俺は超越者(オーバーロード)だった件   作:コヘヘ
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あらゆる歴史が魔王を襲う。
黒幕にならぬよう「竜」は警告する。


第四話 黒幕

広くて狭い評議国内にある

 

『白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)』ツァインドルクス=ヴァイシオンの住む洞窟。

 

俺はスルメさんとツアーと三人に報告した。

 

ンフィーレアのタレントで思いついた『世界滅亡』のシナリオとその可能性を。

 

 

話を聞いた二人は有り得なくはないなぁという反応だった。

 

俺という存在の規格外の存在から、類似した考えが薄々頭にあったらしい。

 

流石に『具体例』を提示されたのは衝撃的だったようだが。

 

 

俺は法国、評議国間の連携強化について聞いてみた。

 

時間を、体制を整えていればンフィーレアの件を片づけるのは容易だったから。

 

魔王国の『信用』を一刻も早く欲しかった。

 

…数十年かかると知っていてもより早く。

 

 

 

…ツアーは想定通り無理ということだった。

 

 

しばらくぶりに『永久評議員』としての強権を使ったというのもあり、

 

確実な『魔王国』の有益性が示せないと動けないらしい。

 

 

ツアーはンフィーレアのタレントが想定された最も不味い物だったら、

 

即、殺してもらわないといけないレベルだったと苦笑していた。

 

 

 

「『魔王国』による『占領』だと一部国民から苦情が来ているんだ。

 

 そんな状況下で、『世界滅亡』の可能性のタレント持ちとか最悪だよ。

 

 …根回しするにしても、絶望的に『信用』も『時間』も足りなかった」

 

俺のしようとした『行為』を多分察している。

 

 

ンフィーレアのタレントを奪おうとしたのだろうと呆れている。

 

 

ツアーはスルメさんの最後の作戦で『流れ星の指輪(シューティングスター)』のことを知っているからわかったのだろう。

 

 

だが、俺もンフィーレアに散々言われたので、素知らぬ顔をする。

 

問題なかったのだから問題ない。

 

ンフィーレアのタレントが、ただの有益なタレントだから俺も二人に公表できた。

 

 

 

…ツアーのような、議会制の国ならこういう姿勢になるのは仕方がない。

 

 

ツアーの配下ならばもう少ししたら交流可能と言われた。

 

その代わり、『魔王国』が隠している『技術』を何か一つ公表しろと言われた。

 

それを用いて根回しに使い、評議国内の空気を換えたいらしい。

 

 

 

俺は承知した。『手』はもう既にいくつかある。

 

問題のない『技術』を見繕う。

 

だが、これはアルベドやデミウルゴスの意見を聞かないといけない案件だ。

 

後日、『魔王国』から評議国へ使者とともに『技術』を送ると伝えた。

 

 

 

スルメさんは、『ズーラーノーン』さえなくなれば一部『精鋭』の交流は可能と言った。

 

 

スルメさん自ら法国の『精鋭』を率いて調査した結果、

 

『帝国魔法学院』内のある『生徒』が、ズーラーノーンの『盟主』だと確信したらしい。

 

 

…どんな学校だよ。帝国魔法学院って、フールーダの管轄だろう。

 

そんな危険な存在に気が付かないとか、どうなっているんだ。

 

 

…いや、だからこそ気が付けなかったのか。

 

そもそも有り得ない前提だ。

 

 

…『ズーラーノーン』の盟主がそんなところにいるはずがないというバイアス。

 

 

発見したスルメさんが凄いだけだ。これは。

 

 

スルメさんは『魔王国』に盟主の討伐を協力して欲しいと言ってきた。

 

 

『魔王国』と協力して、『ズーラーノーン』盟主討伐の実績を足掛かりにすれば、

 

想定より早く『法国』の意識改革ができるはずだという。

 

 

「『ズーラーノーン』は凶悪なカルト教団ですが、『盟主』のカリスマ性が大きい。

 

 奴に『死』をくれてやれば、内部崩壊する『罠』を張り巡らせている最中です。

 

