長者番付トップ100に見る「驚愕の格差」〜人生が狂った大富豪たち

教祖になったり、犯罪者になったり…

これを読めば、普通がいちばん、「カネで幸せは買えない」ことがよく分かる。

カネは必要。誰だってそうだ。ただし、それが億という単位になると、途端に人生が狂い始める。過ぎたるは及ばざるがごとし。カネの魔力に魅入られた大富豪たちの人生を、あなたは羨ましいと思うだろうか。

ストレスから逃げ回る日々

12年連続、長者番付10位以内。ダイエット食品「スリムドカン」を販売する『銀座まるかん』創業者。自らの金銭哲学や人生観を説いた著書が次々とベストセラーに。一方、大のマスコミ嫌いで、一度もメディアの対面取材に応じたことがない—。

斎藤一人氏(68歳)。

彼が築いた『銀座まるかん』がうまくいっていないのではないか、という噂が関係者の間で飛び交っている。本誌記者が斎藤氏を見かけたのは、昨秋のことだった。

東京・新小岩のアーケード街にある、斎藤氏のファンが集まることで知られる店舗に、オールバックでヒゲを生やした男性がいた。彼が斎藤氏だ。年齢の割には若く見える。この日、店では「斎藤一人さんのおついたち会」なるイベントが開催されていた。斎藤氏は毎月1回、全国の「信者」に新小岩から波動を送っているのだという。

イベントを終えた斎藤氏を直撃したところ、顔を隠して車に乗り込み、その場を去っていった。近隣住人によると、「一人さんは、最近、『宗教家』になってしまった」という。「伝説の金持ち」にいったい何が起こっているのか。

ダイエット・健康食品販売で巨万の富を築いた斎藤氏は、'05年に制度そのものが廃止された「高額納税者公示制度」、つまり「最後の長者番付」で全国4位、10億7400万円を納税している。推定所得は29億円。

全国に熱狂的なファンを持ち、日本有数の資産家でもある斎藤氏の身に変化が訪れたのは、'09年頃のことだった。

この頃、斎藤氏は内臓を悪くして、緊急入院したという。食事も摂れないくらい衰弱して、現場復帰は難しいとも言われていた。関係者に不安が広がるなか、斎藤氏は奇跡的に回復。日常生活を送れる状態にまで復調した。そして、病床に弟子たちを集め、斎藤氏はこう言ったという。

「生死の境をさまよったことで、私は自分が天照大神の生まれ変わりだということに気づいた。あるとき、天照大神が枕元に立ち、『お前は金儲けばかりしていて、何たる体たらくだ』と叱られた。私は過去をすべて捨てると決めた。

今後は天照大神の生まれ変わりである私の念を水晶玉に入れ、大宇宙エネルギー療法を広めていく。要は、水晶玉を買えば、病気も良くなるし、金持ちにもなれる」

実際、本誌記者が前述の新小岩にある「ファンが集まる店」を訪れると、責任者らしき女性から熱心に「三位一体開運法」の説明を受けた。

彼女によると、斎藤氏が作った波動入りの『ゴッドハートマッサージクリーム』で『ツヤ顔』になったうえで、『神言』(斎藤氏の言葉)を唱え、手で印を結ぶと、身体が健康になり、人生も開運していくのだという。

斎藤氏を古くから知る「元弟子」がこう話す。

「病気をきっかけに何かしらの宗教の信者になる人はいますが、一人さんは『教祖』になってしまいました。商売もそれまでは健康食品を販売していたのに、水晶玉や波動入りのクリームなど、まるで霊感商法のようになってしまったため、かつての弟子が離れていくのも無理はありません。

そもそも、一人さんはあれだけ莫大な富を得ながら、幸せそうには見えませんでした。病気になる前は複数の女性幹部と全国を転々としていました。一見、自由気ままでストレスがないように見えて、その実、ストレスから逃げ回っているようにしか見えなかった。

