[東京 30日 ロイター] - 日銀は30、31日の金融政策決定会合で、「経済・物価見通しの展望」(展望リポート)における物価見通しを引き下げる見通し。そのうえで金融緩和政策のさらなる長期化をにらんだ持続性向上策を議論する。物価2%目標の実現に向けた金融緩和の効果波及の円滑化と市場の歪みの是正を図るため、長期金利目標「ゼロ%程度」の許容範囲拡大や、上場投資信託(ETF)の買い入れ手法の柔軟化などが検討対象に浮上している。
<緩和効果の目詰まり除去に主眼>
金融緩和の持続性向上策を検討するのは、物価上昇テンポが緩慢な中、現行の「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)付き量的・質的金融緩和政策」を粘り強く続け、経済・物価を支援していく必要があるためだ。
物価は想定より鈍いものの、日本経済は拡大が持続し、労働市場を中心に需給の引き締まりが続いている。日銀では、物価が目標の2%に向かう「モメンタム」(勢い)は維持されていると判断しており、追加的な金融緩和措置は不要との声が多い。
むしろ、金融緩和のさらなる長期化で、金融仲介機能や市場機能の低下など副作用の累積が懸念されており、緩和効果の波及経路の目詰まりを取り除き、政策の持続性を担保する方策が不可欠との認識が広がっている。
具体的には、大規模な国債買い入れと長期金利を「ゼロ%程度」に抑え込んでいるYCC政策の下で、政策効果の重要な波及経路である国債市場の取引減少など機能低下に警戒感を強めているもようだ。
現在の長期金利は、指定した利回りで国債を無制限に買い入れる「指し値オペ」によって、事実上、ゼロ%を中心に上下0.1%程度の狭い範囲に値動きが抑制されている。
日銀内では「硬直化している」(幹部)との声もあり、ゼロ%「程度」の解釈の範囲内で、より大きい変動を容認する案が浮上している。
こうした対応によって市場の流動性が確保されれば、金融機関の市場リスク管理や、収益への影響も多少は緩和され、金融仲介機能の一助になりうるとの見方もある。
日銀では、長期金利目標自体を引き上げれば、金融政策の正常化に踏み出したとの誤解を与えかねず、円高・株安を招いて日本経済にかえって悪影響を及ぼしかねないとみている。現在、マイナス0.1%としている短期金利の誘導目標は維持する見通しだ。
<ETFの買い入れ手法も柔軟化、TOPIXを拡大>
年間約6兆円の買い入れを進めているETFについても、購入手法の柔軟化を検討する。
現在、6兆円のうち約半分を東証株価指数(TOPIX)連動型とし、残りについてTOPIX連動型、日経平均株価連動型、JPX日経400連動型を時価総額に応じて購入している。
市場では、加重平均型の日経平均連動型が購入対象に含まれていることで、値がさ株など一部銘柄において日銀保有割合が高まり、実質的な流動性が低下しているとの批判が出ている。
このため、TOPIX連動型の配分を拡大することで、市場の「歪み」を是正する方策が検討されているようだ。
年間の買い入れ額6兆円の減額は株安を誘発しかねないため、慎重な見方が多い。もっとも、株価が比較的堅調に推移している中で、6兆円「必達」を目指した買い入れが株式市場の需給を歪めているとの指摘もある。6兆円を前提にした柔軟な買い入れ手法も検討対象になる可能性がある。
<20年度CPI見通しも引き下げへ>
会合では、実体経済の改善にもかかわらず、鈍い物価情勢について集中的に分析する。
日銀では、消費者物価(生鮮食品除く、コアCPI)が想定よりも鈍い背景として、今年前半の円高・株安や天候要因による消費の低迷など一時的要因があるものの、根強い人々のデフレマインドに加え、企業の省力化投資や過剰サービスの見直しといった生産性向上よるコスト吸収努力などが、想定以上に抑制要因に働いているとの見方を強めている。
このため、企業の賃金・価格設定行動の変化も緩慢で、物価2%目標の実現に不可欠な人々のインフレ期待の高まりも、後ずれせざるを得ないとの判断に傾いている。
新たに示す物価上昇率の見通しは、前回4月の展望リポートで示した18年度1.3%、19・20年度ともに1.8%からいずれも下方修正される公算が大きい。18年度は1%前後、19年度は1%台半ば、20年度は1%後半に小幅引き下がる可能性がある。
<生産性向上が重要な要因、リスクに貿易問題言及も>
もっとも日銀は、これらの物価抑制要因が、いずれ解消に向かうとの見方を崩していない。重要な要因は生産性向上で、短期的に物価を抑制する影響を与えるものの、中長期には、実質賃金の上昇を促し、潜在成長率や成長期待の押し上げに寄与するとみている。需給ギャップも改善基調が続くとみており、物価が目標の2%に向かっていく方向性をあらためて示す見通しだ。
最大のリスクと位置づけている海外経済の先行きでは、米国の保護主義的な通商政策が及ぼす影響も意識せざるを得ない状況になっている。こうした不透明感の強まりが、金融市場の変動や企業マインドの低下につながる恐れがあり、貿易問題の帰すうをリスク要因として言及する可能性がある。
* (誤字を修正して再送します。
伊藤純夫 梅川崇 編集:田巻一彦