モモンガさんが冒険者にならないお話 作:きりP
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ご了承ください。
「うむ、では皆にもそう伝えてくれるか。ああ、そうだアルベド一つ用を頼まれてくれるか」
『はい、お身体を洗う際にはすぐさま駆けつけます、ええ、ええ!』
「……いやそうではなくてだな・・・・・・・では頼んだぞ」
『はっ! お任せください』
プレアデス長姉ユリ・アルファから、あの玉座の間での顛末を説明されたアインズは、プレアデスとペストーニャに感謝の意を伝えた。そして守護者達にも無事なことを伝えておかないと、この部屋に詰めかけてきそうで申し訳なく思い、後に必要になるだろうと、この姿での二個目の魔法に<
現在アインズとプレアデスは長机を前に腰を下ろしている。自室は広く、大きなテーブルはあったのだが椅子が足りなかったので、ペストーニャと一般メイドにより食堂から椅子が持ち込まれている。
当然のようにアインズを見て固まる一般メイドであったが、説明を受けペスと一緒に給仕を受け持っている。忙しい身のメイド長であるが、現状アインズの傍を離れる選択肢はない。
「少し話が長くなってしまったな、すまない」
もはやお約束と化した「アインズ様が謝られる事など!」といったやり取りを経て、お誕生日席から長机を前に座ったプレアデスを見やる。美少女メイドがいっぱいだ。
これがゲームだったらなんとも思わないのだが、感情を持って動いている美少女たちがキラキラした瞳で見つめてくるのだ。
だがそれに対して冷静でいられる自分がいる。これは例のあれなのだろうか。『身体が女の子になっちゃったから心まで女の子に!?』で有名な異世界TS転生的なアレなのだろうか。
アンデッドになった際、人間が虫レベルの存在に見えたのは確かだからその線もあるが、パンドラと宝物殿で指輪を検証してから現在まで。思い返してみるとありえない行動をしている。
スキンシップがあまりにも多すぎるのだ。
アルベドへのなでなでハグから始まり、ポンポンと頭や体に触れた回数は数知れず。先ほど一瞬指輪を外した際に気づいたのだが自分はこんなことが出来る人間ではないと。
ああ、これはあの長文で限界いっぱいまで書かれているであろう呪われた設定の中にあるんだろうなあと頭を抱える。
ただ着替える際に自身の裸を見て赤面してしまったり、世話をしてくれた彼女たちにドキドキしてしまったりと、別に男を捨てたわけではないようにも思う。考えることは多々あったが、またここで長考して彼女たちを心配させてもあれなので、考察は一人になった時にしようと話を進めることにするアインズであった。
…………
……
…
「現状の安寧を維持するために、情報収集は急務である。ナザリックにおいてお前たちの容姿は特異だ。戦闘面も含めてお前たちほど現地での情報収集に適しているものはいない。あ、これも美味しい……」
「んっ……んんっ……くぅん……」
ペストーニャに変わり二杯目の紅茶を入れてくれたユリと、先ほどの飲み物を持ってきてくれたシズにそう言ってうっとりとした表情になるアインズ。
シズがせっかく持ってきてくれたのにもったいないと、試しにスプーンですくって舐めてみたところ、これが甘くてとてもおいしかった。
確かどこかで見たなと紅茶に落としてみたところ、これがなかなかに絶品であったのだ。
「ロシアンティーですね。紅茶に落とさずとも、ジャムを食べながらというのが様式だったと思いますが」
「そうなのか? でも美味しいぞ、ほらお前たちもどうだ?」
ユリのロシア紅茶解説を聞いてニンマリとした笑顔でジャム(?)を勧めるアインズ。無論、先を争うように紅茶に投入していくプレアデスたち。
「あら、これは意外なマリアージュですわね」
「ソリュシャンの言う通りね。さすがアインズ様です、今度のお茶会にも採用しましょうか」
