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限界突破☆生産者ケンタ 作者:のきび
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新しい異世界は俺に優しい。

「ケンタさん、ただいま!!」

 立て付けがあまりいいとは言えない木のドアを馬鹿力で勢いよく開けて、元気いっぱいに挨拶し、赤いツインテールをなびかせて入店してきた少女はD級冒険者のレオナだ。

 店主の男は何度静かに開けろと言っても聞かないレオナに辟易しながらも、彼女の笑顔を見るのが好きだった。


「ドアは静かに開けろって言ってるだろ。大体なんで、ただいまなんだよ」

 店主の男がそう言うと少女はヘヘヘと笑いモジモジとする。

 レオナはこの店にすんでいるわけではなく、いつのまにかこの店に入るときの合言葉のように叫ぶようになっていた。


「レオナは声が大きいいのです、大きいのは胸だけでいいのですよ?」

 レオナの後ろからひょこっと顔を出したのは青髪の小人族(ミニム)の女の子だ。130cmの身長は部族の中では長身な方で普通は110cmに満たないと言う。


「クニャラおはよう。今日もかわいいな」

 男はそう言うと少女の魔法使いの帽子を取ると頭を撫でる。

「子供扱いはやめて欲しいのです」

 そうは言うが少女は男の手を振り払わず、なすがままにされている。嫌よ嫌よも好きのうちと言うやつである。そしてこんななりをしているが18歳のレディなのである。

 クニャラが撫でられていると当然レオナは不機嫌になる。自分だけ頭を撫でられないのは不公平だと言わんばかりにクニャラの頭に頭突きをして自分の頭と入れ換えるのである。


「痛いです、嫉妬は子供です」

「私も撫でられたいの!」

 男はレオナの気持ちも知らずに15歳にもなって子供だなと思いながら頭を撫でる。実際男からすると自分の娘ほど歳が離れているので子供なのだが。



 ここで、この男のことを話さなければなるまい。男の名前は葛城 健太郎、通称ケンタは40歳のおっさんで地球人で異世界転移者だ。 エルダートレインと言うゲームで遊んでいた彼は女神に見初められエルダートレインを元にした世界に転移させられてしまった。当然チートとしてゲーム時代のスキルをそのまま受け継いでいたのだが。ケンタは根っからの生産職で戦闘スキルは微塵も持っていなかった。

 しかも、このエルダートレインは魔物使い(モンスターテイマー)が優位な世界でテイマーにあらずば人にあらずと言われるほど人気職であり強いのだ。

 そうなると当然、生産系は不人気になる。装備は魔物を倒したドロップアイテムの方が良いし、稼ぎも良い。生産などやる意味がないのだ。

 だが、運営はそんな現状に救済措置をこうじた。限界突破である。

 通常スキルは100でカンストになりそれ以上は上がらない。だが生産職は限界値を1000とし、カンストした者には特殊スキルを与えると言うテコ入れと言う名の極振りをした。

 しかし、1000に至るまでの道が険しく誰もやらなかった。当然だ、スキル100に至るまでの経験値(くろう)が一万回分でやっと1000になるのだ。当然誰もやらなかったケンタ以外は。

 そして、そんな魔物使い至上主義の世界に来てしまったケンタは引きこもった。だが誰が彼を責めることができよう。戦闘スキルのない彼が戦うなど無理な話なのだから。

 そして、そんなケンタを不憫に思った女神は彼をもう一度異世界転移させた。地球に返せば良いものをわざわざまた違う異世界に転移させたのだ。


 そして転移した先はレベル制の世界だった。


 レベル1 ケンタ


 『神様あなたゲームしたことないでしょ!』とケンタは叫んだ。


 新たな世界で途方にくれたケンタだがアイテムストレージにゲーム時代の資材や武器が入っていることを思いだし、取り合えず先立つものは金だと武器屋に唯のブロードソードを一本を売った。

 唯のブロードソードとは言ってもスキル1000で作った業物だ。スキル値200毎に制作品にランダムで能力を付与できるので5つの能力を付与したブロードソードである。

 ここでケンタは思い違いをしていた。この世界は魔物使い至上主義ではなく人間至上主義なのである。

 そんな世界で付加能力、攻撃力+100% 切れ味増加+50% 炎属性100% 中級魔法:ファイアーボム 中級魔法:ファイアーシュートがついたチート品など持っていったら大騒ぎである。

 そして提示された金額は1000G、エルダートレインでは100Gは千円の価値だったこともあり1万なら何とか宿屋で二泊はできると思い換金してしまった。

 しかし、この世界の通貨価値は1G1万円なのである。しかもあの伝説級の武器なら1億Gはくだらないところを買い叩かれてしまったのだ。


 そしてなんやかんでやケンタは一国一城の主として道具屋を開いていた。

 道具屋とは言うものの武器からポーションまでなんでもござレノ何でも屋だ。

 すべてケンタの自作品なのだがスキルは使わずにレベルで作っているためにほぼゴミのような作品ばかりなのだが。この世界でもスキルは有効なようで普通にスキルで作ると前述のチート武器ができてしまうのだ。


 あの剣は国宝となり、売ったものつまりケンタは指名手配された。しかし指名手配された手配書は似てもにつかぬ物で、自分がやらかしたことを知ったケンタはスキルを封印し、ただの一市民となった。