おカネにもケチで、一緒に旅行してもすべて割り勘です。個人資産は200億とも300億円とも言われますが、プライベートを明かさないため、本当のところはわかりません。一人さんは家族仲も悪く、妻と離婚したとも聞いています。あれだけおカネを貯めこんでも、それを遺す家族もいないはずです」

巨万の富を築いても、幸せとは限らない—。最後の長者番付ベスト100名の「いま」を追うと、そんな真理が見えてくる。

たとえば、'92年に『インボイス』を創業し、'04年に東証1部に上場した木村育生氏(58歳)は、株式の売却益を得たため、8億5600万円を納税し、この年の長者番付12位に躍り出た。

木村氏本人が語る。

「あの頃は、堀江貴文さんがプロ野球の球団を買収すると騒いでいる時期でした。私自身も西武ドームの命名権を購入していたこともあり、『インボイスも西武球団を買収するのではないか』と騒がれたものです。球団を買うには全然足りなかったですけどね(苦笑)」

木村氏はその後、M&Aを繰り返し、インボイスは規模を拡大していった。'06年にはマンションデベロッパー『ダイナシティ』を買収し、子会社化した。

ところが、これが仇となった。'08年にサブプライム危機のあおりをうけ、同社が事実上の倒産となったのだ。木村氏は責任を取る形で社長職を退き、'11年には結局、インボイスも上場廃止となった。木村氏は築いた富をすべて失った。だが、そのことによって、むしろ目を開かれたという。

「私は儲けたおカネはほとんどゼロに戻ってしまいました。でもね、私はそれでも悪くないと感じているのです。もし、10年前の経済状況が続いていたなら、私は今頃、たっぷりの金持ちになりながら、どうやって引退しようか、そればかり考えていたと思います。いつの間にか裸の王様になり、高級車の後部座席にふんぞり返って、世間から取り残されていたでしょう。

いまは稼がなくては食っていけないので、2年前に起業しました。顧客企業の通信費や電気代、ガス代などを弊社が一括して処理するビジネスモデルです。呼ばれた講演会では『起業は大変だから、しないほうがいい』と話していますが、私自身はずっと社長を続けてきたので、潰しがきかず、起業するしかありませんから。といっても儲けることが楽しいのではなく、事業を通じて社員にやりがいを感じる体験を提供したいんです」

一度、企業を創設すると、創業者は長い間、その会社に縛られる。おカネを儲けて、すぐに逃げるわけにはいかない。

満足することのない野心

経営者の心理を、NEC系の産廃処理会社『シンシア』会長で、'04年の長者番付59位に納税額4億400万円で登場した中西雄三氏(78歳)が解説する。中西氏は80歳を目前にして、今も現役の経営者だ。

「今も会長をしているのは、やはり企業のトップは長くやっていないといけない面があるからです。長年務めないと、本当の意味での経営をマスターしたことになりません。サラリーマン社長に多いですが、3~4年でトップがコロコロ変わるような会社では、社員に経営者の意志は伝わらないものなのです。自分はこれをするべきだと思ったら、10年、20年と経営する気構えがないと実現できないのではないかと思います」

彼ら経営者を支えるのは、決して満足することのない野心と言っていいだろう。中西氏は、反骨精神を大事にしている。

「いたるところで環境問題が噴出していますが、言葉だけが躍っている印象で、誰も本気で考えていないのではないかと感じます。

たとえば、大手コンビニで余った食材を家畜の飼料にするというニュースがあり、世間は好意的に受けとめているようですが、これは慎重にやらないと危ない。家畜が異常をきたす可能性がないとは言えないからです。狂牛病は肉骨粉を混ぜた飼料に原因の一端があると指摘されています。動物は共食いをするようにはできていないのです。

環境問題やリサイクルというのは、きれい事だけでは解決しない面が多い。世論に迎合的にやると、必ず失敗します。私は創業当時から、こうした反骨精神でやってきて、それが今も生きているので、リサイクル会社の経営をやり続けていられるのでしょうね」