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法華狼の日記

2014-08-22

[][][]『ヒトラー ~最期の12日間~Add StarGl17gongren

2004年にオーストリアイタリアと合作したドイツ映画。ナチスドイツの終焉を、ベルリン陥落を中心に描いていく。

DVDで吹き替え版を試聴した。特撮の分量は多くないし、同じような舞台で最小限の人数しか出てこない。手ざわりとしては、あくまで真面目なTVドラマのよう。しかし作りはていねいで、実物大の戦車戦や広大な廃墟といった戦争映画らしい場面もある。

そして空虚幾何学的で長大な地下要塞と、空爆や砲撃で廃墟と化していくベルリン市街地といった、戦争末期の情景を重層的に見せていく。静と動が交互におとずれ、2時間半を超える尺を飽きずに見ることができた。


賛否両論あったヒトラー描写についてだが、序盤から誇大妄想と人間不信にとらわれており、群像劇を構成する一要素でしかなかった。優しいのは崇拝する子供たちや身内に限られていて、独裁者らしさとは相反しない。それにヒトラー自決後の物語も意外と長い。原題が『Der Untergang』ということから、もともと独裁者個人に焦点をあてた作りではないのだろう。

かつて熱狂的に支持されたカリスマ性の面影すらない。これがヒトラーの末路を描く映画ならば、たとえばプロローグかエピローグでナチス勃興時のヒトラー熱狂を対比的に見せてほしいところ。

そこで群像劇として見れば、もちろんヒトラー個人の物語でないことに問題はない。興味深かったのは、敗戦後のために書類を破棄する場面や、存在しない部隊へヒトラーが指示を出す場面や、誇りのため敗戦を引きのばすような場面。末期の日本軍と大差がない。建物の窓から吹雪のように投じられる書類や、現実を認識できないヒトラーといさめられない側近の喜劇といった、映像そのものの面白味もある。ソ連軍が目前にせまっているのに裏切者の処刑を優先したり、ある意味では日本軍より往生際が悪い。

さらにいえば、そのような戦争末期の愚行を正面から映像化していること自体が印象深い。立派なドイツ軍人やヒトラー秘書の反省も描かれるのだが、同じ第二次世界大戦を描いた邦画大作には比べるべくもない。

最近も前線の悲惨や銃後の苦難は描かれるが、他民族への加害や上層部の愚劣さを直視した邦画は少ない。戦争の末期では差がなくても、現在の創作では差がついてしまった。それを残念に思う。


ちなみにニコニコ生放送の戦争映画特集で、22日22時から字幕版が無料配信予定とのこと。ニコニコ視聴層から考えると、映像に流れるコメントは非表示にするべきかもしれない。

終戦記念日企画「ヒトラー 最後の12日間」(字幕)/戦争映画連日放送 - 2014/08/22 22:00開始 - ニコニコ生放送

これまでも何度か配信されていたらしいが、字幕なのは特定場面の空耳が人気なためだろうか。

すでに前半の配信は終わっているが、他作品のラインナップは下記ページで確認できる。

終戦記念日企画 戦争映画連日放送 - ニコニコチャンネル:エンタメ

ラインナップされている作品では、『日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声』がなかなか良かった。

『日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声』 - 法華狼の日記

Arturo_UiArturo_Ui 2014/08/22 10:43 エバ・ブラウンが登場するカットごとに違う衣装に着替えていたのが印象的だった記憶があります。次がゲッベルス一家の自決の場面かな。
ヒトラー本人がパッとしない感じだったのは、制作者の狙い通りではあるのでしょうね。

りょうりょう 2014/08/23 23:25 このアマゾンのレビューが気になってしょうがない:http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000HEZ4BO/hatena-hamazou-22/

今では地下壕の住人で生きているのは、ローフス・ミシュSS大尉だけ。
彼がこの映画を見た時に言った。


「ほとんどがデタラメだ。我々はあのように酒盛りなどしていなかった。
ワシは、戦後ユンゲには会ったことがない。ユンゲは原作となった本を書いた時に、ワシの所へ来て事実確認をしなかった。
映画監督のヒルシュビーゲルも事実確認のためにワシの所へ来なかった。
なぜ、2人とも貴重な生存者であるワシの家に取材に来なかったのかさっぱりわからん。
2人ともデタラメを描いて有名人になり、大金を稼いだ。けしからん。
ワシの記憶では多くのナチス・ドイツの政治家、軍人は、粛々と任務を行い、
そして、最後の時を迎えた。

 事実はどうであれ、映画に登場する生存者に確認しなかったのは納得できません。

EzoWolfEzoWolf 2014/08/24 11:49 種本の一つを書いた歴史家のヨアヒム・フェストは膨大な証言は
相互に矛盾する部分も多かったと書いてました。こういった事件で
証言がジクソーパズルのようにピタリと合うことはまずないし、
ローフス・ミシュSS大尉の証言を特権的に扱わねばならない必然性はない。
それに彼は仕事柄ヒトラーにべったりだったろうし、
酒盛りをするならヒトラーに遠慮してできるだけ離れて
行なっただろうから彼が気が付かなくても矛盾はない。

りょうりょう 2014/08/26 21:38 なるほど、ご解説ありがとう。
ただ、彼の証言を特権的に扱う必要がないけど、聞く価値がないということにはならないでしょう。数少ない生存者を取材に来ないという告白が真実ならば、やはり問題があると考えております。証言の矛盾云々よりもここが気になります。

EzoWolfEzoWolf 2014/08/28 21:58 ドキュメンタリーではなく、あくまで劇映画ですから生存者に新たにインタビュー
しないことが重大な問題だとは思えません。(ドキュメンタリーでも絶対にしなくては
ならないとまでは言えないと思います。)

ユンゲの手記にはエヴァ・プラウンたちとパーティーを始めてみなへべれけに
酔っぱらったが、ソ連軍の攻撃で一辺に酔が醒めたという事件があり、
(ただしこのパーティーは防空壕の外、官邸の二階で行なわれた)

またフェストの本では陥落間近のベルリンではあちこちで、性的放縦があり、
それは多数の日記で裏付けられるとありました。

製作者はこういったことを組合せて脚本を書き、撮影を行なっているわけで、
映画のシーンは事実でそのものではないが、それなりの真実を伝えていると思いますよ。

hokke-ookamihokke-ookami 2014/08/29 00:02 Arturo_Uiさんへ
ヒトラー周辺は、地上の悲惨と対比するように、生活環境は享楽的に演出されていましたね。おそらく意図的な誇張もあるでしょう。

>ヒトラー本人がパッとしない感じだったのは、制作者の狙い通りではあるのでしょうね。

日本での宣伝のせいでズレたのでしょうね、おそらく。


りょうさん、EzoWolfさんへ
劇映画(実際はドキュメンタリーでも)誇張が入ることは当然だと思いますし、その誇張や編集に対して生存者がわだかまりを持つというのも自然だと思います。
無責任な観客としては、どこを誇張しどこを削除したのか、取材した資料とともにアクセスしやすい情報として、映画製作者がまとめてくれるのがベストですね。

この作品の場合、上映後の意見をとりいれながら映像ソフトでフォロー情報が入っています。

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