 …それにしても『死神』になろうとは烏滸がましい」

 

スルメさんは『ズーラーノーン』が相当気に食わないようだ。

 

 

無理もない。人を救うという法国の前提すら無視している連中だ。

 

 

だが、俺は気になることに気が付いた。

 

 

その『盟主』、『生徒』の名前がアルシェの語っていた『友達』の名と一致している。

 

アルシェのことを知る為に、『休憩時間』にアルシェと何度か話していた。

 

ラナーのときのようにお茶会をしていた。今後のための布石として。

 

 

なので、アルシェの好みや友好関係などは全て把握している。

 

 

だから、気が付いた。何故その『友達』が『盟主』なのか。有り得ないと。

 

言っては悪いが、ただの『才女』だ。その『友達』も。アルシェの話を聞く限り。

 

 

「『ズーラーノーン』の『盟主』はその子で確定ですか?」

 

俺は確認する。

 

アルシェの『友達』が『盟主』であってほしくなかった。

 

 

「正確に言えば…その子の『中』におります。

 

 『盟主』が絶対バレないと思っても仕方がない程、巧妙な手口でした。

 

 

 だが、我が友『聖騎士』が村落の子の内部に入り込むため、思いついた儀式の応用です。

 

 

 友は志半ばに死してしまいましたが、我が目を誤魔化せるはずがありません!

 

 あれはあの儀式の完成形!我が絶対見間違えることなどあってはならない!!」

 

激怒するスルメさん。

 

 

『友』の『技術』を悪行に使われたことに相当キレている。

 

 

無理もない。

 

 

…だが、俺は聞いてはいけないことを聞いてしまった。

 

…あの『ペド』、村落の子供に何しようとした?

 

 

ツアーも何とも言えないようだ。察している。変態の所業を。

 

 

本当に未遂で済んで良かった。志半ばで死んでくれて良かった。

 

『盟主』も変態行為のために作られた『儀式』だと知ったらどんな顔をするのだろうか…

 

 

気持ちを切り替える。これは重要案件だ。

 

「協力しますから、その子の中から『盟主』を追い出せませんか?」

 

俺は詳細を知らないから聞いてみる。

 

アルシェの『友達』だ。できれば助けたい。

 

 

…それに別の『思い』の方が強い。

 

 

「…できなくはないでしょう。『魔王』様の『財』を使えば。

 

 ただ、正直申しまして…『釣り合い』が取れません。彼女を救うのは。

 

 勿論、無辜な子を殺すのは我が意にも反しております。

 

 

 ですが、五百年経過した法国にはもう救う『手段』がありません。

 

 

 なので『魔王』様に救助を全てお任せすることになります。

 

 どのような『手段』かは、お任せしますが…よろしいので?」

 

スルメさんが恐る恐る聞いてくる。

 

スルメさんが言うように本当に『釣り合わない』のだろう。

 

スルメさんが諦めるのは相当だ。…そう相当なのだ。

 

 

だから、俺は言う。

 

「情報を知らないと何とも言えません。

 

 なので、先にどのような『儀式』なのか、

 

 どのようなその子が『状態』なのか、発見までの経緯等全ての情報をくれますか?」

 

スルメさんに無茶を言うのは承知だ。

 

ある意味、自らの『技術』を売り渡せというようなものだ。これは。

 

 

 

だが、俺は知っている。

 

「おお…流石は我が真なる『盟主』!『魔王』モモンガ様!!

