619a5765 2991 4725 a1ee a9b0e1dd4a94医療トピックス
2017年03月09日

【海外の医療現場】女医の就業率、世界トップクラスのスウェーデン。
社会制度、教育、日本とどこが違う?

日本の医師不足の原因として、女性医師の就業率低下が一因だといわれ続けている。出産、育児タームに入る30代になると女医の就業率は下降し、ピーク時には70%以下までに落ち込む

そこで漂う「だから女医は使えない」という冷ややかな空気。「そりゃあ、私たちだって医者、続けたいですよ!」という悔しさは届かない。初期・後期研修時期と妊娠適齢期が重なることで、キャリアを一時的に手放さなくてはいけないジレンマが彼女たちを苦しめている。

では、世界的に見た場合、どの国が出産・育児の影響を大きく受けずに女医が活躍しているのか。ある記事によると「スウェーデンは30代になっても40代になっても女性医師の就業率は上昇しつづけ、85%程度にまで上昇。米国ならびにドイツの女性医師は、日本とスウェーデンの中間に位置する。他方、韓国の女性医師は日本以上に就業率が減少して、50%にまで下降する」と分析。(『急がれる女性医師支援対策』より)。

その就業率と連動するかのように、OECD/Health at a Glance2015のデータにおいても、世界の女性医師の割合はスウェーデンが50%近く、日本は加盟国の中で最下位という結果になっている。

【世界の女性医師の割合】

割合(%) 割合(%) 割合(%)
エストニア 74 イギリス 46 イタリア 40
スロベニア 62 オーストリア 46 スイス 39
フィンランド 57 ノルウェー 45 オーストラリア 39
スロバキア 57 OECD平均 45 ベルギー 38
ポーランド 56 ドイツ 45 チリ 38
ハンガリー 55 フランス 43 アイスランド 35
チェコ 55 ニュージーランド 42 アメリカ 34
ポルトガル 53 アイルランド 41 ルクセンブルグ 32
オランダ 50 イスラエル 41 韓国 22
スペイン 50 ギリシャ 41 日本 20
デンマーク 48 カナダ 41    
スウェーデン 47 トルコ 40    

OECD Publishing/Health at a Glance2015

そこで、世界トップレベルの就業率を誇るスウェーデンの社会システムについて見ていくことにする。

 働く女性を根っこから支える
きめ細やかな社会制度

スウェーデンで出産・育児があっても過酷な医師業を続けられる要因は、充実した社会制度にある。育児の比重を母親だけに負わせるのではなく、夫との協力体制が確立されることで、女性たちの社会進出が極端に減ることはない。

スウェーデンでは20~64歳の女性の81%が就業しているというデータがあり、女性議員の割合も45%と、まさしく女性が活躍できる環境が整備されている。

【スウェーデンの子育てサポートの主な内容】

・両親合わせて最大480日(約16ケ月)の育児休暇がとれる。

・父母問わず390日間は休業直前の所得80%が補償。残りの90日間は出産前の給料に関係なく1日一律180クローナ(約2,300円)支給に変更される。

・16歳未満の子供ひとりあたり、月額約1,050クローナ(約13,500円)児童手当が支給される。子供の数が増えるにしたがって増額される。

・就業前学校(1歳から5歳児を対象としたプレスクール)に利用希望者が申し込み後、自治体が4ケ月以内に園を確保してくれる。保育費は、最高額で子供1人目が月額1,362クローナ(約17,000円)、2人目908クローナ(12,000円)、3人目454クローナ(6,000円)、4人目から無料になる。

育児休暇480日のうち、父、母それぞれに240日間与えられており、そのうち60日は相手に譲ることができないルールになっていたが、2016年の改正によりその日数が90日へと延長された。父親の育児期間がより長く確保されることで、母親への負担が減るように制度を迅速にマイナーチェンジするあたりが、合理的なスウェーデンらしいパフォーマンスの高さだ。

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~選択肢の多い社会だからできること~
新聞記者から医師を目指す
2児のママのストーリー

もうひとつの特徴として、働き手のモチベーションにつながる「人生は何度でもやり直せる」という風潮が働きやすさを助長しているともいえる。

その柱となるのが恵まれた教育体制だ。

スウェーデンでは義務教育、高校、大学、大学院までがすべて無料。高額の税金を支払うがその恩恵を実感できる社会システムになっている。

高等教育に関しては日本のように「高校を卒業したらとりあえず大学に行く」という意識は低く、「この学問を学ぶ」という目的が明確になってから大学に進学するのが一般的。

実際に30~40代の大学生が3割以上いるといわれている。つまり、「学びたい」意思と努力さえ惜しまなければ、何歳になっても経済的負担がなく自らをバージョンアップすることができる。日本では授業料が高額な医学部でさえもだ。

