※牧村さんに聞いてみたいことやこの連載に対する感想がある方は、応募フォームを通じてお送りください! HN・匿名でもかまいません。
思うんですけど、人類、ほんと、二チームに分かれるの大好きすぎません?
源氏vs平氏。
開国派vs攘夷派。
枢軸国vs連合国。
西vs東。
文系vs理系。
イヌ派vsネコ派!!
なんかもうこれは、DNAレベルで組み込まれてる何かなのではないか。人類どころかサルの歴史まで戻って考えるべきものではないか。と、『あなたはボノボ?チンパンジー?』っていう本とかをポチっている今日この頃です。
が、本を読み知を以って心の平和を保とうとしたところで、われわれ人類は本日も「お前はどっちだ!」「お前はこっちだ!」とチーム分けしあっておるわけです。その強制チーム分け法のひとつが。
ブスvs美人。
今回ご紹介するのは、「美人はちやほやされて金持ちと結婚し、そうでない女はブスブス言われる、的なテレビ番組しんどいね」というご投稿です。ね〜。対話形式で行きます。青い字の部分が投稿文です。さっそく参りましょう。
こんにちは牧村さん!
こんにちは、牧村さんよ♡
あなたの聡明で優しい文章が大好きで、この連載も楽しみにしています。
うっふん。ありがとうございます。
がんばろっと。もっと売れた〜い。
どうすればもっと売れるかな〜?
あ、わたしの悩みを相談する会じゃないんだった。えっと、お伺いします。どうなさったの。
私の悩みは、芸能界全体が私の敵に見えてテレビ(とくにバラエティ番組)を見るのがしんどいということです。
わかる。
いろんな人から似たようなこと聞くわ、「テレビ見てるとつらくなる」とか、シンプルに「つまらん」とか。すると、よく言われるのが「じゃあ消せば?」よね。
じゃあ消せばいいじゃないか、とお思いでしょうが、退職した父と二人暮らしなため、父の唯一の趣味を奪うのも勝手な話になってしまい、部屋を分けることでなんとかしています。
わお。
平和的共存策。
でも「職場の休憩室で垂れ流されてる」とか、イヤな番組をどうしても消せない環境にいらっしゃる方もおられることと思います。また直接的に見てなくても、そういうイヤな番組を見てる視聴者がそのままイヤな価値観で絡んでくることは子供の頃からありますよね。日々お疲れ様です。じゃあもうちょっと、策を練っていきましょうか。どうして芸能界が苦手なの。
遅くなりましたが、なぜ芸能界が苦手なのかというと「美しいだけの女がそれだけで価値を持っていて私生活において様々な優待を受けて、稼ぐ力のある旦那と結婚する」「美しくない女はさげすまれてことあるごとにブスブス言われ、黙ったままにされる」「一部の男性お笑い芸人はとくにそういう発言が多い」からです。この構図が吐き気を催すほど嫌いなのです。
うん。全員呼び捨てレベルでお嫌いでいらっしゃるのね。
どうしてそう思うようになられたんでしょうね。
私は高校時代に、「イケてない人」とジャッジされた人間なので、卒業後死に物狂いで洋服とか髪とかメイクに気を使いましたが、それでも周りのイケてる子の目線が怖くなり田舎に逃げてきました。
しかし今日も医学部再受験するために行ったオープンキャンパスで、人目をひくほど綺麗な女子高生に遭遇してしまい、たじろいでしまいました。要は私はそういった人たちに「ブス」と言われて首を斬られるのが怖いんだと思います。
なるほど。ちょっとここまでの話をまとめてみていいですか?
一部の男性お笑い芸人がやるブス呼ばわり……「嫌い」
周りのイケてる子がやるかもしれないブス呼ばわり……「怖い」
と、いうことでしょうか?
うーん、だとしたらこの辺り、考えるヒントがありそうねえ。イヤなことを思い出させてしまうかもしれませんけれど、具体的に「ブス呼ばわりされた」という経験がおありなんでしょうか?
もともと私の顔立ちは「普通にブサイク」と性格の悪い人に言われます。
おお……。そんなこと言われて、あなたはどうなさったの。
醜形恐怖症になり美容整形外科にカウンセリングに行った際、私の顔のランクはどれぐらいかと聞いたら中の中の中くらいと言われました。まあ都会に出たら中の下くらいと自覚して行動してます。
ええっ! あーら、ま。
「お金儲けのお上手なお医者さんだこと」!
醜形恐怖症、今は身体醜形障害(Body Dismorphic Disorder, BDD)と言われていますけれども、それでいらした患者さんに「私の顔のランクはどれくらいですか」って聞かれて「中の中の中くらい」とか返す行為、ひぇ〜っ、わたしはカウンセリングとは呼ばないわあ。
アメリカ精神医学会の診断マニュアル最新版(DSM-V)によれば、身体醜形障害は強迫スペクトラム障害の一種とされています。「強迫スペクトラム障害」の「スペクトラム」っていうのは「虹のような連続体」って意味ですから、いろんな状態の人がいますが、中には例えば、「自分の手は汚い」と思い込んで手を洗い続けて皮膚が擦り切れてしまうみたいな状態も含まれています。
そういう状態で苦しんでる人に、「私の手は人より汚いと思うんです。ランクはどれくらいですか」って聞かれて、ねえ、「中の中の中ですね」だなんて言える? なに普通に「ランクがある説」に乗っちゃってるわけ? 何様のつもりでジャッジする側に立ってるわけ? それこそその人が苦しんでる根本じゃないの、ねえ。カウンセリングってのは、「なんでそういう風に思うんだろう」ってとこを本人が考える手伝いであって、そのお医者さんがやったことは、わたしにはカウンセリングではなく「セールストーク」にしか思えない。
ねえ、そのお医者さんが聞かなかったなら自力で語っていきましょう。なんでそんな風に思うようになられたの? 何があったの?
