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もう大笑いである。某大企業のCIO(最高情報責任者)が「当社も失敗を恐れずデジタルに挑戦する風土が出来上がりつつある」と発言したからである。「やはり木村は失礼な奴だ」と思った読者はご安心いただきたい。いくらなんでも面と向かって大笑いなどしない。「いや、そうじゃなくて。失敗を恐れず挑戦することをなぜ笑うのか」。そう非難する読者もいると思うので、順を追って説明しよう。ホント大笑いである。そもそも「失敗」って何なのさ。
実のところ、最近のユーザー企業の変貌ぶりには驚かされる。つい最近まで「ITなんか、よう分からん。デジタルって何なのさ」と言っていた大企業の経営者が突然、「我が社もデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するために……」などと語り始めたからである。それだけでなくDX推進組織を置き、社長や実力派の副社長がCDXO(最高デジタルトランスフォーメーション責任者)を兼務したりする。
陣立てだけを見ると、米国のデジタル先進企業と遜色がないように思える。しかも1社や2社だけの話ではない。多くの大企業がDXを語る経営者とDX推進組織を取りそろえているのだ。今では「ITなんか、よう分からん。デジタルって何なのさ」とぼやく経営者は、大企業ではむしろ少数派だ。まさにDXのエバンジェリスト、某コンサルティング企業の影響力、恐るべしである。
では、そんな陣立てで一体何をやるのかと聞くと、一気に話がふわふわしてくる。いや、中身がスカスカと言ったほうがよいかもしれない。DXの定義自体があやふやで、話す人によって変わる。最大公約数でいうと「究極の目標は、デジタルによってビジネス構造やビジネスモデルの変革を図っていくことだが、とりあえずは人工知能(AI)やIoT(インターネット・オブ・シングズ)を活用したデジタルサービスを立ち上げよう」といったところだろうか。
リーンスタートアップ風に小さなデジタルサービスの試みから始めよう、というのは良い選択である。いきなりビジネス構造やビジネスモデルの変革だと大上段に構えると、ろくな結果にはならない。日本企業の場合、欧米や新興国の企業が成し遂げたERP(統合基幹業務システム)による業務改革にすら挫折しているぐらいだから、ビジネスモデル変革といった難易度の高い取り組みにいきなりチャレンジするのは無謀というものだ。