モモンガさんが冒険者にならないお話 作:きりP
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若干の百合と言うかガールズラブっぽい描写があるので、タグを追加させていただきます。
第12.5話
「う、うん。なるほどな……それがお前たちの武装か」
プレアデスたちに指示を出した後、アインズは彼女たちの武装を確かめようと、戦闘メイド状態にさせていた。一人ナーベラル・ガンマには、破棄した案ではあるが用意しておいた冒険者の装束に着替えてもらいに行っている。
中央のユリは両の拳を胸の前に合わせるようにして仁王立ち、左隣のルプスレギナは大聖杖を上段に構える。右隣のシズは腰に銃器を構え不遜な表情。両脇を固めるソリュシャンとエントマは、それぞれ『ナイフ』と『式符』を両手に持ち、腕を交差させて妖艶に微笑む。
なんだろうその戦隊物みたいなポーズは……練習でもしたんだろうか……
「お待たせいたしました、アインズ様……はっ!?」
戻ってきたナーベラルも姉妹たちのポーズに気づき列に加わる。あぁ、6人バージョンもあるのね……右手のひらを前方に突き出し魔法詠唱の構えを取る彼女を見ながら、なんちゃら特戦隊みたいだなと思いつつも本題に入っていく。
「ナーベラルに渡したのはマント以外は普通の
ユグドラシルで人間種を選んだ場合、最初に着ている革靴・ズボン・長袖のシャツといった装備がそれなのだが、アインズもコレクションとして一式持っていた物だ。
これは男女兼用装備であり、微々たる防御性能しか無いものの、魔法の効果によりどんな体形の人物でも着れるようにはなっている。
「きつい……などといった事はないのですが……やはり少々頼りなくはあります」
「防御力は無いも同然だからな。装備と言うよりは服と言った方が正しかったかな」
厳密な素材がなんであるかはわからないが『布』と『皮』の装備が頼りないのはしかたがない。マントは早着替えを可能にする物で、ナーベラルに戦闘メイド服と装備を仕込んでもらっている。一度マントを取り外してもらい早着替えも確認したが問題ないだろう。
「別任務のシズとエントマは良いとして、冒険者になってもらうお前たちがメイド服のままではまずい。無論それがお前たちが一番戦いやすい恰好だとはわかってはいるが、変な意味で目立つのは避けたいのだ」
この世界にメイド服なんてものがあるのかもわかっていない。出来るだけ一般的なものが望ましいのだが、王国戦士団がどう見ても皮鎧か鉄鎧にチェインシャツといったところでは、冒険者がどれだけ装備に恵まれていないかも推察できる。それ故の
「一応先ほどナーベが着ていたものを下地に鍛冶長と相談してみるつもりだ。明け方になったら遠隔視の鏡で冒険者組合の入り口を張ってもみよう。元装備には劣るであろうが、いざとなったらマントを使用するように」
無論裸のような装備で送り出すことはしない。なんだかんだ言って親バカなアインズは、皮鎧他胸当てなどの内側に貴重鉱石での板金、そして復活アイテムを仕込もうと考えていたが、デミウルゴスとパンドラに「やりすぎです」と
さて、ここまではいいとして、問題は武器なんだよなあと、今一度四人を……いや五人を見つめる。まずはユリからかな。
「ユリのトゲ付きのガントレットは……うーん……もう少し目立たない物に変えるか。これはどうだ?」
アイテムボックスから『イルアン・グライベル』という鉄製の籠手を取り出してユリに渡す。筋力を増大させるだけの物だが『ボスなんざ素手で! 殴り倒すZE遠足』の時にやまいこさんに貰ったものだ。
あの時殴りながら「PTA! PTA!! PTA!!!」と連呼していた彼女に全員がドン引きだったが、今となっては良い思い出だ。
「少々無骨だが、昔やまいこさんが作ってくれたものだ。それならあまり目立たないであろう?」
「やまいこ様が!?」
