2017年1月、「韓国、ソウル市日本人女児強姦事件に判決 一転無罪へ」というニュースがあるサイトで公開され、SNS上で急拡散した。BuzzFeed Newsはこれがデマだと突き止め、今回、サイト運営者が直接インタビューに答えた。
ニュースは「韓国人が日本人女児2人をデパートで強姦したが、無罪判決を受けた」という内容。TwitterやFacebookで約2万シェアされた。「韓国」と「日本」が見出しに入った記事としては、この1年間で7番目の多さだ。
記事を公開したサイトは「大韓民国民間報道」。「事件」「政治」「芸能」などテーマ別のタブとともにニュースが並ぶ、一見するとよくあるニュースサイトのつくりだ。韓国語の記事が並ぶ「関連サイト」まである。
しかし、BuzzFeed Newsは取材の結果、冒頭の記事を含めサイト全体がデマである可能性が高いと指摘した。
そして今回、サイト運営者が直接取材に応じた。目的は何なのか。いったいどうやって、「大量拡散」を成功させたのか。その手口を聞いた。
1月26日の昼下がり、東海圏の郊外都市。待ち合わせの場所に指定してきた、駅前の喫茶店に、その人物は現れた。約束の時間より20分早い。
長身細身。赤系のチェック・シャツ、ブルージーンズに細めの黒フレームのメガネ。まだ若い。
「名刺を持ち合わせてなくて、申し訳ありません」
挨拶を交わそうとすると、最初にそう口にした。少し高めの声だが、落ち着いた口調。席に着く際には、こう言った。
「騒ぎになってしまって、本当、申し訳ないです」
物腰は柔らかく、礼儀正しい。25歳で、無職だという。約2時間に及ぶインタビューに、終始淡々と応じてくれた。
事実関係を整理する
取材に基づき、事実関係を整理しよう。まず、男性が韓国に関するデマニュースサイトを作ったのは、今回が2度目だ。
1度目は、2016年11月末。「はてなブログ」の有料サービスを用い、「大韓民国現地ニュース」というブログを作成した。
そこでは、「韓国海軍が中国軍籍の潜水艦を拿捕し、撃沈した」「朴槿恵大統領の従兄弟が暴徒に殴られ、その後死亡した」などの記事を掲載。日本のみならず台湾などでも拡散したが、運営側から公開停止に追い込まれたという。
そして2017年1月中旬に、今回の「大韓民国民間報道」を開設。問題となった記事などを配信した。すべて「フェイク(偽)ニュースです」と言い切った。
フェイクニュースを配信する、これらのサイトを作った目的は何か。
「短期間でお金を稼ぎたい、というのが理由です。政治的な記事のトラフィック拡散を用いて金銭を得ようとしたのは、初めてでした」
政治的な意図ではなく「広告収入」。偽ニュースでカネを稼ぐ手法を知ったのは、アメリカ大統領選だったという。
「アメリカの大統領選でフェイクニュースが拡散し、収益を上げているというニュースを読んだんです。FacebookやGoogleが対策に乗り出すことになるほど注目を浴びたなら、日本においても、同様のことができると考えました」
デマ記事はどうやって作っていたのか
男性は、記事の執筆方法を教えてくれた。
「画面の右に既存のニュースサイト、左にライター用のソフトを立ち上げて、書き方をまねるんです。ニュースの文章構成は決まっているので、慣れてくると見ないで書けるようになりました」
ひとつの記事にかかる時間は、たった20〜30分だ。「とにかく記事の数を増やす。早くアクセスを稼ぎたいから」。あまり時間はかけない。
一度だけ、「朴槿恵政権の経済政策に関するコラム」に1時間かけた。しかし、「苦労したわりにあまり拡散されなかった」と笑う。
最初のブログでは虚実ない交ぜにした記事もあった。これもやはり、「調べるのに時間がかかる」という理由で、いまはすべてが「フェイク」の記事だ。
「ニュースサイトっぽく」見せる方法
そうして作った数十件の「ニュース」を、日本語のサイトに並べる。さらに、Googleを使って韓国語に翻訳した記事を並べた別サイトを作り、あたかも韓国のサイトにソースがあるように見せた。
「ソースがあったほうが拡散されると思ったので、韓国語サイトは、最初のブログを始めたあとに作りました」
