俺は超越者(オーバーロード)だった件 作:コヘヘ
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ツアーから『教授』の話を聞き終えた俺が、
初めに思ったのは彼女に『会いたい』だった。
『俺』なのだ、『教授』は。
つい先日の、ラナーの『策』に嵌められかける前の。
そして、ツアーは気づいていないが、
俺なら熱素石すら使わずに『教授』を蘇らせることができる。
スルメさんの時とは違い、『死』の『状況』が完全にわかっている。
彼女は、ただ『死んだ』だけだ。
…彼女の死因は俺がよく知っている。
ワールドアイテム『ギャラルホルン』は俺にとって相性最悪だから。
あれはただ召喚されるモンスターが『強化』されるだけだが、
ワールドアイテムだけあって『壊れている』。
あれは極端に特化したワールドアイテムだ。
もはや『20』に含めても良いと言っていい。汎用性のなさから数えられていないだけ。
『脅威』だ。特にナザリック地下大墳墓にとっては。
『ギャラルホルン』は、超位魔法『神の化身召喚(コール・アヴァター)』を『強化』したもの。
幾人かのLv150ナザリックNPC達にすら相性で勝てる。
それほどナザリックにとって相性最悪。
エリュエンティウと呼ばれる『浮遊城』。
後先考えない最大火力での一撃なら、
『八欲王』の拠点など文字通り、消し炭にできただろう。
ナザリック地下大墳墓すら『危機』に陥れることが可能だから。
だが、『ギャラルホルン』は『20』には入らない。
召喚されるだけで、時間経過すれば消えて終わる。使い捨てのワールドアイテムだ。
『ゴブリン将軍の角笛』のようなアイテムは例外だ。時間経過しても残るというのは。
だが、『教授』の運用法によっては、ナザリック地下大墳墓すら滅ぼせたかもしれない。
…いや、万全のLv100の彼女なら可能だろう。
流石にルベドや『八階層のあれら』は無理だろうが。
それ以外で、詰みに持っていける可能性がある。
…ここまで並べ立てておいてなんだが、
俺には、『正攻撃無効』『光攻撃無効』『神聖攻撃無効』と
『阻害無効化の指輪』があるから絶対負けるはずがない。
もし『ギャラルホルン』を使われても、
彼女が勝ち誇ったドヤ顔しているところに俺が阻害不可能な転移をして、
彼女をぶん殴れば終了だ。
全ての『策』が破壊されて、ズタボロになる彼女が目に浮かぶ。
いつもの光景だ。
俺は彼女に『俺は悪魔だ』とでも言ってやっただろう。
しかし、それらの反則がなければ俺にすら届いた可能性が非常に高い。
…超越者(オーバーロード)化した俺に勝てたかもしれなかった。
彼女は本当に後一歩の、『策』を用意していた。
誰もが匙を投げる『魔王』に正面から勝とうとした。
…実際、理論上は可能だった。俺がそれを上回る『理不尽』なだけで。
…どう考えても危険だ。『教授』は。
俺の行動予測ができるラナークラスの『頭脳』。
それに加えておそらくリアル最高峰の『未来の知識』。
単身で『世界』を変えかけた『行動力』。
素で『邪悪』を行使できる『才能』。
…時間を与えれば、その『頭脳』のみで俺を上回りかねない。
俺は右手親指の指輪を見つめる。
『リング・オブ・マスタリーワンド』を。
信仰系マジックキャスターしか本来使えない高位の短杖(ワンド)が使えるようになるそれ。
第九位階魔法『真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)』の籠った短杖を使えば、彼女は蘇生できる。
時間が経過していようとも、彼女はただ『死んだ』だけだから。
『真なる蘇生(トゥルー・リザレクション)』は遺体すらなくとも蘇生できる。
転移前の俺は、
ナザリックを守る可能性として、『死』を回避する手段として、
真っ先にそれを『大量』に用意していた。
一、二本程度は全く惜しくない。
そして、ツアーが言うような結末なら、俺に会えない『未練』がある。