ああ、そういえばユリはやまいこさんを創造主に持つんだったな。感激に涙を流し、籠手を抱きしめるユリを見て、お遊びで作ってくれたものとは言いだせなかったが、本人が喜んで装備してくれるなら良しとしよう。
次はルプスレギナかと思ったが、先ほど「ナーベ」と略して呼んでから顔を真っ赤にしてぶつぶつ呟やき続けている彼女をどうにかするべきだろう。
「ナーベ、ナーベラル・ガンマよ」
「!? ひゃい!」
だんだん真面目なのかポンコツなのか判断に苦しくなってきたが、ここはスルーしておくことにする。
「ナーベはファイターのクラスを持っていたな。長剣の方が良いのだろうか……この部屋には私が使えるものとして短剣しかないが、好きなものを選ぶと良い。もし長剣の方が良いというのであれば鍛冶長に作らせよう」
そう言ってアインズは部屋の隅から『短剣』と書かれた箱を「うんしょ、うんしょ」と可愛らしい掛け声を上げながら引きずってくる。中には『無限の背負い袋』が複数入っており、その袋の中には三桁に近い『短剣』が入っていた。
「そっ、そんな! これ以上アインズ様の私物をお借りするなど!」
「別にこれらは至宝というわけではないのだ。趣味に近いかな? それに貸すというより餞別だと思ってくれ。大したものではないが好きなものを選んでくれると私も嬉しい」
そう言ってニコニコと微笑むアインズ。自分の惰性で集めたコレクションが、娘たちの役に立つのなら、これほど嬉しいことはない。
「あ、アインズさまぁ……」
ほろりと流れるナーベラルの涙を見ながら、守護者達もそうだがプレアデスも涙腺緩いよなあ、と思考するアインズであったが、現在も目尻に絶賛放出中の『涙エフェクト』には気づいていない。
「さて、ルプーのそれはどうするか……」
アインズ様がルプーって呼んでくれたっす! と感激しているルプスレギナは微笑ましいが、その2mはありそうな大聖杖は頂けない。
短剣と同様にロッドやスタッフも大量にあったが、自身のメインウェポンなだけに特殊性が高いものが多く、与えるものとして妥当かどうか悩んでしまう。無限の背負い袋をごそごそしながらある装備に触れ、硬さだけなら折り紙付きかと、神々しいまでに純白な一本のスタッフを取り出しルプスレギナに渡す。
「こっ、これは!? アインズ様!?」
ルプスレギナは感激も吹き飛び挙動不審になっている。どう見ても高価な品であることは間違いないし、手にとってわかるのだが自身の武装より強力な力を感じてしまい、お返しするべきかどうか、でもそれは失礼になってしまうのではないかとあたふたしてしまう。
「今では何の効果もないただのクオータースタッフなんだがな、昔それでたっちさんに競り勝ったこともあるんだ」
朗らかに笑う御方からのとんでもない発言に、ルプスレギナは顔を蒼褪めさせる。
ワールドチャンピオンのスキルに<
自室で「ワールドブレイク!!」と言いながら杖を振り回すほどにだ。「右手でアバンストラッシュ! 左手でワールドブレイク!!」とか言い出すほどにだ。
その後、下位互換になるのか<
通常『杖』には魔法の効果を上げるクリスタルなどを組み込むのが普通なのだが、アインズは何を思ったのか、より効果の高い個別%up系、つまり『斬撃%up』系のクリスタルを限界まで高額な『杖』に組み込んだのだ。
そしてあろうことか『たっち・みー』との実験PvPで打ち合い、競り勝ってしまうというミラクルを果たしたのだが、その直後に視界が暗転、運営にキャラクターを凍結されるという事態が起こった。
その後運営に『<
無論そこは糞運営。『杖』から『クリスタル』を取り出してくれるなどのサービスすらなく、お詫びは『500円ガチャ一回無料券』だけだった。
その後の抗議も含めてある意味武勇伝だったなと思い出しながら、朗らかに笑うアインズであったが、そんなことなど知らないルプスレギナは涙目である。
杖を見て、アインズを見て、杖を見て、ユリを見て……
「くぅーん……くぅーん……」
