2018/07/29

映画_ウインド・リバー(評価/★:3.5)ネタバレあり感想~これもまた、境界線のお話~【映画レビュー】


映画 ウィンド・リバー 感想 評価 オススメ

◆ウインド・リバー  鑑賞◆


評価/オススメ:★★★☆


文月的採点(35/50点) 

この作品ジャンルは?:ミステリー

オススメしたい人は?:ボーダーライン、女神の見えざる手などの映画を楽しめた人。

印象を一言で?:107分はラストテロップを観るための準備です。

グロテスクですか?:ゴア表現は控えめです。

◆synopsis◆


なぜ、この土地(ウインド・リバー)では少女ばかりが殺されるのか。


アメリカ中西部・ワイオミング州のネイティブアメリカンの保留地ウインド・リバー。
その深い雪に閉ざされた山岳地帯で、ネイティブアメリカンの少女の死体が見つかった。
第一発見者となった野生生物局の白人ハンター、コリー・ランバート(ジェレミー・レナー)は、血を吐いた状態で凍りついたその少女が、自らの娘エミリーの親友であるナタリー(ケルシー・アスビル)だと知って胸を締めつけられる。

コリーは、部族警察長ベン(グラハム・グリーン)とともにFBIの到着を待つが、視界不良の猛吹雪に見舞われ、予定より大幅に遅れてやってきたのは新米の女性捜査官ジェーン・バナー(エリザベス・オルセン)ひとりだけだった。


死体発見現場に案内されたジェーンは、あまりにも不可解な状況に驚く。現場から5キロ圏内には民家がひとつもなく、ナタリーはなぜか薄着で裸足だった。前夜の気温は約マイナス30度。肺が凍って破裂するほどの極限の冷気を吸い込みながら、なぜナタリーは雪原を走って息絶えたのかーー

監察医の検死結果により、生前のナタリーが何者かから暴行を受けていたことが判明する。彼女が犯人からの逃走中に死亡したことは明白で、殺人事件としての立件は十分可能なケースだ。しかし直接的な死因はあくまで肺出血であり、法医学的には他殺と認定できない。そのためルールの壁にぶち当たり、FBIの専門チームを呼ぶことができなくなったジェーンは、経験の乏しい自分一人で捜査を続行することを余儀なくされ、ウインド・リバー特有の地理や事情に精通したコリーに捜査への協力を求めるのだが・・・

※公式HPより

※一部文月加筆訂正

◆comment◆


2017.7.27から公開。

ジェレミー・レナー
エリザベス・オルセン主演の映画です。

監督は「ボーダーライン」/「最後の追跡」で硬派で骨太のドラマを魅せたテイラー・シェリダン。


ラストテロップで重くのしかかってくる「アメリカの闇」

自由平等博愛は一体誰のものなのか。

ワイオミングで発見された女性の変死体。

彼女はなぜ雪の中を独り駆け抜け、死んだのか。

ぜひその目で確かめてほしいです。

アクションはほんの一部、ですが「メキシカン・スタンドオフ」をこの時代に見せるという非常にスリルはありますが、実はめちゃくちゃ重い話なのです。


本作でわたしたちが連れて行かれる「境界線」
インディアン居留地
です。

ご存じの方も多いと思いますが、アメリカは建国以来先住民である彼らから土地を奪いとりながら開拓を続けていきました。

結果として独自の自治権を認めるとしたものの、実質僻地に追い込み、囲い込むことにします。

そこはアメリカ大陸であり、アメリカの国土の中ですが、(合衆国が半ば管理を放棄しているような)先住民の土地であるのです。

本作「ウィンド・リバー」はワイオミングに実在する居留地。

本作のストーリーラインは至ってシンプルで「謎の変死体」の死因を探ることで、犯人を見つけ出す、言ってみればごく普通の犯罪サスペンスなのですが、複雑なのはその中身なのです。

そこには3つの足枷があります。

①まず第1の足枷。

そうか変死体か。
じゃあ、すぐに警察で捜査して犯人を探すぞ…と行かないのです。

変死体は先住民の若い女性で、複数回乱暴された形跡が認められたが、死因は凍てつく冬の山の中を居留地から逃げてきた際に「強烈な冷気を吸い込んだ結果、肺胞が凍結して破裂」したことによる窒息死なんです。
(肺の中が破裂して、自分の血で「溺れる」というのが、なんとも痛ましいです)

