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【社説】

学力テスト 先生に考える「余裕」を

 基礎に比べると応用は苦手。文部科学省の全国学力テストの傾向は十年以上変わっていない。全校調査に何十億円も投じるよりは、先生に指導法を編み出す「余裕」を与える算段をしてはどうか。

 小学六年と中学三年の全員を対象に四月に実施した調査では、国語、算数(数学)ともに、応用力をみるB問題の平均正答率が、基礎的な知識を問うA問題の平均正答率を12~19ポイント下回った。中学の数学ではAが66・6%に対してBは47・6%と50%を割り込んだ。

 この傾向は二〇〇七年の開始以来続いており、学校や自治体の努力では限界がある。

 そもそも競争を過熱させるとし廃止された全国調査が四十三年ぶり、〇七年に復活したのは応用力低下への懸念からだ。来年度以降、AとBを統合する方針というが、これまで「応用」を別建てにしていたのは、そこに重点を置いていることを現場に伝えるためだ。

 当時、経済協力開発機構(OECD)が世界の十五歳を対象にした〇三年の学習到達度調査(PISA)で、日本の「読解力」が八位から十四位に転落したことの波紋が広がっていた。「読解力」とは、社会に出たときに身につけた知識や技能を使って問題解決ができる能力とされる。

 文科省は今回、結果の公表を一カ月前倒しした。夏休み中に教員が結果を分析し、二学期からの授業に生かしてもらうのが目的という。だが猛暑のさなかに、教員に数字とにらめっこさせることが果たして子どもの応用力を引き出す授業づくりにつながるだろうか。

 日本の学力観に大きな影響力を及ぼしたOECDは最近、日本の教育政策を検証する報告書を公表した。教員の教えている時間はOECD諸国の中で比較的短いのに、労働時間は最長の部類に入ることを指摘。教員の業務を軽減する手段を見つけ、教える能力を伸ばしていく時間を確保する必要性を訴えている。

 OECDのPISAや全国学力テストが求める学力が「正解」とは限らない。だが今まで以上に先の見えない社会を生きる子どもたちに必要な力を育みたいと本当に考えるならば、教える側の経験の豊富さや懐の深さにかかっている部分も大きい。

 応用力の「壁」に一穴をあけるには、教員の独創性を引き出す環境づくりが必要だ。生まれた熱意と工夫に、子どもたちは目を輝かせてくれるのではないか。

 

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