考えというものだ。
「アインズ様が美味しいとおっしゃるのであれば、私の牧場の食事のラインナップの一つに加えるのもいいかもしれませんね」
「おはよう、アインズ様の寝室に入りたいのだが──」
エントマと別れてアインズ様の寝室へと来たはいいのだが、珍しく一般メイド──恐らくは今日のアインズ様当番の──がドアの前に立ち塞がっていた。
「申し訳ありません、ただいまアインズ様は就寝中でございます」
「いやそれは理解──ん?」
それは配下のための言葉なのだと理解している。そう言おうとした時だった。
アインズ様の部屋から聞こえる低く響く音。何かとドアに耳を付ける。それが、アインズ様の貴重な鼾だと気付くには数秒かかってしまった。
「本当に──お眠りになっているのですね」
「はい、とても安らかに」
そういうメイドの顔はとても満ち足りたものだった。恐らく彼女は唯一アインズ様の寝顔を見られるという栄光を頂けたのだろう。しかしそれを濫りに見せるわけにはいかない。王の寝顔など醜聞でしかない。だからこそ己が命を賭してでもドアを死守する。そう彼女は思い立ったのだ。アインズ様の安らかな眠りのために。
「シャドウデーモン。全員に通達。本日のアインズ様の執務は少し遅らせます」
「感謝いたします、デミウルゴス様」
深々と頭を下げるメイドに笑みを浮かべ、頷く。休息など必要の無いアンデッドであらせられるアインズ様が、それでもなお休息を取られている。それほどにお疲れなのだ。
この世界に来てからずっと、この世界を手に入れるという目標をもたれるだけではない。不安に駆られる我々に対してこんな小さなことにすら御心を砕かれていらっしゃる尊き御方。
「どうか、今だけ──今だけでもゆっくりとお休みくださいませ、アインズ様」
それから、アインズ・ウール・ゴウンが起きたのは数時間後だったという。フツカヨイというナザリックでは聞いたことのない頭部への状態異常を抱えたまま仕事をするアインズ・ウール・ゴウンの姿は、ナザリックの皆に感動すら与えたという──
(まさかセバスの時の酔いが眠気どころか二日酔いまで起こすなんてなぁ──慣れないお酒には注意し──いたたた──)