発見された「インディアン居留地」は「連邦政府」の管轄なので日本で言うところのいわゆる「警察」が好き勝手捜査できないのです。

よって、連邦政府管轄の場所での捜査をするためには「連邦捜査局」であるFBIを呼ぶ必要があります。

エリザベス・オルセン(フルハウスの「ミシェル」が大きくなったもんです。アベンジャーズですでにジェレミーと共演しているし)扮するFBIの捜査官が派遣されますが、彼女は新人捜査官。悪意のある見方をすれば、居留地なんぞの事件なので、新人でもいかせればいい、というような判断をされているのでは?とも思えます。

②第2の足枷。

じゃあ、手続き大変だけどFBIが来たからもう安心だ…ともいかない

レイプされただろうけど、検死医の診断も直接の死因は「自然死とされるので、「殺人事件」として扱えない≒FBIの捜査はできないのです。

えぇーーー、と驚く方も多いでしょうが、日本とは全く別の警察機構なのですね。

③第3の足枷。

じゃあ、乱暴されたから、女性は逃げたんだ!
だったらその犯人を抑えよう!…ともいかない。

アメリカでは性犯罪は連邦法では規定がない(!!!!)ため、州法にて裁かれることになるのです。

これ、ほんとに衝撃ですよね。日本に無理矢理置き換えると、刑法に性犯罪を裁く規定がないから、都道府県ごとに条例で決めてください、といっているようなもの。

そして、インディアン居留地は「連邦政府」の土地であって、「州の土地」ではない。
(女性がインディアン居留地から逃走してきたことは明白で、事件は居留地の中で起こったことは誰の目にも明らかです)

その結果、どうなるのかというと…

警察でも、FBIでも事件の捜査や犯人逮捕できる法的根拠がない≒事件として扱えない。

ということになります。

この複雑怪奇な仕組みが、この事件の前に立ちはだかるのです。

「誰もが暴力から逃げたため、死んでしまったことは解る。だけど裁けない」

すべては、法律が、国家政策が、そのように規定を積み重ねることでつくりあげてしまった

「見えない境界線」

が原因です。

さらに、ラストテロップで明かされるのは、この作品の事件が「現れたほんの一角」でしかないことなのです。

「数ある失踪者の統計にネイティブ・アメリカンの女性のデータは存在しない。実際の失踪者の人数は不明である」―テロップ引用

つまりこの映画の様に「誰もが被害者がどんな目にあったのかは解る」けど、放置されてしまう現実が今この瞬間にもアメリカでは存在しているということでした。

監督が過去脚本などで手がけてきた作品に共通する、この主苦しい無力感。

「ウィンド・リバー」では法的根拠がないことを承知の上で「善意」によって警察とFBIおよび主演のジェレミー演じる合衆国魚類野生動物局員が捜査をします。

捜査じたいはそれほど難しくないのに状況が複雑すぎるのです。

捜査線には「被害女性」の恋人が浮かんでおり、彼の行方を追うと、なんと彼も雪山で撲殺され全裸で放置された形で発見されます。

その彼は居留地内の企業私有地に建設された石油会社の警備員であり、被害者が死亡した当日も一緒に居たのだろうと容易に推測できた一行は、彼の住むトレーラーハウス(いってみれば会社の寮)へ向かうのですが、そこで「あの日何があったのか」が解るのです。

被害女性も、撲殺された恋人も、警備員仲間らの「欲求不満」のはけ口にされされた被害者だったのですな。

全ての真相が明かされた時に突如始まる、無差別な暴力の応酬と、それを狩る「ハンター」との対決。

そして「法律で裁けない」事件を引き起こした犯人がたどる「末路」

カタルシスはあるのですが、どうにもやりきれない気持ちはさりません。

だけど、物語が世界の現実を切り取るというのがどういうことなのか。

これを解った人間が作るストーリーこそ、現実離れした好きなものを好きなようになどというように作られた誰もどこにも連れて行かないモノなどよりも、世界にはもっと必要なのだろうなとわたしは思います。


もっと、本作について知りたい方は下記の公式HPへ。
本作の舞台であるインディアン居留区についてや作品の背景にある社会問題など、監督が寄稿しています。


2018年映画鑑賞 215本目

post from #pixelbook

◆overview◆


・原題:Wind River 2017年公開
・上映時間:107分

・監督:テイラー・シェリダン
代表作:『ボーダーライン』『最後の追跡』
・脚本:テイラー・シェリダン
     
・メイン・キャスト
ジェレミー・レナー
エリザベス・オルセン
ジョン・バーンサル
ジル・バーミンガム
ケルシー・アスビル
グレアム・グリーン
ジュリア・ジョーンズ
テオ・ブリオネス

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