「くぅん……んっ……んっ……」
ソリュシャンとナーベラルからなかなかの高評価の声が漏れる。
「命名はアイアイアインズティーっすね!」
「違うでしょ! 愛愛アインズ様ティーでしょう、不敬ですよ」
「なんかユリ姉様ぁ、どさくさに紛れてぇ、ずるいですぅ」
「なっ!? ボクはっ!? ちがっ!?」
なんかコントが始まっているが、一人一般メイドだけがわたわたとしている。そうだったな、彼女にもペスにも試してもらおうか。寝れずにいた時間を利用した全NPCの名前の丸暗記。間違ってないと良いが。
「……リュミエールよ。お前もどうだ? ああペスにも……あっ! すまん、ずっと撫でっぱなしだったな」
一杯目の紅茶に感激したアインズがあまりの嬉しさのため「ありがとう、ペス」と、思わず撫でてしまったのだが、その髪の感触があまりに気持ちよく延々と撫で続けてしまった。
だんだんと跪き、ついには『伏せ』の状態でアインズの足元に待機してしまうペストーニャ。まあ別にいいかと撫で続けながら会話を続行することにしたアインズ。この状況に固まるリュミエール。これまでの粗筋はこんなところだ。
「くぅ~ん……はっ!? こっ、これは失礼しましたアインズ様」
危なかった……もう数十秒遅れていたらスカートをまくり上げお腹を晒していたところだと、アインズ様のゴッドハンドに震えあがる。そこに多少歓喜の震えも混じっていたが。なおリュミエールも名前を覚えてもらっていた嬉しさに半泣きになっていた。
ペストーニャとリュミエールに別席を与えながら考える。これは雑談方向へシフトしてプレアデスたちの思考を知る良い機会ではないかと。
アインズ以外には砕けた口調にもなっている彼女らの性格を知るチャンスかもしれないと。いきなり本題に入ったのはあれだったかと、その後しばらくは和やかなお茶会が続いていくのであった。
●
「・・・・・なのでぇ、お腹がいっぱいなら問題ないですぅ」
「なるほどな」
その後数時間にかけて行われたお茶会は、アインズにとって、いや彼女たちにとっても有意義な時間であった。
人間種に対するヘイト。食人嗜好。嗜虐嗜好。『そうあれ』と創られたのであるから当然でもあるのだが、難しい問題だ。
そういえば今の自分はどう思われているのだろう。彼女たちの様子からそう悪い感情は見えないのだが、これも一応大事なことなので聞いておくことにする。
「おまえたちは……その……私を食べたいか?」
「!?」
これはどういう意味で聞いているのだろうか。性的に食べたいかってことなら「その通りですわ」と答えた方が良いのだろうかと一瞬答えに詰まるソリュシャン・イプシロン。
「そんなことはありませんわぁ。アインズ様に今言われるまでぇ、そんな感情もありませんでしたしぃ」
「そっ、そうでございます。私の場合は溶かすということになるのですが、正直冗談ではありませんわ」
一緒に蕩けたいとは思うが御方を死に至らしめるなど冗談ではない。エントマの言葉に我に返り、はっきりと告げる。
「ふむ、ありがとう。では……その……お前たちは私をいじめたいか?」
「!?」
これはどういう意味で聞いているのだろうか。性的にいぢめたいかってことなら「その通りっす!」と答えた方が良いのだろうかと一瞬答えに詰まるルプスレギナ・ベータ。
「もう、ご勘弁をアインズ様。御方に対して嗜虐心など持ち合わせていませんわ」
「そっ、そうっす! あ、そうです。アインズ様は別腹です!」
自分でも何を言ってるかわからなくなっているルプスレギナだったが、わけわからないなりにも、ありえませんと断言する。
「そっ、そうか。そうか? まあいい、ありがとうな」
さてあとは人間種に対するヘイトかと考え、ナーベラル・ガンマに目を向ける。
「ナーベラルよ。お前が私にヘイト思考を向けていないのは分かる。だからな落ち着け」
「は、はい! 同じような質問をされるのかと少し心配でございましたので……あの……」
