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cover ■「ニセ医学」に騙されないために

 ホメオパシー、デトックス、千島学説、血液型ダイエット、ワクチン有害論、酵素栄養学、オーリングテストなどなど、「ニセ医学」についての本を書きました。あらかじめニセ医学の手口を知ることで被害防止を。

2018-07-30 「子宮頸がんで人は殆ど死なない」のか?

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喫煙の害を過小評価しようとしているのか、「肺がんで死ぬのは10万人に80人、約である。タバコが肺がん死を数倍増やすとしてもたかがしれている」といった主張を散見する。10万人に80人というのはおそらく、日本人男性の肺がん租死亡率からきている。つまり日本人男性10万人につき年間で約80人が肺がんで死亡している。

0.08%を大したことがない数字だと思われるか。しかし、肺がんは日本の部位別がん死亡の第一位である。1995年ごろに胃がんを抜きトップに躍り出た。肺がん死がたいしたことがないなら、他の病気もおおむね大したことがないことになってしまう。

ポイントは、死亡率の分母は日本人男性全体で、死亡する確率が小さい若年者まで含めた数字であることと、そして何より、一年間あたりの数字であることだ。一生涯ならもっと数字は高くなり、日本人男性100人のうち肺がんで死亡するのは約6人、つまり日本人男性の肺がんの生涯死亡リスクは約6%である*1。約0.08%と比べるとずいぶん印象が異なるのではないか。

6%というのは喫煙者も非喫煙者もひっくるめた数字である。喫煙者割合と相対リスクから大雑把に推測してみると、非喫煙者肺がんの生涯死亡リスクは約2%ぐらい、喫煙者は約10%ぐらいと思われる。ついでに言えば肺がん以外にも喫煙が死亡リスクを上げる疾患は多数あり、全部合わせると喫煙は10年ぐらい寿命を縮めるとされている。そうしたリスクを承知の上でタバコを吸うのは自由だ。しかし「タバコを吸っても肺がんで死ぬのは0.08%ぐらい」などという誤解に基づいて喫煙しないように願いたい。

HPVワクチンに反対する目的でも、疾患の死亡率を用いた過小評価が利用される。反ワクチンサイトから図を引用した「子宮頸がんのリスクは4万人に1人」とするツイートに対し、衣笠万里さんが注意喚起をしていた。


大雑把に言えば、日本人女性の子宮頸がん生涯死亡リスクは0.3%、子宮頸がん生涯罹患リスクは1%強である。「4万人に1人」というのは、死亡率なのか罹患率なのかすらよくわからないが、一年間当たりの数字であることは確かだ。子宮頸がんのリスクを過小評価させるのは、子宮頸がん検診の必要性も同時に過小評価させてしまうのできわめてまずい。HPVワクチンを接種しないという選択は自由であるが、「4万人に1人」という数字の意味するところを正確にご理解した上で選択して欲しい。

さて、生涯死亡リスク339人に1人を「子宮頸がんで人は殆ど死なない」と解釈した方がいたのには驚いた。日本全体で年間におおむね3000人が死亡している疾患だよ?


「くも膜下出血では、三人に一人が亡くなります」というのは、「クモ膜下出血にかかったら3人に1人が亡くなる」という話で、生涯死亡リスクの話ではない*2。online_checker氏は生涯死亡リスクの話を全く理解していない。おそらく、online_checker氏は、「子宮頸がんにかかっても339人中に1人しか子宮頸がんでは死なない」と解釈している*3。そんなわけないだろ。罹患と死亡の比から計算すると、子宮頸がんと診断された人のうち4人に1人は亡くなる。子宮頸がん全症例の5年生存率が約75%というデータとも整合性がある*4

日本のクモ膜下出血の死亡数が年間に約1万2000人なので、大雑把には子宮頸がんの4倍だが、クモ膜下出血は男性もかかるので分母も2倍、だいたいのところ生涯死亡リスクは子宮頸がんの2倍程度、約150人に一人が死亡といったところか。これは無視できない数字であるが、「三人に一人が亡くなります」という数字と比べるとずいぶんに小さい。リスクを比較するなら同じ指標で行わなければならない。子宮頸がんは生涯死亡リスクの数字を出しておきながらクモ膜下出血は致命率の数字を出すのは不適切である。

なお、online_checker氏は「約一リットルのビール大ジョッキを十分間で飲み切るのは容易い。しかも、大ジョッキ一杯で嘔吐する人なんて見かけない」ことをもって、■生理食塩水1Lを急速に飲むダイエット方法の注意喚起を「科学依存に陥っている」と評価した方だ。(■塩水洗浄(ソルトウォーターバッシング)を擁護するonline_checkerさん - Togetter)。



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■「個々の症状ごとに比べても意味がない」という批判の解説

*1https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

*2:「致死率」とか「致命率」という。甲状腺がんの議論でsivadさんが間違えたやつ

*3:でなければ、クモ膜下出血の生涯死亡リスクが33%ぐらいと考えているか、意図的にミスリードを狙ったか

*4https://ganjoho.jp/public/cancer/cervix_uteri/print.html

suzansuzan 2018/07/30 13:06 産婦人科医です。普段はROM専門ですが、自分の領域なので出てきてしまいました。
子宮頸がんは日本人女性が1年で1万人発症、うち3千人はなくなっています。
この数字はここ数年ほとんど変化していません。
さらに、子宮頸がんにかかっても死ななければいいのか、という問題があります。
子宮頸がんの最大発症年齢は25歳から40歳です。
結婚が遅い、こどもを持つのが遅い日本人女性ですので、子宮頸がん発症した時点で「これから結婚」「これから妊活」の可能性があります。
そういう女性にとっては「がんを治すために子宮を摘出する」はある意味、死ぬよりつらいかもしれません。