自閉スペクトラム症の人が「見ている世界」をVR体験!コミュニケーション障害に影響する特有の見え方とは

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コミュニケーションの障害と言われてきた、自閉スペクトラム症。でもその背景に当事者の「世の中のとらえ方・感じ方」が影響しているかもしれないことは、今まであまり語られてきませんでした。自閉スペクトラム症がある人の、特有の身体感覚を明らかにするために開発されたのが「ASD視覚体験シミュレータ」です。この技術を用いて、当事者の視覚を疑似体験することで、どのような世界の中で生きているかを知ることができるワークショップが東京・大阪で行われています。今回は2017年11月に東京で開催された回をレポートします。

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VRで自閉スペクトラム症のある人の視覚を体験 「ASD知覚体験ワークショップ」が開催

発達障害のひとつである、自閉スペクトラム症(ASD)。これまで、「コミュニケーションや対人関係の障害」などとその特徴が説明されることの多かった障害ですが、その背景に、自閉スペクトラム症のある人に特有の「世の中のとらえ方・感じ方」が影響しているかもしれないということは、今まであまり語られてきませんでした。

そうした、自閉スペクトラム症のある当事者の立場からコミュニケーションの困難さを解き明かし、より良い相互理解・発達障害支援につなげていこうとする学際融合研究プロジェクトがあります。

「CREST認知ミラーリング」プロジェクトと呼ばれるその研究プロジェクトでは、”コミュニケーション”というアウトプットの部分での困難さのみに注目するのではなく、自閉スペクトラム症のある人の”世の中のとらえ方・感じ方”というインプットの部分での特性について着目した研究を行い、当事者の知覚を疑似体験できる技術を開発しました。

そして、自閉スペクトラム症のある人たちが世の中をどのように見ているかをVR映像を通して疑似体験する「ASD知覚体験ワークショップ」を開催しています。この記事では、そのワークショップの様子をご紹介します。
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情報通信研究機構の長井志江先生
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自閉スペクトラム症の人たちが見ている世界を知ることの目的とは?

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画像提供:長井志江
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「ASD知覚体験ワークショップ」では、VR機器を用いて、自閉スペクトラム症(ASD)のある人たちの「視覚」を体験したり、専門家による講義、当事者の体験談映像上映、参加者による座談会など、さまざまなプログラムを通して、自閉スペクトラム症当事者の見ている世界を知り、理解することができます。

自閉スペクトラム症がある人たちの中には、知覚過敏や知覚鈍麻といった「感じ方」の特異性がある人が多いと言われています。それが、自閉スペクトラム症のある人たちに特徴的な行動や、コミュニケーションの難しさの原因の一つになっていると考えられています。

ワークショップでは、疑似体験を通して、特有の見え方となるメカニズムやASD当事者が生活の場面で実際に感じる困難さを理解し、参加者同士で感想や気づいたことを共有します。

当事者や家族だけでなく、支援者をはじめ多くの人たちが、感じ方の特性のために起こる生きにくさや暮らしにくさを理解することで、何が必要なのか・できるのかを考えられるようになるのではないか?と考え、実施されています。

どんな研究がされているの?専門家が解説

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ワークショップでは、認知ミラーリングシステムを用いたシミュレータ開発を行う情報通信研究機構の長井志江先生から、自閉スペクトラム症のある人たちはどのように世界をみているのか?脳のメカニズムや、感じ方の特性について科学的な知見に基づいた研究結果について解説講義が行われました。
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特性により、「眩しい」と感じる度合いや時間が長い場合もある。画像提供:長井志江
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また、実際にどのように世界が見えているのか、映像を見ながら知ることができます。

例えば、暗いところから明るいところに出てきたとき、普通の人よりも瞳孔が狭まるのが遅い、そのために一面真っ白な世界になってしまうという例。「ずっと家にいたい」という理由は、実は外が眩しすぎるせいかもしれません。眩しさへの対策なしに、無理やり連れだされることは、視覚過敏のある当事者にとって苦痛でしかないのです。

また、たくさんの人がいる場所では、コントラストが強くなってしまい、人の顔の印影がとても濃く見えてしまう人の場合、相手の表情の変化をとらえにくくなります。

相手の表情の微妙な変化から気持ちを読み取る力は、子どもの頃から経験を重ねて獲得していくものです。見え方の特性からこの経験の機会が少なくなってしまうことで、気持ちの読み取りがうまくできず、コミュニケーションに影響していることもあります。

また、目に映るさまざまなものの情報がすべて入ってきてしまう人の場合、相手との会話に集中するために視線を斜めに外すことで脳に入ってくる情報を制限し、会話に集中しようとすることがあります。

ですが、その様子を見て「人の目を見て話せない、自信のない人だ」と思われることで、見え方が原因であるにも関わらず”人の目を見られるような訓練が必要だ”とか”自信をつけられるような支援が必要だ”など、誤解をされてしまうこともあります。

このように、具体的にさまざまな見え方・とらえ方のパターンを知ることでコミュニケーションの障害と考えられているものの多くに、特有の感じ方・とらえ方が関係していること、その特性を考慮しないで支援をしても解決はされることは少ないだろうという理解につながります。

VR機器を使って、自閉スペクトラム症のある人の「見え方」を疑似体験!

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専門家による話のあと、参加者は実際にASD当事者の立場になり、VR機器を用いて、見え方を体験することができます。

体験した後は、参加者みんなで、感じたことをシェアします。どんな風に感じたか、どうしたらいいのかなど、さまざまな意見をグループワークで出し合います。
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「自分はよく視線をそらして話を聞くことがあるが、それは直接見ると入ってくる情報量が多いからであって、話を聞いていないということではない」

「(当事者が見ている世界は)コントラストが強く、顔が黒くなるので表情が分かりにくいことが分かり驚き。人の顔をあまり見ない理由の一つなのか」

「ASDのある人とそうでない人との、根本にある身体的な違いを理解することで、定型発達の人に合わせるのではなく、その違いをサポートするものや配慮の必要性を感じた」


など、疑似体験を通して、相手の目を見て会話をすることが難しい背景に「見え方・とらえ方」の特性があることが分かれば、どのようなコミュニケーションをとるとよいのか考えるきっかけになる、という声が挙げられました。

脳に入ってくる情報の取捨選択が難しいことで、見え方にノイズが起きてしまう。それならば、掲示物や雑音などの刺激を減らした、静かで落ち着いた屋内で支援をすることで、学びやすくなったり生活しやすくなるということが、疑似体験を通してよりリアルに理解できます。

また、支援者からは「他の子どもに説明するときのヒントになった」「どのような環境で支援すればいいのかが分かった」という意見もありました。

参加者から寄せられた「障害のある人が、社会の一員として活躍できるよう配慮や理解のあるインクルーシブな世の中にしたい」という言葉にもあるように、感覚の特性を理解することで、どのような支援やコミュニケーションをとればよいかを考え、さまざまな人たちが生きやすく活躍できる世の中にしていくきっかけとして、このワークショップを活用していく必要を、参加者の多くが感じたようです。

「CREST認知ミラーリング」プロジェクトのこれから

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画像提供:長井志江
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「CREST認知ミラーリング」のプロジェクトは、今後数年かけて、さまざまな研究を進めていくそうです。視覚過敏についてのアプリ開発などをはじめ、大学など大きな研究機関でしかできないことを、当事者や家族、学校や企業などに届けていこうとしています。

ワークショップは今後も開催予定。最新のスケジュールは下記のページからご確認ください。
※クリックすると、「CREST認知ミラーリング」のページに遷移します。
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