モモンガ様自重せず   作:布施鉱平
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 クライム、ブレインと共に八本指の娼館を襲撃したセバス。
 娼館を壊滅させ、セバスを脅していたサキュロントも捕らえ、やれ一安心と館に帰ったセバスを待ち受けていたのは────


モモンガ様、王国で自重せず下(前)

◇至高の御方?────

 

 

「遅くなりまして申し訳ございません」[セバ]

 

「…………よい。気にするなセバス。連絡もなしに突然来たのだからな。お前の予定と合わないこともあるだろう────ところで、今日も巻物(スクロール)の買い付けに行っていたのか?」

 

「はっ…………いえ、それは…………」[セバ]

 

「いや、気にするな。今日はそんなことを聞きにわざわざ来たわけではないからな。それより、そんな場所で頭を下げていないで、早く部屋に入って来い」

 

「はっ」[セバ]

 

「……………………その辺りで止まったほうがいいと思うがね。セバス」[デミ]

 

「キチキチキチッ」[コキュ]

 

「…………はっ」[セバ]

 

「さてセバスよ、私がなぜこの場にいるのか、その理由は分かるな?」

 

「…………私が拾った人間のことで、ではないかと」[セバ]

 

「その通りだ。しかし、そうではない、とも言える」

 

「それは…………?」[セバ]

 

「お前が可愛らしいペットを五匹拾った────そのこと自体は大した問題ではない。問題なのは、なぜそれを私に報告しなかったのか、ということだ」

 

「も、申し訳ありません! アインズ様!」[セバ]

 

「謝罪が聞きたいのではない、セバス。なぜ報告しなかったのか、その理由を聞きたいと言っているのだ」

 

「そ、それは────」[セバ]

 

「セバス。そこから先、発する言葉には気を付けよ。私はお前の忠誠を、言葉と心で見る。もしお前の言葉に嘘が、心に偽りがあれば、その身に訪れるのは死ではない────追放だ」

 

「…………!!!」[セバ]

 

「さあ、無からは何も生まれぬ。もう一度言ってみよ、セバス。なぜ、報告をしなかった?」

 

「は、はっ!! 私の行為は、ナザリックに対し益をもたらすものではありませんでした! ゆえに、唯一残られた至高の御方であるアインズ様に見放されることを恐れ、愚かにも報告を致しませんでした! どうか、どうかお許しを!」[セバ]

 

「ふむ…………では、再度聞こう『なぜ』、と。なぜナザリックの益にならぬことをしたのだ、セバス。お前ほど忠義に厚いものが、なぜ?」

 

「そ、それは────」[セバ]

 

「困っている者を見過ごすことができなかった、か?」

 

「ア、アインズ様…………なぜ」[セバ]

 

「セバスよ。お前はナザリックの中でも例外的に善の性質を持つ存在として創造された一人。弱者に対して蔑みではなく哀れみを持つのは当然のことだ。人が泣いていれば、苦しんでいれば、その手を差し伸べずにはいられない。そうなのだろう?」

 

「…………はっ」[セバ]

 

「それを恥じることはない、お前はそうあれと造られたのだから。だがなセバス、人とはそもそも泣きながら生まれてくるものなのだ。愚かな同胞しか存在しない種として生まれたことを嘆き悲しみ、助けてくれと叫びながらこの世に生を受けるのだ。…………ゆえに聞こう、お前が助け、そして送り出した者たちは、この先もう泣くことはないと、そう思うか?」

 

「それは…………」[セバ]

 

「そうはならないだろう。人として生まれ、人として生きるしかない者たちは、『人である』という枠から逃れ出ることは出来ない。それはつまり、死が訪れるその時まで苦しみ続けることと同意なのだから」

 

「…………そう、なのかも知れません…………ですが!」[セバ]

 

「セバス。アインズ様のお言葉に異を唱えるのも、そこまでにしてくれないかな? いい加減、私もコキュートスも限界なのだよ」[デミ]

 

「…………ギチギチギチギチッ」[コキュ]

 

「よい、デミウルゴス」

 

「…………ですが、アインズ様」[デミ]

 

「よい…………と、()()()()()

 