「ケンタさんボーッとしてどうしたんですか?」


「いや、昔を懐かしんでたんだよ」

 ケンタがそう言うとレオナは頬を染める。ケンタとレオナ、クニャラの出会いは行き倒れの二人を拾ったことから始まった。

 武者修行と称し、田舎から出てきた二人が出会いパーティーを組んだまでは良かったが、いかんせんレベル1どうしでお金無し武装も粗末な短剣にただの木の杖、これでは魔物は倒せない。通常は薬草採取やおつかい等をして小遣いを稼ぎつつそのお金で上位の冒険者パーティーに入れてもらいレベルをあげるのがこの世界の常識だ。

 しかし彼女達は自分を知らないのか最初から魔物に立ち向かい、いつもボロボロで帰ってきた。

 そんなある日、生産ギルドに所属したケンタは新人の役回りとして冒険者ギルドに剣の整備に来ていた。


「お!きょうはケンタが研師か!ケンタがやると切れ味がよくなると評判だぞ」

 そう言うとギルドマスターガノッサはケンタの背中をバシバシと叩く。

 ガノッサはケンタのことをどこかの没落貴族か放逐された次男だとでも思っており。自身も没落貴族で苦労したことからケンタに目をかけている。

 ケンタは何度否定しているのだが、ガハハ分かってる分かってると言ってケンタの背中をバシバシと叩くのだった。

 現代日本人なら貴族のようなものか?とケンタは考えるがニートではないケンタでは貴族になれないのである。


「今日も一日よろしくお願いします」

 ケンタはガノッサに挨拶をすると所定の位置に陣取り道具を開き準備をする。

 冒険者が帰ってくる時間は特に決まっておらずギルド事態は24時間開いている。金のないものなどは併設された酒場で飲まず食わずで寝ていたりする。


 ケンタが準備を整えると縦巻きロールの金髪の女性がギルドに入ってきた。彼女はこの国のトップチーム『鮮血の舞姫』のリーダーミリアでその美貌と強さから冒険者仲間から絶大な信頼を得ている。

「ミリアさんおかえりなさい」

 ケンタがそう言うとミリアはそっぽを向いて無視をする。普段は温厚で誰にでも優しいのだがケンタのことだけは無視をするのだ。それでもケンタはめげずに声をかけることをやめない。

 ケンタは優秀な冒険者は新人に自分の武具は任せず、お抱えの修理工を持っていたりするので、自分はおよびではないと思っているので、特に無視されても悪感情は芽生えないのだった。


 ケンタはこの世界に来て新しいスキルを手にいれた。


 それが魔改造(チューニング)である。これはスキルとレベルを合わせることで上限を越えて武器を強化したりすることなどができる。

 この世界の鍛冶屋が作るものは同じレベルなら品質は皆同じなのだが、魔改造(チューニング)は品質どころか特殊効果を付与することもできるのだ。


 この魔改造(チューニング)を使うことで研ぎも飛躍的に上がり買ったときよりよく切れると評判になるほどなのだ。


 修理も一段落(いちだんらく)つくと、ケンタはヘタリこんでいる冒険者の二人組に目がいった。

 彼女達は駆け出しの冒険者で身の丈に会わないクエストを受けては失敗しており財布のなかはホコリと割引券しかない。


 ケンタはは彼女達のテーブルに行き修理はいらないか聞くのだが、当然お金がなくて修理など出せないと頭をうなだれる。ケンタは剣に興味があるように装い、レオナに探検を見せてくれるよう懇願する。

 レオナはこんな短剣を見たいだなんて変な人と思いながら短剣を抜きケンタに渡した。


 ケンタが受け取った短剣は粗悪な鉄で作られており今にもおれそうだった。


「この剣の素材は……ずいぶん珍しいものだね」

 ケンタがそう言うと彼女は呆けて、そうなんですかと興味無さそうに言う。


「どうだろうこの短剣譲ってくれないだろうか? もちろんお礼は弾む。君たちの新装備一式でどうだろうか?」


「え? 君達って二人分ですか?」

 ありえない対価にレオナは驚きを隠せない。


「もちろんだよ、この剣にはそれだけの価値がある。」

 もちろんケンタの嘘である。この剣は屑鉄屋も買わないそれほど粗悪なのだ。


「おまけに、ご飯もご馳走するよ」


「……ごはん」

 レオナの喉がゴクリと鳴る。

「お願いしますです!」

 そう言ったのは薄汚い黒いローブを着た少女クニャラだった。


「でも、この短剣二束三文で買った安物よ」

 ケンタに聞こえないように喋ると言う配慮がないレオナの声はケンタに丸聞こえである。

「なに言ってるです! 新装備が手に入るうえに、食事までごちそうしてくれるですよ?」

 こちらも小声で言うつもりのないクニャラがレオナを説き伏せようとするがレオナは人を騙したくないと言う。


「ああ、それなら問題ないよ。二束三文でもこの剣は価値があるんだ、商売だと思ってくれて良い。安い品物を手に入れて高額で売ってるだけだってね」

 そう言われたレオナはうなり、それならと短剣を譲ることとなり、引き換えはケンタが仕事が終わるまで待ってもらい、先に食事をご馳走することとなった。

 ケンタは食べきれないほどの注文をすると仕事に戻った。

 持ち場に戻るとミリアがケンタをにらんでいた。ケンタはにこりと笑い返すと声が聞こえるほど”ふん”と言いそっぽを向いた。

 ケンタは笑いかたが不快だったのかなと反省するのであった。





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