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よしもとゲーミングのesports戦略とは? 運営責任者「星久幸」氏インタビュー

2018年3月、吉本興業はesports事業“よしもとゲーミング”の始動を発表した。それによると、プロチームの運営、配信事業、イベント事業の3つの柱を軸に、esports事業を展開していくとのこと。これまで、プロリーグへのチーム派遣や“よしもと GAMING プロ選抜大会”の実施など、さまざまな活動を行っている。

本稿では、よしもとゲーミングの運営を行う“よしもとスポーツエンタテインメント”代表取締役社長である星 久幸氏のインタビューをお届けする。

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“よしもとスポーツエンタテインメント”代表取締役社長
星 久幸氏(文中は星)

esports市場をみずから切り拓く覚悟

――吉本さんと言えばお笑いのイメージが強いですが、esportsには本当に本気で取り組むのでしょうか?

 2018年3月の事業立ち上げ記者会見を行った際、インターネット上を中心に、「お金の匂いがするから始めたんちゃうか?」、「中途半端な気持ちでやってるんちゃうの?」などと、弊社の取り組みを怪しむ声が上がったのは承知しております。ですが、僕らは本気です。

まず、なぜesportsに取り組み始めたのかを説明いたしますと、もともと弊社は芸人さんやタレントさんの活躍の場所を作っていくというのが仕事です。それは劇場から始まり、ラジオが登場して、テレビ、インターネットなど、メディアの変化に応じて活動の場所を広げてきました。その流れから、esportsもそのひとつの場所になるのではないかという考えから参入いたしました。

弊社はさまざまな分野で市場を開拓してきましたので、esportsにおいても僕らが市場を拓いていかなければならないという気持ちで取り組んでいますし、僕らが市場を盛り上げて産業化していかないとビジネスにはならないと考えています。

――そういった意気込みで参入されたんですね。

 そうですね。業界の外からは「esportsいいね」と言われることがありますけど、実際はまだまだビジネスにならない市場です。ですから、僕らはここから変えていかないといけないなと。そのためにはesportsやゲームに興味がない人を取り込んでいく必要があり、競技的なesportsをやりつつも、裾野を広げていく施策も重要だと考えています。本当にゼロから全部自分たちでがんばってやっていこうという本気の覚悟です。

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将来的にはイベントを軸にしたマネタイズを

――マネタイズはどのようにお考えでしょうか?

 チーム運営だけでは選手のイベントや番組の出演料などが中心となり、それだけではきびしいと思います。esportsにはチーム運営だけではなく、イベント運営や配信事業もありますので、これらすべてを自分たちでまわしてビジネスを作っていければなと。イベントなら自主興行はもちろん、クライアントから発注を受けたり、配信であれば広告収入を目指せます。そして、それらの露出があることで、スポンサーの参入という形もありますよね。

――スポンサーがつけば大きいですね。

 スポンサーへのメリットはまだなかなか出せないのが現状です。たとえば、企業様に5000万円の広告費があったとしても、esportsには投資しないんですよ。なぜかというと、esportsがどのくらいの牌があって、どんな人たちに訴求できるのかということがわかっていないからです。一般企業の広告宣伝部であれば「テレビCMを打ったほうがいい」となってしまうんですよ。そのため、いまのところは小さい割合の販促費でキャンペーンをやろうかという範囲になってしまっています。

世間ではゲーム人口4000万人と言われていますが、それがesportsを主語にして話したときには100万人ぐらいに減ってしまうと思うんです。それって国民の数%しかいませんよね。だからこそ、まずは裾野を広げることが大切だと思っています。

――収入はスポンサーを中心に考えているのでしょうか?

 はい。それに加えてイベントですね。海外だと何万人規模ものイベントがありますが、いまの日本ではまだ成立しません。ゆくゆくはそのくらいのイベント市場を作り、1万人や2万人を集められる土壌ができたときに、誰かにイベントを頼むのではなく自分たちがイベントを運営できるような環境やノウハウを築いていきたいです。

イベントを自分たちでできれば、スポンサーであったり広告、放映権、物販など、さまざまな形式でのマネタイズが可能だと思います。やはり出演料などだけではきびしいですから、それだったらイベント自体を自分たちで仕切る。すぐには実現できないと思いますが、それがいちばん大きいはずです。

――イベントを軸にして、さまざまなマネタイズを模索していくんですね。

 はい。そのために現在は市場を広げるための投資をしている段階ですので、大きなマネタイズはまだ見えていません。ですが、3月の発表以降はesportsに興味のある企業様からの問い合わせが増え、ゲーム関連の仕事は増加傾向にあります。たとえば、「イベントや番組MCを〇〇さんにやってほしい」というオファーなど、これまで声がかからなかった芸人さんたちにもオファーが来ている状態です。ステップ・バイ・ステップとして、一歩目は踏み出せている感覚はありますね。

――御社は地上波にも強いと思いますが、露出はどういったものを考えていますか?

 芸人さんが日々テレビ番組に出演してテレビ局と信頼関係を築いており、そういったことからもうちの強みはメディアリレーションだと考えています。

一方で、esportsはネットメディアとの親和性が高く、海外では若い世代への訴求が強いと言われています。とはいえ、日本ではまだまだテレビが中心ですので、そこをきちんと押さえないと広がっていかないのかなと。

つまり、テレビでマスを取りにいきつつ、web配信でコアな層を狙っていきたいと考えています。配信プラットフォームもたくさんありますが、ゲームタイトルごとに使いわけるなど、メディアはケースバイケースで活用していきたいですね。

――テレビ局のesportsへの関心はいかがなのでしょうか?