マジ泣きである。当然と言えば当然だが世界級アイテムと同等、いや、御方の言いようからそれ以上の至宝ともいえる杖を賜ったのだ。
いつもの飄々とした言葉も態度も出てこず、完全にパニックに陥っている。
「えええ!? ほっ、ほらもう大丈夫だからなー、よーしよしよし」
泣き出すルプスレギナに慌てて駆け寄り、抱きしめて背中を撫でてやる。それを羨ましそうに見つめる、プレアデスたち。
ただ一人ソリュシャンだけが、『あの姉のあんな痴態を見られるなんて』と、それはそれは嬉しそうに口角を上げ恍惚としていた。
「よっ、よし。もう大丈夫だな。次はソリュシャンだな」
頬を真っ赤に染めて、杖とアインズを交互に見つめながら「えへへ」と微笑むルプスレギナに、『なでぽにこぽを超越したオカン属性』がとんでもないフラグを構築しているのだが、「意外に感激屋さんなんだな」と明後日の方向に納得し、話を進めることにするアインズ。
なお杖の名前を聞かれたアインズが『垢BANの杖……かな?』と答えたところ『アカヴァンの杖……』と呟くルプスレギナになんとなくイントネーションが違うなあと感じたのは余談である。
「ソリュシャンはナイフ……いや短剣だったな。 あとでナーベラルと一緒に見繕ってくれ。それとお前は……スクロールが使えるのであったな?」
「ありがとうございます、アインズ様。スクロールの件については制限はありますが第六位階までなら使えますわ。ですが姉妹が揃っているのでしたら出番はないかと」
魔法を納めた『スクロール』という巻物がある。ユグドラシルにおいてはこれは誰もが使えるものではない。
例えば信仰系魔法第六位階に<
つまりスクロールに納められた魔法を取捨選択出来る系統の魔法職でないと使用できないのだ。だがソリュシャンは自身の持つ
「そんなことはないぞ? 正直お前の立ち位置は重要だ。前衛後衛索敵がこなせる上、スクロールでの後衛攻撃バックアップも可能。カードで言えばワイルドだな。冷静な判断力も持ち合わせているし……あはは、言うことなしだな」
べた褒めである。続けていかにソリュシャンが大事であるかと語り続けるアインズ。「お前が大事だ」「お前が必要だ」と真剣な表情で見つめられ説明される。我慢していないと身体の原型を留めておけなくなりそうなほど蕩けそうになっていくソリュシャン。
そんな彼女を我に返ったルプスレギナは、まるで新しいおもちゃを見つけたかのようにニンマリと口をゆがめて見つめている。何気に似たもの姉妹であった。
「現状スクロール素材への懸念はあるのだが、守護者プレアデスなどの主要メンバーで一番必要なのが<
後に
「なるほど…… まずはテストということですか」と納得していたデミウルゴスであるが、アインズ的には頼むから第三位階のスクロールが必要な状況になりませんようにと祈るほかない。まあ姫の感情を持つアインズがさせることはないであろうが。
「そして最後にシズになるのだが…… その……」
この世界では限りなく銃器の使用がなされていないだろうから、その装備を換装するのはわかるのだが、何故かアインズは躊躇する。
幾分か考えた後、頬を赤らめながら取り出したのは、少々奇妙な形の二対の短剣だった。
「私が考案、ウルベルトさん監修で作ったんだが……使えるものがいなくてな……ユグドラシルでは数少ないであろう装備……ガンブレードだ」
厨二of厨二の代名詞とも言える武器。ガンナー実装時、銃剣をベースにクリエイトツールで作り上げたそれは、使える人がいないこともあり、お蔵入りしていたものだが、先ほどウルベルトの私室より一丁。モモンガの私室から一丁。壁に丁寧に飾られていたものを取り出してきたものだ。
「…………うわぁ」
どっちだ!? これはどっちの「うわぁ」なんだと真剣にシズの表情を観察する。瞳がいつもより若干大きくキラキラと光っている。そして身体が少し左右に揺すられている。これはもしかして?
