続きのないプロローグ   作:手漕ぎ船頭

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 リハビリ用の短編です。
 暇潰しにでもなれば幸いです。読んでやってください。





第1話

 

 バハルス帝国・帝都アーウィンタール。

 その帝城にて、ある来客の知らせに皇帝であるジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは焦るでもなく、訝しげにただ眉を顰めた。

 

「今、何処に?」

 

「城門前でお待ち頂いています!」

 

「何、既に来城しているのか!」

 

「はい! あの、なんとか理由をつけて抑えていますが、一体どうすれば…」

 

 手を伸ばし報告に来た文官の言葉を遮る。

 尻すぼみになり口をパクパクと開閉し狼狽を隠せない男を無視し、ジルクニフは近くに侍る優秀な秘書官ロウネ・ヴァミリオンに視線を向ける。

 

「使節団の訪問の予定などは無かったな」

 

「はい。事前の如何なる通達もかの国からはありませんでした」

 

 つまりは完全な予定外の出来事である。

 帝国側からすれば嬉しくないサプライズだ。

 

「……どういう事だ? 王国の馬鹿どもがまたぞろ何かやらかしたのか」

 

「ともあれ、会ってみては。直接お訊ねすれば良いでしょう」

 

 呟きに答えたのは今の今までこの場にはいなかった者の声であった。

 

「じいか」

 

 突如部屋の中に転移の魔法で現れたのはフールーダ・パラダイン。

 豊かな白い髭と皺で覆われた顔に何やら思慮を浮かべ、帝国の主席宮廷魔法使いはジルクニフへと進言する。

 

「どちらにせよ、無碍に追い返すわけにも参りますまい」

 

「…だな。うむ、よし、謁見の間に15分後だ、そう伝えてそのように動け」

 

「はっ」

 

 言葉を受け弾かれたように報告に来た文官は退室する。

 周囲の者たちも慌ただしく動き始めた。

 

「さて、聞いての通りだ。彼奴らが如何なる用向きであろうとも、帝国の威を侮られるような事はないようにな」

 

 

 

 

 さて、通達に誤りなくきっちり15分を経て、招かれざる客人たちは謁見の間へと通された。

 代表となる男は法衣に身を包む神官、同様の身なりの者が他に4人、鎧を纏い武装した者が4人。他にも護衛の兵が10人ほどいたが、それらは城の外で待機していた。

 スレイン法国からの使者である。

 武装を解除もされず部屋に通されたのは、この場で暴挙に出ることはないだろうという信頼―――というよりは貸しだろう。

 余計な問答をするのも億劫であったのもあるが、ともあれ速やかに会談の場は設けられた。

 玉座に座る帝国皇帝であるジルクニフの左右には帝国の誇る最高武力の四騎士、最高魔法戦力のフールーダ、信の置ける側近の文官武官が並び、近衛兵団らが使節団の背後、謁見の間の扉を塞ぐように居並ぶ。

 荒事には発展しないとは思われるが、それでもあからさまに警戒していた。

 そんなある種の緊張を齎した当の客人たちはそれらに臆する様子もなく、形式的なものではあるが跪き深く頭を垂れ、帝国側がこの場を用意し求めに応じてくれたことに対し謝辞を述べる。

 

「お互い上辺の口上は煩わしいだけのようですし、聊か礼を欠きますが単刀直入にお尋ねします」

 

 挨拶もそこそこに、一人立ち上がった代表であるという神官は切り出した。場の空気を読み必要ならば慣習を捨てる事のできる応用の利く人間はジルクニフにとっても好ましいものだ。

 しかし続く言葉は突飛に過ぎるものであった。

 

「自国にフロストドラゴンを招き入れ何を為さるおつもりか」

 

「…………は?」

 

 あまりの事に何を言われたのか咄嗟には理解できない。

 思考が停止しかけ固まるジルクニフに構わず(というか気付かず)険しい表情を浮かべた使者は続ける。

 

