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この記事は大越章司氏のブログ「Mostly Harmless」より転載、編集しています。
ネットコマースさんと10年近くやっているITソリューション塾には、実にいろいろな方が参加しています。講義は私たちが一方的に話をする講座形式のものがほとんどですが、その後に開いている「反省会」(ギョーザを食べ、ビールを飲みながら世界政治(?)を語る会)では、参加者のみなさんからそれぞれの専門分野ならではのお話を聞くことができ、こちらも大変勉強になります。
そんな中、先日参加した、元コンビニエンスストア関係の方のお話がめちゃくちゃ面白かったのです。あらためて、コンビニは“日本のビジネス/マーケティングの最先端”なんだな、と実感しました。
特に記憶に残っているのが「おにぎり」の話。コンビニでは、おにぎりは「売れると思った数より2つ多く陳列する」というのです。
なぜ「2つ多く」なのか? それは、「コンビニでおにぎりを買おうと思ったとき、最後の1個だったら、お客さまは買わない。2つでも買わない。3つあれば買う」からだそうです。そしてこれは、データで裏付けられているというのです。
従って、「10個売れると思ったら、12個仕入れなければならない。10個だけ仕入れたら、8個しか売れない。それは販売機会の損失である」といいます。「結果として2個売れ残っても、それは10個売るために必要な投資なのだ」ということでした。
これは、今、流行っているデータサイエンスを考える上で大変参考になります。
コンビニでは、天気予報や過去の販売データに基づいて、商品の販売予測をしています。AIでもBIでも、データ分析の結果、「明日はおにぎりが10個売れる」という予測までは出るでしょうが、発注はそれに2個追加する――というところまで解析できるものなのかどうか……。
もちろん、2個という数字もまたデータから導き出される値ではありますが、予測には販売実績以外の要因(この場合は購買者心理)が関係すること、それに気付けるかどうかが、データの利活用を成功に導くか否かの分かれ目だということなのではないでしょうか。
おにぎりを買いに来て、目当てのものがあるにもかかわらず、「最後の1個だからなんとなく嫌だな」と、そこでは買わずに他のコンビニに行ってしまう。そこまで見通してこその、データサイエンスなのでしょう。
この部分を「ノウハウ」というのかも知れませんが、呼び方はともかく、集めて解析したデータを生かすも殺すも、そこにかかっているということでしょう。データを読み解くときには、購入者の心理も含めて解析しないと読み誤るということです。
話が飛びますが、少し前、Amazonの無人コンビニ「Amazon Go」が話題になりました。この店舗には、ものすごい数のセンサーとカメラが配置されており、顧客の行動を逐一監視し、何を買ったか、買わなかったかを見極め、レジでのチェックなしで課金まで行います。
センサーとカメラにコストがかかりすぎて、今のところは絶対にペイしない(かけたコストに利益が見合わない)といわれているそうですが、なぜAmazonはそんな店舗を作ったのでしょうか? それは、購買者の「行動」を知りたいからです。
POSデータを分析すれば、何が「売れた」かは分かります。しかし、それを買う前に何と比較したのか、いったん手にとったのに戻した商品は何か、他には何と何に興味を示したか――。それらを知ることで、マーケティングデータにつなげることができます。Amazonは、これまで他の誰もが集められなかったデータを手に入れようとしているのです。
外資系ソフトウェア/ハードウェアベンダーでマーケティングを経験。現在はIT企業向けのマーケティングコンサルタント。詳しいプロフィールはこちら。
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