「気に入って……くれるか?」
「…………すごいです」
「よしっ!!」
思わず小さなこぶしを握り締めガッツポーズを取るアインズ。
当時完成品をシズに装備させようとウルベルトと一緒に博士のもとに持って行ったのだが、「もう武器作っちゃったんで」とお断りされ、ついでにミリタリーオタクだったらしい彼の「ガンブレードってやつはですね」から始まるダメだしと蘊蓄を散々聞かされ封印されていたのだが、ようやく日の目を見ることが出来たのだ。
普段だったら仲間の部屋から装備を取ってくるなどしないであろうアインズであったが、「こっそり装備させちまうか」とぼやいていたウルベルトを思い出し、実行したわけである。
「ウルベルトさんも喜んでくれるだろう。そうだ、これも渡しておくかな」
アインズが渡したのは、以前使用した<フライ>が使えるネックレスだ。この身体でも覚えてしまった魔法でもあるし、手持ちにも複数あったのでシズに使ってもらいたかったのだ。
そう、立体起動で敵を切り裂き銃を放つ。頭の中で縦横無尽に駆け巡るシズを幻視し「ふふっ」と笑みが漏れる。
「…………アインズ様、ありがとうございます」
「ああ、活躍を期待しているぞ」
後にとあるトロールが練習実験の為に毎日のように切り刻まれ銃弾を撃ち込まれ、涙ながらにカルネ村に庇護を求めに来るのはもう少し先のお話である。
さて、最後にとエントマを呼び寄せ設定のすり合わせを行う。彼女を自分の妹とし、少々問題のある容姿への懸念を払拭するため幻術を披露してもらうことになった。
うんうんとそれに満足しエントマの頭をポンポンと触りながら、他に不備はないかと考える。
外に出る全員の見た目は問題ないとして……あれ、自分は大丈夫なのだろうか。勿論見た目は問題ないであろうが、しゃべり口調がまずいのではないだろうかと。これ傍から見たら『ロリババア』とまでは言わないまでも『のじゃロリ』に近いものがあるんじゃないだろうかと頭を抱える。
魔王ロールは長いことやっていたおかげで慣れてはいるが、ネカマプレイは経験が無い。「ふむ、セバスよ」とかのたまう『資産家のお嬢様』はさすがに不味いだろう。
しかたないが教えを乞うしかないかと考え、プレアデス6名に目を向ける。丁度ナーベラルとソリュシャンも武器を決めたようだな。
「この後私はパンドラやデミウルゴスたちと相談があるのでな、追って通達があるまでは通常の任務に戻るように。ではこれにて解散だが……ユリとソリュシャンはちょっと残ってくれ」
順当に考えたらこの二人だろう。ソリュシャンなどは特にお嬢様って感じだしな。 二人を除いたプレアデスたちは礼をして退出する。
一般メイドのリュミエールは、仮ではあるがアインズ部屋付きメイドに。ペストーニャもしばらくは完全なアインズ付きだ。「お前も仕事に戻ってよいのだぞ」と言ったのだが「なりません、倒れられたばかりなのですから」と強い口調で言われては引き下がるしかない。
人数が多いとちょっと恥ずかしいのだがなあと思いつつ、天井のエイトエッジ・アサシンを見やるが、まあしょうがない。そして頬を染め恥ずかしそうに二人に告げるのだった。
「お前たちに……その……女性を教えてほしいんだ」
●
あの後すぐパンドラズ・アクターから連絡が入ったアインズは、オーバーロードの身体に戻り指輪の転移で第七階層へ移動している。
ペストーニャに四六時中ついてもらうのは申し訳ないと思った配慮からなのだが、「あのまま転移されていたら焼け焦げてしまいますものね」とペスに言われ、出ない冷や汗を流しながら「う、うむ、そうだな」と返している。
実際は環境耐性のあるドレスによりそんなことにはならないのだが、あの身体の時は慎重さが足りなすぎると判断し、より一層注意することにするアインズであった。
ペストーニャは「がんばって!」とだけ告げ一旦仕事に戻り、リュミエールを部屋に残して退出したユリとソリュシャンはアインズの私室の外で惚けている。
とんでもないことになってしまったと。
「どっ、どうしようソリュシャン……嬉しいけどボク初めてだし教えるなんて……」
「まっ、待ってユリ姉さん。確かに蕩けるほど嬉しいことだけどちょっとおかしいわ」
オーバーロードのアインズ様と蕩けるような逢瀬の妄想を終え一息ついたソリュシャンは、ガックンガックンと自分の肩を揺らしに来る、狼狽する姉の問いかけに一つの疑問を返す。