 ゲーミングチームを組織して番組も作ってという日本テレビさんのようなところもあれば(※)「esportsって何ですか?」というようなテレビ局さんもあり、温度差があると感じています。やはり番組は視聴率を考える必要があるので、現状esportsは認知が少なく視聴率がさほど稼げないと思いますので、試験的にチャレンジしているという印象を受けます。

※日本テレビがesports事業に参入

ですが、そこから始めないとマスに響かないため、やっていかないといけない。そのときに、うちであれば「視聴率を稼げるような人気タレントを出すので、番組を作ってほしい」とテレビ局さんに持ち掛けることもできます。そういったところがほかのゲーミングチームにはできない強みかと思います。

チームの拡大は慎重に

――吉本さんというとお笑いのイメージが強く、もっと緩いチームを想像したのですが、実際にはかなりガチなチームになっています。今後もガチ路線なのでしょうか?

 8~9割はガチ路線でいきます。残りの1~2割の部分で、多くの人が知っているようなゲーム好きの芸人さんを使ってプロモーションするなど、esportsへの間口を広げるにような活動を行っていく予定です。だって、一般の方にいきなりガチゲーマーを見せても「は?」と引いてしまうのでしょうから(笑)。見え方として1~2割は緩い部分があるかもしれませんけど、それはガチの延長の緩さだと捉えていただければと思います。

――今回のEVO選抜で決定した代表選手たちの印象はいかがですか?

 とてもいいプレイヤーが集まったと思います。また、選抜大会はEVOに強い選手を連れて行くという目的とともに、「もっとesportsを盛り上げていこうぜ!」という意図で企画しましたので、そういう意味では十分刺激になったはずです。

――今回はスポットスポンサードとのことですが、選手の成績がよければ本格契約も考えているのでしょうか?

 僕らとしてはそのつもりです。選手それぞれの生活があるためどのように考えているのかは選手次第になると思いますが。

――選手たちは今回の取材で初めてユニフォームを着たそうですね。

 はい。選手たちにも気に入ってもらえたようでよかったです。ユニフォームもこれまでのesportsチームのものとは違った魅せかたをしていきたいなと。というのは、一般の方がesportsチームのユニフォームを見ると、スポンサーロゴがたくさん入っていて肝心のチーム名がわかりにくいんですよね。

サッカーや野球、卓球などは、わかりやすいスポーツブランドのユニフォームを着ていて、いわゆるナショナルクライアントと呼ばれる誰もが知っている企業さんのロゴが入っています。一般の方のスポーツ選手の見え方はそれがふつうなんですよ。

だから、うちのユニフォームはNIKEさんで作りました。僕らはまだスポンサー様を選ぶ立場にはないのですが、できる限り一般の方がわかりやすい企業様を選びたいんです。ゆくゆくはユニフォームだけではなく、そのほかの部分でもサプライヤー契約を結べたらと思います。そういったことは、これまでのesportsチームと違った方向でやっていきたいですね。

――そういった大手企業との関係値は、吉本さんならではの強みになりそうですね。

 はい。うちに所属してくれたら地上波を含めて露出の場所がたくさんありますし、プレイ以外の仕事も増える可能性があります。僕らはもともとがマネジメントの会社ですから、選手やタレントの人生を背負う覚悟でやってきました。スポーツ選手であれば現役引退後のことも二人三脚でやっています。それはesports選手も同じで、セカンドキャリアを含めて面倒を見る覚悟でやっていますし、うちであればさまざまな活躍の場を用意できると思っています。

――今後、さらにいろいろなジャンルの選手を獲得して、チームを拡大していくことはあるのでしょうか?

 チーム運営は、選手の給与のほか遠征費用やトレーニングルームの維持費用など、大きなコストがかかりますので、そこは慎重にやっていこうと思っています

ですから、さきほども言いましたが、マネジメントだけではなく、イベント運営なども手がけて軌道に乗せていきたいですね。たとえば、プロリーグをIPホルダーさんといっしょに運営したり。

――ゲーミングチームを持っている企業がリーグも運営を行い、運営のチーム参戦した場合には公平性の問題などが浮上しそうですね。

 確かにおっしゃる通りですね。まだ将来的なことなのでわかりませんが、後ろ指をさされるようなことはしたくありませんので、たとえば運営部分は別会社にするなど、さまざまなやり方を模索していきたいですね。

――では最後に、“将来のesportsがこうなったらいいな”というビジョンはありますか?

 選手たちがesportsだけで飯を食べていけるのがいちばんですよね。しかし、現状ではさまざまなしがらみもありますし、僕らだけでは難しいと思っています。ですから、esports自体のプレゼン性が高まることによって、資金力のある企業さんが乗っかってくる状況ができてほしいなと。

ほかには、海外のように選手の出待ちがでてくるような世の中になってほしいですし、数万人を動員できるイベントが開催されたりと、そんな将来を目指したいですね。日本人はなんでも日本代表が好きなので、esportsがメダル競技化することで変わってくるのかなと思っていますし、そういったイベントにどう乗っかっていくかが大切になりそうですね。

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