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【経済】

日銀、長期金利上昇容認に修正 緩和の副作用軽減

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 日銀は三十一日の金融政策決定会合で、これまでの金融緩和策を修正し、0%程度になるよう誘導してきた長期金利の上昇を容認することを決めた。黒田東彦(はるひこ)総裁は記者会見で、0・2%程度の上昇を念頭に置いていることを明らかにした=写真、隈崎稔樹撮影。長引く金融緩和の副作用に耐えられず、修正を迫られた形となった。 (吉田通夫)

 日銀は国債を買い入れることで長期金利が0%程度になるよう誘導してきた。事実上、上下0・1%の変動を認めているが黒田総裁は「その倍程度は変動しうることは念頭に置いている」と述べた。長期金利が上がると、それを基準に決まる住宅ローンなど幅広い金融商品の金利も上昇する。

 政策を修正した理由は、日銀による金融緩和で超低金利が長引き、副作用が目立ってきたためだ。銀行は貸し出しの利ざやが稼げず経営が悪化。国債は金利が低くもうかりにくいため、買い手がつきにくい。

 同時に発表した二〇一八~二〇年度の物価見通しも下方修正。一八年度は1・3%から1・1%、一九年度は1・8%から1・5%、二〇年度は1・8%から1・6%に引き下げた。黒田総裁は、物価上昇率の2%目標について「考えられていたよりも時間がかかる」と説明した。

 また、複数の株式を束ねた金融商品「上場投資信託(ETF)」の買い入れペースについて、現在の年六兆円を縮小する可能性も示唆。買い入れ額は三月末で累計二十四兆円にのぼり、株価をゆがめたり、一部の銘柄で日銀の保有比率が高まりすぎるなど弊害が指摘されていた。

 会合では政策を修正しつつ、柱となる短期金利をマイナス0・1%程度、長期金利を0%程度に誘導する目標を当分の間は維持することを決めた。採決では九人のうち二人が反対した。

◆年金などに不安、消費も伸びず

 日銀が長期金利の上昇を認める状況に追い込まれたのは、超低金利政策で世の中に出回るお金を増やし、多くの人が好景気を実感できるようにする経済の好循環を実現できていないためだ。年金や保険の運用が悪化するなど、人々の将来不安につながった面も政策修正の背景にはある。

 日銀には五年余り前の政策開始時、低金利を続ければ人々がお金を借りやすくなり、世の中のカネ回りを良くできるとの狙いがあった。住宅ローンの借り換えなどは伸びたものの、肝心の個人消費が伸び悩んだのが誤算となった。

 金利を下げたことでお金の価値が下がって円安に向かいやすくなり、円安が増益に直結する輸出企業は過去最高益となった。しかし経営者は利益をため込んで十分賃上げをせず、消費の拡大につながらなかった。

 黒田東彦総裁も三十一日の記者会見で「賃金の上昇が遅れ、消費がやや低迷した」と認めた。

 好循環が実現しないまま、社会保険料はほぼ毎年上がり、最近は生鮮食品やガソリンなど必需品の価格も上昇。預金利息はほとんどゼロなのに、生活防衛のため「現金・預金」の残高は今年三月末まで十二年間、前年度比でプラスが続く。

 日銀による生活意識調査によると、物価上昇は「どちらかと言えば、困ったことだ」との回答が六月でも八割を占め、政策を始めたころからほぼ動かない。低金利政策で物価と景気の上昇を目指す日銀と、人々の意識とのズレは一向に埋まっていない。 (渥美龍太)

 

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