「アインズ様が女性を知らないなんてありえるのかしら?」
「あっ!?」
そんなはずはない。至高の御方達のまとめ役であり、智謀の御方。私たちを最後までお残りになり守ろうとしてくださった慈しみ深い御方であり、先ほどの話からギルド最強と謳われていたたっち・みー様をも凌駕した御方。世の女性が放って置くはずなどないではないかと。
まあ使わずになくなってしまったので永遠の童貞であるのだが。
「アインズ様ならきっと私たちの足腰が立たなくなるまで……ふふっ……嬲られ蹂躙され……それでも優しく包み込んでくれると思うのですけれど」
「ああっ!?」
アインズは一度この子達やアルベド、シャルティアを集めて、骨の身体でどうしたらそういう発想が出てくるのかと問い詰めた方が良い。
「つまりアインズ様がおっしゃったことはそのままの意味だと思います」
「ああ、姫様の身体のことを教えてくれってことね?」
頬を真っ赤に染めながら落ち着きを取り戻すユリ。
「そうですわね。女性としての快楽をお教え差し上げればよいのですよ」
「あああっ!?」
二人のコントのような真剣な相談は、アインズが戻るまで続けられることになる。
●
「アインズ様……かゆいところはございませんか?」
「あっ、ああ。すごく気持ちがいい……です? ですわ?」
ここはスパリゾートナザリック。甲斐甲斐しく御方の頭髪を優しく洗っているユリ・アルファは、恍惚とした表情を浮かべている。
アインズの方はというと……もういっぱいいっぱいである。察してあげてほしい。ハリウッド女優も裸足で逃げ出す美女が、タオルを身体に巻いているとはいえ、半裸で自身の頭髪を洗っているのだ。
ギルメンが聞けば「もっと楽しめよ!」「羨ましい! 代われ!」と言われるかもしれないが、生憎アインズはそんな性格ではないのだ。眼に泡が入らないようにという口実のもと、固く瞳を閉ざしている。
そしてソリュシャンはアインズの隣の風呂椅子に座り、何やら真剣にボディーソープの説明書きを読んでいる。
「弱酸性……これが再現可能なら……」
いえ取り込むだけじゃダメなのよ、洗わなければとぶつぶつ呟きながらボディーソープの蓋を開けて一気飲みし始めている。アインズが目をつぶっていなければ仰天の光景だったに違いない。
なんでこんなことになったのか。アインズが転移で自室に戻ってくると、リュミエールが「おかえりなさいませ」と礼をする。その直後ドアがノックされ、「ユリ様とソリュシャン様が……教えにいらしたようです」と頬を真っ赤に染めた彼女に説明される。 なんで頬が赤いのかは疑問だったが、この姿でネカマの練習とか羞恥プレイでしかないので、すぐさま指輪をはめて人間種になり入室を促す。
そこからあれよあれよという間に目の血走ったユリと、妖艶な微笑みを絶やさないソリュシャンに連れてこられたのは同じ第九階層にあるスパリゾートナザリックだった。
「じょ、女性を教えるにはまず裸の付き合いからでしょうから」
ガチガチになっているユリから発せられた言葉に目が点になり、「あっ!」と自身の頼み方に間違いがあったのに気づいたのだがあとの祭り。
散々謝り倒して「女性の言葉や仕草を学びたかったのだ」と説明するも、硬直したユリは「そっ、そうでございましたか……」と呟き、涙をはらはらと流すばかり。
いるはずのない中空の女性ギルメンたちが「女性に恥をかかすとか……」「モモンガさん最低……」「ほろびれろ!」とか言っているのを幻視し、どうしたもんかと慌てふためいていると、ソリュシャンが助け舟を出してくれる。
「とりあえず三人でお風呂に入るのはいかがでしょうか。アインズ様も寝起きでそのままですし……それに、外へお出になられるのでしたら公衆浴場などに入る機会もあるのではないでしょうか。その予行演習ということで」
その言葉に確かに宿の風呂がどういったものであるかなど確認していないし、あり得る話だなと納得してしまい、ついぽろっと「確かにそうだな」と言葉を発したところユリがピタッと泣き止む。これはもう覚悟を決めるしかないかと現在に至るのだった。
「アインズ様……別に無理をして語尾を変える必要はないと思いますが……」
「うむ……アルベドやナーベラルに『演技は大事だ』と言っておきながらこれでは示しがつかんな」
