今回の対談相手は2018年3月にオープンした書店「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」(関連記事 「HMVが日比谷に『女性向け書店』 男性も歓迎?」) の店長で書店員の花田菜々子氏。花田氏が実体験をもとにした執筆した書籍「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」は2018年4月の発売から話題を集め、累計発行部数は3万3000部、2018年7月末時点で7刷も決定したヒット作となっている。「書店には行くが電子書籍を購入する機会が増えた」という高橋氏と現役書店員が語る「本の未来」とは?
面白い本に出合いたいが、外したくないという心理
高橋晋平氏(以下、高橋): 今回の本を読むまで花田さんのことを知らなかったのですが、長い間ヴィレッジヴァンガードで働いていらしたんですよね。
花田菜々子氏(以下、花田): 2003〜2015年までいました。「∞(むげん)プチプチ」もかなり売らせていただきました。
高橋: ありがとうございます。差し支えなければ、辞めた理由を伺ってもいいですか。
花田: 理由はいろいろありますが(笑)、簡単に言うと、仕事を通じてモノを売る楽しさを知るなかで、「私は本を売ることが好きなんだ」と感じるようになったことでしょうか。退職後は別の書店に勤めたりもしましたが、今年からこのHMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE(以下、日比谷コテージ)で店長をやっています。
高橋: 花田さんの本を読んで、僕も知り合いや有名人など、誰かがどこかで面白いと薦めていた本しか買えなくなっていることに気づきました。社会人になって間もないころはとにかくビジネス書を買いあさっていて。タイトルが刺さったら次々に買っていた時期でした。ただ、いつしかそれが「売れているから買う」に変わってきた。SNSがはやり出したころからだったような気がします。
それはそれで悪いことではないとは思いますが、「なぜ僕は人の薦めてくれた本でないと選べないんだろう」ということを、花田さんの本を読んで感じたんです。
花田: いろいろな人や書店員がSNSでおすすめの本を紹介するようになって、だんだんとセレクトが似通ってきているような気がします。書店が好きな人は今まで読んだことや見たこともないような本に出合いたいから足を運ぶのだと思いますが、せっかくユニークな品ぞろえが評判の書店に行っても誰かがどこかで薦めていた本を買ってしまうということが起きているのではないでしょうか。
面白い本に出合いたいけれど、外したくない。だから○○さんと○○さんが薦めていたこの本なら間違いないだろうという買い方は増えていると思います。
ただ、自分が人に本を薦める過程で、「ちょっと遠い場所からアプローチされる」ということの価値が昔より上がっているのではないかと感じました。今の時代、自分に近い情報は集めやすくなっているけれど、日常からかけ離れた情報はなかなか得るのが難しいですよね。
本を薦めてほしいという人も2種類に分かれていて、例えば歴史にあまり興味がない人に歴史小説を薦めたときに、「知らないジャンルに出合えた」と喜んでもらえる場合と「だから、そういうのはあんまり読まないんだって」 という反応をされる場合がある。その人からかけ離れたものを紹介するのは難しいことですが、貪欲な人ほど「自分から遠い」情報を求めているような気がします。