5か月間の中国の変貌

5か月ぶりに北京に戻ってみると近所のローソンの商品がまた良くなっていました。特に弁当、サンドイッチ、飲み物、中華まん、唐揚げなどの食料品はどんどん良くなっています。カウンターにコーヒーメーカーも設置され、ボストンのコンビニよりよほど魅力的です。

昨年の中国の小売り規模は米国とほぼ等しくなりました。今年は米国を超えるでしょう。消費は何と言っても小売りです。これには統計の違いもなければ、偽造や水増しもあり得ないのです。製造コストの上昇で中国を撤退するメーカーがある一方、この消費市場を狙って参入してくる企業も確実に増えています。

これは日本企業だけの傾向ではありません。中国企業自身も中国社会の変化に適応するのに懸命です。技術レベルが低く環境に負担をかけ安い労働力を前提にした大量生産の企業はどんどん行き詰まっているのです。

先週、私の故郷である山東省の大手民営企業が倒産しました。石油化工、食品加工、国際貿易に観光旅行などの多角経営を展開し、創業社長は過去において山東省一位の資産家に数えられたことがあります。

銀行に勤める友人の話を聞くと中小企業の倒産が急増しています。直接の原因は政府の引き締め政策にあると言うのですが、本当の理由は利益率が低く利息を払えない企業体質にあるそうです。ただ、長年に渡って中国政府が過剰な流動性を提供し、時代に合わない企業を延命させてきましたが、昨年からやっと方針を転換しました。

上海株式市場の指数もこの5か月間に2割も下落し続け、先週は歴史的に低い2700ポイントを割った瞬間もありました。追い打ちをかけるように、米中貿易戦争が勃発し、投資家の心理はいっそう冷やされる事態になりました。

日本ではここ十年慣れ親しんでいる中国崩壊論は、今こそ説得力を帯びてきたと思うのですが、逆に今潜んでいるのは不思議なのです。

私はどう見るかと言うと、今やっと正常な状態に戻ったと思うのです。借金まみれの上、利益も出ないようなゾンビ企業の存続こそ、社会の活力を奪う元凶です。改革開放の荒波に乗って荒っぽいやり方で急成長を成し遂げた起業家の多くが60代を超えました。彼らの事業の多くは第一次産業と第二次産業に属し、先進国ではもうとっくに淘汰されているのです。彼らは地方政府と結託し住民や社員の不満を押さえ、公共財である土地や融資と税金の優遇を享受してきました。

建設ブームが終焉し、消費社会になりつつある中国では、これらの産業は急速に市場を失うのです。彼らにはより人件費の安い東南アジアに移転するか、統廃合するかの方法しかありませんが、保守的な人たちはその痛みを拒否し、ゾンビ企業になってしまいます。

私が米中貿易戦争を歓迎するのは貿易戦争のショックで中国の保守派に現状維持を放棄させ、国内の改革を促す役割があるからです。いつまでも改革開放の初期のやり方で通せるとの思い込みはほかではなく中国をダメにするのです。もちろん、「America first」のトランプ大統領が中国のために貿易戦争を始めたとは思いませんが。

結局、最後の最後は競争力が勝負です。日本車とドイツ車にいくら関税をかけても米国車が売れないのと同様、貿易戦争がなくても、私の故郷から石油加工工場やセメント工場は消えていくのです。ならば早く消えたほうが社会コストが安いのです。
この記事へのコメント
先進国になり1次産業、2次産業が減ってしまった時、単純労働でしか生計を立てることの出来ない人たちはどうなってしまうのでしょうか?
すべての人が宋さんのように頭が良いわけではないのです。
商品は国境を簡単に超えますが、人が国境を超えて働くのはそれほど簡単ではないと思います。
単純労働しか出来ないような人たちが先進国から発展途上国に行き働くのは、現実にはありえないでしょう。
最近トランプさんはアメリカの人たちにとっては意外と正しいことをしているのかもしれないと思うようになりました。
Posted by ごろう at 2018年08月03日 08:47
宋さん、おはようございます。いつものヘソ曲りです。

今日の宋さんのコメントは、ヘソ曲りの私にとって、何故か至極まともな論調に思えました。

間もなく開催される中国共産党の「北載河会議」での、長老による習近平主席への批判が高まっていることと無関係ではないような気がしているのですが、如何でしょうか?