思えばブサイクだからという理由で私がクラスの秘密基地の場所を唯一教えてもらえなかった小学校一年生の時から美醜の価値観に翻弄され続けてきた私は、ブサイクで頭も良くない(お勉強ができるだけでバイトとかしょっちゅう首になる)けど強く幸せに生きたいです。小さい頃から勉強は割と好きなので、医師という手に職持って自立しようと思ってます。
顔の美醜は問わず成功者の女性が美しかったり魅力的だったりする同性や男性に囲まれてチヤホヤされる潮流があってもいいと思いませんかね。
牧村さん、美人な貴女からだとあまり想像をできないようなブスの戯言を聞いてくださりありがとうございました。
あ〜〜。
あのね。
わたしたちを美醜で分けて手ぇ叩いてる奴らを喜ばせてたまるか、って思った。
わたしたち……ここでいうわたしたちとは「わたしたち女」とか「あなたとわたし」とかではなく「人類」ですが、おっほん、わたしたち人類がチームで争う時、そこにはまず間違いなく「争いで得をするやつ」がいます。
・容姿にはランクがある説の渦中に人間を叩き落として争わせることで金を儲けるやつ。(例:そのお医者さん)
・「あいつ(ら)」を排除することで「自分ら」の連帯や優位性を確認するやつ。(例:その、秘密基地を教えてくれなかったクラスメイト)
ね、だからわたし、苦しい時は考えるのよ。「この苦しみで誰が得をしているんだ」って。で、それらしき人たちを見つけても敵チーム認定はしない。常に個人単位にばらして、「わたしを苦しめるこの人は何に苦しんでいるんだ」って問うの。争いをけしかけられても素直には従わないの。
しかしこの、チームで争うようにけしかけられると従っちゃう現象、なんかこれ心理学用語がついてるんじゃないかな? 2017年には日本マクドナルドが「マックかマクドか東西対決」ってやってたし、1996年には「赤を買うか緑を買うか!ちょっと違うよ」ってポケモン売ってたし、2003年にはあややが「セクシーなのキュートなのどっちが好きなの?」って歌いながらシャンプー宣伝してたでしょ。こうやってマーケティングに活用されてるってことは、なんか心理学とか行動科学とかそういうのなんだと思う。交渉術では「二者択一話法」っていうみたい。広告業界人が「どっち?訴求」って呼んでるのも見た。
得してるのは誰か。企業よね。わたしもポケモン買ったしあややのシャンプー買ったしマクドナルドのハンバーガー買ったもん。
じゃあ、「ブスvs美人構図」とか「容姿ランク説」とかで得をしてるのは誰か……って話よ。
おっしゃる通り、わたしは美人です。男性教師には「美人だな。もう少し年が上なら結婚してやったのに」と謎の上から目線で言われたし、学校で歯を磨いていただけで「ウケるんですけど。彼氏とキスでもすんの?」って知らない女子生徒に言われたし、知らん人に通りすがりに「ブス」って言われたし、「美人にはわたしの気持ちがわからないでしょ」とも言われます。でもそういういろんな経験をするのは、わたしが美人だから、ではありません。「美人もつらいよ」みたいな話ではありません。かといってわたしが実はブスだからとかでもありません。
この世にルッキズム(容姿の美醜は人間の優劣だと思ってる奴らの主義)があるからです。
ご投稿者の方はルッキズムにさらされながらもよく生き抜いていらしたと思う。醜形恐怖に飲みこまれることもなく向き合う道を模索し、死に物狂いで洋服や髪やメイクに気を使い、よりよい生き場所を探して引っ越し、人にブスって言ったタレントをはっきり嫌いだと表明し、医師を目指して学び、自立の道へ歩んでいらっしゃる。それでこそだと思います。
自立とは、自力で自己肯定できること。ブスを蔑む美人も、美人を憎むブスも、そういうブスvs美人の試合で審査員席および観客席にふんぞりかえることで優位に立とうとする人も、みんなまだ自立できていないのです。
そういう観点においては、一部テレビバラエティ的に言う美人もブスもそれを見てなんか言ってる司会者も同じだと思うの。自力で自己肯定できないから他者を否定しているんだし、自力で自己肯定できない人が他者を否定することでなんとか自己肯定しようとする試みを手伝って商売しているんだと思う。
だから言います。わたしは美人です。
誰にブスと言われても美人と言われても関係なく言います。わたしは美人です。
自己肯定のために他者を否定する人も、それはそれで、その人のための戦いを生きてるんだと思います。でも、こっちが戦場に引きずり込まれる義理はないわけよね。
今日も誰かが誰かにブスって言ったんじゃない? また誰かが誰かに美人って言ったんだと思う。やっとるやっとる〜、って感じ。そういう声を背中に聞いて、自分の道を行きましょう。自分の、幸せに向けて。
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