お土産タイム
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「で、今回はどんなお土産を持ってきてくれたんだ?」
フルーツジュースを一杯飲み終わって落ち着くなり、トールが期待に満ちた眼差して尋ねてきた。
その視線は大きな木箱や鞄に注がれており、何が出てくるか心底楽しみにしている模様。
隣にいるアスモもそれは同じで、まるで透視でも試しているかのように二つを凝視している。
多分、この中で一番の目玉は冷凍された魚だ。しかし、それを最初に見せてしまうと他のお土産が霞んで見えてしまうので、最初は期待値が低いであろう物からいこう。
「はいはい、じゃあ最初はこれ」
俺は鞄から小さな木箱を取り出して、トールとアスモに見えるように開けてやる。
そこに入っているのは綺麗な貝殻や、魔石の破片だ。
「何だこれ? 貝殻か?」
「そうだよ。海で獲れた貝殻。虹色で綺麗でしょ?」
「はー、確かにキラキラと光ってるな。これが海にある貝か」
貝殻を摘まみ上げて興味深そうに眺めるトール。
コリアット村にも小さな貝はいるが、食べられるものではないからな。泥臭いし身は小さし食用向きではない。
海のように大きな貝はほとんど生息していないので、このような大きくて綺麗な貝殻は新鮮だろう。
正直これだけで海に行ったという一番の手土産になると思うんだけどな。
俺がそんな事を思っていると、アスモが尋ねてくる。
「……ねえ、アル。中身は?」
「ないよ」
アスモのことだからそんな事を言うと思ったよ。このような綺麗な貝殻を前にして、中身を気にするとは。
もう少し綺麗なものへの関心はないのか。
「こっちの透明な奴は何だ?」
「ああ、それは魔石の破片だよ。魔石が海に流れて削られるとこうなるんだって」
「へー、そうなのか。こういうのは女が喜びそうだな」
「まあ、部屋で飾るなり誰かにあげるなりしたらいいよ」
こういう綺麗なものは女性に喜ばれるからね。二人がこういう物を眺める趣味はないと思うので、村の女性と取引する時とかに使った方がいいと思う。
「んー、まあ飾っとくよ。せっかく貰ったお土産だしな」
「コリアット村にはない、海の物で貴重だしね」
意外と嬉しい事を言ってくれるではないか。そういうことを言ってくれるとお土産を用意したこちらも嬉しいという物。適当に浜辺で拾ったものだけど。
クイナが用意してくれた加工された魔石の破片が良かったかな。
「さて、次はお待ちかねの食べ物だよ」
「「おお!」」
ちょっと気まずくなったので、俺は気を取り直すように言って貝殻や魔石の破片から食料へと話題をチェンジさせる。
二人が期待の眼差しを向けてくる中、俺は鞄から二つの壺を取り出す。
「はい、これ開けてみて。二つとも違う食べ物だから」
俺は二人の反応を期待して、わざと開けずに促す。
「俺がこっち開けるから、アスモはそっちな!」
「わかった!」
すると、二人は純粋そうな顔で壺を揃って開けた。
その瞬間、密閉された壺から出てくる魚特有の生臭さとキツイ塩の香り。
「うぎゃあああああ! 何じゃこれ!」
「うう、匂いが強い!」
間近で魚とスモールガニの干物の匂いを嗅いだトールとアスモが、驚いて壺から離れる。
「ちょっ、これ匂いがキツイ。おい、アスモ窓を開けろ!」
「でも、そうすると冷気が逃げるよ!」
干物の匂いがきつくて換気をしたいけど、窓を開ければ冷気が逃げて熱気が入ってくる。
トールとアスモからすれば、どちらも地獄でしかないだろう。
「そうだった! おい、アル。何なんだよこれ! 本当に食い物か!?」
「あはは、魚とスモールガニを保存食に加工したものだよ。匂いはキツイけど普通に美味しいよ。空気なら魔法で入れ替えて、涼しくしてあげるから食べてみなよ」
俺が笑いながらそう言うと、二人は恐る恐る壺に近付く。
トールは匂いにビビッて手を出せずにいるが、アスモは食への思いが強いので好奇心が勝ったらしい。壺に手を入れてスモールガニを掴んだ。
アスモが手に取ったスモールガニは赤々としているを通り越して、日光と塩やソースなどが染み込んでいるお陰か茶色い。そして濃厚なまでにカニの匂いが漂っている。
