ヒカキンも飼い始めたという猫種「スコティッシュフォールド」。折れ耳で丸顔が人気だが、海外では繁殖を問題視している。photo by iStock

なぜ大炎上…?HIKAKINが飼い始めた猫の、知られざる悲しみ

人間の勝手が作りだしたものだった

人気YouTuberのHIKAKIN(以下、ヒカキン)が仔猫を家族に迎えたことがネット上で話題になった。かわいい猫効果で再生回数は通常の8倍にもなり、話題を集めたが、一部からは「影響力のある人なのだからこそ、ペットショップで購入せずに、保護猫を選択してほしかった」という意見も多く集まり、賛否両論を呼んでいる。

「保護猫」と簡単にいっても預かるためには様々な条件が必要なため、詳しい状況も知らずにヒカキンを叩くのは気の毒とも言える。また、ペットショップについては、ヒカキンに非があるわけではなく、別の問題をはらんでいるのは事実だ(こちらはまた別の機会にまとめたいと思う)。

上記以外にも、ヒカキンが飼い始めた猫の“スコティッシュフォールド”という品種を心配するコメントも多かった。実はこの人気猫種は、世界中で問題視されているのだ。そこで今回は、動物保護とペット問題に詳しい一般社団法人ランコントレ・ミグノンの友森玲子さんに、この猫種についての知られざる実態を教えてもらった。

 

人気品種10年連続1位の猫に何が?

“スコティッシュフォールド”は、折れ曲がった小さな耳、ふくろうのような丸い顔に加え、性格もおとなしく飼いやすい、として長い間人気を集めている。アニコム損害保険株式会社が毎年発表している人気猫の品種ランキングでも10年間1位を獲得したというほどダントツ人気の品種だ。

私も話題になっている動画を見てみたが、仔猫はスコティッシュフォールドの中でも人気の“折れ耳タイプ”。名前の通り、まん丸な顔も特徴的だ。コメントには「やっぱりスコが飼いたい!」、「猫飼うならスコだよね」という声も多かった。

ヒカキン公式ユーチューブチャンネルより https://www.youtube.com/channel/UCZf__ehlCEBPop-_sldpBUQ

確かに、スコティッシュフォールドは、愛くるしく、かわいい。この仔猫には罪はなく、丈夫に育ってほしいと思う。しかし、かわいいから、人気ランキング1位の品種だから、有名人が飼い始めたから、とスコティッシュフォールドを飼うのには、さまざまな問題がある。「かわいいんだからいいじゃない」では済まされない、スコティッシュフォールドが「生み出された」背景をぜひとも知ってほしいと思う。

誕生してから歴史が浅い新しい品種

スコティッシュフォールドは、1961年にスコットランドの農園で、耳が折れた猫が生まれたことが発祥とされている。折れ耳のそのメス猫は、“スージー”と名付けられ、2年後に複数の仔猫を出産した。すると生まれた仔猫の中にも、折れ耳がみつかり、遺伝することが確認され、折れ耳猫の繁殖計画が開始された。スージーの子の折れ耳の雌猫はブリティッシュショートヘアという品種の猫と交配され、“スノーボール”という白猫が展覧会などへ出されるようになった。

その後、1971年にアメリカの遺伝学者の元へ数匹の折れ耳猫が送られ、ブリティッシュショートヘアやアメリカンショートヘアと交配が進められた。品種改良を重ねた結果、1994年に“スコティッシュフォールド”という新しい品種として公認された。品種としてはまだ歴史は浅いのだ。

軟骨異常で、一生、体は痛み続ける

スコティッシュフォールドの一番の特徴は、“折れ曲がった小さな耳”だ。他の猫にないこの特徴が人気の最大の要因になっている。ところがこの折れ耳は、実際には、“軟骨の異常によって起きた奇形”を固定したものだ。先ほどお話した、スコットランドの農園で、たまたま耳の折れた奇形の猫が生まれ、新しい形状が面白いと繁殖が試みられたのだ。

しかし、この軟骨の異常は、都合よく耳だけに現れるわけではない。正式には『遺伝性骨軟骨異形成』と呼ばれ、容赦なく四肢にも症状が現れる。早ければ生後数ヵ月で発症することもあり、痛みによってジャンプができない、痛くて歩きたがらない、触ると嫌がる、などの症状が起ってしまうのだ。折れ耳の猫には、ほぼ100%の確率で、何かしらの症状が出ると言われている

後ろ足を見ると、こぶのような塊がある。これは、遺伝性骨軟骨異形成で骨瘤。痛みも出る。photo by iStock
左右のレントゲンの比率は少し違うが、右は健康な猫の足。左は遺伝性骨軟骨異形成が出たスコティッシュフォールド。明らかに骨に問題が生じている。写真/ミグノンプラン

発症した場合、グルコサミンなどのサプリメントで症状を緩和する、臓器に負担をかける鎮痛剤を一生使い続ける、低線量放射線の照射をして痛みの緩和をする、外科手術を行うなどの治療が行われる。しかし、どれも対症療法のみで、根本的な治療法は見つかっていない……。少し厳しい言い方になるが、生涯痛みを感じ続ける生き物を“面白くかわいい外見”を求めた人間が、生み出してしまったのだ。