原稿を長く書く方法(卒業論文など初めての論文作成の一助として・お試し版)

 
 
 
 
 
 
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まず論文を書く作法については佐藤守弘先生の「学術論文を書くために」がとてもわかりやすいので推薦します。

また論文とは何かについて簡単に紹介した私のガイドもありますが、かなり古いので参考程度に確認してください。

ここでは、長い論文(ただし自然言語用)を書いたことのない方のために、より長く論文を書く方法を紹介します。以下二つ留意点があります。

・これは私が修士論文の時に個人的に編み出したと思っている方法ですが、月並みなものだと思います。なぜなら「本文を書く前に目次をまず書け」といわれる理由の根源になっている方法だと思うからです。あるいはアウトラインモードで原稿を書く方法そのものです。

・ここで紹介する方法は、論文を長く書くことを推奨するものではありません。論文は要領よく短くスマートに書くことの方が良いです。しかしながら長く論文を書いたことのない状態から、長く論文を書ける方法を知ることは、事象を丁寧に記述し、さらにそれを短くまとめ直す訓練として適していると言えます。

それでは進めます。書くべきトピックをとりあえず「カッパ巻き」にします。辞書で紹介されている説明よりも桁違いに長い「カッパ巻き」とは何かについての中編程度の論文を書きます。(なお参考文献や注の付け方等は他のガイドで検討してください。)

このトピックを書くにあたって卒業論文生に「カッパ巻き」で書くべき項目をあげてみてくださいとリクエストしたところ「ノリ」「きゅうり」「コメ」「」「巻く」などのサブトピックが出てきました。彼らの提案から類推するに、「カッパ巻き」という大見出しは、以下の中見出しに分解することができます。

  • カッパ巻き
    • 定義
    • 用いる素材
    • 調理方法
    • 備考
    • 小結(必ずつけてください)

ここに学生からもらった項目なども勘案しつつ小見出しまで作ってみると以下のようになります。なおこの小見出しはあくまでも例です。ここでの中見出し、小見出しはこの論文の独自性を構成する重要要素なのでまずは自分の興味やこだわりに従って決めてください。さらにその小見出しのトピックに見合った必要と思われる原稿用紙(400字詰)枚数を見出しごとに書いてみます。私は酢に少しうるさいので、ここに6枚を費やす覚悟を決めました。また巻きすを使った巻き方は、それを読者にわかってもらうためにはやはり6枚は必要ではないかと思いました。逆に海苔についてのうんちくはあまりないので2枚にとどめました。そのほか架空で書いておくべき項目を考えてみました。

  • タイトル:カッパ巻き
    • はじめに(定義と目的と方法) 2
    • 用いる素材
      • 適した海苔 2
      • ジャポニカ米 4
      • 夏のキュウリ 2
      • 食酢として適しているもの 6
      • 醤油か塩か 2
    • 調理方法
      • ご飯の炊き方 2
      • 巻きすでの巻き方 6
      • 最後の仕上げ 2
      • 切り方ともりつけ 4
      • 片付け 3
    • 備考
      • その歴史・なぜ「カッパ」か 2
      • 世界へのカッパ巻きの進展と課題 2
      • 美容への効果 3
      • 健康上気をつけたいこと 3
    • 小結(必ずつけてください) 4

もうここまでで執筆計画上必要な枚数は、49枚になっています。これがカッパ巻きというトピックを使って長い文章を書く方法です。つまりカッパ巻きというのはある要素群で構成された特定の組み合わせなのですが、これを要素ごとに分解すると、実はその要素はカッパ巻きよりむしろトピックとして大きくなるというのがミソです。またこの分解方法は、自分のカッパ巻きについて当然と思っている認識が相当偏ったり、省略していることを気づかせてくれます。カッパ巻きをこのように分解して、それを成立させている広大な時空間をまずは味わい、その後、それをより吟味してスマートに再構築すれば、著者独自のカッパ巻き論ができるはずです。そのために必ず、小結を書いて、カッパ巻きを再定義してください。いかがでしょうか。

*第1校投稿後、・備考>その歴史に「なぜ「カッパ」か」という副題を思いついて追記しました。原稿量は2枚で変えないようにしましたが、なぜ「カッパ」か?について真剣に答えようとすると、最低4枚はさらに書けそうです。またこのトピックは面白いのでスピンアウトさせて独立して書いても良いでしょう。項目を洗い出していくと、さらに新しい項目を発見することができるので、とりあえずこのトピックの分解方法は生産的でもあると思います。

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rhenin について

中谷礼仁(なかたに のりひと)歴史工学、アーキオロジスト。早稲田大学建築史研究室所属、教授、千年村プロジェクト、日本生活学会、日本建築学会など。著書に『動く大地、住まいのかたち』、『セヴェラルネス+』など。
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