俺は超越者(オーバーロード)だった件 作:コヘヘ
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ユグドラシル時代、後期。もはや覚えていないに等しい『前世』を思い出した三年前より前。
『アインズ・ウール・ゴウン』のギルドメンバーが実質、四人だけだった頃。
ほぼ一人だった俺は、超級守護ゴーレムを引き連れて毎日ダンジョン等に突撃し、
モンスターやアイテムを狩り尽くしていた。
…その頃から、ほぼ毎日、俺に会う度に、『貧乏魔王』と揶揄ってくるプレイヤーがいた。
『大魔王モモンガ行動予測スレ』で俺の行動が解析されていない時代から、
無人魔王スクロール販売所の『魔王警報』も出していない頃から、
ほぼ『毎回』俺を煽ってくるプレイヤーがいた。
最終日二日前のダンジョン突撃の際にも煽って来たのでPKしたが、
その日も『魔王警報』を出していないのに現れた。
彼女は、人間のプレイヤーだった。
片眼鏡をかけた黒髪の何か賢そうな化身(アバター)だった。
執拗に嬉々として俺を煽るので、何やかんやで良く見知ってはいた。
彼女の断末魔は、いつも滝に突き落とされたような悲鳴をあげる。
見た目は美少女が、だ。
俺は傍目からすれば『魔王』というより『外道』にしか見えない。
だが、俺は『彼女』に一言、煽られればそんなこと一切気にせずに即殺する程、
ある意味奇妙な『友情』を感じていた。
…『彼女』の行動はよく考えるとおかしい。
俺は『魔王警報』までは、常にランダムにしていたし、
変態解析者達が集まる『大魔王モモンガ行動予測スレ』すらも予測できなかった。
しかし、『彼女』はできた。
『天才』だったのだろう。
あそこまで完璧な行動予測は、ラナーくらいじゃないと無理だ。
ラナーやデミウルゴスですら、俺の『旅』に関しては読み違えていたが。
完全に才能の使いどころを間違っていると俺はツアーの話を聞くまで思っていた。
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…『貧乏魔王』と遊び過ぎた。
未知の『世界』でLv30台。…この弱さは致命的だ。
だが、もはや死んでも良い程この『世界』は美しい。
夜空も星空も空気も自然も有り得ない『世界』。
それは、空想でしか見ることができなかった。
私の『夢』だった光景。
…『世界』を知ろう。『旅』をしよう。
私は未知を知るただの、一人の『学者』だ。
『未来』のない救いのない『研究』に人生を捧げたくなくて良い。
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『旅』で知った。この『世界』は歪だ。
力を持つのに、腐敗した権力に立ち向かわず忠誠を誓う『勇者』。
『人間』を守るという大義名分で全てを殺し尽くす『宗教』。
それらをただ妄信する『民衆』
『世界』はこんなにも美しいのに。…誰もそれを見ようともしない。
ならば、無理やり『世界』を見て貰おう。
『悪』を作り、『英雄』を使い、『民衆』を熱狂させる。
私が『黒幕』として幕を閉じる。
…『貧乏魔王』ならどうしただろうか。
『旅』の結果、私の本質は『邪悪』なのだと理解した。
このような『結論』になるのだから。
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『私』は『僕』へ、『学者』から『教授』となった。
『教授』の方が、誰かを教えるのには最適だから。
『僕』にした方が全て偽れるから。
僕はアイテムを使い変身する。『人化の指輪』。
普通は異形種が人間になるために使うが、人間が使えば完璧な変装道具になる。
主のいない『ギルド』のNPC達にこう吹き込む。
「お前達の主は『世界』に殺された」
憎悪の目で僕を見る。
だが、わかりやすい。
「『世界』は腐敗で満ちている。
だから、一度壊そう。君たちなら簡単だ。
壊して壊しぬいて、『世界』に復讐するんだ。
きっと主もそれを望んでいるよ」
彼らがしたくてもできなかったことを肯定する。
そして、導く。
「バラバラに『世界』を襲うんだ。そうすれば、誰も防げない。
君たちは強いからね。簡単な理屈だろう?」
半分本当で半分嘘だ。
彼らに勝てる存在はこの『世界』には、ほぼいない。
これから作る。探す。見つける。
僕は、『憎悪』を『世界』に撒き散らした。
『魔神』が作れた。
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次は、『英雄』だ。
立ち寄った村で弱いプレイヤーがいた。…Lv1だった。
子供並みに弱く、彼は『世界』を嘆いていた。
だからこそ『英雄』にはふさわしい。
弱い『人間』が強くなり『英雄』になる。
きっと民衆も『希望』を湧いてくれる。
『時代』を変えてくれる『希望』を抱いてくれる。
僕は声をかけた。
「ねぇ、君もプレイヤーだろう。
僕と『仲間』になろうよ。
この『世界』はね。とても綺麗なんだ。
だから、君も強くなればきっと、『世界』を見る『余裕』ができるよ」
これは『本音』だ。
僕は彼に手を差し出す。
…彼を導こう。その憎悪の目で、美しい『世界』を見て貰おう。
きっと理解してくれるはずだ。
「何故、そこまでしようとする?見も知らぬ俺を」
彼は言った。
「僕は『教授』だ。教え導くのは当然だろう?
一緒に行こうよ。だって、一人は寂しいでしょ?
君と僕とならパーティーだよ。ほら、行こう」
無理やり手を握り、引きずる。
Lvの差だ。簡単だ。
この『世界』では、男女の差など意味がない。
「わ、わかった!自分で歩くから!やめろ!!」
『彼』はそう顔を赤らめて叫んだ。…風邪だろうか?