そして、記事やトップページなどに、アフィリエイト広告のリンクを入れた。広告以外の収益源として、「ほんとは怖い韓国ニュース」というKindle本2冊を執筆し、Amazonで販売。商品ページのリンクをサイトに挿入していた。
掲載されている記事は基本的に2種類ある。「拡散されやすい記事」と、「ニュースサイトっぽく見える記事」だ。
たしかにサイト上には、大量拡散された政治色や軍事色の強いネタだけではなく、「スポーツ大会」「子供たちの雪合戦」などの柔らかい話題も散見される。
あたかも、本物のニュースサイトのように。
その「情報」を望んでいる人たちがいる
なぜ、男性はサイトのテーマを韓国にしたのだろうか。
「韓国のネタはいま、日本のネット上で頻繁にやり取りされている情報です。拡散力も高い。それに、SNSで韓国について話題にしている人たちの情報には、すでに虚実が混ざっている状態でした」
「それがフェイクであれ、韓国についてはどんな話題でも信じたいという思いの人、拡散してやろうという人がネット全体にいた。さらに、それを望んでいる人たちも。コンテンツを作りやすいですよね」
日本国外の話題であれば、「告訴されにくい」という理由もあるという。
「たとえば週刊誌なんかは、日本の芸能人を対象にするネタでデマを流して訴えられても、賠償金を払って終わりにすることができますよね。ぼく個人には、それはできない」
リスクに配慮し、登場する人物や企業などは、実在しないと思われるものを使っている。「語感」でありそうにもない名前を適当に作るのだという。
「ネット右翼」を狙ったのか
男性はこうも言った。「ヘイトを煽る記事は拡散される」と。
「基本的に韓国のことを話題にする人たちが、拡散したいな、と思っている情報は2つあります。一つは、ヘイトを煽る記事。もう一つは、韓国のことを馬鹿にしたり、『やばいのでは』と言ったりできる記事です」
今回問題となった「少女強姦」は前者に、「潜水艦の沈没」や「暴徒の暴行で大統領の従兄弟死亡」は後者にあたるという。
では、「嫌韓派」が多い「ネット右翼(ネトウヨ)」と呼ばれる人たちを狙ったのか。
「ネトウヨはあくまでスラングですので、どの層を指すかは曖昧ですよね。ほかにも韓国に批判的な人はいます。ネトウヨだけではなく、そういう話題が好きな人たち、という言い方が正しいでしょうか」
「桜井さんを狙った」
配信戦略では、そうした層を徹底的に狙った。サイトの「公式ツイッター」で、韓国に批判的なことで知られる元在特会会長の桜井誠氏のフォロワーを調べ、自らフォローした。
フォローすると、相手からもフォローされる可能性が高い。そうすれば、そういった人たちに情報を直接届けることができる。
そして、そこでリツイートが広がれば、桜井氏の目に触れる可能性も高まる。
実際、記事の配信から3日後の20日、桜井氏は「韓国人による日本人女児強姦」の記事を「これこそヘイトです。日本人は強姦大国韓国に行くべきではありません」と記事へのリンクとともにツイートし、2000以上リツイートされた。
「桜井さんはインフルエンサーとして、最初から狙っていました。ただ、まさか3日で届くとは思っていませんでしたが」
そのほかにも、Twitterで大量のフォロワーを持つアカウントや、Facebookで多数が登録しているビジネス系グループを用いて拡散させる有料サービスに1500円ほど支払った。しかし、効果はほとんどなかったという。
男性は笑った。「桜井さんの方が、100倍力がありましたね」
「釣れた」人たちとは
記事はTwitterで2500件以上シェアされ、Facebookでは1万6千以上のリアクションやコメント、シェアを獲得している。
男性の狙い通りだ。
「Twitterで爆発した記事は、1日後にFacebookでシェアされます。その後はFacebookが逆転するようになる。自発的にユーザーがシェアを始めるということです」
「Yahoo!リアルタイム」を使って拡散の状況を確認した。病院の院長や、企業の社長、そうした「社会的ステータスの高い方たちが釣れた」という。