「いくら逸脱者たるパラダイン殿を抱えようとも、よもや完全に御せるなどとは―――」

 

「いや、待て、待ってくれ」

 

 ホントちょっと待って。

 心当たりの全く無い話を突き付けられ、頭の中を整理するが追いついていない。 

 フールーダや四騎士を含めた周囲の側近たちも、こいつは何を言っているんだ、と言わんばかりにその顔に驚きを浮かべている。

 使者の一方的な言葉を静止したジルクニフは、混乱を隠し切れずにそれでもなんとか言葉を絞り出す。

 

「なん…何の話だ。一体それは、何の話だ、使者殿」

 

「この期に及んでまだ隠し通す事ができると…」

 

「待たれよ。いや本当に、何の話なんだ。フロストドラゴン? 我が帝国に?」

 

 他国からの使節団の前だ、皇帝として体裁を崩すわけにもいかないが、あまり成功しているとは言い難かった。これまで多くの困難に見舞われようとも、涼しい顔を曇らせることなくそれらを事も無げに処理してきた鮮血帝をして、今回の話は驚愕に値した。

 完全に寝耳に水であった。

 その演技とも思えない様子に、ようやく法国の神官もまた怪訝な顔を見せた。

切実に、ジルクニフは請うた。

 

「 ……どうか、順を追って説明して頂けないだろうか」

 

 

 

 

 ここ数日、カッツェ平野からトブの大森林を挟み、恐らくはアゼルリシア山脈へと、幾度となくドラゴンが数体飛行している姿が確認された。

 魔法的な監視を行ったところ手痛い反撃を受けた為、已む無く視力強化の可能な魔法やアイテムを用いて目視にて遠方より監視した結果、何やら荷運びをしてると思われた。

 

「荷運び? 物資輸送という事か? ドラゴンが?」

 

「そうなりますな」

 

 彼らはアゼルリシア山脈に生息しているとされたフロスト・ドラゴンの一族であると目される。

 そして彼らが降り立った場所には―――毎回違う場所なのだが―――必ず荷下ろしの人夫が何人も控えており、下ろした荷を馬車に移し、いつも同じ方向を目指すのだという。

 馬車の御者は(少なくとも姿かたちは)人間だが、人夫は人間だけではなく、ゴブリンやエルフ、スケルトンなどである事が多く、最初に現場を確認した者などはいよいよもって異形の者たちが連合を組んだのかと絶望したとか。

 で、件の馬車が向かった先というのが。

 

「我が帝国だと」

 

「いかにも」

 

 それも毎度決まって、同じ建物に横付けされているらしい。

 そこは3ヶ月ほど前に遠い異国から来たというある移民が開いた店であった。

 その店の名はジルクニフもよく知っていた。

 というか、今隣にいる主席宮廷魔法使いが懇意にしていた。

 ああ、だからこそ帝室と繋がりありと疑われたわけか。

 

「御存知なかったと?」

 

「恥ずかしながら」

 

 そう答え鮮血帝は恩師でもある老人へ視線を向けるが、そちらも首を横に振る。

 知っていて黙っていたというわけではなく、本当に関知していなかったようである。 

 確かに承知している範囲でも普通とはいえない商売をしている処ではある。

 位階魔法の研究開発。

 原始の魔法の研究。

 失われたドワーフのルーン技術の再興。

 六大伸降臨以前の大陸の歴史研究。

 多くの古書・資料を手当たり次第に集め、忘れ去られた遺跡の発見探索を行い、多岐に渡る分野の研究を行っているという特異な店だ。冒険者組合を頼らずお抱えの私兵のみで荒事をこなすという事もあって、冒険者やワーカーたちからも注目されている。

 価値があると判断すれば煤けた古文書の切れ端でも用途不明なガラクタでも買い取り、時に条件次第だが素晴らしい知識やアイテムを販売するという事で、帝国でもかなり有名であった。

