2005.02.22
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子どもたちが考える「TVゲーム」との付き合い方 千葉市立弁天小学校

NHK放送文化研究所の調査によると、子どものテレビ視聴時間の平均は、小学生で3時間、未就学の児童ですら2時間を超えるという。また、ゲームの長時間使用、インターネットや携帯メールにハマる中高生など、子どもたちはまさに「メディア漬け」。このような状況は、子どもの健全な成長発達という面からどうなのか。

 

 千葉市立弁天小学校 blankでは、6年生の総合的な学習の時間で、子どもとメディア、特に「TVゲーム」について、どう付き合っていけばいいのかを考える授業を行った。

 授業を企画したのは、以前学びの場.comでも紹介(授業実践リポート参照)した、NPO法人企業教育研究会 blank(理事長 千葉大学教育学部教授 藤川大祐氏)。企業教育研究会は、主に総合的な学習の時間で、企業と学校が連携した授業を企画・コーディネートし、実践をしている。メンバーは千葉大学の教員を目指す学生たち。これらの活動が、新しい授業の研究の場であり実験の場ともなっているのである。
 弁天小学校では地域や保護者との連携は今までも行ってきたが、NPOや企業との連携は今回が初めて。青木道夫校長は「企業やNPOと連携することで、学校だけではできないことにチャレンジできる。」と期待している。

 


「これ、何か知ってる?」の質問に全員が挙手。答えは「ゲームキューブ」

●子どもたちのゲーム使用時間は?

 実際に授業を行うのは、千葉大学教育学部3年生の八木航さん。ご自身が、時間を忘れてゲームにハマる子ども時代を送った経験から、この授業を企画したという。
 まず最初は、子どもたちの実態から。
「みんな、1日平均どのくらいゲームをやってる?」
挙手をしてもらう。結果は以下のとおり。

 
0~30分未満、またはやったことがない 8人
30分以上~1時間未満 8人
1時間以上~2時間未満 9人
2時間以上 2人
 


という結果となった。

 2時間以上がわずか2人というのは意外に感じたが、後で子どもたちに、普段のゲームとの付き合い方を聞いてみると、「親に叱られる」「目が悪くなる」「宿題ができなくなる」などの理由から、時間を決めて、自制しながら使っている子が多かった。意外に子どもたちは、ゲームと上手に付き合えているのかも知れない。
 

 

 

●ファミリーコンピュータで始まったゲームの歴史

 「次にTVゲームの歴史を勉強してみましょう。こんなこと、普段の授業では勉強しないよね」
子どもたちは大きくうなずく。プロジェクタに映し出されるゲーム機を見ながら、しばしお勉強タイム。
 1983年に初めて世に登場したゲーム機が「ファミリーコンピューター」。これが6200万台売れた。つまり日本人の3人に1人が持っていた、ということを聞き驚く。 次に登場したのが「スーパーファミコン」(1990年)、その次が「ニンテンドウ64」。この時から3D映像となる。2001年に光ディスクで動く「ゲームキューブ」が登場。続いて「プレイステーション」が登場し、世界で一億台が売れる。また、DVD機能がついたことにより、ゲームをしない人にも購買層が広がった。そして、現在「ニンテンドウDS」「プレイステーションポータブル」。これらの進化の過程で、画像はどんどんリアルになり、ゲームも刺激的なものとなっていく。最新の2機種以外は、いずれもほぼ全員の児童が持っている、と手を挙げたのには驚いた。

 「ゲームには、大きく分類すると『アクション・格闘技系』『ロールプレイング系』『スポーツ系』『テーブルゲーム系』に分けられます。今ではゲーム産業の市場規模は一兆5000億円にものぼり、アメリカでも、使われているゲーム機の99%は日本のものなんですよ」
子どもたちは、今までただ遊ぶだけだったゲーム機の知らなかった一面について、興味津々で聞き入っている。
 


小さなカードに「ゲームにハマる理由」を書き出していく


こんなに書けた!

 

●なぜ時間を忘れてゲームにハマってしまうの?