「釣られても仕方ないですよね。FacebookやTwitterが身近になった以上、シェアすることは、隣の席の人に『こんな話題があったんだ』というのと変わらない。そのときに、『ソースは正しいの?』と聞くことはないですよね。そういう軽い気持ちで広がっていったのでは」
拡散は成功した
サイトの拡散は目論見通り成功した。管理画面を見せてもらったところ、最初の「大韓民国現地ニュース」では11月26日〜12月7日まで、計約19万6千PVを獲得している。
一方、ブログツール「WordPress」を利用した「大韓民国民間報道」では、1月17日から26日までで約17万PVだ。
記事別のPVでは、問題となった「韓国、ソウル市日本人女児強姦事件に判決 一転無罪へ」が最大の約7万2千PV。
2番目は「次期米国国務長官、慰安婦問題で韓国に貿易停止の経済制裁」の約2万3千PV。3番目は「人肉工場摘発 奇形児缶詰に高齢者ハンバーガー 韓国」の約1万4千PVだった。
「踊らされるのは個人の問題」
男性自身は、韓国について「好きも嫌いもない」。韓国に行ったこともなければ、韓国人と喋ったこともない。ハングルだって読めない。
「歴史的な知見も深くないですよ。たとえば慰安婦問題について聞かれても、コメントできません。みんな大変そうだな、というくらい」
こんな偽ニュースが流れたら、傷つく人たちがいる。嘘に踊らされて韓国に憎悪を募らせる人がいる。後ろめたい気持ちはないのか。
「怒っている人がいることは想像できますが、これが誰かの人生や、実生活に影響を及ぼすことはないんじゃないでしょうか」
「倫理的に反していること」とは認識している。「逮捕すれすれ」のことだとも。その上で、こうも言った。
「もちろん、デマを流すことは悪いことですが、デマはない世界はないですよね。いくらでもそういうニュースはある。インターネットの発達以前の問題ですよ」
「デマや噂なんてこの世にありふれている。それに踊らされるのは個人の問題ではないでしょうか。噂を流した側の責務ではない。これからもデマはでき続けるはず。収益化できるかは別ですが」
フェイクニュースは儲からない?
サイトは「いまは様子を見ていますが、1週間ほどで閉鎖する」つもりだ。今後、別の「フェイクニュースサイト」を作る気はあるのだろうか。
「いろいろとテコ入れして、爆発させてパッとたたむか。違うサイトを作って、長い目で運営しながら、正しい情報に嘘を混ぜるか、ですかね。でも、いますぐお金がほしいから、多分もうやらないと思います」
結局、儲からなかったからだ。
「収益は5千円くらいですね。はてなブログに支払ったのが1万4千円ですから、赤字ですよ」
「フェイクニュースは日本の規模だと無理でしたね。英語で世界中に広げることもできませんから。儲けるなら、もっとまともな道の方が儲かる。細々と毎月5万円くらい稼げる別のサービスをやりたいですね」
フェイクニュースはやめたほうがいい
アメリカの大統領選では、マケドニアの少年たちが小遣い稼ぎのためにドナルド・トランプ氏やヒラリー・クリントン氏に関する偽のニュースを大量に配信した。BuzzFeed Newsがその実態を明らかにした。
今回の「大韓民国民間報道」の事例でも、これらのニュースがデマであると見破るためには、調査が必要だ。一方で、デマを発信する側は「1本20〜30分」で量産し、その拡散にSNSのユーザーが意図的であろうと、そうでなかろうと「加担」してしまう。
偽ニュースはこれからも増えるのではないか、と世界的に危惧されている。今回の取材で明らかになったのは、日本では、経済的には割に合わなそうだ、ということだ。法的なリスクも背負う。
「小遣い稼ぎでフェイクニュースを作る」のは、やめたほうが良い。
BuzzFeed Japanでは、デマや不正確な情報、いわゆる「フェイクニュース」を継続的に取材しています。そう思われる情報や、そうした情報を拡散している公人を見つけた場合は、BuzzFeed Japanのニュースチーム(japan-report@buzzfeed.com)までご一報をお願いいたします。
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