「…………! はっ、失礼いたしました。()()()()()()そう仰るのであれば」[デミ]

 

「さて、セバス。お前が言いたいことは分かるつもりだ。たっち・みーさ────ん、のことであろう?」

 

「…………っ! はっ!(このお方は…………私の心をどこまで…………)」[セバ]

 

「確かに、彼は言っていた『誰かが困っていたら助けるのは当たり前』────私とて、その言葉を忘れたことはない」

 

「アインズ様…………」[セバ]

 

「しかし、だ。お前はその言葉の意味を、本当に理解しているのか?」

 

「それは…………どいうことなのでしょうか。言葉以上の意味がそこには込められている、と?」[セバ]

 

「そうだ、セバスよ。たっちさんは、現実(リアル)と呼ばれるもう一つの世界においても、困った人を助けることの為にその命を掛けていた」

 

「おおっ、なんと! たっち・みー様…………!」[セバ]

 

「だが、その方法はお前とは異なる」

 

「そ、それはまことでございますか、アインズ様!?」[セバ]

 

「勿論だとも、セバス。この私が嘘を吐くとでも?」

 

「い、いえ! そのようなことは決して…………!」[セバ]

 

「よい。本気で言った訳ではないことくらい分かっている」

 

「は、ははっ! 失礼いたしました!」[セバ]

 

「それで、だ。たっちさんがどのように人を助けていたかだが、それは────人を罰することによって、なのだよ」

 

「人を…………罰する?」[セバ]

 

「そうだ、セバス。たっちさんはお前のように、困っている人間を見つけるたびにその庇護下に置いていた訳ではない。罪を犯した人間を見つけ出し、捕まえ、時には隔離し、時には殺す。そうすることによって社会の秩序を保ち、間接的に人を助けていたのだよ」

 

「…………そ、そんな…………」[セバ]

 

「考えても見ろ。そもそもお前たちが至高の存在として崇める四十一人はPKギルド────つまり、人間を殺すことを目的とした集団に属しているのだぞ?」

 

「!!!」[セバ]

 

「そしてその創始者であり、私の前にギルドマスターの座に就いていた存在こそ、たっち・みーさんなのだ。その事実を考慮した上で、お前はまだ自分のとっていた行動がたっちさんの望むものだったと、胸を張って主張できるか?」

 

「いえ…………いえ、私が浅はかでございました。私の創造主たるたっち・みー様のお言葉の、その表面だけを見て、かの方のお心を理解したつもりでおりました…………私は…………私は、なんと愚かな…………」[セバ]

 

「よい。今回のことでお前は一歩、たっちさんの心に近づくことが出来た。それは喜ばしいことだと思わないか?」

 

「は、はっ! それは、まことに…………で、ですが、私は自らの思い違いからアインズ様に不敬を…………!」[セバ]

 

「成長とは痛みを伴うもの。お前がこの度感じた迷いも、痛みも、全てはお前が成長するために必要なものだったのだろう。私はお前の全てを許すぞ、セバス・チャン」

 

「アインズ様…………!! ありがとうございます!! ありがとう…………ございます…………っ!」[セバ]

 

「よい。泣くなセバス。折角の凛々しさが台無しだぞ?」

 

「はっ…………! はっ! 申し訳ありません!」[セバ]

 

「うむ。では、たっちさんの心に近づけたお前だ、私の心も分かるであろう」

 

「はっ! 今後は、どのような些細なことであれ、必ずご報告させていただきます!」[セバ]

 

「それでよい。お前に人助けをやめろ、などと無粋なことは言わぬ。だが、助ける前に必ず考えるのだ。助けるとはどういうことなのか、どうすれば本当の意味で助けることが出来るのかということを。そして、その考えを私に伝えてくれ。そのせいで、時にはその人間を見捨てることにもなるかもしれない。その重荷は、お前一人ではなく私にも共に背負おう」

 

「あ、アインズ様…………!」[セバ]

 

「…………オゥオゥオゥオゥ!」[コキュ]

 

「ふっ、また泣かせてしまったな。なぜかコキュートスも。では、私はヴィクティムを連れて一旦ナザリックに戻る。デミウルゴス」

 

