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おっさん冒険者ケインの善行 作者:風来山

第一部 第一章「剣姫アナストレア」

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2.突然Sランクパーティーから誘いがきた

「うーん、よく寝た」


 ケインは、いつもの安宿で目を覚ます。


「昨日は最高だったな」


 なにせ銀貨三枚の臨時収入があった。

 薬草採取の仕事は終わらせて、合わせて銀貨四枚。


 行きつけの酒場で、ソバージュ草を茹でて荒塩をぶっかけた料理をツマミに、キンキンに冷えたビールをぐいっとやれた。

 知り合いのCランクパーティーが苦労してビッグベアーを狩ったらしく。


 気が大きくなってたんで祝い酒を振舞ったら、美味しい熊肉の丸焼きのご相伴にも与れた。

 まさに豪遊だった!


 遅くまで酒場のマスターと飲んでたら、なんかマスターが健康に気を使い出したらしく。

 散々飲んで食べたのに、採ってきたクコの実を全部あげる代わりに、払いが銀貨一枚で済んだのも嬉しかった。


「これは今日もツイてるかもしれないぞ」


 手元にこれだけ金があるんだから一日ぐらい休んでもいいんだけど、久々にたくさん肉を食って元気いっぱいだ。

 こういう時こそ積極的に動くべきだろう。


「めざせ、夢の庭付き一戸建てってな」


 まあ、後十年ぐらいしたら冒険者も引退だろうから。

 それまでにささやかな家を買えたらいいなと、ケインは思っている。


「後は嫁さんとか、子供とか……いやいや、贅沢いっちゃいけないね」


 昨日は久しぶりに思い出してしまったが、二十年前に死んだ仲間のアルテナがもし生きてずっと一緒にいたら、あるいは所帯なんかを持ってたのかなと、ケインはつい思ってしまう。

 幼馴染でずっと一緒にいただけで、ちゃんと恋人同士だったわけではないから、それは考え過ぎかもしれないけど。


 なにせ二十年も昔の話だ。

 ケインだって、アルテナにみさおを立ててるわけでもない。


 だけど、なんとなく三十五歳のこの年まで、彼女いない歴を重ねてしまっているケインである。


 今日も街の冒険者ギルドに入って、真っ先に受付に向かう。


「おはようございます。エレナさん」


 いつもケインを担当してくれている受付嬢はエレナ・チェーン。

 こんな人が嫁さんになってくれたら最高だろうなーというチャーミングな女性だ。


 桃色のゆるふわな巻き髪に碧い瞳。

 すげーでかいおっぱいで、谷間が見えちゃう際どい服を着てるんだよな。


 でもそれでいて、どこか清楚でスマートな上品さもあるというか。

 あー今日も、エレナさん可愛いなあと、デレデレと鼻の下を伸ばしているケインである。


 確か歳の頃は二十代後半なのに、二十代前半ぐらいに若く見える。

 そんな美人の受付嬢エレナさんに、今日のオススメの仕事を尋ねる。


 どうせまた薬草採取を勧められるんだろうと思って聞いていると、エレナは妙なことを言い出した。


「おはようございますケインさん! 今日は、凄いお話が来てるんですよ! 前からパーティー組む仲間が欲しいって言ってましたよね」

「それは言ってましたが」


 ケインみたいな三十代半ばでまだDランク冒険者をやってるような男と組みたがる、酔狂なパーティーが居るとは思いもかけなかった。

 もしかしたら、昨日のCランクパーティー『熊殺しの戦士団』が俺を気に入って仲間に入れてくれるとか!?


 ケインは思わず、椅子から腰を浮かせ気味に身を乗り出す。


「あの有名なSランクパーティー『高所に咲く薔薇乙女団』から、ケインさんに加入要請が来てるんです!」

「……いやいや、いやいやいやいや、それはないでしょ!」


 なんだと、がっくりと腰を下ろしたケインは、手を横に振る。

 Dランクの冒険者ケインは、ゴブリンが狩れるぐらいの実力しか無い。


 取り柄といえば、クコ山にばっかり行ってるから薬草の目利きが人よりできるぐらいか。

 それとて、植物図鑑を持ち歩いていれば済むだけの話である。


 まさか、天下のSランクパーティーが薬草狩りでもあるまい。


「でも、あの有名な剣姫けんきがいるパーティーなんですよ」

「いやー気が引けます。『高所に咲く薔薇乙女団』って、どう聞いてもこんなおっさんが行くとこじゃないでしょ」


 それを聞いてエレナは、「えっ」って顔に疑問符を浮かべる。


「もしかして、薔薇乙女団のこと知らないんですか?」


 たまにケインさんは抜けてることがあるからなあと、エレナは慌てて説明する。

 Sランクの神速の剣姫と、純真の聖女と、万能の魔女がいる最強パーティーで、誘いを受ければどんな男だってすっ飛んで行くような好条件なのだ。


「いやあ、めちゃくちゃ強い上に十代半ばの若い女の子三人だけのパーティーってことでしょう。余計に気が引けますよ」

「そう言わずに、話だけでも聞いてみてはいかがですか」


「うーん。考えてみたんですが、やっぱり何かの間違いじゃないんでしょうか。ケインなんて名前の奴はいくらでもいますし」


 ケインがそう言うと、受付嬢はクスリと笑う。


「……そうですよね。失礼ながら、実は私も書類のミスなんじゃないかと思ってました。ただギルドとしては、加入要請があったら一応ご紹介しないといけないので、ケインさんをぬか喜びさせてしまって申し訳ありません」

「いやいや、謝らないでください! エレナさんは全然悪くないですよ。じゃあ、いつものやつお願い出来ますか」


「はい、いつものです」


 そう言って、可愛らしい笑顔でエレナは依頼書を渡してくれる。

 もはや、ケイン専用に用意されていると言っても過言ではない薬草採取のクエストだ。


 どうせ『銀貨一枚でクコ山で薬草を山盛り取ってこい』なんてつまらない依頼は、ケイン以外誰も引き受けない。


「じゃあ、行ってきますね」

「気をつけて行ってらっしゃい。夕方には帰ってらしてくださいね」


 こうやっていつも、エレナさんに笑顔で送り出されるのが。

 まるで夫婦みたいで、ケインは少しくすぐったい気持ちになるのだ。

切りの良いところまで毎日更新でがんばります。

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