 

 いくらでも情報などお渡ししましょう!我が友もそれを望むはずです!!」

 

『友』の『技術』を利用された被害者を救いたいのは一番スルメさんなのだと。

 

 

わかる。俺だってブチ切れる。

 

友が求めていないであろう行為にあらゆる解決手段を模索する。

 

 

それでも無理だったのだろう。今の『法国』では。

 

 

…スルメさんがどれだけ悔しかったか、恐ろしいくらいわかる。

 

 

「『魔王』の名において誓おう。必ずや『手段』を見つけることを!」

 

スルメさんに誓う。必ず救うと。

 

 

…正直割にあわない可能性が高い。

 

 

だが、法国タレント持ちの把握・管理ノウハウは一年でも早く欲しい。

 

 

…必要経費だ。最悪、熱素石は時間さえあれば取れる。

 

それを使えばどんな状態でも不可能ではないだろう。

 

本当に熱素石は最後の手段だが。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

盟主の『儀式』は、魂の同化。蘇生では盟主と生徒の両方が復活する可能性が極めて高い。

 

その反面、魂は他人に逃げられる。丸ごと消すことはLv100なら余裕。

 

魔法上昇(オーバーマジック)により第八位階がギリギリ使えるらしい。

 

それで『儀式』を行ったと推測される。

 

傾城傾国等の『ワールドアイテム』を持ち出せば盟主のタレントで勘付かれる可能性が高い。

 

 

…俺のような『完全催眠』のようなワールドアイテムなら『気配』は誤魔化せるというが、

 

救う一手にはなりえない。

 

 

そこまで万能じゃないのだ。『完全催眠』は。

 

 

法国に『破滅の竜王』を見せてしまったように催眠の内容を意識していないと暴走する。

 

飽くまでも自分が認識できる範囲でしかできない。

 

他のワールドアイテムの『気配』など消せない。

 

 

ワールドアイテムの効果はワールドアイテムで打ち消せる。

 

 

俺の保持するワールドアイテムだから隠せる。それ以外は無理だ。

 

…熱素石が使えない。いや、離れたところからなら可能だ。

 

しかし、共同でことに当たれない。『実績』にならない。

 

 

 

…これは法国では、スルメさんには不可能だろう。救助など。殺すのは容易でも。

 

 

 

だが、俺はこれらの情報を貰い、『可能性』を考える。

 

あらゆる思考を『最短』に導く。

 

一、支配の呪言。不可。推定レベル40以上。

 

二、タイムストップ。不可。意味がない。

 

三、ンフィーレア。論外。頼らないと決めた。

 

…ひとつ解答が浮かぶ。だが、法国の問題がある。

 

 

「…スルメさん。一つ思いつきました」

 

俺はスルメさんの判断に任せることに決めた。

 

これが一番簡単に解決できる。『財』すら不要。

 

共同でできる。『実績』にもなる。

 

 

「おお!盟主様!おっしゃってください!!」

 

『答え』が見つかったことに狂喜しているスルメさん。

 

 

だが、法国はどうなのか知りたい。

 

「作戦にLv80台の悪魔を連れていければ、『財』すら使わずに可能です。できますか?」

 

…法国では不味いだろうこのレベルの『悪魔』は。

 

 

かと言って、『完全催眠』で悪魔を誤魔化すのは不味い。

 

既に俺は法国に『完全催眠』使ったせいで、無用な警戒があるという。

 

…今回に限っては俺の気配遮断以外で使えない。

 

 

それにスルメさんが最初に断りを入れてきた。

 

できれば気配遮断以外で使わないで欲しいと。

 

 

スルメさんを強引に説得すれば『完全催眠』は使えるかもしれない。

 

…だが、法国は『精鋭』なのだ。確実に気が付く。

 

 

『完全催眠』を使えば、何かがおかしいことに。

 

 

さらに、モンスターの知識をあらゆる角度から叩き込まれている『占い師』がいるという。

 

…『悪魔』の能力を知っている可能性がある。いや、高い。召喚できないだけで。

 

 

なにより、これから友好関係を築くための『共同作戦』なのだから『嘘』は不味い。

 

 

だが、

 

「我が『死神』の名において誓います、全く問題ありません」

 

スルメさんは断言した。問題ないと。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

会談が終わり、『詰み』に入った段階でスルメさんからメッセージが届くことになった。

 

 

俺は正直そこに居合わせれば良いだけだ。

 

俺いらない子説がどんどん加速している。

 

この作戦とも言えない内容は、頼れば一瞬なのだ。本当に。

 

 

スルメさんが法国で早く説得してくると息巻いて先に帰った。

 

この分だと、一月かからないで『詰む』だろう。

 

 

『罠』がどんなものかわからないが、『最中』と言っていた。時間はかかる。

 

 

その間に、万が一の場合に備えて、アルシェから聞き取りを行うべきか?