「はっ」[デミ]

 

「十…………三十?…………いや、一時間だ。一時間したらまた戻ってくる。それまでに館を引き払う下準備をしておけ。取引先への挨拶回りなどはセバスとソリュシャンに任せるとして、この館にある家財道具などはまた後ほど使い道があるかもしれない。ナザリックへ持ち帰り保管しておくことにする」

 

「はっ、畏まりました」[デミ]

 

「そして…………ソリュシャン」

 

「はっ」[ソリュ]

 

「この度は苦労をかけたな」

 

「勿体無いお言葉です」[ソリュ]

 

「お前には特別な褒美を与える。ナザリックに戻ったら、私の部屋に来るがよい」

 

「…………! はっ! ありがとうございます!」[ソリュ]

 

「うむ。では…………〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉!」

 

 

 

◇至高の御方? 一時帰還直後(王国側)────

 

 

「…………オゥオゥオゥオゥ!」[コキュ]

 

「…………まだ泣いているのかね、コキュートス。まあ、確かにアインズ様のご慈悲やお言葉は強く心を揺さぶるものでしたが…………少し演技過剰だったことは否めませんがね」[デミ]

 

「……………………」[セバ]

 

「そしてこちらは放心、ですか…………セバス、正気に返りなさい」[デミ]

 

「はっ! し、失礼いたしました、デミウルゴス様」[セバ]

 

「様は不要だよ、セバス。私はこれからこの屋敷にある家財道具をナザリックに送るが…………君は自分が何をすべきか分かっているかね?」[デミ]

 

「? それはもちろん、そのお手伝いを…………」[セバ]

 

「ここの家財道具をナザリックに送るくらい、部下の悪魔たちを使えば十分も掛からずに終わりますよ。だというのに、なぜアインズ様がわざわざ一時間後に戻ると仰ったのか、分かりませんか?」[デミ]

 

「…………いえ、申し訳ありません。なぜなのかお教えいただけますか? デミウルゴス」[セバ]

 

「私たちはこれから王都を引き払うのだよ? そして君が拾ってきた最後のペット────その処遇は未だに決まっていないんだ。私は直ぐに処分するべきだと思うが、君はそれを望まないだろう。違うかい?」[デミ]

 

「…………っ! ツアレ…………」[セバ]

 

「おや? どうやらただのペットという訳ではなさそうだね。なるほど、アインズ様はそれを見越した上で一時間後という時間を指定されたということですか」[デミ]

 

「…………どういう、意味でしょう?」[セバ]

 

「アインズ様は、どこまでも慈悲深いお方だということさ。…………君とそのツアレという人間に、わざわざ一時間という時間をお与えになるくらいね」[デミ]

 

「なにを…………?」[セバ]

 

「まだ分からないのかい? そのツアレがどのように扱われるかは不明だが、君にとって最悪の場合、先ほどアインズ様が仰ったように見捨てるという可能性もあるんだ。一時間もあればその辺りの事情も言い含められるだろうし、二人で()()()()()時間もある。これだけ言えば分かってくれるかな?」[デミ]

 

「…………! むぅ…………」[セバ]

 

「アインズ様のご慈悲を無駄にしてはいけないよ、セバス。撤収作業は私に任せて、君はツアレのもとに行くといい」[デミ]

 

「…………感謝致します。デミウルゴス」[セバ]

 

「その感謝はアインズ様に言うべきだね」[デミ]

 

「む、そう、ですね。そうさせていただきます。では…………」[セバ]

 

「ああ、愉しんできたまえ」[デミ]

 

「…………! 失礼いたします!」[セバ]

 

「…………話ノ流レガ分カラナイノダガ」[コキュ]

 

「…………ようやく泣き止んだんだね、コキュートス。しかし君は成人…………いや成蟲、なんだろう?」[デミ]

 

「アア、モウ脱皮ハシナイダロウナ」[コキュ]

 

「……………………」[デミ]

 

「ドウシタ、デミウルゴス?」[コキュ]

 

「いや、なんでも。君はそのままでいてくれた方が、きっといいのだろうなと思っただけさ」[デミ]

 

