深夜レストラン「おかまとおなべの狂想曲 」短編
ここは東京・新宿の深夜レストラン。様々な人が訪れる。
とある夜は無銭飲食が来て。明け方に新宿警察署まで同行したりした事があった。明け方に外に出ると、吉本の若手芸人が打ち上げで盛り上がっていたりしたこともあった。芸能人もよく訪れるお店で結構な人数の有名人を見たかもしれない。それはさておき。
その当時のオレは何故か変な人にモテた。
変な人に好かれるのは今も変わらないか(笑)
ある夜のこと、黄色いスーツを着た派手だけど短髪でメガネをかけたシュッとした男と、赤のボディコン女と青いボディコン女の3人組のお客様が来た。それにしても派手だ。ディスコかクラブにでも行ってきたのだろうか。羽振りも良さそうだった。
三人はいくつかの料理を注文した。その中にエビの姿煮があった。大きなエビの皮を剥いて食べるのだが、少し食べにくい。
「 すいません、これ剥いて頂けますか?」
黄色い男がそう言った。
いつもならナイフとスプーンでサーバー(取り分け)するのだが、この料理は手で剥かなければいけない。
「 この料理は手で剥きますがかまいませんか?」
「 構いません。是非そうしてちょうだい」
ん、なんだこの男、ゲイなのか?!
という事は、これもわざと頼んでいるのか?!
オレは言われた通りにお客様の横でエビを剥いてお出しした。
黄色い男と赤い女と青い女がニヤニヤと笑っていた。
パントリーに戻ると先輩が
「 お前、狙われてるな(笑)」
「 先輩、冗談やめてくださいよ、なんかマジみたいっす、、」
その三人が食事をしている間は何故かずっとそわそわして落ち着かなかった。
三人の食事が終わり、精算を済ませる時に黄色い男がオレに声をかけてきた。
「 あの、おニイさん、良かったら今度、僕達と食事にでも行かない?この女たちも一緒だし、おニイさんのこと気に入ったから」
「 ありがとうございます。でも、お客様、そういうことはご遠慮いただいております」
ここは普通の深夜レストランだ。お客様からお誘いを受けるなんて、、しかも男から。
「 そう、じゃぁまた来るわ」
そう言って3人組は帰っていった。
そしてその日の深夜の三時を過ぎた頃だった。またその三人が来店したのだ。
「 おい、またあの三人が来てるぞ。お前完全にロックオンされたな(笑) オーダーとってこいよ」
「 やべぇ、マジっすか、、」
仕方なくオレはオーダーを取りに行った。
「 ご注文はお決まりですか?」
「 あなたのオススメのものでいいわ、何がいいの?」
「 アワビの冷菜はいかがですか?」
「 じゃあ、それちょうだい」
アワビの冷菜は無駄に高い料理だった。もう来ないでくださいというオレの意思表示だ。
「 お前エグいな(笑)」
「 せめて売上に貢献してもらわないと、です」
オレは一呼吸置いてそう言った。
オレは普段、お客さまにはリーズナブルな料理をおすすめしていたが、売上が取れるお客様には遠慮なく高級料理を勧めていた。高級料理もある程度出さないと、素材が悪くなってしまう。
それから、お金がある人にはお金を気持ちよく使ってもらう。これもサービスのひとつだ。お金を使う快楽、贅沢をする快楽を知っている人へのサービスだ。オレはそう自己正当化していた。
閉店時間になったがまだ三人組は店にいた。ラストオーダーを取って、先に精算を済ませてもらった。帰るときにまた誘われるんだろうなと思っていた。
「 ごちそうさま、ほんとに今度1度でいいから遊びに行こうよ」
「 お客様、申し訳ございません(ニッコリ)」
正直きれいな女性だったらOKしていたかもしれないが、相手は男だ。ほんとに参った。あとの二人の女もタイプの女というわけでもないし。
この3人組は、その後も毎週のようにお店に来るようになり、オレはその度にカラダから変な汗が出て怯えることになった。
また三人で食事に来ていた。
俺はもうある程度慣れていたから普通に接客できるようになっていた。それが油断した原因だったかもしれない。このレストランは従業員もお客様も同じトイレを使う。俺が休憩中にトイレに入った時にその事件は起こった。
トイレの個室から出ると、黄色いスーツの男が立っていたのだ。
やべぇ・・・
「ねぇ、今度みんなで横浜に行こうよ。全部おごるからさ」
「すいません、無理です。そういうのはお断りします」
そう言ってトイレを出ようとした時、グイッと思いっきり腕を引っ張られたのだ。
バリバリバリ!!!!
いったい何が起こったのか、自分でもわからなかった・・・
自分を見てみると、スタッフの制服の前ボタンがバリバリに取れていた。女の子が無理やり襲われる時ってこんななのだろうか?
オレはやけに冷静になってそんなことを思っていた。
「ごめんなさい・・・」
黄色い男も予想外の出来事に萎縮してしまったようだった。
休憩室に戻るとほかのスタッフはビックリしていた。
「大丈夫か?襲われたのか?!」
「たいしたことないです。また遊ぼうって誘われたんす」
「モテるねー(笑) 制服貸しなよ」
ユイ先輩がササっと制服のボタンを直してくれた。
「わぁ、ありがとうございます。ほんとシャレになんないですよ」
「君は変な人にモテるね」
ユイ先輩はそう言って笑った。
ユイ先輩の笑顔を見ると幸せになった。
その後もゲイの黄色いスーツの男はときどきお店にやってきたが、しつこく誘われることはなく良いお客様になってくれた。そのうちこなくなったから、きっといいボーイフレンドでも出来たんだろう。
(完)
と思いきや、今度は青いスーツの女に言い寄られ、何度かプライベートで飲んだりした。俺はユイ先輩が好きだったため付き合ったりすることはなく、青い女はちょっと狂ってしまって、そのうちお店にも来なくなった。
(了)