頭を洗われながらボンヤリと考える。何気に落ち着いてきたなと。先ほどまでは姉妹最大と呼ばれている山脈とそれに勝るとも劣らない極大果実のツートップに時を止められ、バルンバルン揺れるものに心を持っていかれていたら、いつの間にか服を脱がされ、大きな姿見のある浴室洗面台の前に座らされていたのだ。
顔と身体を真っ赤にして恥ずかしがっている自身の姿に、再度赤面してしまいもしたが、頭髪を洗われて目を閉じると……なんというか気持ちが良いのだ。
浴室に反響する水の音と、ユリの柔らかな声音。隣ではソリュシャンが身体を洗っているのかな? 自身に使われているシャンプーとは違った香りが隣から漂ってくる。
「丁寧な言葉使いであれば、それで問題はないかと……ってソリュシャン?」
「ユリ姉さん、ちょっとユリ姉さんの背中を洗わせてくださいね」
隣から気配が消えたかと思うと、ソリュシャンはユリの背中に回り込んだようだ。 あはは、姉妹仲が良くて結構なことだなと、笑顔になってしまう。「まずは実験ですわね」という不穏な言葉さえ無ければだが。
「ちょっとなにを……あぁなるほど。でもこれは洗うと言うのとは違うのではないかしら」
アインズには見えないがソリュシャンは背中からユリを抱きしめ、身体に半分ほど飲み込んでいる。ゆるゆりを通り越したガチユリな構図だが二人の表情は変わらない。
「ここからが本番ですわ。いきますよ!」
「あっ!? これは結構……いえ、かなり気持ちが良いわね……あっ……ん……」
やめてほしい。双丘を背中に押し当てながら、耳元で艶めかしい声を上げないでほしい。いったいなにをやっているのか。
「ふっ……ふぅ……思った以上に疲れますわね、体内の酸を回転させるのは」
「すごいわねソリュシャン。感覚としてはジェットバスのような感じだったかしらね。アインズ様、そろそろお湯をおかけしますね」
「あっ、ああ。よろしくたの……頼みます」
ちがう、これは女性らしさを学ぶために行っているのだと、我に返り言葉使いを正していく。本来の性格からなのか、女性としての感情も働いてしまっているのか。ラッキースケベを楽しむ余裕は無いようだ。
「アインズ様。次は私の身体でアインズ様のお身体を洗わせてもらえないでしょうか。ユリ姉さんにも好評でございましたし」
「かっ!? 身体で!?」
さすがにそんなことはさせられないと、拒否しようとしたアインズであったが、次にソリュシャンが発した言葉に俄然興味がわいてくる。
「私の身体の中はからっぽで……実際はあまりよくわかっていないのですが、身体の中で酸を分泌することが可能です。それをごく少量にとどめ、このボディソープと一緒に粘体で満たしています」
「あぁ! あまりに美しすぎて忘れていたが、スライムなのだったな」
「はうっ!? そっ、そして内部を回転させることにより洗うのですが、これなら……例えばオーバーロードのアインズ様であっても一瞬で綺麗に出来るのではないかと」
「!?」
この世界に転移して一週間。アインズも何度か私室のバスルームに入って身体を洗っている。
お風呂自体リアルではスチームバスのみであったし、この世界では一人で落ち着ける場所でもあったため好きなのだが、いかんとも身体が洗いにくくて辟易していたのだ。
時に棘というか、とがった部分にタオルが引っ掛かり破いてしまったこともあるくらいだ。
「それは……興味があるな……」
「それではさっそく」
いや、待てと、慌てて振り向き言おうとするが、自身に迫る柔らかそうな物を凝視してしまい、あっという間に抱きしめられる。
「あっ!? うわ……やわらかい……」
「ああ……夢が叶いました……」
まずい、これは気持ちが良くて
「それでは始めますね」
「あっ、ああ。うわぁ……こっ、これは、水流が……んっ、んんっ……ふわぁ……」
お前も人のこと言えないだろうというような吐息を上げながら、アインズは蕩けて上気した表情をソリュシャンに晒す。「うっ!?」とその表情に無い腰骨が砕けそうになるが、喜びのあまり分泌しそうな酸を気合で抑え、アインズを……いや姫様を優しく洗っていく。
「ふぅ……ふぅ……どうで、ございますか、アインズ様……はぁ、ふぅ……」
「うん、ぁっ……ぁん……すごい、気持ちがいぃ、の」