「? 訳ガ分カラン」[コキュ]

 

「褒めたんだよ。さ、私はそろそろ撤収作業に取り掛かろう」[デミ]

 

「私ハ?」[コキュ]

 

「…………玄関ホールで素振りでもしていたらどうかね?」[デミ]

 

「ウム! ソレハイイ考エダ! 蜥蜴人(リザードマン)ヲ傘下ニ入レタ時ニアインズ様カラ下賜サレタ剣ガ、マダ手ニ馴染ンデイナイカラナ! アインズ様ノ御為(オンタメ)ニ働ク為ニハ、一刻モ無駄ニハ出来ン! 早速素振リヲシテクルトシヨウ!」[コキュ]

 

「…………色々と壊さないようお願いするよ」[デミ]

 

「承知!」[コキュ]

 

「……………………冗談、だったんですけどねぇ」[デミ]

 

 

 

◆至高の御方? 一時帰還直後(ナザリック側)────

 

 

「ただ今戻りました! アインズ様!」[パンアイ]

 

「…………うむ。見事役目を果たしたな、パンドラズアクター。だが、その姿はもう元に戻すがよい」

 

「失礼いたしました! ただ今直ぐに! ────(むにょんむにょんむにょん)お待たせいたしました!」[パン]

 

「うむ。では改めて礼を言おう。この度の働き、実に見事であった。まさかあのセバスの涙を見ることになるとは思わなかったぞ」

 

「私は! 敬愛すべきアインズ様であればこう言うであろうと思うことを口にしたに過ぎません! 全てはアインズ様の深きご慈悲ゆえ!」[パン]

 

「うむ。お前が思う私は、私が思う私よりもよほど優れているのだろうな」

 

「とんでもございません! アインズ様! 今回のこと、アインズ様が事前に情報を下さらなければ、あのような落としどころにたどり着くことは出来なかったでしょう! 全てはアインズ様のお心の内! 私はその中から一歩も外に出ることは叶いませんでした! 嗚呼! なんたる智謀! なんたる御方! 貴方こそ至高の中の至高でございます! アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!」[パン]

 

「……………………」

 

「どうなさいました、アインズ様?」[パン]

 

「い、いや、すごいテンショ…………ゴホン! なんでもないとも、パンドラズアクター」

 

「それはようございました! ところで、ひとつご質問をさせて頂いてもよろしいでしょうか? アインズ様」[パン]

 

「ん? うむ。私に答えられることであれば答えよう」

 

「アインズ様に答えられぬことなど!」[パン]

 

「いや、それぐらい私にもあるさ。デミウルゴスやアルベドは私のことを全知全能などと言うが、私はそのように優れた存在ではない(いや、マジで)」

 

「はーっはっはっは! アインズ様! ご冗談を! で、ご質問なのですが」[パン]

 

「(スルーした!)う、うむ。なんだ、パンドラズアクター」

 

「なぜお戻りになるのを一時間後にされたのですか? デミウルゴス殿であれば、十分と掛からずに撤収準備は終わるかと思われますが…………」[パン]

 

「あー、うむ、それはな…………(パンドラズアクターの演技が決まりすぎて、ある程度時間を開けないとさっきのが本物の俺じゃないってセバスにバレちゃうかも知れないからだよ! とはとても言えない…………)」

 

「はっ! アインズ様! もしや!」[パン]

 

「む? さ、流石はパンドラズアクター。私の思うところを察したのだな? かまわぬ、口にするがよい(た、助かったー…………)」

 

「はっ! アインズ様は褒美として寵愛をお与えになるとお聞き及びしております! おそらくは私にもご寵愛を下さるために、一時間という時間を取られたのではないかと!」[パン]

 

「そんなわけあるかっ! いや、うむ、ち、少し違うぞ、パンドラズアクター! 大体お前は男だよな!? …………男だよな?」

 

「はっ! 正真正銘男でございます! ですがこの身は二重の影(ドッペルゲンガー)! どのような姿にも変身が可能ですので、アインズ様がお望みであれば絶世の美女にも!」[パン]

 

