キャリー・オーバーロード 作:はやかお
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プロローグ2
モニターに映し出されたネコと廃墟――おそらく『ネコ様大王国』のギルド拠点であった城の残骸――を見たモモンガはニグレドに尋ねる。
「これは、どういうことだ?」
「ここまで風化しているとなるとおそらく『ネコさま大王国』は数百年前に崩壊したものと思われます」
その言葉にモモンガは精神安定化が起きるほど衝撃を受けた。
(じゃあ、プレイヤーはどうなったんだ?)
逸る気持ちを抑えて、さらにニグレドに尋ねる。
「なぜ崩壊したか分かるか?」
「申し訳ございません、私には分かりかねます」
本当に申し訳なさそうに答えるニグレド。前髪に隠れて表情は分からないが声色だけでその感情が伝わってくる。
モモンガとしては『ネコさま大王国』に対しての思い入れはあまりないが、すでに崩壊したギルドがある事に恐怖を感じた。
(『ネコさま大王国』はエンジョイ勢が作った弱小ギルドだったから最悪敵対しても怖くないし、ファンがたくさんいたから他のプレイヤーの情報も集まりやすいと思ったんだがな)
ふとモニターに映る法被のような黄色い服を着たネコを見ると、こちらをじっと見ている。
(NPCだよな、たぶん猫又だ、服を着ているけどあれは装備品か?)
こちらの情報系魔法に気付いているようすで、2又に分かれた尻尾がぶんぶん振られている。
(猫又の特徴はアンデットの異形種で、半霊体という特徴を持っていてレイスみたいな非物質状態になれるのと仙術と呼ばれる魔法が使えて鋭い爪をつかって接近戦もできるぐらいか、他にもいくつかあった気がするが)
「ちょっと行って、あのネコを回収して来るから待っててくれ」
モモンガがその場にいるNPCたちに告げて魔法で転移しようとすると、アルベドから待ったがかかった。
「モモンガ様、敵の罠や伏兵がいる可能性があります。どうか御自ら出向くことはおやめ下さい、あのネコの回収がお望みとあらば私達どもで全力で取りかかります」
アルベドの考えに一理あると思ったモモンガは少し考え、シャルティアに行かせることにした。
「シャルティア、あのネコを回収して来い」
「おまかせ下さい、モモンガ様」
シャルティアが一礼して、<
「モモンガ様、戻りましたでありんす。あっ!!」
ネコはシャルティアの手から抜け出すと歩き出しモモンガに近づいてくる。
「そこで止まった方がよいとおもうがね」
デミウルゴスが
自分のスキルが効いてないことに気付いたデミウルゴスが別のスキルを発動しようとするのをモモンガは手で制する。
「よい、デミウルゴス、この者に敵意は感じない」
モモンガがネコの顔や首筋をなでるとゴロゴロと鳴きだした。
「反応は普通のネコみたいだな、まぁ生きてるネコを見るなんて初めてだからなにが普通か知らないがな」
(『ネコさま大王国』が作ったNPCなら、レベル1の筈だが、このネコは少なくとも40以上ある訳だろ)
『ネコさま大王国』は拠点防衛用のNPCを全て戦闘力皆無のレベル1の猫系キャラで統一している。
これは『ユグドラシル』を含むVRを使うコンテンツでは、動物愛護団体からの圧力で現実の動物に近い姿の物を傷つけることを良しとしなかったため、プレイヤーが作成するキャラクターも運営が創造するモンスターも普通のネコというのは存在は許されなかった。そのためサイズを極端におおきくしたり、尻尾を蛇にしたりして怪物っぽくしないとそのキャラクターは運営から削除されてしまう。
しかし、『ネコさま大王国』は戦闘できないネコしか作らず、あくまでネコを愛でることにこだわり、そこに多数のファンがいたため特例で許されていた。ちなみにナザリックにいるイワトビペンギンと見た目がそっくりな執事助手のエクレアは誰かに通報されたら確実に消される。
モモンガが誰かこのネコのレベルが分かるか聞くと、セバスが少なくともプレアデスより強いと答える。
この答えにモモンガは戦慄する。
(NPC達はレベルアップできるのか?レベルキャップが開放されたのか?)