蘇生の条件は満たされている。彼女の蘇生は、容易なのだ。
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…だが、『教授』はスルメさんの大事な友の子を、NPC達を扇動している。
『魔神』として。
ツアーがいくら大切な『仲間』と思っていても、『教授』を許すことはできないだろう。
『世界』の守護者として、テロリストの『教授』は許してはならない。
俺が蘇生したのを隠しても、おそらくいずれバレる。
『教授』がただ黙っているわけがない。俺に『最短』を囁くだろう。
ツアーはそれをさせないために、俺に『真実』を話した。
ンフィーレアのタレントを奪って、『世界』を救う暴挙にならないように。
…俺を『テロリスト』にさせないためにだ。
『正攻法』。理詰めで『世界』を強化する。
これしか、ツアーとスルメさんと争わないで、共に『世界』を守れる道はない。
『教授』と同じ才能とツアーは評したその『邪悪』を用いたら、
『世界』は救われるが、俺は決して救われないだろう。
…それでも、俺は彼女に会いたかった。
「モモンガ?」
ツアーが俺の様子がおかしいと察した。
「…俺が『教授』を熱素石すら使わずに、簡単に蘇生できるとしたら、どうする?」
俺は思わず全部バラしてしまう。
「…モモンガなら言うかもしれないと思ったが、ダメだ」
やはり、そうだよな…
「スルメは、この件を既に知っている。
『魔神』については唆しただけでいずれやっただろうと、あまり怒ってはいなかった。
…責任は自分にあると思っているのだろうね」
ん?
「『世界』の脅威である以上。無理だ。
まだ、当時の真実を知っている『私』を含めた幾人かの仲間を説得できない限りは不可能だ」
…可能だ。
俺にはできる。その不可能が。
問題はここからの展開だ。
ここが『最後』の分岐点。
彼女は望まないかもしれない。
ツアーもスルメさんもきっと望まないだろう。
だから、これは俺の『我儘』だ。
『自由』を奪い、『贖罪』をさせる。
『世界』のために、俺の『側』にいてもらう。
なに簡単だ。
『教授』が何かしようとすれば、いつものように問答無用でぶん殴ろう。
「ツアー。可能だ」
俺はツアーを『説得』する。
「…ダメだ。それは君を滅ぼす」
違う。その方向には絶対いかない。
「『蒼の薔薇』のイビルアイと接触したい。
『贖罪』だ。『十三英雄』と『法国』との和解の場を設けよう」
『評議国』と『法国』最大の不仲の原因。
法国が『世界』の危機に自ら引きこもって、結果的に国力を高めた。
だが、それで『十三英雄』は、やがて『評議国』から嫌悪された経緯は聞いた。
『ズーラーノーン』の『盟主』は何といいタイミングで現れてくれたのだ。
素晴らしい。
…条件は全て満たされていた。
アルシェには『彼』に『手紙』を書いてもらおう。
用心深い『盟主』なら引っかからないかもしれない。
だが、『教授』なら容易だ。その無茶ぶりが。
『国堕とし』のイビルアイと法国が和解できれば、『世界』平和へとつながる。
『王道』で『最短』に導ける。
…スルメさんを説得するためには、ツアーの協力が『不可欠』だ。
「何を考えている!モモンガ!」
ああ、言い方が不味かった。言葉が足らな過ぎた。
…『邪悪』な手とも捉えられる。俺は馬鹿か。
なので、素直に言う。俺の気持ちを。
「俺は悪さをしでかした『友』をぶん殴りたいだけだ。
俺は、決して、決して『黒幕』になどならない。
…ただ、その為にはスルメさんの『罠』を俺達、三人で決めなければならない。
だから、頼む!ツアー。協力してくれ!!」
俺は全身全霊で頭を下げる。これしか俺にはできない。
…何が『説得』だ。
だが、これ以上がない。
ツアーが拒否すれば終わる。その時は、俺は諦めよう。
数分が数時間にも感じる。沈黙。
やはり、ダメか…
「…言ってみてくれ。聞くだけ聞こう」
...賭けに勝った。