女って何だ?
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)
第33回
2017.11.10 更新今回のテーマは、「女と仕事」である。
しかし、その前にあることに気づいてしまった。
「女って何しても怒られるんじゃねえの?」ということに。
早速、「爆笑! 女の怒られ集」を紹介していこう。
ちなみにこの「爆笑」というのは、これから先、笑える話は一切出てこないので、今のうちに爆笑しておいてくれという意味だ。
まず、結婚もせず、働いてもいない女の怒られだ。
もちろん、ストレート周りから「死ね」と思われている存在だが、実はこの女は世間から一番優しく扱われている。
なぜなら、同じ立場の男も等しく「死ね」と思われているからだ。男女平等、ジェンダーフリーである。むしろ「家事手伝い」という、おそらく女にしか適用されないこのネーミングがある分、優遇されていると言えるだろう。これは男性諸君に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
では、働いている女なら文句はないのだろうか。
男女雇用均等法と言っても、まだまだ差があるのは周知の事実だ。給与面、業務内容面においても、男女で差がある職場が多い。男の下についてお茶を出しているうちは可愛がられるが、対等に仕事をやろうとすると、「女のくせに」と言われたり、同じ仕事をしていても評価されづらい。
それに異を唱えると「女はどうせ結婚すれば、安泰なんだからいいじゃない」と、自分の嫁を全く安泰させてない奴が、本気でそう言い出したりするのだ。
だが、それ以前に「働く女」になるまでにすら、障がいがある。
妙齢の独身女が就職活動をすると、選考段階で、「女はどうせ数年したら、結婚やら妊娠やらして退職か休職するんでしょ、それじゃ困るんだよね」と、何故か他人に、自分すら考えていない、未来予想図Ⅱをこころに描かれてしまうのである。
子持ちだと就職活動がうまくいかないという話はよく聞くが、独身であったり、子どもがいなくても、妙齢の女というだけで、こういうドリカムおじさんから、「フ・サ・イ・ヨ・ウ」のサインを食らっているのである。
もちろん未来予想図どおりのことが起こったら、「プギャー」だ。
それなら、結婚していればいいのか。
この場合、子どもがいないと、常に「で、いつ子どもを作るの?」だ。
生粋のオタクですらこれには、「オウフwwwいわゆるストレートな質問キタコレですねwww」とも言えずに、真顔で「そのうち」と言うしかない。
ここで果敢にも「うちは作る気ないっす」と答えてしまうと、「少子化をなんと心得る! この高齢化社会が目に入らぬか」と伊吹吾郎の顔で言われてしまう。
「貴様のような女が労働力不足、年金問題を引き起こすのだ」と、会社でも家庭でもろくな権限を与えられていないのに、いきなり国家を揺るがす大魔王級の力を持っていることにされてしまうのである。
ちなみに、結婚していて子どもなしで働いていない女はどうかというと、「じゃあお前は何をやっているの」と、なぜか独身で働いていない女よりウンコ製造機扱いされる。
何をやっているも何も「家事」をしているのだが、世間から見ると、子なし家庭の家事など、何もしてないのと同じことになるようだ。子どもがいないというだけで、不思議なことに家事手伝いよりも存在を認められていない。
誰にも怒られないためには、結婚し、子どもがいて、働けばいいのだろうか。
現在日本では、産休、育休、時短勤務が認められている。
だが認めているのは法律だけだ。人のこころが、魂が、それを認めていない。
詩的に言ったが、出産や子育てで、休んだり早退をする女は、露骨に迷惑がられているのが残念ながら現状である(男の育休はさらに風当たりが強いようなので、これは女に留まる話でもないが)。
これは職場の人間の性格が悪いというだけの問題ではなく、人をたくさん雇えない、一人休んだだけで仕事が滞るような零細企業だと、事実現場が困ってしまうのだ。
こういった余裕のない会社だとどうしても、子育てで休みが多い女に対し、他の社員が、負の感情を抱いてしまう。
だから、会社側から退職を促されなくても、そういう負のオーラに耐えきれず、自ら退職してしまう女が多い、というのが実情のようだ。
では、保育所や、配偶者、実家など、周囲から万全のサポートを得て、出産から4秒後に復職し、ばっちり残業までして帰れば文句はないかと言うと、待ってました、伝家の宝刀「子供がかわいそう」のご登場である。
それでも足りないなら、「旦那さんは何も言わないの?」をサービスしてやってもいい。
ならば、「子どもがかわいそうだし、旦那も4歳児級なので、しばらく主婦として子育てに専念します」と言えば、「世の中には働きながら子育てしているママがたくさんいるのに、なぜ貴様にはそれができないのか?」という問いが投げかけられるのだ。
ちなみに「じゃあどうすればいいの?」と聞いたら、「質問を質問で返すな」と怒られる。
女は、子どもと旦那の面倒を見ながらフルタイムで働き、何だったら双方の両親の介護をこなしつつ、手作りのおやつをこさえ、いつもキレイにしていろ、母である前に妻であり女であることも忘れるな、さもなくば旦那に浮気されても文句は言えぬぞ、ということのようだ。
これは10人がかりでやることかな?と思ったら、どうやら1人でやらなければならないようだ。
つまり、生きているだけで文句をつけられるのが女である。
だったら、せめて自分だけでも、自分が納得できる生き方を選ぶしかないだろう。
著者プロフィール
カレー沢薫(かれーざわ・かおる)
1982年生まれ。OL兼漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。自身2作目となる『アンモラル・カスタマイズZ』(太田出版)は、第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。ジャンルを問わず幅広く活躍しており、主な作品に、漫画『ヤリへん』(小学館)『やわらかい。課長 起田総司』(講談社)『ねこもくわない』(日本文芸社)、コミックエッセイ『ナゾ野菜』(小学館)、コラム集『負ける技術』『もっと負ける技術 カレー沢薫の日常と退廃』(講談社)などがある。
作品概要
女の敵は女!……なのか? 嫁姑、毒母、ママ友やマウンティングと、ややこしい女の世界。「女だけど女が苦手」はどうして起きるのだろう? 女同士が傷つけず傷つかない関係性は築けないのか? コミュ障のカレー沢薫が本気で考える、女ってなんだろう?