「…………はっ、いやいやいや。そうではない、そうではないぞ、パンドラズアクター! 確かに私はお前に褒美を与えようと思ってはいたが、それはお前の希望を聞いてから考えようと思っていたのだ! お前を男として創造した以上、私はお前に女として寵愛を与えることなど望んでいない!」

 

「嗚呼! なんと慈悲深き御方! ですが神にも等しいアインズ様に対し、自らの望みを告げるなど不敬極まりないことでございます! 私にはアインズ様の為に働けることこそ最大級の褒美! それ以上に望むものなど!」[パン]

 

「う、うむ。ナザリックのNPC達は皆そのように言うが、それは私の望みではない。一人一人性格が違い、性別が違い、種族が違う以上、欲するものにも何かしらの個性があるはずだ。私はそれを知りたいのだと知れ、パンドラズアクター」

 

「はっ! 失礼いたしました、アインズ様! では…………そうですね…………」[パン]

 

「……………………(頼むから寵愛とか言うなよ。頼むから寵愛とか言うなよ…………)」

 

「では…………」[パン]

 

「う、うむ(ゴクリ)」

 

「ち…………」[パン]

 

「ち?」

 

「父上、と呼ばせていただいてもよろしいでしょうか…………?」[パン]

 

「……………………」

 

「だ、ダメでしょうか、アインズ様…………」[パン]

 

「い、いや! ダメなわけ無いとも! 父上、うむ、父上だな! よし、私のことをそう呼ぶことを許そう。他ならぬ私が創造した守護者なのだからな(よ、よかったー、変なことじゃなくて)」

 

「あ、あぁ、あぁぁあああ!! ち、父上ーー!! このパンドラズアクター! 涙の大海原で溺れそうなほどに感激しております! 嗚呼! 本日を『父上の祭日』として記念の彫像を作らなければ! 素材はスターシルバー…………いや、アンオブタニウムで…………」[パン]

 

「あー…………ゴホン! パンドラズアクターよ」

 

「はっ! 失礼いたしましたアインズ様! いえ、父上!」[パン]

 

「うむ…………喜んでくれているのは何よりだが、私のことを父上と呼ぶのは私と二人だけの時にするように。お前だけが特別な扱いを受けているのだと他のNPC達が知れば、いらぬ不和の元になるかもしれんからな」

 

「畏まりました! 父上!」[パン]

 

「あと、超希少金属を使って私の彫像を作成するのは禁じる。あれは他に使い道があるものだし、偶像というものは忠誠や信念といったものをを別のものに歪めてしまう可能性があるからな。お前の忠誠は金属で出来た像などにではなく、ただ私一人に捧げられるべきものだろう?」

 

「はっ! 申し訳ありません! その通りであります! 父上! 私の忠誠は、ただ一人父上の下に!」[パン]

 

「うむ、分かれば良いのだ」

 

「寛大なるお心に感謝致します!」[パン]

 

「よい」

 

「はっ! それでは父上! 話を元に戻して、なぜ一時間後に戻るのかお教えいただけないでしょうか!」[パン]

 

「…………(やっぱりそこは忘れてないか、くそっ)」

 

「父上?」[パン]

 

「あー、うむ。それはだな…………ツアレだ」

 

「ツアレと申しますと、セバス殿が拾ったという人間の娘のことでございますね?」[パン]

 

「そうだ」

 

「あの娘がなにか?」[パン]

 

「その、な(デミウルゴスならこの辺で、なるほど! とか言って深読みしてくれるんだけどなぁ…………)」

 

「はい」(パン)

 

「ふ、ふふふ、秘密だ(もう問題を先送りにするしかない!)」

 

「な、なんと、今ここで仰ることが出来ないほど重大な秘密が!?」(パン)

 

「い、いや、そこまで重大ではないとも。ただ…………そう、私はただお前の父として、息子に成長して欲しいと考えているのだよ。私に尋ね、それを私が答えることは簡単だ。しかし、それではお前の成長の妨げになる。だから考えるのだ、パンドラズアクター。なぜ私が一時間という時間を開けたのか、それがあのツアレという娘とどのような関係があるのか。あと数十分の時間があるのだから、その時間を自らの成長のために使うのだ(な、なんとか辻褄の合う話になった!)」

