私のようなエコノミストにとっては、各種の経済データから現下の状況が景気回復局面にあることは間違いないのだが、その一方で「景気回復が実感できない」というような意見やアンケート調査をメディアではよく見かける。
例えば以下のような記事である。「朝日新聞社が11、12両日に実施した全国世論調査(電話)で、景気がよくなったかどうかの実感を尋ねたところ、『あまり』と『まったく』を合わせ、『実感していない』は82%に上った」(朝日新聞、2017年11月14日)。
この種のアンケート調査は質問の表現次第で、結果は白にも黒にもなるので注意しなければならない。人間が本当に感じていることと、ある種の問いに対して意識的に表出される言葉とは、実は乖離している場合も多い。
本当のところ近年の日本の景気は生活者の目線で改善しているのだろうか、していないのだろうか。
それを判断するひとつの方策は、表出された言葉ではなく、人々の行為の結果を見ることだ。今回このコラムでまず注目するのは自殺件数の変化である。
厚生労働省が調査公表した2017年の自殺率(人口10万人当りの年間自殺者数)は16.8人となった。これは1971年(15.6人)以来の低さだ。
もともと日本の自殺率は先進国の中でも相対的に高く、ピーク時の2003年には27.0だったが、その水準から38%も減少したことになる。
それでも米国13.8人、フランス13.4人、ドイツ12.3人(いずれも2015年)よりやや高いが、その違いはもはや僅かだ。ちなみに主要国の中でも図抜けて自殺率が高いのは韓国26.5人(2015年)である。
何が自殺率低下の主因だろうか。
男女別の自殺率と失業率の推移を示した図1をご覧頂きたい。男性の自殺率は女性よりも平均で約2倍も高く、しかも失業率の変化と関係性が高そうなことが分かるだろう。
そこで男女別に横軸に完全失業率、縦軸を自殺率とした散布図(図2)をご覧頂きたい。
男性の自殺率の高さは、失業率の高さと非常に高い正の相関関係があり、相関係数(R)は0.93と最大値の1に近い。また説明度を表す決定係数は0.87であり、これは失業増→自殺増という因果関係を想定した場合、失業率の変化で自殺率の変化の87%を説明できることを意味する。
一方で、女性の場合はほぼ水平の分布となり、失業率の変化は自殺率の変化にほとんど影響を与えていない。