『ユグドラシル』のレベル上限は100だが、ナザリックに所属する100レベルのNPCは数えるほどしか存在しない、もし彼らが自分で経験値を取得してレベルアップが可能ならばどうなるか、そもそもこの世界においてもレベル上限が100なのかも疑わしい。
自分達よりはるか昔にこの世界に転移したプレイヤーが自分や配下の強化に努めていたとしたら、今からモモンガ達が挽回することは難しい。
(ナザリックの隠蔽と強化は必須だな)
とりあえずモモンガは目の前のネコをさらに観察すると首輪をしていて、その首輪にはネコロ・ニャンサーと彫刻されたプレートがはめられることに気付く。
鑑定の魔法で調べるとネコのプロフィールが出てきた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
名前:ネコロ・ニャンサー
性別:♀
職業:ネクロマンサー(猫)
経歴:トラックに轢かれて地縛霊になった猫にゃ、元々は赤と白が混じった毛にゃみで腹巻をしたんにゃけど、大人の都合で全部の毛が青一色にゃってしまったにゃ。
ちにゃみに彼女が操るアンデットは“ニャンデット”と呼称するにゃ。吸血鬼系のニャンデットは存在しにゃい、しにゃいったらしにゃいにゃ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(文章に“にゃ”とか入れるなよ、読みにくい)
次にネコの着ている服を調べる。
「私の魔法では名前しかわからないが、かなりいい装備だな。
モモンガに撫でられていたネコは突然後ろに振り返ると、牙を剥き出しにして「シャー!」っと威嚇し始めた。
ネコの視線の先には鬼の形相と言うべき表情をしたアルベドとシャルティアがいた、こちらも敵意が剥き出しである。
「このメスネコ風情が!モモンガ様のご寵愛にあずるなどとおこがましい」
「そうでありんす!、ズルイでありんす!」
モモンガはネコ相手に何してんだと若干呆れつつ、二人に控えるよう言おうとすると彼女たちの体が突然光り、気づくとシャルティアとなぜかマーレが法被を着ており、よく見るとマーレが持っていた杖の先端に猫じゃらしが生えていた。先程アルベドも光ったように見えたが目に見える変化がない。
「なんでありんす、これは!」
シャルティアが法被を脱ごうと袖を引っ張っているが、一向に脱げる気配がない、そしてマーレはネコを殴ろうと猫じゃらし付きの杖を振りかぶっていた。
「よせ!」
モモンガの制止も間に合わず、ドンッ!!と大きな音を立て、大地がわずかに揺れた。
マーレが振り降ろした杖はネコの手前の大地を大きく陥没させたが、ネコには当たっていない。
「えっ!?どうして」
マーレが猫じゃらしを振り回すが、ネコにはあたらない、むしろネコはブンブン振り回される猫じゃらしにじゃれつき始めた。
モモンガはネコと子供が戯れる平和的な光景を横目に見つつ、シャルティアを呼ぶ。
シャルティアの着ている法被は青色の無地で、これといった特徴がない。
モモンガが魔法で調べるが、頭に入ってくる情報は「にゃ」と「にゃん」の羅列で理解できない。
表示された情報は以下の通り。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
にゃーにゃ:にゃんにゃーにゃにゃん
にゃんにゃ:にゃにゃにゃにゃ……
にゃんにゃんにゃにゃにゃー……
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(にゃんにゃんじゃわかんねーよ、なんか翻訳する方法があるのか?)