 

「嗚呼! 父上! 私のことをそこまで考えて下さるとは!」[パン]

 

「うむ。向こうに行ったときにはまた伝言(メッセージ)を繋いでおくから、答え合わせはその時にするがよい!」

 

「畏まりました! 父上!」[パン]

 

「…………(もうこうなったら、なんとかパンドラズアクターの納得するような展開になってくれることを祈るしかない! 頼むぞ、ツアレとかいう少女! なんでもいいから、なにか秘密とか持っててくれ!)」

 

 

 

◇帰ってきた至高の御方────

 

 

「ふむ…………どうやら二人共覚悟は定まったようだね」[デミ]

 

「はい。アインズ様のおかげで、彼女と話す時間が取れました」[セバ]

 

「ム…………二人共、アインズ様ノ御前ニ控エル為ニ身ヲ清メテ来タノカ? フム、感心ナコトダ。私モ…………」[コキュ]

 

「もうアインズ様が戻られますよ、コキュートス。それにこの二人は…………いや、余計なことは言わないでおきましょう」[デミ]

 

「…………感謝致します、デミウルゴス」[セバ]

 

「いえ、貴方のためじゃありません。コキュートスはこのままでいいという結論に達したのですよ」[デミ]

 

「ナンノコトダ?」[コキュ]

 

「いえ、なんでも…………全員姿勢を正しなさい! アインズ様がいらっしゃいます!」[デミ]

 

「「はっ」」[セバ、コキュ、ソリュ]

 

「────待たせたな」

 

「とんでもございませんアインズ様。ご予定の時間より少し早いくらいでございます」[デミ]

 

「うむ。まずはデミウルゴス、そしてコキュートス。今回のこと世話をかけたな、感謝する」

 

「なにを仰りますか。この身はアインズ様のもの。ご命令とあらばどのようなことでも」[デミ]

 

「ソノ通リデゴザイマス」[コキュ]

 

「うむ、立つがよい二人とも。そしてセバス、ソリュシャン、お前たちもだ」

 

「「はっ」」[セバ、ソリュ]

 

「さて、それで…………? 残る一人がツアレという娘か」

 

「(ビクリ)!」[ツアレ]

 

「ふふふ、何もいきなり殺したりはしないさ。そうビクつくものではない」

 

「も…………申し訳…………」[ツアレ]

 

「一体いつ発言の許可が出たのかね? 〈黙りたま…………〉」[デミ]

 

「よい、デミウルゴス」

 

「はっ、出過ぎた真似をいたしました」[デミ]

 

「よい。さて、ツアレとやら、お前も立って顔を上げるがいい。…………ああ、それと前もって言っておくが、私は人間ではなくアンデッドだ。顔を見ても悲鳴をあげたりするなよ? その場合は、私に忠誠を誓うものたちがお前を即座に殺すだろう。それこそ、私が止める間もなくな」

 

「…………ツアレ、立ちなさい。アインズ様のお言葉は全て真実です。そしてその忠誠を誓うものの中には私も含まれています」[セバ]

 

「は…………い」[ツアレ]

 

「うむ…………うむ? (この顔…………どこかで…………はっ!)」

 

「どうなさいましたか? アインズ様」[デミ]

 

「いや、うむ────ツアレとやら。お前のフルネームを答えよ」

 

「あ…………」[ツアレ]

 

「ツアレ、直ぐにお答えしなさい」[セバ]

 

「は、はい…………私は、ツアレ、ニーニャ。ツアレニーニャ・ベイロンと申します」[ツアレ]

 

「そうか…………お前が…………」

 

「この人間をご存知でしたか? アインズ様」[デミ]

 

「ふむ…………いや、予想通りだったものでな(チャンス! これでパンドラズアクターに顔向けできるぞ!)」

 

「予想通り、でございますか?」[デミ]

 

「うむ、まあ、それは後で良い。ツアレ、お前はこれからどうしたい? 希望があれば言うがいい」

 

「私、は…………セバス様と一緒に、暮らしたいです」[ツアレ]

 

「ほう…………セバスと共にか…………(ソリュシャンの報告でなんとなく察してたけど、やっぱりそういう関係なのか?)」

 

