ロシア刑務所で受刑者を暴行、動画流出 世論反発

サラ・レインズフォード BBCニュース(ロシア・ヤロスラフル)

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ロシア刑務所で受刑者に暴行 流出した証拠映像

手錠をされ、どうにもならない。エフゲニー・マカロフ受刑者が顔を机に押し付けられると、看守は交代で、マカロフ受刑者を殴る。

看守はまず足の裏を手で殴ったあと、警棒で打ちすえる。

攻撃は怒りに任せたものでも、その場の勢いによるものでもない。そのやり方は、最大限の痛みを引き起こすよう計算されている。

攻撃の合間には、疲れ切った看守は休まなければならない。

受刑者への暴行は1年以上前、モスクワの北272キロにあるヤロスラフルの1号刑務所で起きた。

被害者の訴えは当時、退けられた。調査担当者は、職員が「適切な」力を行使したと結論した。

衝撃的な証拠映像をロシア紙が公開したのを機に、ショックを受けた国民が正義を求めている。

調査の主な対象となっているヤロスラフル刑務所 Image copyright Getty Images
Image caption 調査の主な対象となっているヤロスラフル刑務所

「ずっと泣いている」

「最初は動画を音なしで見た。最後まで見られなかった」とマカロフ受刑者の母タティアナ・マカロワさんは私に話した。動画が世に出てから最初のインタビューだった。息子が暴行されているのを見て以来、マカロワさんはあまり眠れていないという。

「ずっと泣いている。寝ていると看守の顔が浮かび、うめき声や殴る音が聞こえてくる。とても辛い」

流出した動画に、世論は憤った。

公開後すぐ、確認された看守のうち6人が警察に拘束された。残りの看守は停職処分となり、新たな調査が始まった。

7月25日、裁判所に姿を見せたマクシム・ヤブロコフ容疑者 Image copyright Getty Images
Image caption 7月25日、裁判所に姿を見せたマクシム・ヤブロコフ容疑者

ビデオでは、マクシム・ヤブロコフ容疑者(24)が受刑者を繰り返し攻撃する様子がはっきりと映っていた。罪状認否で容疑者は受刑者への暴力に加担したことを認め、他の同僚について証言すると同意した。

裁判所の廊下を歩いて行くと、別の法廷では、刑務所の受刑者たちから「SS」というあだ名をつけられた看守も、暴力に加担したと認めていた。

「SS」のあだ名を持つセルゲイ・エフレモフ容疑者
Image caption 「SS」のあだ名を持つセルゲイ・エフレモフ容疑者

被害者の母、タティアナ・マカロワさんは、法廷に現れなかった。マカロワさんは私に、緊張しすぎていて顔を出せなかったと話した。動画を何らかの方法で入手したイリナ・ビリュコワ弁護士は、脅迫され、しばらくロシアを離れなくてはならなかった。

「今回の動画のような記録、あるいは起訴が可能になるような何かしらの証拠が手に入るのは、とても異例だ」とビリュコワ弁護士は私に電話で説明した。「看守たちは何をやっても罪に問われないと思っているので、暴力を使い続ける」。

ビリュコワ弁護士はマカロフ受刑者が暴行を受けた5日後に、受刑者と刑務所で面会した。その時の受刑者は、ほとんど歩くこともできなかったという。

マカロフ受刑者は、監房の床に落ちていた母親からの手紙に、看守が踏みつけた跡があったと説明した。弁護士によると、マカロフ受刑者が看守たちを罵倒したところ、看守たちはただでは済まないと告げた。

暴行の舞台となったIK-1として知られる刑務所は、ヤロスラフル中心部から車で30分ほどのところにある。

ずさんに継ぎの当てられた防御壁に囲まれた、ひどく老朽化した建物が並ぶ。ヤロスラフル市内には、丁寧に修復された教会や魅力的な公園が点在するが、IK-1とは雲泥の差だ。身の安全のため、マカロフ受刑者はその後、同刑務所から移された。

ボルガ川流域の古都ヤロスラフルに建つたくさんの教会の1つ
Image caption ボルガ川流域の古都ヤロスラフルにはこうした教会がたくさんある

IK-1での出来事について全面的な調査が実施されるなか、ロシアの刑務所当局は現在、国内の全収容施設を徹底的に調査すると約束した。

しかし、IK-1で暴行されたと主張するのは、マカロフ受刑者だけではない。

「看守たちは後ろから、手や足、ゴムの棒、ありとあらゆるものを使って私を叩いた」。イバン・ネポムニャシクさんは、自分の恐怖体験をこう語る。反プーチン派抗議者の1人だったネポムニャシクさんは、2012年にモスクワで大規模集会の後で収監された1人だ。一時期はマカロフ受刑者の隣の監房だったという。

ネポムニャシクさんによると、2017年4月には刑務所の廊下を繰り返し往復させられた。ずらりと並ぶ看守に、次々と殴られたという。

「看守は私をむりやり走らせようとしたが、私は拒んだ。廊下を3回ほど往復した後、別室に連れて行かれた。20人ぐらいがそこにいて、私を殴った」

こうした暴行は「よくあること」で、「習慣化」しているとさえ、ネポムニャシクさんは言う。

残酷行為が異例の露出

ロシアの連邦刑執行庁は、調査が進行中だとして取材を拒否した。しかし、同国の人権オンブズウーマン(人権全権代表)事務所による最近の報告では、 虐待の訴えを昨年は905件受理したという。件数は2016年から15%上昇した。

ヤロスラフルの地元オンブズマン、セルゲイ・バブルキンさんは、受刑者への暴力は組織的なものではないと主張する。しかしバブルキンさんは、虐待者に責任を取らせるのはとても難しいとも認めている。

バブルキンさんが昨年、マカロフ受刑者の件を調査した際、看守たちは受刑者が監房から出ろとの命令に対し攻撃的に抵抗する動画を提出してきた。

バブルキンさんはその後の展開について、ぜひとも動画の続きを見せるよう、強く主張しなかったという。

「無意味だからだ。看守が私に見せた内容は、それ以上でもそれ以下でもない。あれが公式な説明映像だ」とバブルキンは語る。看守は全員、制服にカメラの着用を義務付けられているのだが、バブルキンはカメラが「選択的」に、「罪を隠すという看守の利益に沿って」使われていると認めている。

それだけに、マカロフ受刑者の暴行映像が世間に出たのは、極めて異例なことだ。

「自分の国の刑務所で何が起きているのか理解するために、みんなこの動画を見なければならない」と、母親のマカロワさんは私に語る。ビデオの公表以来、同じような経験をしたという他の受刑者の母親たちが、次々と連絡してくるのだという。

「最後には、全てが明らかになってもらいたい。あの連中が、やったことにふさわしい形で裁かれるように」とマカロワさんは語る。「罰を受けてほしい」。

(英語記事 Russian outcry over prison brutality video

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