自民党の杉田水脈衆院議員が月刊誌「新潮45」への寄稿で、性的少数者(LGBTなど)を「生産性がない」とおとしめた問題で、識者から「ナチス・ドイツと同じ発想」「相模原障害者殺傷事件の植松聖被告と重なる」と批判が出ている。人の価値を「生産性」で語る危険性を、識者たちと一緒に考える。【宇多川はるか、日下部元美】
「ナチスと同じ発想」…ネットに続出
杉田氏は寄稿「『LGBT』支援の度が過ぎる」で、「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるのか。彼ら彼女らは子どもを作らない、つまり生産性がない」と書いた。
ネット上では<ナチの優生思想>などと批判が続出。自民党本部前で杉田氏の辞職を求める抗議集会も開かれた。海外メディアも競って報じ、英インディペンデントは<日本の政治家がLGBTを「非生産的」と呼ぶ>など報道。引用符で“unproductive”と強調している。
ナチズムと医学のかかわりなどについて研究してきた木畑和子成城大名誉教授(ドイツ現代史)は「性的少数者を問題視する杉田氏の姿勢はナチと全く同じだ」と驚く。ナチ時代には、子を「生産」しない男子同性愛者は強健な兵士の大量育成を目指す出産奨励策に反するとして約10万人が逮捕され、約半数が強制収容所などに送られた。これと並行し、優生学のもと遺伝的に「劣等」とされた障害者たちの出生を防止する断種法が作られ、犠牲者数は約40万人に上るという。
LGBT支援に伴う税負担を否定する杉田氏の主張について、木畑さんは「ナチ体制成立の契機となった大恐慌時代、障害者福祉政策の経済的負担を軽減するために断種政策が模索されたことを想起させる」と評する。
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戦後日本で続いた旧優生保護法下の強制不妊手術問題に取り組む利光恵子立命館大生存学研究センター客員研究員は、「性的少数者を傷つけるにとどまらず、子を産めない人をおとしめ、子を産まない生き方の選択を排除するものだ」と杉田氏を批判する。
強制手術は、差別意識に基づいて障害者から産む選択を暴力的に奪った国家の犯罪だった。利光さんは「子を産まない性的少数者を攻撃する杉田氏と一見かみ合わないが、性や生殖を巡る個人の自己決定権を侵害している点で共通し、コインの裏表だ」と話す。
経済的物差しで測れぬ価値
一方、全国に先駆けて重症心身障害者の通所施設を開いた日浦美智江さんは「杉田氏と植松被告の言葉に同じものを感じる」と話す。「植松被告は知的障害者を『心失者』と呼んで殺害を肯定し、勝手に『心がない』と決めつけた。杉田氏も自分の狭い枠に当てはまらない相手を否定しているのではないか」
日浦さんは、障害者と交わる中で自分の未熟さに気付かされた。それは経済的な物差しでは測れない価値だと感じている。「自分の枠からはみ出す他者を心の中で殺すような社会では豊かに生きていけない」。障害者も含めて考えや生き方の異なる人との交わりが、人の生を実りあるものにすると信じている。