「は、はい」[ツアレ]

 

「なるほど、ではセバスにも聞こう。この少女はそのように言っているが、お前も同じ考えということでいいのだな?」

 

「は、はっ! 私はアインズ様のお心のままに…………」[セバ]

 

「そうではない、セバス。お前の心にある言葉をそのまま伝えよ。先程もそう言ったではないか」

 

「はっ、失礼いたしました! 私もツアレと共に有りたいと望んでおります!」[セバ]

 

「うむ。それでよい。さて…………私はセバスの全てを許すと言った。そして、この度の王国での働きの褒美として、セバスにはツアレを与えようと思う。なにか異論のあるものはいるか?」

 

「ございません。全てはアインズ様の御心のままに」[デミ]

 

「ゴザイマセン。ソレガセバスノ望ミデアリ、アインズ様ガソレヲ認メラレルノナラバ」[コキュ]

 

「ございません。至高の御方」[ソリュ]

 

「よろしい。セバスも…………当然異論などないな?」

 

「ございません。寛大なお心に感謝致します。この身の全てはアインズ様のために…………!」[セバ]

 

「うむ。ではセバスよ、ツアレを連れて退室するがよい。ツアレをどうするのかはお前にすべて一任する。今後ナザリック内でどうするのか、二人で話し合うが良い」

 

「はっ、ですが、その件につきましてはアインズ様にお時間を頂いたことにより既に話し合っております」[セバ]

 

「…………そ、うか。では、それは後ほど聞くとしよう。なんにせよ、そのツアレの身はこのアインズ・ウール・ゴウンの名に置いて保護されるものとする。デミウルゴス、全NPCにそれを伝え、事故などは決して起こらぬようにせよ」

 

「はっ、畏まりました!」[デミ]

 

「よし。ではセバスよ、今度こそ退室するがよい。ナザリックがどのような場所か、そしてその中での自分の地位や、生活する上でのルールなどをツアレに教えておいてやれ」

 

「はっ、ありがとうございます! では失礼いたします、アインズ様」[セバ]

 

「うむ(よかったー…………! セバスが一時間の間に話し合ってくれていたおかげで、パンドラズアクターに時間を開けた説明になった!)」

 

 

 

◇セバス退室後────

 

 

「アインズ様。あの娘、ご存知だったのですか?」[デミ]

 

「ん? ああ、その話か。…………これを見るが良い」

 

「これは…………日記、でございますか?」[デミ]

 

「うむ(えっ、デミウルゴスもうこの世界の文字読めるようになったの!?)」

 

「…………なるほど、これはあのツアレの妹が書いたもの。そして…………」[デミ]

 

「そうだ。私はその日記によってこの世界の一般常識をある程度知ることが出来た。私はツアレの妹に対して恩がある。…………本人を生き返らせるほどのものではないがな」

 

「アインズ様のお心、得心(とくしん)いたしました。全て分かっておられながら、その小さな恩とセバスの不心得(ふこころえ)、その二つを同時に清算するために、あえてこのタイミングまで干渉なさらなかった、そういうことなのでございますね」[デミ]

 

「ん? う、うむ。その通りだ、流石はデミウルゴス」

 

「いえ、アインズ様から流石などという言葉を受け取るには、この身は非才に過ぎるというもの。今この瞬間が訪れるまでアインズ様の真意を図ることが出来ていなかったのですから」[デミ]

 

「ドウイウコトナノダ? デミウルゴス」[コキュ]

 

「私は分からなかったのだよ。アインズ様であれば、最初の一人をセバスが拾った時点で、その行いに気づいておられたはず。だというのに、アインズ様はセバスに対して叱責も質問も一切なさらなかった。そして五人目であるツアレが拾われ、ソリュシャンからの報告が来て初めて動かれた。私は最初、ソリュシャンがいつアインズ様に報告するのかを試されていたのかと思ったのだが、そうではなかった。そうでございますね? アインズ様」[デミ]

 

「う、うむ。続けるといい、デミウルゴス」

 

「はっ。アインズ様はおそらく、ツアレの居所を既に掴んでおられたのだろう」[デミ]