 さて、ここからはグループ作業に入る。

 「なぜゲームにハマルの?どういうところが面白いの?」ということを小さなカードに次々に書き出していく。

 「ストレス解消になる」「達成感がある」「本格的なストーリーがおもしろい」「キャラクター同士の会話が面白い」「強くなれるとうれしい」「キャラクターを自由に操作できるのが面白い」「裏技を見つけるのが面白い」「限定版シリーズがある」「最強のモンスターを作るのが面白い」「みんなとできるのが楽しい」「1位になると気持ちがいい」「アイテムをどんどん集めていくのが楽しい」などなど、次々と書き出していく子どもたち。見学の大学生たちから「小学生のほうが深いね」と驚きの声が。

 次にこれらのカードを似たもの同士で分類し、分類したかたまりごとに名前をつけていく。いわゆるKJ法である。各グループとも、10項目までに絞り、とりのこ用紙に清書して、黒板に貼る。これをグループごとに発表するのである。
 


似たカードを集めてグループ化 
 


各自が出した「ゲームにハマる理由」を10項目まで絞り、箇条書きに。

 

 

 

 

 

 

 


授業者の八木航さん

 

●作り手はなにを考えてゲームを作っているのか?

 最後にゲームの作り手からのコメントをビデオに収録してきたものを見る。

――質問「なぜゲームにハマってしまうのですか?」

ゲーム制作会社「エンターブレイン」社長(『週刊ファミ通』を発行)
ズバリ、刺激があるから。今まで、本、マンガ、アニメ、映画、テレビ、とメディアが進化してきた。ゲーム機ではさらにコントローラーで自分で操作できるところまで進化した。こうして、人々をひきつける刺激がどんどん強くなってきたから。

セガ
かくしアイテムがあったり、キャラクターを育てるという要素があり、繰り返し遊んでもあきない仕掛けがあるから。

バンダイ
カード、キャラクターの持つアイテムなど、すべてを集めたくなる「コレクション」という要素が仕込まれている。これにハマルのでは?

遊演体
次の展開を選ぶ、自分がゲームの展開を決められることが最大の魅力では?

なるほど、こうして聞いてみると、子どもたちは、作り手の思惑にまんまとハマっていることになる。


――これからTVゲームはどうなるのですか? 子どもたちへのメッセージは?

「エンターブレイン」社長
「ゲーム機は、次の世代でさらに良くなる。プログラムの技術がどんどん高くなり、国内だけでは作れない。世界各国の技術者と力を合わせて作っていく時代になるだろう。」
「どんなゲームでも、実際にある世界が元になっている。サッカーゲームは実際のサッカーがもとになって作られているように。実際の世界をまずたくさん楽しんでからゲームの世界も楽しんで欲しいですね」

 これで、2時間にわたる授業が終了。子どもたちに感想を聞いてみた。
「ゲームって、いつも悪く言われるけど、いい面もあるんだと思った」
「今までゲームはいけない、と思って使わなかったけど、いい面もあるようだから使ってみようと思った」

と、保護者たちが聞くとちょっと不安になるような声も聞かれたが、一方で、

「色々売れるように考えて作られているんだということがわかった」
「売れるように作っている大人も悪い」
「なんとなく付き合うのはやめて意識して使おうと思った」

という冷静な意見も。

 教務主任の上村彰好先生は
「ハマる理由を見ているとその裏に問題点が見える。たとえば、勝ったら気持ちがいい、キャラクターと話せれば楽しい、など。現実の世界では勝てない、話ができない、という不満があるのではないか。それをゲームの中で実現するのではなく、現実の世界で努力する、という行動に向けて欲しい。今後の展開で、そこまで気づかせられればと思います」

 今回の授業を企画段階から見守ってきたNPO法人企業教育研究会の藤川氏は、この初めての試みについてこう語った。
「子どもにTVゲームはダメ、というつもりはない。すでに親や先生にさんざん言われているだろうし、子どもが自分から考えて選択しなければ意味がない。また、TVゲームやアニメーション等のコンテンツ産業は日本が誇る将来性ある産業であり、日本の子どもたちと『よい関係』を築いて健全に成長していくべきだと思います。今回の授業では、ただ無意識にTVゲームにはまるのではなく、作り手の意図している『はまる』仕組みを理解したうえで、自分とゲームの関係をとらえなおすきっかけとなることを期待しています。」


(取材・文/学びの場.com 高篠栄子)



 

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