キャリー・オーバーロード    作:はやかお
<< 前の話 次の話 >>

3 / 4
飛べない山羊はただの山羊。


プロローグ3

 

 超位魔法<黒き豊穣への貢>で数万体のモンスターを生贄にして5体の黒い子山羊を召喚したモモンガはその圧倒的な光景に瞠目した。

 周りいる配下からも感嘆の声が漏れる。

 

 「5体も召喚できるとは、これはすごい」

 

 黒い仔山羊は90レベルを越え耐久力に優れる強力なモンスターだが、その分召喚条件が厳しいため1体でも召喚できれば御の字だ。

 すかさず生贄になったモンスターから経験値を『無欲と強欲』に吸わせると、モモンガはどうしたものかと考え込む。

 

(戦ってるとこ見たいよな!!、でも生き残ったモンスターは時間経過で消えるのか見たいから)

 

 先程召喚したモンスターの生き残りに目をやると怯えて泣き出すものや茫然と立ち尽くす者達がいた。

 

(使役モンスターに感情があるのか、まぁNPCに感情があるくらいだしな、ここで子山羊と戦わせたら鬼畜かな?)

 

 モモンガの思考にまるで子供のような無邪気で残酷な部分が顔を覗かせると精神安定化が発動した

 せっかくのいい気分に水をさされて多少不快感を覚えたが、しょうがない、仕方がないと自分に言い聞かせる。

 

「そういえば、ドロップアイテムは無しか、これではユグドラシルの金貨の補充も難しいな」

 

 召喚したモンスターでも倒せばデータクリスタルやお金をドロップしたが今はそんなことはないようだ。

 懸念事項が一つ増えたが、本来の目的に立ち戻る。 

 

「誰かこの仔山羊達と戦ってみてくれないか?」

 

「いいんですか!!」

 

 アウラを筆頭に我こそはと名乗り出る階層守護者達。

 

「やられたところで問題はないからな」

 

 肩をすくめるモモンガ。超位魔法の使用回数は明日になれば回復するはずなので倒されても問題はない。

 

 相談の結果、アルベドとヴィクティムを除く階層守護者――つまり、シャルティア、コキュートス、アウラ、マーレ、デミウルゴス――の5人が戦うことになった。

 

 5人に無理はするなと言い含めるとモモンガは仔山羊に指示を出す。

 

「このモノたちを倒せ。ただし倒れたらそこで終わりだ。帰還せよ」

 

 指示を受けた仔山羊が走り出す、5本の足を器用に使い、俊敏な動きで守護者たちに迫る。

 

 マーレが杖を地面に突き立てるとクモの巣のような地割れが起きて5体の仔山羊が足を取られた、そこにマーレ以外の4人が攻撃を加えて地割れで出来た溝に子山羊達を落とす。

 

「メェェェェェェ」

 

 地面の中から子山羊の鳴き声が聞こえるが、だんだん小さくなっていく。

 

 マーレがもう一度地面に杖を突き立てると穴がふさがって、完全に子山羊の鳴き声も聞こえなくなった。

 

 子山羊達とのリンクが切れてその存在の消失を感じ取り唖然とするモモンガ。

 

「モモンガ様、いかがでしたでしょうか」

 

 デミウルゴスが聞いてくる、その表情は誇らしげだ。

 

「す、素晴らしい働きだったぞ、ハハハハ……はぁ~」

 

 モモンガは5人を褒め讃えようと努めるが、あっけない結末に言葉がでてこない。

 

(せっかく5体も召喚したのに、こんなすぐやられるのか。だいたい地割れはエフェクトだろ、本当に落ちるのかよ。ゲームじゃないんだからそうなるか)

 

 精神安定化が発動し気を取り直す。

 すかさず『無欲と強欲』を使って、子山羊達から経験値を吸い出す。

 

「さぁ、やるか I wish――」

 

 モモンガは超位魔法<星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)>する、この魔法は消費した経験値に応じて願いを適える魔法だ。

 

(これが本命だからな、モンスター召喚も子山羊もこのための布石なんだから、さてどうなるか)

 

 『ユグドラシル』では提示された選択肢の中からしか願いを叶えることはできなかったが、今はほぼ何でも願いを叶えられるのを確認する。

 

「これは選択肢が多すぎて、逆に使いづらいな」

 

 他のプレイヤーやこの世界についての情報が得られればと思ったがそれらしいものはアカシックレコード閲覧しかない。必要な経験値の量が途方もないので選べないが、シューティングスターを使うのもありか?

 次に気になったレベル上限の開放やパラメーターアップの項目を見る、こちらも消費する経験値が多すぎて先ほど取得した経験値では全く足りない。とりあえず『無欲と強欲』に貯めた経験値で何が出来そうか調べるとアイテムと金貨の項目があったので金貨10万枚を選択する。

 そうして表れた金貨をパンドラズ・アクターにあずけて拠点の維持費と傭兵モンスターの召喚に使えそうか調べてもらうことにした。

 

(俺たちよりはるか昔に転移したプレイヤーが自身の強化に努めてレベルアップとパラメーターアップをしていたら絶対に敵わないなこれ)

 

 『ユグドラシル』の感覚で言うと10レベルも差があれば勝算は皆無だった。

 

(『アインズ・ウール・ゴウン』は悪い意味で有名だからな、目の敵にされるよな、ナザリックの隠蔽と強化は必須だ、隠れて引きこもって力を蓄える必要がある)

 

 だがただ引きこもるにしても、ナザリックは維持費がかかる、外から補給を受けれないとじり貧だ。

 

「パンドラズ・アクター、ナザリックの維持費はどうなっている?」

 

「はっ!!モモンガ様、ナザリックの維持だけでしたら先程いただいた金貨で10年は可能だと思われます、これはあくまで費用の発生する罠の使用を使用しない場合ですが」

 

 パンドラズ・アクターが大仰に身振り手振りを交え説明するとモモンガの精神安定化が発生する。

 ダサい、そうパンドラズ・アクターはひたすらダサかった。だがスルーだ、これを作った自分の矜持のためにこれに反応したらダメだと自分に言い聞かせる。

 

「ほう、私が想定していたよりはるかに少ないな、なぜか分かるか?」

 

「モモンガ様はご存じだと思いますが、金は錬金術の到達点、万物の対価になりえます。例えばこのナザリックには水道などのインフラの設備がございませんが、これを金貨を消費することで賄っています」

 

 この説明にモモンガは感心する、確かに水道管なんてだれも作ってないがナザリックには浴場があるしトイレや調理場もある、これもゲームが現実になったことによる変化だ。

 

「現在のナザリックの維持費の内訳はこうなっております」

 

 パンドラズ・アクター説明を受けるとそこには食費、光熱費と一般家庭の家計簿のような語句がならんでいる。モモンガは重要なことに気付いた、場所代がない。

 場所代は俗称で正式には過剰データペナルティーと呼ばれるものだ、ナザリックはかつての仲間たちと課金してかなり拡張している、その拡張している分データ量が増えてサーバーに負担をかけるので受けていたペナルティーだ。

 

 このことから、モモンガの中で今後の方針が決定した。

 

 

 

 

 

 

 




魔法と<星に願いを>の設定は捏造です。
ナザリックの維持費の内訳の公式設定はどうなっているんでしょうかね、勝手に考えましたが過剰データペナルティーはもっといい名前が思いついたら変えます







感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。