真実
オチです。 あと1話、エピローグ的なもので終わりの予定です。
俺は、牢屋にでもブチ込まれるのかと思ったが、そうではなかった。
連れて来られたのは、この街の教会だった。
そして、教会に入ると早々に懺悔室に押し込まれた。
なぜこんな所に連れて来られたかわからない、俺に罪の告解でもしろと言うのか?
少し考えた俺は、逆に彼女と勇者の悪行を訴えることにした。
俺は勇者に婚約者を奪われた事。
婚約者である彼女は浮気をして俺は裏切られた事。
その彼女は勇者に『魅了』されて正常な判断ができなくなっているかもしれない事。
彼女の態度の豹変ぶりは、物語に出てくる正にソレではないだろうか!
その上で、勇者の能力の危険性を目の前に居るであろう神官に訴えた。
だが、返ってきたのは、しばしの苦笑、そして・・・
コホンと咳払いをすると、神官は彼女から書状を受け取っていて現状を理解してると前置きされた。
それからまず言われたのは、幼い頃にしたという結婚の約束についてだった。
双方の親同士が婚約を取り付けたのならいざ知らず、成人前の者同士の婚約は無効、所詮、子供の戯言。
つまり、俺は婚約者とは認められないと諭すように言われたのだ。
ここまでハッキリと他人に指摘されるまで、そんな当たり前の事に今まで気付かなかったことに俺自身驚いていた。
そもそも、同年代は彼女しかいない小さな村で、大人になったら彼女と一緒になるんだろうな~となんとなく思っていたし、それを疑うことも敢えて確認する事も無かった。
そして今にして思えば、閉鎖された小さな社会特有の空気というか、そういう村独特の雰囲気が、それを当たり前のことと思わせていた為、今日に至ったのかもしれない。
だから今まで、子供の時の約束を疑うことなく信じていたのだと思った。
だがらと言って、婚約者じゃないと言われたぐらいで引き下がるわけにはいかなかった。
彼女が、『魅了』されて騙されているのであれば、助けなくてはならない。
それに彼女を『魅了』から解放して、また婚約すればいいだけの話だと思っていた。
ところが敷居の向こう側の神官は、俺が言うような『魅了』は存在しないと言い出すのだ。
精神系の魔術には感情を支配するものがあるが、おそらくはそれを『魅了』と呼んでいるのではないか?
また、この魔術自体は即効性が無く、何段階か厳しい条件をクリアしないと発動しない。しかも効果に個人差があり、その上、時間が経つほど効果が弱まり時期に解除されるものであると俺が理解するまで説明された。
つまり今、大衆の間で流行ってる【勇者が一瞬にして魅了し、他人の婚約者を奪う】というような話に出てくる『都合のいい魅了』は実在しないという事を念を押すように言われたのだった。
だが、勇者が何処ぞで手に入れた洗脳の技を彼女に時間をかけて施したという可能性はあるのではないかと反論したが・・・
禁術である洗脳を魔術師でもない勇者が手に入れることは極めてに困難である事、さらに、聖女様は精神系の術を会得してて、その道のエキスパート、もし彼女に洗脳が施されていたら、見逃すはずがないと断言された。
だけど、たった1日会わなかっただけで、彼女のアノ豹変ぶりは納得できない、だから何かしら理由があるはずだと訴えた。
すると奥から紙を拡げる音がした。
おそらく彼女から送られたという書状を再度確認しているのだろう。
神官の溜息を吐くような音が聞こえた後、
「婦女子を尾行して、その後、町で自分の婚約者だと吹聴しながら聞き込みをし、しかも泊ってる宿の部屋に侵入しようとしたとなれば、たとえ本当に恋人であったとしても、一気に冷めてしまう事だろうよ!」
と、嘲りを込めて言われたのだった。
それを聞いて俺は、その手紙に書かれてる内容に気付いた。
たぶん、彼女は途中で俺の尾行に気付き、俺を撒いて逆に尾行されたのではないか?
さらに、宿の部屋に侵入しようとした時に聞こえた大きな物音は、彼女の仕業だったのではないか?
俺はぐうの音も出なく、ただ下を向いて黙り込むしかなかった。
どーでもいい裏話
この世界には、都合のいい謎物質を利用した魔法はありません。
『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。』という感じで、人々は魔法だと思い込んでいます。
戦場へ向かう神官は『衛生兵』みたいな存在です。
さらに普通の医療行為だけでなく、カウンセリングや麻薬などを使った催眠療法をしたりします。