そこで新聞記者から2人の育児をしながら医師を目指すクリスティン・高見・ラーゲボーンさんのケースを紹介する。彼女は1979年生まれの38歳。日本人の母とスウェーデン人の父の間で生まれ、スウェーデン国内で育った。現在は2児の母であり医学部の6年生

クリスティンさんには幼いころからの2つの夢があり、ひとつは新聞記者、もう一つが医者だった。大学卒業後は新聞社に入社しジャーナリストとして充実した毎日を送るが29歳の時に会社の経営が悪化し解雇を言い渡される。そのとき彼女は結婚し第1子を出産したばかりだった。

「新聞記者としてこれからというときだったのでショックでしたね。でもピンチはチャンス。もうひとつの夢、医者を目指してみようと思ったんです。

もちろん簡単な道ではないことわかっていました。そのとき夫から“今やらないと後悔するよ。10年後、40歳のときに目指そうと思っても間に合わない”と言われて背中を押してもらえたんです」(クリスティンさん)

 第一志望の「カロリンスカ研究所」はノーベル賞の医学・生理学賞が選考されるヨーロッパ有数の名門医科大学。選考は高校時の成績が60%、数学・英語・一般常識などの試験スコアが40%。

彼女は、育児休暇(前職の給与の80%が支給)を1年間をみっちり使い、試験に向けて猛勉強をした。ご主人も育児休暇をとり子育てに協力してくれ、1歳児がそばにいても集中できたという。

その結果、スウェーデンの学力適正テスト「Högskoleprov」はトップレベルの点数を取ることができた。スコア上位者の中から抽選で合格者が決まる。クリスティンさんは、見事にそのひとりに選ばれたのだ。

晴れて医科大学に進み勉学に励みながら、2年目の34歳で第2子を妊娠。1年半休学したのち大学に復帰する。スウェーデンの医学部は5.5年制。30歳で入学したクリスティンさんは、出産を優先しながら医大生と母親業を両立し約9年かけて卒業するという。

「今は6年生で今年の夏に卒業予定です。勉強は正直、想像していた以上にハードです。子供が突然熱を出したら帰らなくてはならず、抜けた部分を自力でカバーし遅れをとらないようにしています。とにかく毎日が必死です」(クリスティンさん)

2人のお子さんの送迎はご主人と分担しながら母親業と医大生を両立している。

「勉強に費やせる時間が限られているますが、そのぶん以前より集中力があがった気がします。両立は大変でもこの国は保育園サポートが充実しています。学校や職場でも家庭を優先することに寛容なのでチャレンジしやすい環境なのは幸せなことです」

\医大生・クリスティンさんの1日/

6:00 起床
7:00 朝食
7:30 2人の子供を学校と幼稚園に送る
8:30  大学の授業がスタート
16:00 大学の授業が終了
16:15 ご主人がお子さんを迎えにいき、
習い事などに連れていく。
17:30 夕飯
19:00 子供を寝かしつけてから勉強
23:00 就寝

クリスティンさんは医学部卒業後、カロリンスカ研究所で研究職につきながらストックホルム県内の精神科病院「Norra Stockholms Psykiatri 」で研修医として18ケ月間働く。その後医師国家試験を受けて医師免許を取得後、医師と研究職を両立していくという。

「勉強は続いていきます。専門医をとれるのが44歳くらいでしょうか。今のところ目指している科目は小児科。子供の身体だけでなくメンタルに関しての研究もしていきたいです。

ですが、その前に研修医、ですよね。研修医になると自分でスケジュールを決めることができなくなるし、おそらくクリスマスも働いているんでしょう。

でも子供が小さい時期が学生だったので家族と過ごす時間が持てたことがよかったです。私がドクターになる頃は子供たちの手もかからなくなるので、仕事に重きを置きやすくなるはずです

ジャーナリスト時代の経験が生き、2016年10月には肝臓疾患をテーマにした論文が国際的学会で優秀論文として高い評価を受けた。http://ki.se/en/news/degree-papers-from-ki-highly-rated-in-international-competition

いっけん遠回りに見える道のりにはすべて意味があり、クリスティンさんは視野の広さ、人間力を身に着けたうえで、医者としてのキャリアを積み上げていく。ストレートに医学部を卒業し、病院に勤務する医師とは違った感性を持つドクターが、近い将来誕生することになる。

選択肢の多い社会だからこそ生まれる多様性に満ちたスウェーデンのワークスタイル。日本の女性医師の働き方、サポート体制改善のヒントになるはずだ。

■取材コーディネイト・矢作ルンドベリ智恵子

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スウェーデンに移住後、苦しい不妊治療を経て双子を出産。
子育て+仕事120%、泌尿器科・宮川絢子先生の白熱人生。

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