見た目の状態はちょっと間抜けなのだが、声だけ聴いていれば完全にアレである。観察していたユリも、耳まで赤くなっている。おおよそ一分といった頃だろうか。 蕩けきって目尻に涙が混じりながらも微笑む姫様に、吐息を吹きかけられながら、これ以上は自分の理性が持たないと判断し、ゆっくりと身体から姫様を排出していくソリュシャン。それを阿吽の呼吸でさっと受け止めるユリ。ゆっくりと先ほどまで座っていた椅子に座らせる。
「あはは、つやつやだな。それにいい匂いもする。これではソリュシャンから離れられなくなってしまうな……」
「最高の、最高の誉め言葉でございます……」
ユリにシャワーで泡を落とされながら、そんな言葉を漏らすアインズ。鏡越しに見える御方の嬉しそうな表情に、ソリュシャンは息も絶え絶えになりながら喜びの涙を見せるのであった。
●
「あぁ~気持ちいいなあ……人間体で入る湯舟は普段と全然違うぞ……」
「左様でございますか。ボクも……いえ、私もアインズ様とお風呂に入れて嬉しいです」
身体の汚れも落とし終わったアインズたちは、ゆっくりと湯船に浸かり始める。 ソリュシャンは「少々回復するお時間を……」とグッタリとしている。相当神経の居る疲れる作業だったのだろう。
「それにいい匂いがする……わね。これが柚子の香りなのかしら」
「アインズ様ったら、ふふっ。それにしてもどうして柚子湯温泉に? 確か御方達がイチ押ししていたのはジャングル風呂や露天風呂だったと記憶しているのですが」
アインズのしゃべり口調になんだか微笑ましいものを感じて、思わず笑いが漏れてしまうユリ。ついでにとちょっとした疑問を御方に投げかける。アインズ様は会話の練習こそを望んでいるのだと、察しのいい彼女は見当をつけていた。
「まあ……唯一の濁り湯だってこともある……のですが、一番はこの香りでしょうか。うふふ、これは食べられるのかなあ?」
ユグドラシルでは五感のうち味覚や嗅覚は完全にシャットアウトされている。 なのでこの柚子湯温泉は全面ヒノキ造りの簡素なものであったため、見た目的にはあまり人気が無かったのだ。
アインズは逆に趣があって素敵だなあ、などとも思っていたのだが、骨の身体よりさらに増した嗅覚によりこの温泉を選んだ次第である。
湯船に浮かぶ柚子に頬ずりしながら、丁寧な言葉使いを実践する笑顔のアインズに、なんだか熱いものがこみあげてくる二人の美女。
「かっ、可愛い……」
「あぁ、お可愛らしいですわ……」
今日は本当に素晴らしい日だと、しみじみと思うユリ。御方の役に立てると心躍る任務に、やまいこ様謹製の装備を譲り受け、最後にはこうして姉妹とアインズ様と一緒に温泉に浸かっている。
柚子と戯れる楽しそうなアインズ様など見られるものじゃない。勿論ソリュシャンも温泉の効果により回復し、御方の表情をうっとりとした瞳で見つめている。
「また、今度はみんなで……来てみたいものだな」
「はい」
「ええ」
瞳を閉じてぼーっとしながら、散々恥ずかしがっていたくせに、そんなことをのたまうアインズ。銭湯で某ライオン・ゴーレムを相手に戦闘が巻き起こる未来が確定した瞬間だった。
三人で言葉遣いの練習という名のおしゃべりを交えながら、三人だけの温泉回はアインズがのぼせる寸前まで続けられるのであった。
なお、そこはナザリック鉄の掟『ほうれんそう』
プレアデス、ペストーニャ、リュミエールの体験した話は光の速さでナザリック内に広がっていく。
「アインズ様に名前を憶えていてもらえたの!」などは可愛いもので、
「ゴッドハンドが……」
「ルプーが泣かされるなんて思いもしなかったわ」
「ユリ姉もナーちゃんも泣いてたっす!」
「私の中でアインズ様が震えているのが分かって……」
「気持ちいいっておっしゃっていたわね」
「でもぉ結局みんな泣かされていたものねぇ、シズもぶるぶるふるえちゃってぇ」
「…………アインズ様。好き」
などなど……などなど。決して違うとも言い切れないこの話を、カルネ村視察から帰ってきて数時間後に涙目のアルベドとシャルティアに問い詰められたアインズは、彼女たちとも温泉に行くことを約束させられて、なんとか収拾を付けるのであった。
プレアデス回でしたw いざ書き始めると口調や性格が難しくて難しくて……それなりに納得できていただければよいのですが、どうかなw ルプーが可愛すぎたかなw