東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社会 > 紙面から > 8月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【社会】

教育現場に企業の理屈 識者「学生は従業員の位置付け」

報道陣の前で謝罪する東京医科大の宮沢啓介学長職務代理=25日午後、東京・霞が関で

写真

 東京医科大が一般入試で受験者の得点を操作し、女性の合格者数を意図的に抑制していた疑惑が持ち上がった。離職率が高い女性よりも男性の医師を確保したいという思惑が透けて見える。病院経営という「企業」の理屈を教育現場に持ち込んでもいいのか。「一部の私立大は男性の方が合格しやすい」。東京医科大に限らず、こうしたうわさは以前から絶えず、徹底解明が求められる。

 文部科学省の学校基本調査によると、医学部の女子学生は一九八七年度は全体の18・8%だったが、十年後の九七年度は30・0%、二〇〇七年度は32・6%となった。一八年度速報値でも33・3%と微増した。国家試験合格者も一八年は九千二十四人中、女性は三千六十六人と34%を占めた。

◇女子学生33%

 一方、医師になっても休職する女性が男性よりも多い。厚生労働省のデータによると、通常三十代後半を迎える医籍登録十二年後の就業率は、男性が89・9%なのに対し、女性は73・4%と、15ポイント以上の差がある。

 日本医師会が昨年、全国約八千五百の病院に勤務する女性医師を対象に行った調査では、回答した約一万人のうち約半数が「休職や離職の経験がある」とし、最も多かった理由が出産と子育てだった。

◇学力差はない

 本来、同一の大学を目指す男女に大きな学力差はなく、合格率は同程度になるはずだが、そうでない大学もある。医療関係者の間では「私立大では女性の点数を削っているのでは」と以前からささやかれてきた。

 医大は教育機関としてだけではなく、多くの付属や系列の病院を抱え、医師を送り込む組織だ。NPO法人医療ガバナンス研究所(東京)の上昌広理事長は「倫理的に許されるかは別」と断った上で「大学は経営の観点から、女性の割合を調整せざるを得ないと考えているのだろう」と指摘。「入学イコール入社のようなもので、学生は従業員の位置付け。辞める可能性が高い女性よりも、男性がほしいというわけだ」と解説する。

 大学病院で勤務経験のある医師は「結婚や産休を考えると、救急など不規則な勤務の現場では使いづらい。女子学生のほうが一生懸命だし、能力も確かだが、医者になれば男のほうが使いやすいというのが共通の空気」と明かした。

◇膨大な仕事量

写真

 一方、学生側の怒りは収まらない。医学部・歯学部専門予備校メルリックス学院(東京)の田尻友久学院長は「女子生徒は医師が大変な職業だと承知して医学部を目指している。いくらなんでも乱暴だ」。ある医学部に通う女子学生は「必要悪ではなく、悪でしかない」と憤った。

 ただ、医療現場の労働環境は依然として厳しいという問題が横たわる。厚労省は二月、負担軽減の緊急対策をまとめた。柱は診断書の入力など一部の業務を他の職種に任せるタスク・シフティング(業務移管)の推進。三月に都道府県などを通じて病院に周知したが、六月上旬までに検討を始めたり、取り組みを始めたりしている公立や私立の病院は26・8%で、大学病院は30・3%にとどまっていた。

 ある厚労省職員は「女性医師が働き続けられるような支援は必要。ただ、その前に医師の膨大な仕事量を解消しなければならない」と指摘した。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】