アインズに目を向けられた際、少し落ち着きがなくなっていたナーベラルであったが、さすがのアインズもそんな酷な質問はしない。
「だが他の人間種にはそうではないのであろう? だがな、それでは少し困るのだ。アルベドにも現地で伝えたが、演技は大事だぞ? これから情報収集に赴いてもらうのだから」
「アインズ様……」
これは怒られているのではない。慈愛のこもった目で諭すようにナーベラルに語り掛けるアインズに緊張を溶いていくナーベラル。
「こう考えてはくれないか。お前たちがヘイトを向けていた相手はユグドラシルの人間種であって、この世界の人間種ではないと。無論無理難題を言っているのは分かっているが、例えばこの国の人間種なら、人間種ではなく『リ・エスティーゼ国人』であると認識してみてくれ。難しいかもしれないがお前ならやれるはずだ、ナーベラル・ガンマよ」
「はっ! アインズ様の御ためならば!」
「うっ……うむ」
……あまり分かってはいなさそうだが、少しは枷になってくれるかもしれない。ここら辺が限界だろう。
さてそろそろ本題に入るかと、彼女たちに目を向ける。今までの会話のおかげで多少人選が変わってしまったが、彼女たちに指示を与えていかなければ。
「さて、ここからが本題だ。お前たちには冒険者になってもらう」
「!?」
プレアデスたちに衝撃が走る。アルベドやデミウルゴスにこうなる予想は聞いていたものの、いざ御方から命令されるとなると感激に心が震えてしまう。やっと御方のお役に立てると。
「ユリ・アルファ、ルプスレギナ・ベータ、ナーベラル・ガンマ、ソリュシャン・イプシロン、お前たちに任す」
「!? か、畏まりました、アインズ様」
まさか4人も選ばれるとは思いもしなかったのか、一瞬驚愕するも、皆を代表して答えるユリ。アルベド達に「一人か二人」と聞いていただけに意外ではあったのだ。
「現地の情報収集と同時に強者の情報を集めてもらうわけだが、無理はするなよ。お前たちに何かあったら……いやなんでもない。楽しむ気持ちで行ってくれればよい」
言葉の途中はらりと流れる涙が一滴。これには、気合が入っていた4人は心を戒める。これ以上アインズ様を泣かせるわけにはいかないと。
「私はセバスを連れて商人としてエ・ランテルに向かう。供はお前だ、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータよ」
「!? はゎ! はいぃ」
これもまた意外な選抜。「セバスと、もしくはシャルティアも」という守護者たちの予想を聞かされていただけに、エントマの驚きようは仮面蟲がちょっとずれているところからもわかる。
「シズ……お前はナザリックのギミックをすべて把握しているという点で危険なことはさせられない、わかるな」
「……はい、アインズ様」
まったく無表情で答えるシズであったが、姉妹たちには彼女の落ち込みようが手に取るようにわかる。
自身が選ばれた喜びより、シズだけが選ばれなかった点に心が沈むも、これは御方の命であると戒めるプレアデスたち。
「なのでお前にはカルネ村に赴いてもらう。旅の魔法詠唱者『アインズ・ウール・ゴウン』の娘ということでな。ここからカルネ村まで10キロ。そしてその先の大森林にはアウラによる仮拠点。法国への懸念はあるが、まず一番安全な現地人との折衝だ。もしかしたらお前が一番忙しいかもしれんが頼むぞ、シズ・デルタ」
シズの頭をポンポンと叩き、微笑みながら命令を下す。
「……はい、アインズ様」
先ほどと全く同じ返答ではあるが、微妙に身体が左右に振れている。尻尾でもあったらよく振れているだろうと思われるシズの表情は、アインズやプレアデス姉妹が見てもわかるぐらい嬉しそうに見えたのであった。
あまりにも綺麗に終わってしまい思わずオチを探す作者であった。
書くたびに文字数が増える。すまんのw