 

「ソ、ソンナコトガ可能ナノダロウカ?」[コキュ]

 

「アインズ様が人間の街でなにをしているか知らないわけではないだろう?」[デミ]

 

「ソウカ! アインズ様ハ冒険者ヲ…………!」[コキュ]

 

「そう、しかも最高位であるアダマンタイト級の冒険者だ。調べようと思えば、王国の裏に暗躍する八本指の存在も、その組織の一つに囚われているツアレの存在も、容易に知ることができただろう」[デミ]

 

「…………(すごいんだな、アインズってやつは。金をどうやって稼ぐかしか考えてない俺とは大違いだよ。えっ、ハッポンユビ? なにそれ初耳なんですけど)」

 

「だがアインズ様は、自らツアレを救いに行くことはしなかった。冒険者であるモモンとしては八本指が経営する娼館に乗り込む大義がないし、ナザリックの力を使えばこれから利用しようと考えている八本指を警戒させる恐れがある」[デミ]

 

「…………(なるほど。どうやらアインズは、ハッポンユビを利用して王国で何やらやらかそうとしているらしい。ふ~ん、なにそれ!? いったいいつからその計画進行してるのさ!?)」

 

「そこでセバスが一人目の人間を拾い、それを報告しなかったときに思いつかれたのだろう。今回の計画を」[デミ]

 

「ダ、ダガ、セバスガツアレヲ拾ッテクルカドウカナド、イクラアインズ様デモ分カラナイノデハナイカ?」[コキュ]

 

「…………(俺もそう思うよ、コキュートス)」

 

「もちろん、そんな偶然に頼るようなものは計画とは言えない。おそらくアインズ様は、時機を見てツアレを救出し、セバスの通り道に置いておかれるつもりだったのだろう」[デミ]

 

「ナ、ナルホド! セバスナラ間違イナクツアレヲ拾ウ。ソシテ、八本指ハセバスガ襲撃犯ナノダト思ウダロウカラ、結局今回ノコトト同ジ流レニナルトイウコトカ…………ッ!」[コキュ]

 

「そう、セバスが偶然にもツアレを拾ってきたおかげで、アインズ様がお手を煩わせることもなかったがね。…………もし、本当にセバスがツアレを拾ったのが偶然だったのならば、ですが」[デミ]

 

「…………偶然だとも、デミウルゴス(だからそんなに尊敬を込めた眼差しで俺を見ないでくれ…………! ほら! お前の視線に気づいて、コキュートスやソリュシャンまで同じ目をしてるじゃないか!)」

 

「ええ、勿論ですとも、至高なる御方…………」[デミ]

 

「…………(ははは…………もう好きなように思っててくれ…………俺はもう、知らん…………)」

 

 

 

◆その頃ナザリック宝物庫では────

 

 

「うぉおおおおおおおお! ち、父上ーーーー! そのような、そのような意図があったとは! えっ? し、しかも、そのように前から今回のことを!? な、なんという…………貴方はなんという偉大なる御方なのかーーーー!!!!」[パン]




 おかしい、六巻の序盤だけで一万文字を超えてしまった。

 一巻一話進行の予定が早くも崩れることに…………

 というわけで、セバスを追い詰めるだけで一話が終わりました。

 たぶん次で六巻分の話は消化できると思いますが、もしかしたらもう少し伸びる可能性もあります。

 
 ちなみに────モモンガ様が代役のパンドラズアクターに前もって与えた指示はこれだけです。

 1、たぶんセバスはたっち・みーの言葉『困っている人がいたら助けるのは当たり前』を実行しているだけだ。

 2、たっち・みーは、現実(リアル)の世界では悪い人間を捕まえることで社会の秩序を保っていた(警察)。

 3、以上を踏まえた上で、これからはちゃんと情報を上げるようになんとか上手いことセバスを説得してくれ。

 後は伝言(メッセージ)を繋ぎっぱなしにして、パンドラズアクターからの質問にちらほら答えていただけです。
 つまり、ほとんどの部分はパンドラさんのアドリブ。
 一応アルベドやデミウルゴスに匹敵する智者という設定だし、アクターでもあるしね。






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