もしそうなら、これまでの宋さんの言動は、日本で言うところの『風見鶏』だったということですね。
Posted by 田中 晃 at 2018年08月03日 09:08
>日本ではここ十年慣れ親しんでいる中国崩壊論は、今こそ説得力を帯びてきたと思うのですが、逆に今潜んでいるのは不思議なのです

本当ですよね(笑)

上海株市場も官製相場でしたがそれもやめて正常になってきたと

どうも日本のマスコミのピントはタイミングを逸してるのでニュースだけ追ってたらズレるなと思ってます
情報過多の時代だからこそ自分で判断出来る様にならないと判断を誤りますね
Posted by 通りすがり at 2018年08月03日 09:21
宋文洲様

ソフトブレーン様

いつもメールを拝見しております。

今回の中国・アメリカの貿易摩擦(この名称で進めます)はいい意味で中国の内部淘汰、新しい風紀が出来ればいいと思います。

さて、貿易摩擦については、車の件にしてもそうですが、ドイツ、日本車にアメリカの車が勝てるのか、そこですね。高い関税を払っても欲しい車を買うのがアメリカ人だと思います。また中国人も高額な車を求め外車を購入する方が、まだ多いと思います。

両国同じように思えます。

これからは小売りで国内強化、中国、アメリカも世界も含め、必要になると思います。

日本も小売りを強化し、安くていいものを提供する時代になると思います。そしてサービス業もオリンピックに向けて忙しくなると思います。カジノ法案を決めて喜んでる方がいますが、そんなことよりオリンピックのスポーツ振興が駄目になってることを重視し、しっかりとした裁きを行い、クリーンなスポーツ環境を整えて欲しい。

いまやらなければもう裁きを行うチャンスがなくなるのだから。

路線から外れたコメントを書いてしまい申し訳ない。
Posted by 時の鐘 at 2018年08月03日 10:00
中国は、私にはまだゆとりがある様な気がしてます。
トランプは、もしかして北朝鮮にも、ひょっとして宇宙にもホテル作りたいんじゃ…なんてチラッと思ったりすると、「軍産」を上手く宥めとくの大変だろうなとも思ったり?(済みません。勝手なこと書かせてもらってます)(敵があると支配者には好都合…ですよね? 秘密も持てるし国民も支配できる)
日本は水、緑に恵まれ、その気になれば食糧エネルギーの自給自足は可能と思う。   
日本の江戸時代は度々の火事に備え、沢山の水路を巡らせ、超安普請の長屋で助け合って暮らし、大いに「遊」んでました。この遊びの中に算額(世界トップレベルの幾何)や天文学もあり(地球の円周を求めた)、料理等 豊かな文化活動もありました。 (先日 日本共産党の市田忠義さんのお話聞いたのですが、確か…一日2時間、週3時間(←聞き違い、記憶違い??…働けば、あとは、まさに!この様な豊かな遊び?…文化活動を楽しめるようになると仰ってた)(ベーシックインカムの話もある) 
でも それこそペシャワール会の大地の緑化活動など、砂漠の緑化も可能では?  
経済での競争力を競う? 一方で、「独特」の国の在り方も考えていいと、私は思っています。
Posted by 美枝子 at 2018年08月03日 10:20
中国経済が第1,2次産業やインフラ系から第3次産業系の消費材系に主役が代わってきたと言う宗さんの体験から来た指摘は大変興味深いですが、自分はまだまだ習主席の「国家主導型資本主義」志向での2次産業系インフラ重視的な経済主導運営が続くと思います。ただし中国人本来の商人的気質からすると、3~5年後(又は習氏退任後)には消費財主導経済社会になるだろうと思います。当面どの消費財関連業界の会社の株が上がりそうか興味が有りますね。

Posted by 沼さん at 2018年08月03日 10:38
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

検索する
投稿する