「お、おい、食うのか?」
トールが心配そうな表情で見守る中、アスモはそれを一気に口の中に入れた。
アスモが咀嚼する度に、パリパリゴリっという殻を砕くような小気味のいい音が鳴る。
「……あっ、美味しい! コリアット村の川にいるカニなんかよりも味が濃厚で、噛めば噛むほど味が染み出してくる!」
「干物にされているからね。味が凝縮されているんだ」
「それに食感も楽しい。トールもビビッてないで食べてみなよ」
「だ、誰がビビッてるかっつーの!」
堂々と食べてみせるアスモに挑発されてか、トールもスモールガニが入っている壺に手を伸ばして、口へと放り込む。
「確かに美味え! 匂いと壺を覗いた時の絵面はともかく、味は絶品だな」
あはは、スモールガニがぎっしりと敷き詰められている壺の中は、ちょっとビビるから気持ちが少しわかる。
スモールガニだと知らずに壺を覗いてしまえば、軽く悲鳴を上げそうになるしな。
「で、もう一個の方が海の魚か?」
「うん。鯵とかサバとか色々な海の魚の干物が入ってるよ」
「あじ? さば?」
俺が壺の中に入っている海の魚の種類を二つ挙げると、トールが首を傾げる。
「海の魚の名前だよ」
「へー、よくわかんねえけど海の魚なら何でもいいや」
他にも何種類か入っているだろうが、海の魚をよく知らないトールとアスモにそこまで詳しく語ってもピンとこないだろうな。
とにかく、川の魚とは違う味であれば喜ぶだろうし。
スモールガニで美味しさについては信用ができるようになったのか、トールとアスモが物怖じせずに魚の干物を手に取る。
「うおっ! どうなってんだこれ? 平てえぞ?」
あはは、魚の干物は基本開かれているから、いきなり見た時のインパクトは凄いよね。
「全部食べるのは大変だから、ちょっと千切って味見してみるといいよ」
「お、おう、そうだな」
勿論小さなやつも入っているが、二人が取ったのは大きめなものだ。ここは少し千切って食べるくらいがいい。
トールとアスモが干物の端の部分を引っ張ると、ぺりっと剥けるように身が取れる。
日光やら塩やらが染み込んで茶色みを帯びた身。見ているだけで濃厚な魚の味が思い起こされるな。
トールとアスモは剥き取った身をゆっくりと口に入れる。
「あっ、こいつも美味えな! これが海の魚ってやつの味か!」
「普通に川魚を焼いた味とは違う濃厚な味だね」
干物を食べるなり目を見開いて感嘆の声を上げるトールとアスモ。
美味しそうに食べている二人を見ると、こちらも少し食べたくなってくるな。
「……ちょっと一口だけちょうだい」
「あっ、こら! お前は自分の家にたくさんあるんだろうが!」
「家にあっても今食べたいんだよ! 最後の手土産やらないぞ!」
「ちっ、しょうがねえな!」
俺がそう脅すと、トールは渋々と言った様子で干物を渡してくる。ちなみにアスモは死んでも渡すものかと抱えるようにしていた。
うん、アスモから食料を貰えるとは欠片も期待していないから安心してもいいよ。
トールの干物は鯵か。
俺は鯵の干物を手でぺろりと剥がし、それを口へと持っていく。
口の中に入れると、豊潤な磯の香りが突き抜け、噛みしめると鯵の凝縮された旨味が染み出してくる。噛めば噛むほど潮の味と鯵が感じられる。
「美味しい。普通に焼いて食べるよりも純粋な旨味はこっちの方が上だね」
くっ、後はこの辛みのある口の中を、カグラ酒でキュッと飲み込むことができたらもっと最高だろうに。海鮮料理とカグラ酒の相性は抜群だからな。
くそ、空間魔法の中に、酒とツマミばかりが収納されていってしまう。それを堂々と晩酌できるようにはまだまだ遠いな。
「で、アル。最後の箱に入ってるやつは何だよ!」
俺が鯵の干物を食べていると、トールが待ちきれないとばかりに木箱を叩く。
アスモは木箱を触ったり、匂いを嗅いだりして「冷たいものか……」などと真剣な表情で呟いている。
「わかった。最後の目玉商品を開けるよ」
そう言って、俺は木箱の蓋を開ける。
そこには俺が氷魔法でぶち込んだ氷と。たくさんの氷漬けにされている魚が入っていた。
「うおおおお! これが本物の海の魚ってやつか!」
「いっぱい入ってる!」
