人力で、お湯に、大量の、麦芽を、入れる……! いまこそ心に刻もうビールの造られ方を!
私は毎晩飲む。わりと酒量も多い方だと思う。飲むのはビールだけだ。酒が好きなのではなくビールが好きなのだ。
しかしこだわりのないたちでビールのことにはまったくうとい。とくに造り方だ。 あんなに日々飲んでいるのに何も知らない。ちょっと聞いてもつい忘れる。乱暴な物言いになるが飲むこと以外興味がないのだ。 そんな粗暴な私が、ビールの製造について知るチャンスがやってきた。ここで知らなければおそらく一生知らないままだろう。 背水の陣で挑む、ビールの醸造所見学である。
1979年東京生まれ、神奈川、埼玉育ち、東京在住。Web制作をしたり小さなバーで主に生ビールを出したりしていたが、流れ流れてデイリーポータルZの編集部員に。趣味はEDMとFX。
前の記事:「みたことがない食べ物を10品集めたら話題性がすごかった」 人気記事:「決めようぜ最高のプログラム言語を綱引きで」 > 個人サイト まばたきをする体 Twitter @eatmorecakes 朝の5時、黙って静かにホップを摘むビール造りについて知るチャンスが急に訪れた、というのも、ビールを作ることになったのだ。プロと一緒にビールを作って売る。
ビールは大好きだが造られ方についてはまるで無知で学ぶ根性もない、そんな私にとって最高の荒療治チャンスが到来したかっこうだ。こんなにも嬉しくありがたいことはない ということで、ある日の朝の5時、世田谷の住宅街にやってきた。5時……?
ど早朝にやってきたここ、ホップ畑である。
世田谷の住宅街にこんな場所があるのか。 あ、ホップだ…! ビールのCMで見たことあるやつ!
こんなふうにひょろひょろと育つ植物だったのか(今日は同僚3人と一緒に来ております)
今回のビール造りを仕切ってくださるのは「ふたこ麦麦公社」というビールメーカーさん。
「フタコビール」という、二子玉川発をコンセプトにしたクラフトビールを作っている会社だ。それでホップを本当に二子玉川で作っているのだ。 ふたこ麦麦公社の代表、市原さん
市原さんは代表ということなのだが、バリバリの現場派であった。だって朝っぱらからホップ摘んでる。聞けばたった2人でなにからなにまでやっているブルワリーなんだそうだ。そんな少人数でできるものなのか……(この疑問はのちほど解けます!)。
住宅街のため、ご近所迷惑にならないよう私語は禁止、業務連絡も超小声かアイコンタクトである。「ビール造り」という言葉からは想像できない朝だが、もくもくと作業をしていると少しだがビールのような香りがする。 静かな収穫作業。ホップは葉が腕にあたるとかぶれてかゆくなるので要注意だそうだ。
なんでまた早朝から摘んでいるのかというと、これから茨城県に2時間かけて運び、そこで8時からタンクを使っての仕込みをはじめるから。
「ホップ」というものの実態をこの目で確認し、底辺だったビール偏差値がいきなり10くらいは上がったところで1日がはじまった。 「ファントム方式でビール醸造してんだ」って言いたい今回われわれが造るビールは600リットル。
「フタコTV」という、当サイトの運営元であるイッツコムのイベントのオリジナルビールとして販売することになっている。 必要量として一般的なゴミ袋くらいの大きさのポリ袋換算で2袋ほどのホップを摘んでジッパーバッグで密閉すると、車に積み込んで無事に茨城県の那珂市へやってきた。 予定通り8時だ。 ビューンと那珂市にあるクラフトビールのブルワリーでもある酒蔵へ
あっ! これ!
かわいいフクロウ、見たことあるマークだ。ええと、なんだっけ、なんだっけ……。
そうだ、「常陸野ネストビール」の木内酒造だよ!(写真はビールテイスト飲料の「常陸野 ノン・エール」)
造られ方に関しては素人だが、こちとらビールはもう20年弱飲んで暮らしているのだ。木内酒造の「常陸野ネストビール」は超おなじみだ。
発砲酒や第3のビール的な日常使いのビールがある一方でちょっといいことがあったときなんかに買う、いわゆる「良いビール」である。 え、でもなんでそんなビール界でも超有名な醸造所にやってきたのか。 慣れたようにぐいぐい市原さんは仕込みの窯のあるスペースにまで入っていく
じつは、ふたこ麦麦公社は「ファントムブルワリー」といわれる種類のビールメーカーなのだ。
ファントム方式というのは、自前の醸造所を持たず、醸造をほかのブルワリーに委託してビール造りをすることを言う。 ふたこ麦麦公社は木内酒造に醸造を委託している、ということだ。それで少人数での運営も可能なのだ。 ファントムって英語で幽霊のことだろう。委託することを幽霊というのである。 おしゃれかよ……! 仕込につかう三つの窯も……
発酵や熟成を行うタンクも、僭越ながら幽霊となって木内酒造のものを使わせていただく
強引かつ雑な結論:ビールは「水」だ!ここで木内酒造の醸造士である宮田さんが合流。市原さんの師匠のような立場の方だ。
我々にも丁寧にいろいろ教えてくださった宮田さん。フクロウのTシャツがいかす
ビール造りの準備は万端、あとはとうとうと見たことをお伝えするのみなのだが、せっかちな読者のみなさまに向けこの日の重大な感想を最初に述べてしまいたい(なによりも私がせっかちなのだ)。
それは、 ビールは水から作る……!
ということだ。 殺菌の終わった窯に入っているのは……お湯……!!
窯にまず入れるのは、お湯であった。
そうだ、ビール=麦のイメージではあったが、ジュースのように麦を絞って作るわけではないのだ。 見てはじめて、ああそうか、ビールはまず水から作るのかと理解した。ビールをどう作るか、そもそも想像をしたこともなかったのだ。 で、もういきなりざっくり言ってしまうと、ビール造りの工程は、こうだ。 ・水に麦芽を入れて煮る(麦芽=発芽し始めの麦を乾燥させ粉砕したもの)
・その水をろ過する(麦の粕を除去する) ・その水にホップを入れる(香りづけ) ・その水に酵母を入れて発酵させる(アルコールよ目覚めよ) ・その水を熟成させる(後発酵ともいう、粗くて未熟な味が整う) ・その水こそが、ビール ビールというものは水をベースになんやかんや、ヤーヤーやって作っているのだ。
よく、暑い日に「ビールは水みたいなもの」などと言う冗談があるだろう。あれ、半分くらい合っていたのである。だってビールってめっちゃ水から作ってんだもん! 水! という衝撃とあとはもう一つ。「人が作っている」というのを目で見られたのも大きかった。 水を個性豊かなビールへと変貌させる人の手腕たるや、だ。上記の各工程は素人目にもかなりテクニカルに精密に行っていた。 ビールの種類ごとにかなり精密なレシピがあり市原さんも厳しくチェックしていた
各工程、分かりやすくザクっと紹介していきますせっかちがゆえに先にものすごく雑な感想を述べたが、ここであらためて各工程の様子を(今回目撃できた「煮沸」までの工程ではあるが)レポートしていきたい。
次ページへ続きます。
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