 最初は王国で店を出そうとしたが、役人と(恐らくは賄賂を要求されたりなどして)かなり揉めたらしく、その後帝国に流れ着いたと伝え聞く。その話を聞いた時ばかりは王国の馬鹿どもに感謝したものだが、その実に有望な店が今回の騒動の中心だという。

 

「じい。思い当たる事は無いか?」

 

 問い掛けに、周囲の視線が大魔法詠唱者に注がれる。

 

「ふむ。以前に魔法省への勧誘や公的な支援を断られたとはいえ、大変意義のある話ができるため私も足繁く通っておりますが…。あれは商売屋というよりはもはや研究所と呼ぶべき場所。店主も魔法についてはなかなかに造詣が深い人物で、ドワーフや蜥蜴人などとも交流があるとは伺ってはいました。よもやとは思いますが、フロスト・ドラゴン共の弱味となるものを得たか、手懐ける手段を開発したか…」

 

 その呟きは法国の神官たちをして瞠目に値した。この場においてはただの予想でしかないが、もしそうであったならば世を揺るがす大事と成り得る。

 

「いずれにせよ、問い質してみるほかありませんな!」

 

 むしろそうすべきだと、その態度が雄弁に語っていた。いまいちよく分からなかったが、どうもこの偉大な大賢者も期待からかそこはかとなく興奮しているらしい。

 秘書官の一人が進み出る。

 

「すぐに店の者を招喚しますか」

 

 ジルクニフは少し考えを巡らせ、ひと拍子挟み顔を上げる。

 

「いや、せっかくだ。この際直接私が赴こう」

 

「陛下御自らですか!?」

 

 ジルクニフ自身、一度は実際にこの目で見ておくべきであるとは思っていた。

 予てより魔法狂いの大賢者が喜々として話題に出していたため、この尊敬はできるが変わり者でもある老人が随分と関心を向けるとあって、興味もあったのだ。

 鷹揚に頷き、正面に立ちこちらを見る神官と目が合う。

 

「早速今から行くが、ご一緒にどうか」

 

「是非とも」

 

「話が早いな。王国の連中ではこうはいかない」

 

「……は」

 

 溢した軽口はどうもウケたらしい。神官にあるまじき嘲りが、その笑みには含まれていた。

 周囲の者たちが動き出す。決定がなされた以上は速やかに行動に移るあたり、自分たちの戴く皇帝がどういう人物であるのか彼らはよく把握していた。

 使節団も全員が立ち上がり円陣を組み話し合う。

 それらを横目にジルクニフの傍に寄ってきた帝国四騎士の一人、「雷光」の呼び名とともに誉れ高いバジウッド・ペシュメルが何気なく口にした。

 

「そういや何度かパラダイン殿の付き添いで行ったことがありますが、店員が皆すげえ別嬪さんでしたな」

 

「ほう、それは…目にしてみたいな」

 

 そういえばそんな話を以前にも耳にした憶えがある。

 愛妻家でもあるこの男がそう口にするのだから、結構なものなのだろう。

 一つ、ささやかながら楽しみが増えた。聞こえた舌打ちは努めて無視した。

 

 

 

 

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 神話、伝承、逸話、英雄譚。あらゆる歴史と記録を集めよう。

 エルフ、ドワーフ、生者死者。あらゆる種族の知識と技術を求めよう。

 かつて失われたものを再現しよう。

 忘れ去られたものを呼び起こそう。

 その果ての向こう、まだ見ぬ未知に出会うため。

 襤褸小屋ひとつがこの地で許された我が領土。

 よろず問屋『魔導国』。

 いらはいいらはい。今日も今日とて、有用ならばあらゆる全てを買い取りますよ。

 

 

 

 

 




 続きません。
 最近、自分の文章というものが、よくわからなくなってきてまして。
 練習も兼ねて、最初期の第三者視点という部分に立ち返ってみました。









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