ハードコアゲーマーのためのゲームメディアGame*Sparkでは、日々、様々なゲーム情報をご紹介しています。しかし、少し目線をずらしてみると、世の中にはゲーム以外にもご紹介したい作品が多数存在します。
そこで本連載では、GameSparkスタッフが、ゲーマーにぜひオススメしたい映画/ドラマ/アニメ作品を1本紹介していきます。今回ご紹介するのは、2011年に公開された、名匠ジャコ・ヴァン・ドルマル監督の映画「ミスターノーバディ」です。
ビデオゲームが俯瞰する、人生のあらゆる可能性の分岐
さてビデオゲームを人生に例えるとするとどんな現象が起きていると言えるでしょうか?何度も繰り返すことができて、あらゆる選択肢を選び、あらゆる可能性を追い求めることが可能な夢だと言えるでしょう。
大抵のビデオゲームはプレイヤーであるあなたの人生ではなく、作中世界で生きる主人公の人生を追いかける形になります。ビデオゲームをリプレイするたびに、過去に戻りあらゆる選択肢や可能性を選択することで、異なる人生を見ていくことが出来ます。
最近でも『Life is Strange』や、『Detroit: Become Human』が人生で遭遇する数多くの選択肢から、異なった道筋を進む物語として高く評価されました。プレイヤーは主人公たちの選択次第で「こうだったかもしれない」可能性をすべて見ていくことがある程度前提になっています。
それにしても人生のあらゆる選択を体験するプレイヤーとは何者でしょうか?少しメタフィクションの問いかけになってしまいますが、自らで物語の世界に関わり、分岐する運命を体験していくあなた自身はビデオゲームの世界でどんな立場であり、何者だと認識されているでしょうか?
そう、大抵の場合誰でもない(Nobody)でしょう。日本のいくつかビジュアルノベルでは「すべての運命を見通すプレイヤーとは何者なのか」の問いに答えていますが、本作ではなんと映画というメディアでその問いに応えます。
そう、タイトル通り「誰でもない」男が主人公となり、人生で遭遇した、異なる選択肢の全てを体験したという奇妙な人生を送った人間として登場します。
「誰でもない男」が語る奇妙な人生
舞台は誰も寿命で亡くなることがなくなった未来世界。そこでは世界で唯一寿命を持つ老人は物珍しい存在でした。118歳を迎えた彼が一体何者なのかをメディアは注目しており、彼が長い人生で何を体験してきたのかを問いかけます。
ところが、老人が語る人生は奇妙なものでした。彼が9歳の時に離婚する父と母、どちらについていくか選択を迫られます。するとそれぞれについていく人生を並行して語るのです。3人の幼馴染の女の子。誰と結婚したのかという選択で、なんとそれぞれと結婚したあとの人生が並行して語られるのです。
いわば人生の重要なそれぞれの選択肢で、分岐した人生を並行して生きているというのです。老人の語る人生は驚きを持って迎えられます。それは本当でしょうか?嘘なのでしょうか?老人は本当はどの人生の道筋を生きて、118歳の現在までたどり着いたのでしょうか?
考察の余地を残す、並行する人生を生きた老人の物語
ビデオゲームでは何度もリプレイし、様々な可能性を試したり、他の選択肢を選ぶことで、複数の運命を見通すことができます。しかし映画は結局のところ、一本の運命だけを観ていくメディアです。
このメディアの違いゆえに、観客が老人の語る複数の人生に対して考察する余地が生まれています。主人公の老人の話すことが本当なのかどうか、複数の人生を歩んでいると語っていても、本当は選択した一本の人生をここまでに生きているのではないか。
あらゆる可能性を同時に体験するということは、現実にはあり得ないことです。実のところ、一本道の時間軸の人生の中で「これから先の、様々な可能性を想像している」という空想にすぎないのではないか?実際、映画も中ごろをすぎるとまるで3Dマップを制作中のゲームのような、世界をつくりかけているシーンが現れ、それを示唆もします。
ですが、空想であるとは明言はしません。誰でもない男の奇妙な人生では時間軸も一方通行ではないことも同時に語られます。この物語の世界では時間の流れが違うのではないか。そのようにも示唆します。いずれにせよ、誰でもない男自身がその人生を体験していることだけは確かなのです。
ゲームプレイヤーは物語の世界に対し、あらゆる可能性を見通すことのできる存在だといえます。「ミスターノーバディ」はまさに、物語の世界に関わるゲームプレイヤーの存在そのものをロマンチックに映画にした作品です。『Life is Strange』や、『Detroit: Become Human』で多くの運命を見通すあなた自身を映す映画と言えるでしょう。
本作は現在Netflix、Amazonプライムにて公開されています。人生と選択肢、ビデオゲームと映画の取り扱う運命の違い、様々な視点から掘り下げることができるでしょう。
良い映画だよね。そして良いレビュー
けどこのレビューを見ずにまず映画を見てほしい
この映画、すごく感情に訴えてくるし、面白くて好きなんだけど、
知ってる人がぜんぜんいないんだよね。
レビューがむずかしそうなのに、ナイスチョイス。
まさかゲームスパークの映画紹介記事でこんなに興味を惹かれるとは。