モモンガはエノク語で話す第八階層守護者のヴィクティムを思い浮かべるが、エノク語がわからないモモンガでも普通に意思疎通できることから、運営が特になにも考えず作ったネコ語で作ったテキストデータであると結論付けた。
(運営め、やっぱり進軍を指示した方がよかったか)
ネコは遊ぶのに飽きたのか毛づくろいを始めるとシャルティアとマーレの法被は消え去り、猫じゃらしも消えて普通の杖に戻った。
「大丈夫か?」
モモンガがシャルティアとマーレに確認すると2人は大丈夫ですと答える。
その後、アルベドとデミウルゴスとパンドラズ・アクターのナザリックの知恵者達を交えて相談するが、結論は現状ではわからないということになった。
だが、アルベドに対して効果がないならワールドアイテムの可能性があるので警戒は必要だ。
渦中のネコはモモンガを気に入っているのか、モモンガのまわりをうろうろしている。モモンガがネコロと呼ぶと近づいてきて、モモンガの足に体を擦りつけてくる。
その後、判明したことだがワールドアイテムの名称は『ニャンハッピー』で効果は敵を強制的に法被を着せて、武器をねこじゃらしに変更。これらは破壊不可、装備変更不可、攻撃力守備力0、ネコ系を攻撃対象に取れない、ただ広範囲魔法で自分もろとも攻撃すればダメージは与えられる。
この他にもネコ鍋召喚がある。このネコ鍋は土鍋とネコとガスコンロが召喚され、土鍋の中にネコが入り寝だすと蓋をされてコンロのスイッチがオン、ネコが鳴きだし鳴き声が止んだら蓋が開いてキャットフードが鍋いっぱいにできる。このキャットフードはネコ系種族専用のバフ効果があるアイテムである。運営狂ってる。
モモンガはネコロからこれ以上情報を得ることをあきらめ、自分たちのスキルと魔法の調査をすることにした。
◆
第6層の円形闘技場でスキルと魔法の調査をするモモンガ、その手には『無欲と強欲』を装備している。
「デミウルゴス、シャルティア頼む」
モモンガの声に反応して、デミウルゴスとシャルティアがスキルを発動
シャルティアの眷属召喚で蝙蝠系モンスターを召喚し、デミウルゴスが悪魔系モンスターを召喚する。
「では、いくぞ!!<ファイアボール>」
モモンガが発動した魔法によって一瞬で灰になるモンスター
「起きろ強欲」
青い光が禍々しい形をした黒い籠手に吸いこまれる、無欲と強欲の経験値横取り効果だ。
「とりあえず、問題なく使えるようだな」
モモンガは自分の手に装備している『無欲と強欲』を見る。
(よかった~、俺が魔法使うのも何気にこれが初めてだもんな、使えなかったらかっこつかないもん)
モモンガは安堵して、一呼吸入れた後に自身の特殊技能を確認するため<中位アンデット作成 デス・ナイト>を使うと、何所からか黒い靄のようなものが表れ、先程灰となったモンスターのわずかに残っている残骸に吸いこまれてドロドロしたタールの様なものが徐々に形を取っていく。
(ゲッ!!死体に乗り移るのかよ)
そうしてできたデス・ナイトを召喚して早々に消そうとするが消えないない、しょうがないので近くで待機していろと命令して放置。
ユグドラシルとだいぶ違うことに困惑しつつも、モモンガは次の実験に移る。
「それでは各員、可能な限りモンスターを召喚してくれ」
この実験でユグドラシル時代にはできなかった、召喚したモンスターがまたモンスターを召喚しネズミ算式に増えていくのを確認。
こんなことをゲームだったユグドラシルでやったらサーバーがパンクしてエライことになるなと思いつつ眺めていると円形闘技場がモンスターで埋め尽くされた。今のところ2万体はいるだろうか、まだまだ増えそうだ。
コキュートスが恐怖公なら同族の無限召喚ができるので必要なら呼ぶというが断った、なんか怖いから。
「モモンガ様、スクロールを使えばさらに増やせますがいかがなさいますか?」
アルベドの問いかけに、モモンガは興味をそそられたがスクロールの補充が効くのかわからないのに消費するのはよくないと思った。
「いや、これぐらい居れば大丈夫だ。超位魔法を使うのでみな下がってくれ」
そい言い放つとモモンガは青い光を放つ魔法陣に包まれた。
これから自分がやろうとしていることを思うと興奮が隠せない、これから発動するのは『ユグドラシル』でも人気の超位魔法だ。
「ああ、楽しみだ」
超位魔法<
VRゲームで動物愛護団体はなんかいってくることあるんでしょうかね。
ネコのレベルが高いのはギルド武器が破壊され、ギルド自体が崩壊した後のNPCはレベルアップ可能だと勝手に決めました。
ネコさま大王国のプレイヤーはみんなすでに死んでます。
捏造設定でモモンガは召喚したモンスターの遺体からアンデット作れます。