目をキラキラと輝かせて覗き込むトールとアスモ。
小魚はそのまま氷魔法で冷凍し、大きめの魚は頭や内臓処理をしてから冷凍させている。マイナスともいえる温度で瞬時に凍らせ、亜空間で収納していたので鮮度もバッチリだ。
「おいおい、それじゃさっきあげた干物が偽物みたいじゃないか」
「いや、わかってるけど、さっきの何か違うし平たいからよ」
まあ、どちらが魚らしい姿をしているかと言われれば一目瞭然だしな。
トールを微笑ましく眺めていると、アスモが真剣な顔つきで尋ねてくる。
「……これ、どうやって食べるの?」
「小魚は骨をあんまり気にしなかったら塩で焼いて食べてもいいし、中くらいの魚は内臓とかも取ってあるから、お腹から包丁を入れて身だけ取って焼いたり、そのままお腹に野菜とか詰めて、醤油ベースで煮込ん
だりするのもありだよ」
「なるほど。わかった」
「え? 俺はアルの言う事全然わかんねえんだけど?」
普段から料理をするアスモに対し、まったく料理をしないトールは説明を受けてもまったくイメージができなかったようだ。
「詳しくはお隣さんのアスモに聞いてよ」
今日はあんまり料理する気分でもない。ここでいちいち手取り足取り教えるのも面倒だ。
お隣さんだしアスモに聞いた方が早いだろう。
「おい、アスモ教えろよ」
「跪いて、この頭の悪い私めに調理方法を教えて下さいアスモ様と言えば考えてあげる」
「ふざけんなクソデブ! 誰がお前にそんなこと言うか!」
「ははっ、調理方法も聞かずに魚を手に入れても苦労するよ? 何でちゃんと聞いておかなかったんだってミュラさんが怒ると思うなー」
「ぐぐぐぐ、母ちゃんを引き合いに出すとは卑怯な」
川魚で少しは要領を知っているとはいえ、初めて扱う食材というのは緊張するもの。料理する立場であるミュラさんからすれば、ちゃんと聞いていなかったら怒るだろうな。
「すいません。喉が渇いたのでちょっとだけ水を――あっ、涼しいけど臭い!? 何この匂い!?」
そんな話をしていると、ちょうどとばかりにミュラさんが窓を開けた。それと共に干物やら魚やらの匂いがいってしまったのか、ミュラさんが驚いて後退る。
「あー、そう言えばまだ換気してなかったね」
「何か慣れて気にしなくなってたわ」
「俺も」
「慣れたじゃないわよ。早く窓を開けて空気を入れ替えなさい! 匂いが部屋に染みつくわよ!」
俺達が気にせずに座っていると、ミュラさんが口元にタオルを当てながら窓からリビングに入り、室内の窓を開けていく。
「母ちゃん、暑いってば。換気なら適当にやっとくからほっといてくれよ」
「後じゃ遅いのよ!」
トールがそのような文句を言うが、ミュラさんは構う事なく遠慮なく窓を開ける。
室内に漂っていた冷気が外へと逃げて、代わりに外から熱気の籠った空気が入って来る。
「まったく、一体何の匂いなの?」
「アルが持ってくれた干物だよ」
「きゃっ!? ちょっと何よそれ?」
トールが壺の中から摘まんで見せると、ミュラさんが小さな悲鳴を上げる。
干物ってパックリと体が開かれているから、ぱっと見少しグロいんだよね。
もはや味を知って見慣れた俺達ならともかく、初めて見るミュラさんからすれば衝撃が強いかもしれない。
そんなミュラさんの驚きを知ったトールは、悪戯小僧のような笑みを浮かべてミュラさんを追いかける。
「へへへ、これが海の魚だぜ。母ちゃんも初めて見るだろ? ほら、見てみろよ!」
「こら、やめなさい! それを近づけないで! なんか気持ち悪いから!」
「ははははは、これさえあれば母ちゃんも怖くねえな!」
やってやりたくなる気持ちはわかるけど程々にね。
その後、トールは勿論ミュラさんに怒られたし、リビングに干物の匂いが少し残ってエマお姉様にも怒られた模様。だけど、干物の味は好評だったらしい。
さらに漫画を書いてくださっている小杉繭さんのTwitterでエリノラの素晴らしい水着イラストが書かれています。気になるかたはチェックしてみてくださいね。この作品で女性の水着なんて貴重ですよ。
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