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僕らは『旅』をした。
色んな場所を、『世界』を見た。
『仲間』を増やした。
老婆、鎧、巨人、半悪魔、ドワーフ、エルフ、人間…
沢山の『仲間』と『旅』をした。
皆に『世界』を見て貰った。
『未来』を『教授』するのだ。
僕は楽しかった。
…仲間に、『貧乏魔王』がいないのが、寂しかった。
僕の話を一切聞かずに、問答無用で切りかかるような『アホ』が欲しかった。
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僕たちの『旅』の途中には『魔神』が現れ『世界』を壊す。
僕たちはそれを倒して、次の『旅』に出る。
『民衆』は『それ』を語る。それを生かすのはまだ先だ。
ドワーフ等もその『旅』の途中で着いてきてくれた。
僕が語る『未来』を皆が聞いてくれた。
もうここまでできれば問題ない。
後は、もっと壊せば良いだけだった。『体制』にまで及ぶ『破壊』を
…そのはずだった。
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『白銀』は『竜王』だった。
何かを隠していると思っていたが、『想定外』過ぎた。
『世界』最強の存在が身を隠して『旅』をするのは想定外だった。
そして、『竜王』は語った『八欲王』のギルド武器を。
『未来』の危機を。
「あのギルドは強者が相手だと、全力になる。私のような『強者』では中には入れない」
かつて、『八欲王』と戦っただけあって詳しい。
「だが、かつての私の『友』は言った。
『初見の低レベルでなら油断して攻略できる。あれはダンジョンのままの糞雑魚』と。
…要するに言い方は酷いが君たちなら可能なんだ。既に内部情報はある」
…それを言ったのは、多分プレイヤーだ。
確かに『八欲王』が『あいつら』なら攻略したてのダンジョンでもおかしくない。
「『世界』を崩壊させる可能性は摘みたい。
『教授』がいつも言っていたように、君たちには『技術』や『経験』がある。
時間さえあれば、容易だろう。
『教授』は口が上手いからね。時間を稼ぐのは問題ないだろう?
…『ギルド武器』さえ奪えば、もう誰も失う恐怖を味わうことはない」
『正論』過ぎた。
…僕が、『教授』が『竜王』を唆せば、そういう発想になる。
僕は『八欲王』のギルドに関しては、『九つの天使』でなすつもりだった。
断罪の剣で自らもろとも消し去るつもりだった。
修正は不可能。皆ノリ気だ。僕が後にしようというのもおかしい。
…もはや、僕たちは『全て』を成し遂げることにした。
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『八欲王』のギルドには僕一人で『プレイヤー』という肩書を使い、交渉した。
僕にとって、『言葉』のみなら時間を稼ぐことは本当に容易だ。
まして、相手は絶対者。こちらを侮らないわけがない。
こちらには低レベルとはいえ『忍者』がいた。
…隠蔽や攻略は不可能でなかった。
僕以外を全て攻略に当てた。
最終日直前、ワールドチャンピオンが突発的に作ったギルドだから、
ギルドはダンジョン当時そのまま。しかも内部情報まで『白銀』は持っていた。
だから、隙がわかる。油断していればなおさら。
あの『貧乏魔王』のナザリック地下大墳墓でさえ、
NPCや罠がなければ、Lv30の集団で攻略可能なのだ。
ワールドチャンピオン達の杜撰なギルドなら容易だった。
…プレイヤーが一人でもいれば、詰んだのはこちらだった。
プレイヤーがいつもいることを前提にした警備だった。
パスワードも何もない。
初見の集団が、隠蔽さえできれば出入りできた。
八欲王は、NPCを『人』と見ていないとわかった。
『ギルド武器』を奪い、動けば壊すと脅す。
彼らの、NPCの、恐怖の可能性を、ギルド崩壊を行うと僕は宣言した。
主のいない、八欲王のNPCは従った。
...思えばこの時、やり過ぎた。
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リーダーは言った。
「君は『世界』を愛しているが、誰も愛していない。
…一人だけいるが、この『世界』にはいない。
だから、せめて、俺が…ここで終わらせる」
バレていた。
この『世界』は美しいが、この『時代』を、『人』を愛せない。
『白銀』もリグリットもわかっていた。
僕は『教授』だから、客観的にしか『愛』を語れないことを。
八欲王の拠点を攻略した『会話』で気づかれた。
何より、主観的な『愛』があったら騙せない。皆を。
だが、彼の言う『一人』とは誰だ?
僕は、『他者』を愛したことはない。
誰も相手にしてくれなかったから。かつての『世界』では。
そんなことはどうでも良い。
『世界』を守るありとあらゆる手段を模索する。
…僕には『白銀』が殺しきれない。『目撃者』を殺せない。
何より『仲間』を殺せない。
...詰みだ。
後、一歩で、『時代』を壊せるのに。
『未来』を叫んだ。『死』など計算済みだ。
だから、もう少しだけ時間が欲しい。騙されて欲しいと。
…完全に無理だと悟った。
彼らはこれ以上の『破壊』を決して許さない。
…ならばここで幕引きだ。
隠し持っていた、ワールドアイテム『ギャラルホルン』を自分に向けて使う。
超位魔法『神の化身召喚(コール・アヴァター)』を滅茶苦茶に『強化』したそれ。
本来はユグドラシル最終日に来てくれるかもしれない『魔王』に使うつもりだったそれ。
…『魔王』は来てくれなかった。
終焉の『九つの天使』が現れ、僕に襲い掛かる。
これは本来であれば、『黒幕』を貫く『断罪』の象徴。
まだ、その時じゃない。あと少しだった。
…『民衆』も意識を変えつつあった。
だが、使う。これ以上無意味だから。
ここで死ぬ。恐怖はない。
だが、私はもう一度会いたかった。
…誰と?