 

 

 

そんなことを考えていると、

 

「モモンガ。突拍子もないことを一つ尋ねたい」

 

ツアーが本当に突然、だが、真剣な声で俺に尋ねてきた。

 

 

「…ああ」

 

何事かと思うが、何か大事なことなのは察した。

 

だから聞く。

 

 

「…君が、ナザリック抜きで転移したとして、この『世界』の英雄クラスの実力で、

 

 リ・エスティーゼ王国の『時代』を何が何でも変えなければならない場合どうする?」

 

意味がわからない質問。

 

…だが、『時代』を、『何が何でも』なら大前提が必要だ。

 

英雄程度なら、Lv30程度なら。

 

 

「自分の命は?」

 

絶対必須条件だ。自分の死を含めないで完璧な計画等ありえない。

 

 

「構わない」

 

ツアーは知っていたとばかりに即答する。

 

『答え』がわかって聞いている。俺にはわかった。

 

だが、答えろと『目』が言っている。

 

 

だから、俺の考えられる『最短』を言う。

 

 

「…まず、八本指を支配する」

 

これは大前提だ。必要悪以上の存在なら消しても問題ない。

 

 

「次に、王国の、腐った貴族を利用し劇場型犯罪を誘発する」

 

そう、民衆を煽る。

 

『悪』の存在があることを『王国』に示し、民衆を味方につける。

 

 

「民衆の不満を誘発し、革命を起こす」

 

これは容易だ。民衆レベルなら誘導可能だ。

 

 

「その際に『英雄』を作り出す」

 

モモンのような英雄だ。

 

この場合は本来ガゼフが適切だろうが、王に忠誠を誓う以上無理だ。

 

…『誰か』を見つけ出す。ありとあらゆる手段を持って、作り出す。

 

 

「貴族社会から民主社会への移行までの流れを作成して軌道に乗せる」

 

これも容易。『英雄』をそう考えるように誘導すれば良い。

 

さらに、フォローさせるための知識層を焚きつける。誘導する。

 

 

「そして、俺が全ての『黒幕』だとバラす」

 

そう。ここが一番大事だ。完全に移行するための『黒幕』は俺じゃないといけない。

 

他人には任せられない。信用できても、信頼できても一番可能なのは自分だ。

 

 

「『英雄』が『黒幕』を倒せばめでたしめでたしだ。革命後の混乱は早期に収まる」

 

民衆の怒りの矛先は『黒幕』に向かう。

 

そうすれば、フランス革命のような粛清政治も起きないだろう。

 

 

「おそらくこれが『最短』だ。…『時代』を変えたことの混乱はほぼないだろう」

 

俺は、知っている『目』をするツアーに語り終える。

 

何がしたいのかと『目』で尋ねる。

 

 

「…それを『世界』規模でやろうとして失敗したぷれいやーがいる」

 

ツアーはそう言った。

 

…有り得ない。見合わない。俺ですらやらない。そんな馬鹿なことは。

 

 

「モモンガ。君はあの『教授』と同じ才能の持ち主だ」

 

『教授』?…誰だ。この世界の歴史には存在しないはずだ。

 

俺が調べた範囲で、少なくともそんな存在は。

 

 

「だから、話す。『竜王』ではなく、『英雄』として。

 

 人間達の間では…『十三英雄』という者達の昔話を」

 

『白金の竜王』としてではなく、十三英雄の一人『白銀』として。

 

 

そうツアーは語った、俺に十三英雄の『真実』を教えた。

 

 

ツアーがリーダーと『教授』、共に仲間と思っていた。

 

いや、『真実』を知ってなお仲間と思っている大切な存在を。

 

 

 

…俺は『そいつ』を知っていた。

 

来ていたのか、この『世界』に。

 

 







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